会計士×常勤監査役はブルーオーシャン?コンサル→スタートアップ転職が会計士にオススメの理由は?公認会計士×スタートアップのキャリア戦略【第12回 公認会計士ナビonLive!!(1)】



第12回公認会計士ナビonLive!!_荒堀敬子氏_野澤真太郎氏_thumbnail_サムネイル

来る2024年3月9日(土)、第13回・公認会計士ナビonLive!!が開催されます。それにむけて2023年8月5日に開催された「第12回 公認会計士ナビonLive!!」を振り返ります。

コロナ禍での休止を経て4年ぶりの開催となった本イベント、今回のテーマは「変化する世界、進化する公認会計士たち」本記事ではそのいちセッションとして開催された「スタートアップのリアル、経営管理・ガバナンスで活かす公認会計士のスキル」の様子をお届けします。

このセッションに登壇したのは、内部監査や監査役として活躍する株式会社ユーザベース荒堀敬子さんと、HRテックサービスを運営する株式会社ROXXの経営管理部長の野澤真太郎さんのおふたりの会計士。
ふたりが今の職に就いた経緯、仕事の役割、転職の際の留意点、今のキャリアをオススメする理由など、若手公認会計士がキャリアを考える上で役立つであろう内容がディスカッションされました。

※本記事の登壇者の肩書・経歴等はイベント登壇時のものになります。
※本記事の内容は公認会計士ナビにてセッションでの発言内容に編集を加えたものとなります。

会計士 × 監査役は「ブルーオーシャン」だった!?

納富(pilot boat):まずはおふたりの自己紹介をお願いします。

荒堀(ユーザベース等):荒堀と申します。よろしくお願いいたします。

第12回公認会計士ナビonLive!!_荒堀敬子氏荒堀 敬子
株式会社ユーザベース
Assuarance and Consulting(内部監査)Manager
公認会計士

2004年公認会計士試験第2次試験合格後、監査法人トーマツ入所。事業会社・中堅監査法人を経て、SCSコンサルティングにて海外進出支援業務等に従事し、2015年より株式会社ユーザベースにて常勤監査役に従事・グロース市場上場を経験。より内部統制を強化すべく2019年に同社の内部監査業務・内部統制構築業務をリードするAssuarance and Consulting部門を立上げ、同社グループの子会社監査役(現任)。

2022年より商談アポイントのセッティング事業を運営する株式会社Saleshubの非常勤監査役、マッチングアプリを運営する株式会社withの社外監査役(現在は株式会社エニトグループの社外取締役・監査等委員)、2023年よりマーケティングオートメーションを運営するSATORI株式会社の非常勤監査役に従事(全て現任)。日本の公認会計士資格を有する。同志社大学商学部卒、2児のシングルマザー。

荒堀(ユーザベース等):私は経済情報プラットフォーム「SPEEDA」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」といったサービスを運営する株式会社ユーザベースの常勤監査役に、IPO前の2015年に就任しました。同社は2016年に上場し、現在私は内部監査のマネージャー、および子会社の監査役として働いています。なお、ユーザベースは2023年に非上場化しました。

その他にも、顧客紹介マッチングサービスを開発する株式会社Saleshub、20代を中心に価値観重視の出会いを提供するマッチングアプリ「with」と恋愛結婚を叶えるマッチングアプリ「Omiai」を運営統括する株式会社エニトグループ、マーケティングオートメーションツールを開発・販売するSATORI株式会社といった、上場準備中を含むスタートアップ3社で非常勤監査役等を務めています。

納富(pilot boat):IT系の会社が多いですね。

荒堀(ユーザベース等):私は現在京都に住んでいることもあって、物理的に現場にいないといけない会社には関与しにくいんです。それでIT寄りになっていますね。

納富(pilot boat):次にROXX(ロックス)の野澤さん、よろしくお願いします。

野澤(ROXX):よろしくお願いします。私は人材系SaaSサービスを提供している株式会社ROXXというHRテックの会社で、経営管理部長をしています。

第12回公認会計士ナビonLive!!_野澤真太郎氏野澤 真太郎
株式会社ROXX
経営管理部長
公認会計士試験合格

2008年、公認会計士試験合格。2009年より有限責任監査法人トーマツにて金融機関の財務諸表監査に従事。
2012年に株式会社経営共創基盤(IGPI)参画後は民生用電機、総合電機、輸送機器部品、食品等の業種のクライアントに対し、再生計画策定、構造改革、中期経営計画策定、新規事業立上げ・推進、M&Aアドバイザリー、資金調達等のテーマを支援。
その後複数の会社にて資金調達、IPO準備等に従事し、2023年に株式会社ROXXに参画。

野澤(ROXX):私はファーストキャリアとして有限責任監査法人トーマツに3年勤め、その後コンサルティングファームである株式会社経営共創基盤に転職しています。そこに7年在籍した後、会社の先輩に誘われて株式会社イノフィスという東京理科大学発のロボットスタートアップに転職しました。ここからスタートアップのバックオフィスキャリアが始まっています。イノフィスの後には知り合いの伝手でYogiboに勤め、今はROXXに在籍しています。

第12回公認会計士ナビonLive!!

