会計士の2拠点独立、その理由や働き方は?東京と北海道で活躍する公認会計士の実態に迫る【第13回 公認会計士ナビonLive!!(1)】



2024年3月9日、公認会計士ナビはリアルイベント第13回 公認会計士ナビonLive!!を開催しました。今回の全体テーマは「広がりゆく公認会計士の活躍フィールド」。4つのセッションが開催された中から、本稿は「東京と北海道の2拠点独立で実現した地元貢献と理想のキャリア」と題された対談の様子をお届けします。

登壇していただいたのは、株式会社PinWheel CEO/公認会計士の坂入翔一朗さん。大手監査法人の金融部から日本を代表するエンジェル投資家たちや彼らがGPとなっているベンチャーキャピタルの運営を支援するPrivateBANKを経て独立した人物で、タイトルの通り現在は東京と北海道の2拠点で仕事をしています。

なぜ坂入さんは独立したのか、独立に際してなぜ2拠点を選んだのか、今はどんな仕事をしていて、新しくどんなビジネスに挑戦しようとしているのか。公認会計士ナビ編集長の手塚が迫ります。

※本記事の登壇者の肩書・経歴等はイベント登壇時のものになります。
※本記事の内容は公認会計士ナビにてセッションでの発言内容に編集を加えたものとなります。

東京・北海道の2拠点生活。クライアントや仕事内容の違いは?

手塚(公認会計士ナビ):ゲストに坂入さんをお迎えして「東京と北海道の2拠点独立で実現した地元貢献と理想のキャリア」をお送りします。坂入さんの地元は北海道で、現在は東京と北海道(札幌)の両方に拠点をもち、2拠点生活を送っていますね。坂入さんは今、どのように働かれているのでしょうか?

坂入(PinWheel):私は前職でベンチャーキャピタルファンドの運営をしていた関係で、当時から資金調達や会計周りの相談をスタートアップから受ける機会が多かったんです。独立してからはそれらを仕事にしているイメージで、東京と北海道のスタートアップにコンサルティング業務を提供しています。

会計士の2拠点独立、その理由や働き方は?東京と北海道で活躍する公認会計士の実態に迫る【第13回 公認会計士ナビonLive!!(1)】_坂入翔一朗氏株式会社PinWheel
CEO/公認会計士
坂入 翔一朗

2016年、公認会計士試験合格。2017年よりEY新日本有限監査法人金融部にて日系大手金融機関を中心に様々な事業会社、ファンドの監査業務、会計相談業務に従事。2020年1月より富裕層向けに資産管理やアドバイスを行う株式会社PrivateBANKに転職し、エンジェル投資家の投資サポート・投資先支援、ベンチャーキャピタルファンドのフロント・ミドルとして、新規投資先のソーシング、DD、契約書締結、レポーティング等に従事。
2023年3月、株式会社PinWheelを設立し、CEOに就任。東京と北海道の2拠点で会計・ファイナンスのコンサルティングサービスを展開中。今後は北海道の土地を活かして、第一次産業の取り組みを取材したメディア事業、大学と連携して養殖事業の展開を予定している。1994年7月生まれ、北海道札幌市出身、北海道大学経済学部経営学科卒業。

手塚(公認会計士ナビ):東京と北海道はどのくらいの割合で滞在しているんですか?

坂入(PinWheel):東京 : 北海道が概ね1 : 2程度です。とはいえ1月はアメリカに10日ほど視察に行ったり、3月はたまたま東京が多かったりしていますし、実は京都にアドバイザーとして関与している会社もあって、東北や愛知でファンド立ち上げ支援もしています。そのため滞在は時期によってバラバラですね。

手塚(公認会計士ナビ):東京、北海道以外にも様々な地域の仕事をされているようですが、必ずしも現地には行かなくてもいいケースが多いんですか?

坂入(PinWheel):そうですね。仕事の内容としてはファンドや資金調達関連の話が多く、地方の仕事はアドバイザー的に関わっているということもあって現地に行く必要は必ずしもないです。ただ、東京と北海道には現地でなければできない仕事が少しあります。

手塚(公認会計士ナビ):東京と北海道ではクライアントの種類や仕事内容が変わりますか?

