東大大学院卒の会計士が経営の修羅場で学んだリアルな経営改善と本当に大切なことの話(公認会計士のリアル 第9回:経営共創基盤 豊田康一郎)



公認会計士のリアル_9_豊田康一郎氏_サムネイル様々な公認会計士にスポットライトを当てるシリーズ企画 公認会計士のリアル

日本経済が成熟し、公認会計士にも多様性が求められる時代において、公認会計士たちはどのようなキャリアを歩んでいるのだろうか…ビジネスの第一線で活躍する若手公認会計士が彼らのキャリアや日々の想いをリアルな言葉で語ります。

第9回は、株式会社経営共創基盤(IGPI)にて経営コンサルティングや投資先支援に従事する豊田康一郎氏による執筆です。

著者

豊田 康一郎(とよだ こういちろう)
株式会社経営共創基盤
マネジャー/公認会計士

1980年生まれ、東京都出身。2004年、公認会計士2次試験合格。あずさ監査法人にて製造業、エネルギー業、製薬業を中心に、会計監査、内部統制監査および財務デューデリジェンス業務に従事。
2009年、経営共創基盤(IGPI)入社。IGPI参画後は、製造業、情報サービス業、外食業、小売業、エンタ-テイメント業、ネットベンチャー、技術ベンチャー等を対象とした、プリンシパル投資の検討・実行、経営計画策定支援業務、業務改善ハンズオン支援業務、新規事業開発業務、M&Aアドバイザリー業務、PMI業務に従事。東京大学大学院工学修士。

※所属・役職等は記事掲載時のものです。

株式会社経営共創基盤(IGPI)とは?

経営共創基盤(IGPI)ロゴ

経営共創基盤(IGPI)は、長期的・持続的な企業価値・事業価値向上のプラットフォームとして、ハンズオン型コンサルティング、自己投資・経営支援を行う企業です。
企業規模・事業ステージ、局面に応じた最適な提案・サービスを提供することで、企業価値や事業価値の向上に貢献する経営支援を行っています。

【会社名】株式会社 経営共創基盤 Industrial Growth Platform, Inc. (IGPI)
【住所】
 〒100-6617 東京都千代田区丸の内一丁目9番2号 グラントウキョウサウスタワー17階
【URL】http://www.igpi.co.jp
【事業内容】
 長期的・持続的な企業価値・事業価値の向上を目的とした
 『常駐協業(ハンズオン)型成長支援』
 成長支援や創業段階での支援あるいは再生支援等、企業や事業の様々な発展段階における経営支援を実施
【資本金】56億円
【代表者】代表取締役CEO 冨山 和彦

【議決権所有株主】パートナー15名
【従業員数】プロフェッショナル 約180名、グループ合計 約4,000名

2010年、川崎のスナックにて…

2010年春、当時29歳の私は川崎の場末のスナックでカラオケに興じていました。

いや、正確には興じていたわけではなく、50代、60代のおじさま達が歌うオールディーズな曲の数々になんとか付いていこうと四苦八苦していたという感じでしょうか。

どうしてそんな所に私がいたのかと言うと、経営支援の仕事の一環としてです。

「スナックでのカラオケと経営支援に何の関係があるのか?」

みなさんきっとそう思われますよね。
でも、それは私が6年半の経営コンサルティング経験から学んだ最も大事なスキルのひとつです。

今日は私が公認会計士として、そして、経営コンサルタントとして経営の現場で悪戦苦闘しながら学んだことについてお話ししようと思います。

理系から会計士へ、そして経営コンサルティングの世界へ

ご挨拶

経営共創基盤・公認会計士・豊田康一郎

あらためまして、みなさんこんにちは。今回、公認会計士のリアル第9回を執筆させて頂くことになりました豊田康一郎と申します。

私は現在、経営共創基盤(以下、IGPI)というコンサルティングファームのマネジャーとして働いています。

IGPIは、顧客の事業面(戦略コンサルティング領域)と財務面(M&Aおよび財務アドバイザリー領域)の常駐型ハンズオン支援や、自社の資金での投資活動(ファンド的領域)を中心とした事業を行っている会社です。