納富(pilot boat):ありがとうございました。それでは、公認会計士ナビで、スタートアップ関連の記事を担当しているライターの納富がモデレーターを務め、おふたりにお話を伺っていきます。

まずは荒堀さんにお聞きします。
公認会計士が監査法人を辞めて転職するとなると、上場会社の経理や経営管理、FASやコンサルティングファームを選ぶことが多いように思います。その中で、どうして荒堀さんは監査役や内部監査というキャリアを選んだのでしょうか。

荒堀(ユーザベース等):実を言うと、転職活動を始めた際には、積極的に内部監査や監査役に興味があったわけではありませんでした。転職しようと思って、ひとまず日本公認会計士協会が運営する求人情報サイトに登録していたら、偶然ユーザベースから常勤監査役の仕事のお誘いが来たんです。
エージェントの友人にユーザベースのことを尋ねたら「いい会社だよ」とのことだったので、実際に話を聞いてみることにしました。経営陣からは誠実でピュアなマインドが伝わりましたし、その事業の目的や世界観といった話にも惹かれたんです。

また、ユーザベースとやり取りする中で、内部監査は会社の成長基盤を支える大事な役割だとも感じました。
ただ、その割にこの領域は「ブルーオーシャン」だとも思ったんです。会計士だったら誰でも改善提案を出せるわけではない。そもそも内部監査をやりたいという人も少ない。つまり、需要はあるけど供給はない状態でした。

納富(pilot boat):他方で、野澤さんは監査法人から経営コンサル会社を経てのスタートアップというキャリアです。プロフェッショナルファームでの経験はスタートアップに活かされていますか?

野澤(ROXX):例えばプロジェクトマネジメントのスキルなどはそのまま使えました。またコンサルは、クライアントの戦略実行時にどの意思決定がマイルストーンになるのかを注視するため、そういった経験も活きています。
スタートアップのバックオフィスでは株主総会や取締役会にも関わるので、会社法の知識も重要になってきますが、これらの知識は会計士だったらみんな持っているので、そういった知識も活きていますね。

第12回公認会計士ナビonLive!!_野澤真太郎氏

会社が長期的に成長するための仕組みを構築するための監査役の役割

納富(pilot boat):荒堀さんはユーザベースの仕事はJICPAのサイト経由で知ったとのことでしたが、社外監査役の仕事にはどのように出会ったのですか?

荒堀(ユーザベース等):3社のうち、1つはIPO支援をしている友人から誘われて、あとの2社は、エージェントから声をかけられてです。ひょんなところから仕事が来るものです(笑)。

第12回公認会計士ナビonLive!!

納富(pilot boat):ところで私、あまり監査役の仕事がよくわかっておらずでして……。監査役は普段どのような仕事をされているのでしょうか。

荒堀(ユーザベース等):確かに、深く関わったことがない方には、監査役の仕事はわかりにくいかもしれません。仕事としては、教科書的なことはもちろん、内部監査のサポートもしたりします。

例えばIPOを目指す会社では、証券会社から内部監査についてのリクエストをいただくことがあります。ですがこれ、単に表面上クリアするだけならそこまで難しくはない話なのですが、もっとちゃんと実態を伴った仕組みにしないと、有効性が必ずしも高くないということがあるんです。
そういったことを踏まえて本当に問題である指摘事項に加えて、「もっとしっかりした仕組みにしたいならこうしたほうがいい」といった具体的な改善案を出したりしています。

納富(pilot boat):最低限の対応以上のこともどんどん提案しているということですか?

荒堀(ユーザベース等):上場するという目的だけ考えたなら今のままでもいいけれど、上場後にもっと大きく成長していくためにどうするか、というイメージですね。
木に花は咲いているように見えるけれど、土や根が傷み始めていたらその木はいつか倒れてしまう。なので木が今後も花を咲かせ続けられるサイクルをつくっていくために改善案を出す、というイメージです。

第12回公認会計士ナビonLive!!_荒堀敬子氏懇親会で参加者と交流する荒堀さん

納富(pilot boat):花はきれいに咲いているように見えても根が傷んでいたら長期的にはまずいと。現在IPO準備を担当している野澤さん、今の話はどう思いますか。

