2018年4月10日から4月14日にかけて、監査法人に関する複数のニュースがリリースされています。
PwCあらたAI監査の試験運用開始、デロイトトーマツグループ次期ボード議長など人事を公表、監査法人が直面する諸問題まとめなど、幅広く記事をご紹介します。
PwCあらたが仕訳チェックにAIを活用。試験運用開始
- PwCあらた、会計仕訳にAI活用(日本経済新聞 2018年4月14日付)
会計士はAIにとって代わられる職業と言われて、危機感を感じている方もいらっしゃると思いますが、とうとう監査現場にAIが導入されることになりました。
今回、PwCあらた監査法人が会計仕訳のチェックにAIを活用するという記事が、日本経済新聞よりリリースされています。
PwCあらた監査法人は企業会計の異常値を人工知能(AI)で抽出するシステムを開発し、このほど試験的に運用を始めた。
引用元:PwCあらた、会計仕訳にAI活用(日本経済新聞 2018年4月14日付)
記事によると、会計仕訳に不正などの可能性がないかをAIでチェックするシステムが開発されたとのことで、PwCあらた監査法人からもリリースが出ています。
- PwCあらた、AIを活用した会計仕訳検証システムを開発(PwCあらた有限責任監査法人 2018年4月16日)
PwCあらた監査法人では、2016年10月21日に“AI監査研究所”を設置しており、それから1年半かけて“AIを活用した会計仕訳検証システム”を開発して、今回の試験運用に踏み切ったもようです。
- 次世代の会計監査業務の在り方を追究する専門組織が始動(PwCあらた有限責任監査法人 2016年10月21日)
AIを活用すれば、サンプルを抽出しなくても全件チェックが可能になり、監査手法に影響を与える可能性があります。今回の試験運用でどれくらいのエラーが見つかるのか、いよいよ会計士とAIが比較されるときがきました。
デロイトトーマツグループの次期ボード議長ら決定
- デロイト トーマツ グループ、次期 ボード議長、グループCFO および ビジネスリーダーを決定(トーマツグループ 2018年4月12日付)
デロイトトーマツグループでは、2018年6月1日就任予定の次期グループボード議長らをプレスリリースで公表しています。
デロイト トーマツ グループは、次期会計年度(2018年6月~2019年5月)以降のガバナンスおよび執行を担うリーダー(トップマネジメント)を以下の通り決定しました。
引用元:デロイト トーマツ グループ、次期 ボード議長、グループCFO および ビジネスリーダーを決定(トーマツグループ 2018年4月12日付)
リリースによると、グループボード議長には後藤順子氏(現・有限責任監査法トーマツパートナー)、グループCEOには永田高士氏(現・デロイトトーマツグループボード議長兼有限責任監査法人トーマツボード議長)、各ビジネスリーダーに、國井康成氏、宋修永氏、福島和宏氏、松宮信也氏が就任されるとのことです。
後藤氏は、有限責任監査法人トーマツ金融本部長、デロイトトーマツグループ金融インダストリーリーダーなどを歴任している方です。デロイトトーマツグループのガバナンス向上にむけて、就任が待たれます。
公認会計士協会がウェブサイトをリニューアル
- 揺れる監査法人リスクとのはざま(上)ICO、ルール整備追いつかず(日本経済新聞 2018年4月10日付)
- 揺れる監査法人 リスクとのはざま(中)大手、新興勢との契約敬遠(日本経済新聞 2018年4月11日付)
- 揺れる監査法人 リスクとのはざま(下)「市場の番人」信頼どう回復 (日本経済新聞 2018年4月12日付)
日本経済新聞では、監査法人に関する記事を3日連続で、(上)・(中)・(下)のシリーズでリリースしています。
まずシリーズ(上)ですが、メタップスのICOに関するPwCあらた監査法人の対応についての記事です。
資本市場の急な変化に監査法人がどう向き合うのか問われる場面が増えている。その事例の一つが仮想通貨技術を使った資金調達(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)の会計処理だ。前例の無い判断を下すのか、それともリスクを恐れて判断を避けるのか。市場の番人としての在り方が注視されている。
引用元:揺れる監査法人リスクとのはざま(上)ICO、ルール整備追いつかず(日本経済新聞 2018年4月10日付)
記事によると、メタップスのICOは日本の上場企業初で、世界的にもICOの先行事例になる可能性があり、担当するあらた監査法人は慎重な態度をとらざるをえない状況になっているとのことです。
次にシリーズ(中)ですが、監査法人の人手不足と東芝などの不正会計をきっかけに、監査を断られるIPO準備企業が増えている現状について、言及しています。
あずさ監査法人が監査業務の新規受注を1年間停止すると表明して半年あまり。大手が不正会計などリスクが大きい割に実入りの少ない新規株式公開(IPO)企業の監査を敬遠する動きが広がっている。監査契約を結べない「IPO難民」が増えれば、東京市場の活力低下にもつながりかねない。
引用元:揺れる監査法人 リスクとのはざま(中)大手、新興勢との契約敬遠(日本経済新聞 2018年4月11日付
記事によると、大手に断られたIPO希望の企業が準大手・中堅の監査法人に大量に流れ込んでいて、準大手・中堅でも対応に苦慮しているそうです。
最後にシリーズ(下)では、青山学院大学の八田進二名誉教授が会計士試験の改革について言及しています。
――東芝の不正会計の発覚から3年。監査への信頼は回復しましたか。
「道半ばだ。東芝問題によって当事者の説明責任を問う声がある中でも会計士や監査法人の質が劣化していくのではないかと危惧する。2006年に会計士試験を簡素化し、合格者が4千人を超す年もあった。会計士不足を解決するための対策だったが、必ずしもレベルの高い会計士ばかりではなくなってしまった」
引用元:揺れる監査法人 リスクとのはざま(下)「市場の番人」信頼どう回復 (日本経済新聞 2018年4月12日付)
記事の中で、八田教授は、改善するためには試験制度や監査法人の経営の在り方を見直すことが必要と述べられています。
この特集記事では、つい10年前までは予測できなかったような問題が取り上げられています。監査法人は、改革の時期を迎えています。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)