CEOの冨山和彦がメディアやビジネス誌などにもよく登場していますので、冨山が代表を務める会社と言えばピンとくる人もおられるかもしれませんね。

経営のスキルの一つとして会計士を目指す

私はもともと大学での専攻はいわゆる土木工学でした。10m以上の長さのあるコンクリートの柱に何十トンもの荷重をかけて、「おっ、ここにヒビが入って来ましたねえ~」というような実験もしていましたが、同時に将来は経営に携わる仕事をしたいと漠然と考えていました。

しかしかなり呑気な話なのですが、就職を意識し始める大学3年の頃になって初めて、「このまま理系の研究をし続けても経営の道には進めないんじゃないか?」ということに遅ればせながら気が付きました。

では経営の道に進むにはどんなスキルが必要なのか?ということをそのときはじめて真剣に考え、3つのスキルが必要であると思い至りました。

それが、

  1. マネジメント
  2. 数字(会計やファイナンス)
  3. 法律

の3つです。

このうち「1.マネジメント」については社会に出てから学んだ方がよいとして、「2.数字」と「3.法律」のうちどちらかの強みを身に着けたうえで社会に出たいと思うようになりました。

もともと理系なので、「法律よりも数字の方が向いているのではないか?」という単純な理由で、まずは独学で簿記を初めてみたのですが、これがなかなか面白く、「どうせなら簿記の親玉の資格を取ろう」ということで会計士にチャレンジすることにしました。

あずさ監査法人国際部への就職

そんな経緯から会計士試験へのチャレンジをスタートした私は、幸運なことに大学院在学時(大学院はそのまま工学系で進学しました)に当時の2次試験に合格し、大学院卒業後にあずさ監査法人の国際部(当時の第2事業部)に入所します。

さきほどお話ししたように、私は資格をキャリアにおけるパスポート的なものと考えていたので、「監査法人ではできるだけ短期間で学べることを学んで5年以内に次のキャリアに進もう」と目標設定していました。

ですので、入所した頃からマネジャーやパートナーに対して、「来月の第2週のスケジュールどうにかなりそうなんで、あのクライアントの仕事やらせてください!」というような感じで積極的に社内営業をして仕事を入れてもらっていました。正直かなり変わったヤツだったと思います(笑)

その結果、入社1年で外資系企業のインチャージを、3年目の終わりには売上高数千億円の東証一部上場企業の全体のインチャージを任せてもらうことができました。

このインチャージ業務に1年間従事したあと、「若手として監査法人で学ぶべきものは一通り学べた」と判断して、もともとの希望であった経営領域の道に進むことにしました。

最終的に在籍した4年間でインチャージ10社、関与先40社を経験することができましたが、これは当時としてもかなり多い数字ではないかと思います。

経営共創基盤(IGPI)への転職

転職にあたっては、当時20代だったこともあり、「特定の事業にコミットする事業会社よりも幅色い業種に関与できる経営コンサルティングファームに行こう」と決めていましたが、一方で転職活動は普段なら高いお金を払わないと会ってくれないorそもそも会えないような人がタダで会ってくれる「高級社会科見学」のようなものなので、チャンスを活かして、幅広い業種の会社に話を聞きに行っていました。これは転職を考える皆さんにおススメです。

転職活動では、いわゆる外資系の戦略コンサルの内定も頂き結構悩んだのですが、最終的にIGPIへの入社を決めたのは、あとでご説明するようにチャレンジ出来る仕事の幅が格段に幅広かったことと、代表の冨山や面接で会った方々が非常に魅力的だったことが決め手でした。

当社には様々なバックグラウンドのメンバーがいますが、公認会計士の場合、私のように監査のみを数年経験して経営支援にチャレンジしようと飛び込んでくる人が一番多いと思います。

IGPIとは-真にクライアントを支援できるファーム

経営共創基盤(IGPI)ロゴ

ここで少し当社の紹介もさせてください。

IGPIのクライアントは、日本を代表するような著名な大手企業から非上場の中小企業・ベンチャーまで様々で、メンバーは単体で180名程度、外資系戦略コンサルティングファームや国内外の大手金融機関や投資ファンドの出身者、事業会社の経営企画や事業企画の経験者、MBAホルダー、公認会計士や税理士、弁護士といった様々な分野のプロフェッショナルによって構成されています。

IGPIの大きな特徴は、単にコンサルタントとしてアドバイスだけを行うのではなく、時に投資を行って株主として経営に関与したり、コンサルタントがハンズオンの形でクライアントに常駐しクライアントと一体で経営支援を行ったりするなど、クライアントのニーズや状況に応じて最適と考えられる支援を行うという点です。

