毎年恒例、四大監査法人(BIG4監査法人)の業績をまとめました。
今回、2024年6月末の決算情報をもとに四大監査法人(あずさ・EY新日本・トーマツ・PwC Japan)を「規模(人員数)」「クライアント数」「業績」の3点で比較しています。
ここ数年、四大監査法人から中小監査法人への会計監査人の交代が増加するとともに、四大監査法人の監査報酬の平均単価も上昇傾向が続いています。
また、四大監査法人のひとつである旧PwCあらたが、2023年12月1日付けで旧PwC京都と合併し、PwC Japanを発足しました。
これらの事象が、四大監査法人の業績や規模にどのような影響を与えているのでしょうか?各社の決算書を比較してみました。
本記事では、下記の目次の通り、前半でランキングを、後半で当期のポイントのまとめをお届けします。
本記事の目次
- 1.四大監査法人『人員数』ランキング!
- 人員総数
- 社員数・比率
- 公認会計士、会計士試験合格者等の人数・比率
- 2.四大監査法人『クライアント数』ランキング
- 監査証明クライアント総数
- 非監査証明クライアント総数・比率
- 3.四大監査法人『業務収入・利益』ランキング
- 業務収入
- クライアント1件あたり業務収入
- 構成員・社員ひとりあたり業務収入
- 営業利益・営業利益率
- 構成員・社員ひとりあたり営業利益
- 当期純利益
- 業務収入増加の一方で営業利益は減少傾向
- 監査、非監査ともにクライアント総数は増加傾向
参考資料
今回比較に使った数字は、4法人とも、公認会計士法第34条の16の3第1項に規定する「業務及び財産の状況に関する説明書類」を参考にしています。
- 有限責任あずさ監査法人 第40期 2023年7月1日~2024年6月30日
- EY新日本有限責任監査法人 第25期 2023年7月1日~2024年6月30日
- 有限責任監査法人トーマツ 第57期 2023年6月1日~2024年5月31日
- PwC Japan有限責任監査法人 第19期 2023年7月1日~2024年6月30日
注記
- 本記事の本文内では各法人名の「監査法人」「有限責任監査法人」はすべて省略して記載します。
- 比率(%)に関してはすべて、小数点以下第三位を四捨五入して表示しています。
- 金額に関してはすべて、小数点以下や1万円未満あるいは百万円未満を切り捨てて表示しています。
- 本記事内で使用している表の画像はすべてクリックすると拡大することができます。
- 2023年12月1日付けでPwCあらたとPwC京都が合併しPwC Japanが発足しました。以下表におけるPwC Japanの前期の数値は、前期のPwCあらたの数値をそのまま記載しています。
Ⅰ.首位はどの法人?四大監査法人比較ランキング
1.四大監査法人『人員数』ランキング
まずは四大監査法人の『人員』を比較してみましょう。
※監査法人トーマツの「業務及び財産の状況に関する説明書類」の人員数は、海外駐在員及び海外派遣の監査スタッフは含んでいません。上記に掲載している表も同様になっています。
人員総数
人員総数は、トーマツが8,000名を超えトップです。
前期と比較すると順位に変動はなく、4法人とも増加しています。
社員数・比率
社員数(公認会計士である社員及び特定社員の合計数)は、あずさがトップです。
前期EY新日本と同率2位だったトーマツは3位になりました。PwC Japan の大幅な増加は、PwCあらたとPwC京都が合併した影響とみられます。
社員比率は、昨年に引き続きEY新日本がトップです。
なお、PwC Japanの社員比率は、かつては約4%と他の3法人の半分程度だったものの、近年は数字を上げ、当期はトーマツを抜いて3位になりました。
公認会計士・会計士試験合格者等の総数・比率
公認会計士・会計士試験合格者等の総数は、EY新日本がトップです。
前期に続いてトーマツは減少し、EY新日本、あずさ、PwC Japanは増加しました。四大監査法人は毎年の定期採用にて論文式試験の合格者を300名程度採用している状況ですので、その点を考慮すると今期のトーマツは、公認会計士や試験合格者の退職や異動が多かったのではないかと推察されます。