野澤(ROXX):例えば我々のようなITスタートアップでは、最初から完成品を作るのではなく、β版をリリースして、ユーザーの声を聞きながら製品を改良していくといった製品開発手法を採るのが一般的です。そのため、傷むより良くするスピードを早くしていかなければならないんですよね。
そこで監査役が「ここが傷み始めているよ」と会社に声をかけて、暴走しないようにすることは大事だなと思っています。

優秀な転職エージェントを見分けるポイント

納富(pilot boat):野澤さんはどのように今の仕事にたどり着いたのでしょうか。

野澤(ROXX):監査法人の後は4回の転職をそれぞれ、エージェントの紹介→リファラル(転職先からの紹介制度)で2回→エージェントの紹介という形で転職してきました。万が一、今の仕事を辞めるとなっても、その両面から進めますかね。

ただ荒堀さんの話を聞いていると、監査役の仕事にも興味が出てきますよね(笑)。

納富(pilot boat):じゃあ荒堀さんに、仕事を探すコツを聞きましょう(笑)。

荒堀(ユーザベース等):(笑)。
最近は中長期でエージェントと関係性を築くことが大事かなと思っています。
私自身、何人か懇意にしているエージェントがいますが、たとえ今転職しなかったとしても、近況を聞いてもらったりして、情報を整理できるのはありがたいですね。

納富(pilot boat):1回転職したら、通常その後数年は転職しないですよね。なので転職エージェントにもしばらく会わないじゃないですか。その間も関係性をキープしておくんですか?

荒堀(ユーザベース等):私はユーザベースでチームメンバーの採用活動の際にお世話になった方との関係をキープしています。
もちろん結果的にその方経由で転職できるかどうかはわかりませんが、「この人と話すと気持ちいいな」というエージェントとはリレーションを維持しておくのが良いと思いますね。
転職後の会社で採用するときに、その方にお願いすることもありますしね。

第12回公認会計士ナビonLive!!_荒堀敬子氏

納富(pilot boat):せっかくエージェントの話になったので、エージェント関連のサービスを運営しているROXXの野澤さんに話を聞きましょう。
優秀なエージェントの見分け方を教えてほしいのですが、その前にROXXが提供するサービスのことを教えてください。

野澤(ROXX):ROXXは「エージェントバンク」という求人データベースサービスを展開しています。
エージェントバンクを利用するのは転職エージェント。ROXXが求人票をあちこちから集めてきて、それをデータベースとしてエージェントに公開します。そうするとエージェントは求人票を取ってくる営業をしなくてよくなりますよね。
中小規模のエージェントは大企業の求人票にタッチできないことがありますが、エージェントバンクならそれも可能になります。中小のエージェントが活躍することは即ち、大手のエージェントがやらないような低年収帯の方々にもサービスが行き届くようになるということです。
つまりエージェントバンクは、フリーターや仕事に就いていないような方にも、正社員になる道を拓こうとしているんです。

納富(pilot boat):素敵なミッションですね。
転職エージェントの方々に関連するサービスを運営している知見も踏まえ、優秀なエージェントの見分け方を教えてください。

野澤(ROXX):レスポンスの早い人。これに限りますね。レスポンスが遅い人に優秀な人はいないといっても過言ではありません。
エージェント何社かに連絡して、最もレスポンスが早い人に連絡すると、良いエージェントに会える確率が高まると思います。

実はこれは採用企業側も同じです。エントリーしてからレスポンスが遅い会社は、仕事のスピードも遅い可能性が高い。
何にせよ、レスポンスの早さは優秀さを見分けるポイントの一つです。

第12回公認会計士ナビonLive!!

ふたりと同じキャリアを歩むには?マインド面と行動面のアドバイス

納富(pilot boat):スタートアップの転職に際しては、昔から「給料が下がるんじゃないか」と不安に感じている方は少なくないようです。
しかし、近年はスタートアップの資金調達環境が良かった点や、優秀な人材を確保したいという観点から、以前より給与が上がっているとも言われています。お答えできる範囲で構いませんので、おふたり、もしくは周りの状況を教えてください。

野澤(ROXX):そもそも私はあまり給与額にこだわって転職したわけではありませんが、結果的に私の場合は年収は上がりましたね。

荒堀(ユーザベース等):監査法人でマネージャーを務めていた方が、ある会社の常勤監査役に最近就任したのですが、その方の場合は監査法人時代よりも報酬額は高くなったそうです。
私が監査役を務めている会社でも、報酬はきっちり払おうとしているので、報酬面という意味では、安心できる会社が増えているかと思います。

納富(pilot boat):忙しさ具合はどうでしょうか、野澤さんは……

野澤(ROXX):スタートアップですから、めちゃくちゃ働いていますよ(笑)

納富(pilot boat):(笑)。どういった感じで働いているのですか?