また、所属するプロフェッショナルのキャリアに関しても大きな特徴があり、事業戦略、営業、マーケティング、財務、法務、データ解析など各分野のプロフェッショナルが集まっていますが、各人がその分野だけのプロとしてキャリアを積むのではなく、それぞれのメンバー自身の専門分野を超えて経験を積み、「経営者としての総合的な視点」を持って全方位的にクライアントを支援していくことを基本としています。

そのため、例えば、私のような公認会計士出身者も、会計や財務を出発点にしつつも、そこだけを専門に支援するのではなく、クライアントを経営者の視点から俯瞰して総合的に支援することが求められますので、そこがやり甲斐を感じる部分でもあり、元来は専門ではない分野も研鑽していかなければならないという厳しい部分でもあります。

経営共創基盤・冨山和彦、豊田康一郎

代表取締役CEOの冨山氏と

徹夜での資料作成-1ページ目の1行目からダメ出し

さて、監査法人を卒業して期待に胸を膨らませて飛び込んだIGPIでしたが、当然のことながら経営コンサルティングの世界はそんなに甘くはありません。入社早々に洗礼を受けることになります。

入社3日目にアサインされた仕事は地方の老舗製造業A社への投資案件でした。
投資案件においては投資候補先のビジネスデューデリジェンス(以下DD)、財務DDと企業価値評価を実行し、その結果を元に社内の投資委員会で「投資させてください!」というプレゼンを行い、OKをもらえれば会社として投資が実行できます。

戦略コンサルティングファーム出身のプロジェクトマネジャーの下で投資検討のためのチームが組成され、会社内外の情報を収集し、それらをもとに対象企業の成長力やIGPIが入ることによる改善余地の仮説立案と検証を繰り返していくことになったのですが、「証拠を固めて基準に準拠して判断する」という会計士的な発想に慣れていた私は、IGPI社内でのチームメンバーの圧倒的な議論スピードにまったく付いていけませんでした。

陸上のトラック競技でいえば1周半くらい遅れてチームについていくような感覚、もしくは超高速でラリーが応酬されるプロテニスの試合をコートサイドで指をくわえてぼけーっとみているような状態です。

資料作成についても同様で、指示された調査資料を死にそうになりながら徹夜して作って上司の所に持って行くと、1ページ目の1行目からダメ出しをされます。

「これはどうゆう意味?」(≒わけわかんないよ?)

「ロジックが通ってないよね?」(≒バカなの??)

「豊田君、理系だよね?こーゆうの面接で聞かれなかったの?」(≒なんで面接通ったの???)

と、反論の余地のないロジカルな指摘でどんどん詰められます。

なお、カッコ書きの中は詰められて凹んだ当時の私の脳内変換妄想であり、実際にはこんな趣旨のことを言う人はいないのでご安心ください(笑)

経営共創基盤・公認会計士・豊田康一郎

会計士が行う監査業務は主に過去の情報を収集し、定められた監査手法に則って、会計基準に照らして検証していく作業が中心です。

これに対し経営判断の領域においては、収集された情報から論理立てて仮説立てと検証を行い、まだ見ぬ将来の予測と意思決定を行っていくことが重要ですし、ビジネスにおいて定められたルールは存在しません。

監査法人勤務の4年間のうちに、知らず知らずに会計士的思考が染み付いてしまっていることを痛感しましたし、このマインドセットをいかにUnlearnするか(忘れるか)、というのは私に限らず一般的に会計士がこの世界に入る際に最初にぶち当たる壁だと思います。100%自戒も込めてですが。

そんな困難を乗り越えつつ、3ヶ月後、無事にIGPI内での投資委員会での承認も得られ、晴れてA社に投資を行うことになりました。

しかし、そこから真の修羅場の始まりだったのです。

修羅場の投資先-ハンズオン支援の厳しさと醍醐味

営業部は平均年齢60歳!29歳の若造に経営改革はできるのか!?