また、PwC Japanに関しては、PwC京都との合併により増加数が他法人よりも大きくなっていると考えられます。
公認会計士・会計士試験合格者等の比率は、EY新日本がトップです。
EY新日本が微増する一方で、残る3法人は減少しています。公認会計士・試験合格者等の総数は全体的に増加傾向にありますが、各法人の会計士資格者に限らない積極的な採用等が公認会計士・試験合格者等の比率を減少させているものと思われます。
2.四大監査法人『クライアント数』ランキング
次に、四大監査法人の『クライアント数』を比較してみましょう。
ここでは、監査証明と非監査証明のクライアント数や比率を比較しています。
※1:金商法クライアント比率={(金商法・会社法)+金商法}クライアント数/監査証明クライアント総数で計算。
※2:非監査証明クライアント比率=非監査証明クライアント数/(監査証明クライアント総数+非監査証明クライアント数)で計算。
監査証明クライアント総数
監査証明クライアント総数は、前期と変わらずEY新日本がトップです。
PwC Japanは合併に伴いクライアント数が大幅に増加しました。あずさのみ減少しています。前期から順位に変動はありません。PwC Japanの大幅な増加は、PwCあらたとPwC京都が合併した影響とみられます。
非監査証明クライアント総数・比率
非監査証明クライアント総数は、トーマツがトップです。
前期と比較すると、EY新日本が減少し、残る3法人が増加しました。トーマツは2位以下の法人と圧倒的な差をつけています。
非監査証明クライアントの比率は、トーマツがトップです。
前期と比較すると、トーマツとあずさが微増で、PwC JapanとEY新日本は減少となりました。前期1位のPwC Japanと2位のトーマツの順位が入れ替わっています。
3.四大監査法人『業務収入・利益』ランキング
業務収入
業務収入は、トーマツがトップです。
前期と比較すると、四大監査法人すべてが増加しています。ランキングに変動はありません。PwC Japanの大幅な増加は、PwCあらたとPwC京都が合併した影響とみられます。
続いて、業務収入を、監査証明収入と非監査証明収入に分けて見てみましょう。
監査証明収入
監査証明収入は、EY新日本がトップです。
PwC Japanを除く3法人は監査証明クライアント総数が1%程度の増加であったにも関わらず、監査証明収入は3~6%増加しています。クライアント1件あたりの業務収入が増加している様子が伺われます。PwC Japanの大幅な増加は、PwCあらたとPwC京都が合併した影響とみられます。
非監査証明収入・比率
非監査証明収入は、トーマツがトップです。
前期から順位に変動はありません。前期と比較して、トーマツは減少し、残る3法人は増加しました。
PwC Japanは約51億円の増加と大幅増加となっていますが、非監査証明クライアントは24社しか増えておらず、後述の非監査証明クライアント1社あたりの単価も考慮すると、合併以外の要因での増加もあるかもしれません。
現在、ESG(環境・社会・ガバナンス)など非財務情報の開示支援業務も増加していますので、その影響もあるのかもしれません。
非監査証明収入の比率は、PwC Japanがトップです。
トップはPwC Japanで、前期から非監査証明収入の比率が50%を超えています。
クライアント1件あたり業務収入
次に、クライアント1件あたりの業務収入を監査証明と非監査証明に分けて見てみましょう。
監査証明クライアント1件あたり監査証明収入
監査証明クライアント1件あたり監査証明収入では、トーマツがトップです。
なお、PwC Japanを除く3法人は増加しました。
一般に、監査報酬は中小より大手の方が高いと言われます。PwC Japanは、比較的規模の小さなPwC京都と合併した影響により、当期の監査証明クライアント1件あたり監査証明収入が下がった可能性があります。
非監査証明クライアント1件あたり非監査証明収入
非監査証明クライアント1件あたり非監査証明収入は、PwC Japanがトップです。
前期と比較して順位に変動はありません。PwC Japanが他の3法人との差を広げています。