野澤(ROXX):私はバックオフィスを担当しているので、ベンチャーキャピタルからの資金調達に動いている時期は忙しいですね。
あとは既存のルールで解決できないイレギュラーが発生したとき。また、緊急対応の必要な事象が起こったら早急に解決しなければいけないですし、同等の事象が発生した場合の対応フロー、体制も構築しなければならないので、そういった時期は忙しいですね。

納富(pilot boat):なるほど、年中忙しいというよりは、イベント次第で忙しくなってしまうというわけですね。

野澤(ROXX):とは言っても、スタートアップではやることが無限にあるので、私はずっと忙しく働いています(笑)。

第12回公認会計士ナビonLive!!

納富(pilot boat):さて、今日はおふたりのキャリアに興味があって、会場にたくさんの会計士の方が足を運んでいます。
仮にここにいる皆さんから、あるいは後輩や知り合いから「同じようなキャリアを歩みたい」といった相談があったら、どういったアドバイスをしますか?

野澤(ROXX):監査法人からプロフェッショナルファームを挟んでスタートアップに行くというキャリアは、個人的にはお薦めです。
というのも、会計士・監査法人からいきなり事業会社に行くと、仕事の進め方に戸惑うと思うんです。

監査という仕事のゴールは財務諸表の適正性の担保で、監査報告書の期限も決まっていますよね。つまりゴールや締切が決まっていると言えます。監査の仕事をしていると、それがどれだけ仕事を進めやすくしているかということに気付かないんですよ。監査報告書を提出するという自分の仕事が決まっているということが、どれだけその仕事をシンプルにしているか。

他方で事業会社では、仕事のゴールを自分で設定しなければいけません。ここには彼我の差がありますね。なので、一旦プロフェッショナルファームを挟んで、その仕事の仕方に慣れるというのはいいアイディアだと思います。

納富(pilot boat):自分の仕事を決めるという意味では、フロントオフィスはそんなイメージがあるのですが、バックオフィスはそうでもないとも思ったのですが。

野澤(ROXX):スタートアップのバックオフィス系の仕事には、少なからずオペレーション設計が含まれます。例えば「請求のオペレーションを組んでください」といった具合ですね。逆に言うと、そこを担当しないのはスタートアップっぽくないというか、そんなに面白くもないのではないでしょうか。

そうするとビジネス寄りの仕事がかなり増えますよね。オペレーション設計などをできる人のほうが、スタートアップの管理系の募集においても圧倒的に好まれはしますし、そういう意味でも仕事のゴールを設定することは大事になってきます。
自部門の業務改善を行うにしても、どの領域をどのように改善するのかなど、ゼロベースで目的とプロセスを設計する仕事はバックオフィスにも多々あります。

納富(pilot boat):ありがとうございます。荒堀さんはいかがですか。

荒堀(ユーザベース等):マインド面と行動面とで、気をつけなければならないことがあります。
まずマインド面。事業会社の監査役や内部監査は、半分は外部の人という見られ方をするので、孤独に陥りがちなんです。これは独立性の裏返しとも言えます。
孤独な状況で、会社におもねったり、指導しない、指摘事項を挙げないなんてことになったら、結局自分のバリューも出せず、さらに孤独に追い込まれていきます。
なので鋼のメンタルをもち続けられるかという視点は大事です。

そういった状況にならないための行動面としては、会社の方々と距離を詰めるコミュニケーションや、指摘で終わらずに対案を出す、一緒に考える姿勢が大事になってきます。
もしかしたら会社側は「嫌だ、そんなの必要ない」なんて言うかもしれません。そんな状況でも、相手を信じてコミュニケーションしていくことが、行動面でも大事かなと思います。

納富(pilot boat):確かに内部監査や監査役だと、社内でひとりで行動しなければならない場面も多いですからね。そこは確かに鋼のメンタルが必要そうです。

スタートアップの監査役や経営管理の職務内容、仕事の見つけ方やキャリアへのアドバイスまで、今日はいろんな話が聞けました。ありがとうございました。

荒堀・野澤:ありがとうございました。

執筆:pilot boat 納富隼平

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【納富 隼平/合同会社pilot boat 代表社員CEO・公認会計士試験合格】1987年生まれ。明治大学経営学部卒、早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。あずさ監査法人で会計監査に携わった後、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に参画し、300超のピッチ・イベントをプロデュース。2017年に独立して合同会社pilot boatを設立。長文でスタートアップを紹介する自社メディア「pilot boat」、CVCやアクセラレーションプログラムのオウンドメディアコンテンツ制作・イベント運営・リサーチ等を手掛ける。公認会計士ナビでは、会計やスタートアップの記事・動画制作、イベント運営を専門に携わる。

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