晴れて投資実行に至ったA社ですが、投資検討を担当した私も国内営業と管理体制の担当者として支援に入ることになりました。

A社は創業100年を超える地方の老舗製造業で、大きいものですと価格が1台1億円を超える製品を扱う、高い技術力を有する会社でした。A社の売る製品は非常に高価かつ耐用年数も長く、営業部の営業スタイルも長年の人的つながりを非常に重視する浪花節的なものです。そして、老舗故に社員の高齢化も進んでおり、営業部員の平均年齢も60歳近く(!)という状態であり、私が生まれる前からこの業界にいる方もたくさんいらっしゃいました。

「ハンズオンの経営支援」というと普通のコンサルティングよりもカッコ良く聞こえるかもしれませんが、実際は想像以上に厳しいものです。

コンサルタントや投資家と言っても最初から歓迎される場合ばかりではありませんし、最初は特に現場において、“お手並み拝見”といった感じで抵抗勢力がいることが多々あります。綺麗に分析して見せてもこちらが実行を支援する以上、結果が出なければこちらの責任にもなるので、逃げ道もありません。

結果が出ない時期はできない理由や障害になっている理由も頭ではわかっているので、それを言い訳にしたくなります。

しかし「現実の成果に固執する」ことを求められるIGPIにおいては、「それをひっくるめてどうにかするのがあなたの仕事でしょ?」と言われることもわかっているので結局、何も言い訳はできません。なすべきことを愚直にやり続けるのみです。

A社においても、まずは我々のチームが見立てる営業体制の課題を議論するところから始まりましたが、営業部長をはじめとする営業部員の皆さんの反応は芳しくなく、内心では『外部の若造に何がわかる』と思われていたことでしょう。(私なら間違いなくそう思います。)

実際、A社の方々に潜在顧客や新しい販路の開拓、営業活動の見える化などを提案しても、彼らから返ってくるのは、

「あの販路は昔挑戦してダメだったから見込みがないですよ」

「営業の人手が足りていないので新しい仕組み作りはちょっと難しいです」

といった、現状を肯定し新しい試みを拒否する言葉ばかりでした。

一方でA社の社長には成果の有無に関わらず毎週定期報告を行う必要があります。営業部員の方々に動いてもらわなければ当然成果も出ませんので、「今週はどのようなバリューが出せるか?」ということを常に問われる状況の中、毎週月曜日の朝にはプレッシャーで吐き気を催していたことを良く覚えています。

経営共創基盤・公認会計士・豊田康一郎

どうすればA社のメンバーは動いてくれるのか?

そんな環境の中、営業部の方々に動いて頂くために試行錯誤の日々が続きました。

当時は初めてのプロジェクトということでうっすらとしか理解できていなかったのですが、人の性格が千差万別であるように、組織にもさまざまなキャラクターがあり、動き方や意思決定の仕方も多種多様です。人や組織がどういったインセンティブで動くのかはそれぞれ違うのです。ただ、その中にパターンがあり、それを見極めて適切に働きかけることによって動いてもらうことができます。

IGPIではこのことを、「合理」だけでなく人を動かすための「情理」も理解せねばならないと表現し、非常に重視しています。

この視点から大きく区分しますと、なんらかの意思決定をする際に、その内容を重視し、「何を言うか」が問われる組織と、発言者の組織内のポジションを重視し、「誰が言うか」を問われる組織があります。

日本の伝統的組織は後者が多く、A社も典型的にこのタイプの会社でした。

この場合、組織の外からどれだけ合理的な分析を行い、綺麗なプレゼンをしても組織は変わりません。私自身が彼らの組織に入り込んで「誰が」にならないと、話を聞いて動いてもらうことができません。

そこに気付いた私はその日から、日々、営業部長と営業先に同行し、部長の話に耳を傾けることから始めました。

冒頭のお話しのように営業部のメンバーとも何度もカラオケに行き、60代の方とも一緒に歌える歌を何曲も覚えたりもしました。(ちなみに、一番詳しくなった曲は部長の十八番だった吉幾三です。)

また、営業と工場とのつなぎ役になることで、営業マンの方々に「こいつは使える」と思ってもらうことも意識しました。

例えば、ある課長は、顧客のニーズに応じた収益性の高い新しい製品を工場の工程に流すことを企画していましたが、工場の製造部が現状の作業工程を変えることに難色を示し、製品化が遅れていることに悩んでいました。営業と工場は地理的にも心理的にも距離があるため、この両者の意見が対立することはメーカーにおいては良く発生する問題です。

そこで私が工場の製造部を巻き込んで、工程を変更することによるメリット(獲得が期待される収益や工期短縮効果)やデメリット(必要となる投資や作業、潜在リスクなど)を取りまとめ、結論として工程を変更したほうが全社的にプラスの効果があることを示し、その結果工程は変更されることになりました。