構成員・社員ひとりあたり業務収入
次に、構成員・社員ひとりあたりの業務収入について見てみます。
構成員ひとりあたり業務収入
構成員ひとりあたりの業務収入は、PwC Japanがトップです。
前期と比較すると、EY新日本とあずさが増加し、PwC Japanとトーマツは減少しました。前期から順位の変更はありません。
社員ひとりあたり業務収入
社員ひとりあたり業務収入は、PwC Japanがトップです。
とはいえ、前期と比較すると、1位のPwC Japanが2千万円超と大きく減少する一方で、4位のあずさが2千万円超と大きく増加したため、1位から4位の差が縮まりました。PwC Japanの減少は、合併が影響した可能性もあります。なお順位は前期から変更はありません。
営業利益・営業利益率
営業利益は、前期3位だったあずさがトップになりました。
業務収入が全法人とも増加しているのに対して、営業利益はトーマツ、PwC Japan、EY新日本が減少しています。特にEY新日本の営業利益が低くなっています。
営業利益率は、あずさがトップです。
前期と比較すると、あずさのみ増加となりました。これによりあずさの順位は前期の3位から1位に上昇しています。
構成員・社員ひとりあたり営業利益
構成員ひとりあたり営業利益は、あずさがトップです。
前期と比較すると、あずさのみが増加しました。あずさの順位は前期の3位から1位に上昇しました。
社員ひとりあたり営業利益は、あずさがトップです。
前期と比較すると、あずさのみが増加。それに伴い順位も前期の3位から1位に上昇しました。
当期純利益
当期純利益は、PwC Japanがトップです。
前期と比較すると、EY新日本が増加し、PwC Japanとあずさとトーマツが減少しました。前期2位だったトーマツは前期と比べて2,109百万円減少し4位に転落しました。
Ⅱ.当期のポイントまとめ
最後に、当期のポイントをまとめておきます。
1.業務収入増加の一方で営業利益は減少傾向
四大監査法人の営業利益を見てみます。
業務収入が4法人とも前期より増加しているのに対して、営業利益についてはあずさを除く3法人で減少しています。
このうち、営業利益の減少額が大きいトーマツとPwC Japanの業務費用の明細を見ると、トーマツでは情報システム及び通信費が、PwC Japanではその他業務費用が大きく増加していることがわかりました。
トーマツについては、情報システム及び通信費が前期より1,292百万円増加しています。また、業務収入に対する情報システム及び通信費の比率は、前期5.90%、当期は6.80%と約1%増加しています。AIをはじめとしたIT投資の負担が重くなっている一方で、コスト増加分を報酬に転嫁しきれていない様子がうかがえます。
PwC Japanについては、その他業務費用が前期より4,549百万円増加しています。さらにその他業務費用の内訳を見ると、内容は不明であるものの外注費が3,437百万円増加しており、これが営業利益を押し下げていることがわかりました。
2.大手→準大手・中小への監査クライアント移行はそろそろ終わり!?
ここ数年、大手監査法人から準大手や中小へ監査クライアントが流れており、前期もPwC Japan以外(旧PwCあらた)の3法人の監査証明クライアント総数は減少していましたが、今期はあずさ意外は増加となりました。
PwC Japanの合併の影響はあるものの、四大監査法人合計では313社の増加となっており、大手から準大手・中小へのクライアント移行はある程度、落ち着き始めているかもしれません。
以上、2024年10月末時点の情報にもとづく四大監査法人の比較をお送りしました。
2024年4月1日以後に開始する四半期から、四半期報告書が廃止され、四半期開示制度が見直されました。2024年9月4日付けの日経新聞によると、公認会計士によるレビューが原則任意となった2024年4〜6月期決算で、自主的にレビュー報告書を開示したのは上場企業全体の2割強にあたる約600社しかなかったそうです。
監査法人の監査証明業務の業務量の減少は、来期の人員総数や監査証明収入に影響を与えるのでしょうか。
次回以降の特集にもご期待ください。