坂入(PinWheel):北海道、主に札幌で多いのは、創業したばかりの会社のデット・エクイティファイナンス関連の仕事ですね。東京ではもう少しフェーズの進んだクライアントの仕事が多くなっています。IPOを目指す成長フェーズの会社の、比較的大きな金額の資金調達支援などですね。

手塚(公認会計士ナビ):東京は、いわゆるテック系のスタートアップが顧客なのかと思いますが、札幌も同じですか?

坂入(PinWheel):いえ、札幌はスタートアップというよりは、人材紹介業やベンチャーキャピタルが投資するほどではないけれど確実にニーズがあるビジネスからの引き合いがほとんどです。ただ北海道でもスタートアップ支援を強めようとする動きがあるので、今後はスタートアップ関連の仕事も増えるかもしれません。

公認会計士ナビの申し子(!?)が、修了考査後に監査法人を辞めた理由

手塚(公認会計士ナビ):実は坂入さんに登壇してもらうのは、僕にとっては感慨深いものがあるんです。僕と彼の最初の出会いは2017年頃。第8回・公認会計士ナビonLive!!に彼が参加者として来てくれていたんです。
交流会で名刺交換をして「EY新日本の坂入です」と言うので年次を聞いたら「今、10ヶ月目です」と。「監査法人に入所したばかりでこんな場所に来るの!?」と驚きました(笑)。それからも毎回、参加してくれているなと思ったら、第9回に登壇していたPrivateBANKの舟波さんに誘われて、いつの間にか転職までしてしまっていて(笑)。

坂入(PinWheel):そうですね。ちなみに前回(第12回)の公認会計士ナビonLive!!では、受付をお手伝いしていました(笑)。

手塚(公認会計士ナビ):会計士ナビの申し子みたいな存在です(笑)。話を戻して、監査法人時代の話を聞かせてください。坂入さんは当時、金融部所属でしたよね?

会計士の2拠点独立、その理由や働き方は?東京と北海道で活躍する公認会計士の実態に迫る【第13回 公認会計士ナビonLive!!(1)】_坂入翔一朗氏_手塚編集長

坂入(PinWheel):はい。そもそも金融事業部に入ったのは、金融という専門性の高さやファイナンスという汎用性の高さに惹かれたからでした。また、EYの金融事業部は結果的に同期が65人と、人数が多いんです。当時僕は大学まで北海道にいて勉強していたのもあって、友達が全然いなかったんですよ(笑)。それで知り合いを増やしたいなと思って、金融事業部に入りました。

入所して配属されたのは、事業部で最も大きな証券会社のチームです。1年目で手数料ビジネスの監査に携わった後に、連結やUS-GAAP、2年目以降は子会社に対するアドバイザリー業務にも関わりました。

手塚(公認会計士ナビ):1年目にしては仕事の幅がかなり広いですね。そんな中、3年目の修了考査後に転職をしています。きっかけはなんだったのでしょうか。

坂入(PinWheel):入所後に働いていく中で、自分はずっとここでいるのかな?他の会社もみておいたほうがよいのかな?と感じる部分があって、監査法人の外にも興味が湧いてきたんです。
そんなときにたまたま訪れたのが、先述の公認会計士ナビonLive!!でした。会場で登壇者と名刺交換をしたら、1年後ぐらいに「うちがちょうど採用しようと思っているから来ない?」とお誘いいただいて、転職したんです。

手塚(公認会計士ナビ):坂入さんは今でこそ2拠点生活な上に全国を飛び回って仕事をしていますが、初対面では北海道大学を出て地方から来た、真面目な会計士という印象。修了考査が終わったくらいで早々に監査法人を辞めるイメージはなかったので驚きました。

坂入(PinWheel):確かに監査法人に入った当時は、ゼミの先輩がパートナーになったのを見ていたりもして、自分もパートナーになりたいと漠然と思っていました。それがなんで方針転換したかと言うと、ある時、このままだとビジネスマンとして社会で太刀打ちできないのではないかと感じる出来事があったんです。
監査法人で働く人には素晴らしい人も優秀な人も多いのですが、今の業務経験が実際のビジネスで役に立つことばかりではないことを知り、監査法人に長くいることへの憧れが以前より弱くなったタイミングがありました。それで他のキャリアを考え始めたのはひとつの契機で、そこからいろいろなご縁や出会いがあって、転職へとつながっていきました。

独立と多拠点生活を選択した理由は?