この課長さんからはこの一件で非常に感謝され、それ以降新しい試みの推進者となってもらったり、個別の相談に乗ってもらったりするなど、IGPIの積極的な支持者になってもらうことができました。

経営共創基盤・公認会計士・豊田康一郎

このような現場の方々とのコミュニケーションをコツコツと積み重ねながらA社の支援と改善を続けていったのですが、3ヶ月ほど経ったある日の深夜、他の社員が帰って営業部長と営業所に二人きりになったときのことです。

デスクの隣にある「マイ冷蔵庫」からお酒を取り出した部長がしみじみと語り始めました。

部長 「豊田さん、うちの会社は先人が築いた技術に固執しすぎて、お客様のニーズをくみ上げることが全然できていないんだよ・・・」

私 「それは、マーケティングの機能がないということですよね?」

部長 「本当にそうなんだ」

私 「営業の体制や動き方をどう変えれば顧客のニーズを吸い上げられるか、一緒に考えましょう」

…この日から、営業部長と私は新しい取り組みを開始することとなります。

具体的には、営業部と開発部が一緒になった新製品開発プロジェクトを立ち上げ、顧客ニーズの変化に対応した新技術の開発の検討を開始しました。このプロジェクトを通じ、特に工場にいる開発担当メンバーたちの中に、新しいことに挑戦する機運が高まったことも効果の一つでした。

また顧客の業界ごとに潜在顧客をリストアップし、市場としての魅力度や顧客ごとの投資体力などから優先順位をつけ、営業上の優先順位を明確にしました。その後、営業部の人数も増員されたため、この顧客リストを使った潜在顧客の開拓は、新戦力の営業部員の業務としてその後何年も継続して運用されていると伺っています。

新しい販路開拓のため、関係が疎遠になっていた商社もリストアップし、積極的に訪問を開始しました。訪問してすぐに引き合いがあった案件もあり、部長からも「商社は近年敬遠していましたが、来てみると新しい発見や可能性がありますね!」と感謝のコメントをいただきました。

そうして、このA社のプロジェクトは約1年間のハンズオン支援ののち、業績も改善し、私はIGPIに戻ることになりました。その数年後、IGPIは役目を果たしEXITを迎えました。

あれから6年-現在の仕事

あれから6年、現在、私はマネジャーとなり、上場会社の成長支援や、M&Aアドバイザリー、ベンチャー投資など様々な業務を主にプロジェクトマネジャーの立場で推進しています。

率直に言って、A社に関しては入社して初めてのプロジェクトでもあったため、振り返ってみて私がプロとして十分な付加価値を出せていたとは思いません。それでも自分の提案を採用してもらい、その成果が数字として目に見えてきて感謝されたことにより、経営コンサルタントとしての喜びややり甲斐を感じることができた貴重な案件であったと思っています。

打って変わって現在は、新人の頃とは異なり常に複数の案件を持っていますので、「午前は再生フェーズにあるクライアントの経営会議に出席し、午後は投資先のベンチャーで新規市場開拓に関するディスカッションを行い、夜は社内ミーティングでIGPIがファイナンシャルアドバイザーを務めるM&Aのスキームの検討を行う」といった働き方が日常的です。

関与するお仕事の幅が広い分、勉強すべきことは無限にありますが、私は元来飽きっぽい性格なこともあり、日々様々な挑戦があるこの仕事は結構性に合っているのではと感じています。

また、伝統的なプロフェッショナルファームでは事業、会計、法務など各分野が切り離されますが、経営の現場においてはどんなに小さな会社であっても経営者はすべての領域を見た上で責任を負います。
そのため、IGPIでも真の意味で経営者と同じ視点で併走できるようになるために、各分野を横断した経験とスキル(こういったスキルセットが必要な仕事を、IGPIではよく「総合格闘技」と表現します)を身につけることが必要とされます。

経営共創基盤・公認会計士・豊田康一郎

このような話をするとIGPIでの仕事はとても難しそうに見えますが(もちろん実際、かなり難しい仕事ではありますが)、自分ひとりの力ですべて実現する必要はありません。頼りになるメンバーたちとチームで動きますので、自分にないスキルは借りてくるという借り物競争で結果を出せば良く、そうやって自らも力をつけて成果を出していくことが求められます。

公認会計士はすごい!?戦略コンサルタントも一目置く会計士の専門知識

資格1本で食える時代ではない

さて、ここまで経営コンサルティングの現場の話をお伝えしてきましたが、それらを通じて私が感じた会計士という資格の魅力や強みに関しても触れてみたいと思います。

ここ最近、「会計士は昔のように儲からない」「会計士資格に昔ほどの魅力がない」というような話を聞くことも多くなりました。ある意味、当たっている部分はあると思います。これからは会計士に限らず資格一本だけで簡単に食べていける時代ではないでしょう。

有名なオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授の論文では、公認会計士は「将来、人工知能が奪う職業ランキング」で堂々の2位を獲得しています。

これは資格に限らず多くの仕事において当てはまるのではないかと思いますが、これからの時代を生き残っていくためにはキャリアに複数の軸が必要だと感じています。

例えば、ただの「公認会計士」ではなく「事業戦略のわかる公認会計士」「●●業界に強い公認会計士」「東南アジアに強い公認会計士」「CFOとして複数社をIPOさせた会計士」など、会計以外の専門分野を持つことが必要だと思います。

会計士資格が持つ数々の魅力や強み

一方で、自分のこれまでの経験から、公認会計士資格にはキャリアに複数の軸を作っていくためのベースとなる素晴らしい点が数多くあるとも感じています。

まず、数字に強いということはビジネスの様々な局面で役に立ちます。特に企業の「儲け」の構造を知るには管理会計の知識は必須であり、会計士試験や監査業務で学んだ管理会計の知識は未だに役立っています。(余談ですが、私の感覚だと、企業経営の現場では、9:1で財務会計よりも管理会計の知識が重要です。)

また、監査や内部統制の経験を経ることによってエクセレントカンパニーがどう社内の仕組みを作っているのかを知ることもできます。しっかりとした会社がどのような議論をして、どのような計画を作り、どう意思決定をし、PDCAをまわしていくのか。若いうちにそういった会社を動かす仕組みのベストプラクティスに多数触れられるのは素晴らしいことだと思います。

見落とされがちな点ですが、会社法に関する体系的な知識も非常に有用です。会社法は各種M&Aスキームやファイナンス、登記や株主総会、取締役会などの実際の会社運営などあらゆる局面で関係してきます。

一方で、戦略コンサル出身者は一般に会社法に関する知識がないことが普通ですし、事業会社の管理部門の優れたスタッフの方であっても、自分が経験した以外の業務に関する体系的な会社法の知識は有していないことが多いのが実情であり、会社法の網羅的知識を「強制的に」勉強させられる公認会計士資格は意義のあるものだと感じています。

あるとき、私が戦略コンサル出身の同僚と雑談で「もし学生時代に戻れたら何の仕事を選ぶか」という話をしていた際に、「IGPIに入って思ったが、会計士試験の勉強はしておきたかった」と言われたことがあります。彼曰く若いうちに会計・財務や会社法に関する基礎的な知識を身に付けておくことや、それを資格として誰にでも証明できることにとても価値があるというのです。

会計士の業務領域は数字や法律がベースなため、事業や戦略に強い戦略コンサル出身者やMBA保有者などと比較すると世間的には地味かもしれませんが、実は彼らのような事業サイドのキャリアを積んだ方々が一定の敬意を払ってくれるような魅力的な知見を持っている資格でもあるのです。

もちろん、会計士試験に合格すれば誰でもそうなれるわけではなく、他のプロフェッショナル職と同様に厳しい経験を積むことによってそうなれるのですが、「公認会計士」という資格にはこう言った可能性もあるのだということをひとりでの多くの方に理解して貰えればなと思っています。

おわりに

経営共創基盤・公認会計士・豊田康一郎

ここまでお付き合いいただいた皆さん、読んでいただきありがとうございました。

私自身、プロフェッショナルとして日々絶賛修行中の身なのでまったく偉そうなことを言えた身なのではないですが、皆さんのキャリアを考えるうえでの一助になればとても嬉しいです。

この記事を読んでいる方は公認会計士の方や公認会計士を目指している方が多いのではと思いますが、この資格はビジネスの基礎体力として非常に役立ちますし、他のスキルと掛け合わせることで無限の可能性があります。一方でその可能性を十分に活かし切れていない業界の現状があるのも事実です。

この先、一人でも多くの方が、より幅広い世界で活躍されることを切に願っております。

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