手塚(公認会計士ナビ):転職先のPrivateBANKも、いわゆるプロフェッショナルファームではあるものの、ベンチャー的に富裕層やファンドの支援をしている会社。大手監査法人、特に金融部とは対照的な存在だと思いますが、そのギャップにはすぐに馴染めましたか?

坂入(PinWheel):監査法人時代とは仕事のスピード感が全然違ったので、仕事の進め方のギャップには苦労しました。最初の2〜3カ月は「このままじゃヤバい」と思って仕事をしていました(笑)。

会計士の2拠点独立、その理由や働き方は?東京と北海道で活躍する公認会計士の実態に迫る【第13回 公認会計士ナビonLive!!(1)】_会場の様子

手塚(公認会計士ナビ):そもそも、なぜ転職先にPrivateBANKを選んだのでしょうか。

坂入(PinWheel):転職活動をする中で独立した方の話を聞いて、自分も将来的には独立したいと思うようになりました。とはいえ監査法人からすぐ独立するとなったら、会計業務しかできません。僕はもっと事業寄りの仕事もしたかったので、その勉強という意味でPrivateBANKに転職しました。

手塚(公認会計士ナビ):じゃあ転職時から、将来的な独立は意識していたんですね。

坂入(PinWheel):そうですね。直属の上司には「将来、独立するつもりです」と伝えていました。

手塚(公認会計士ナビ):PrivateBANKに3年ほど在籍し、監査法人と合計で6年ほどと、かなり短い期間で独立、しかも2拠点生活という珍しい選択をしています。僕も地方出身者なので実感があるのですが、東京に一旦出てしまうと、地方に戻っても仕事がないように感じるじゃないですか。それにも関わらず、なぜ坂入さんは2拠点で仕事をしようと思ったのでしょうか。

坂入(PinWheel):父が北海道の大学教員だったのですが、その割には毎週のように東京やら海外やらに訪れていて、あちこち飛び回るのが楽しそうだなという感覚はあったんです。それで僕も多拠点で働きたいなと思い、今に至っています。

会計士資格は資産X億円と同じ価値!?

手塚(公認会計士ナビ):坂入さんは実は今、コンサルティング業務だけでなく、北海道でリアルな事業をやろうとしているんですよね。詳しく教えてもらってもいいでしょうか。

坂入(PinWheel):水産業ビジネス、具体的には科学的な養殖にチャレンジしたいと思っています。衰退産業と言われていますが、日本の食文化は海外からのニーズも高く、そのポテンシャルは非常に高いと考えているからです。
今は養殖や冷凍技術についての情報収集をしているところで、先日も函館市役所に行ったり、北海道の東端にある別海町で漁師さんと飲みながら話を聞いたりしていました。近い将来、資金調達し、人を採用して、投資し、事業化したいですね。あ、商材はまだ秘密です(笑)。

会計士の2拠点独立、その理由や働き方は?東京と北海道で活躍する公認会計士の実態に迫る【第13回 公認会計士ナビonLive!!(1)】_坂入翔一朗氏

手塚(公認会計士ナビ):それは北海道に拠点があることにメリットがあるビジネスですね。

坂入(PinWheel):北海道に拠点があれば「一緒にやっていきましょう」と地場の人を誘いやすいですしね。地域に拠点を置くと補助金や融資が出やすいというのも、メリットのひとつです。

手塚(公認会計士ナビ):そちらが順調にいけば、その事業へのコミットを徐々に上げていくイメージですか?

坂入(PinWheel):そうですね。そのつもりです。

手塚(公認会計士ナビ):東京と札幌、会計士と起業家。色んな側面があって忙しいですね。

会計士の2拠点独立、その理由や働き方は?東京と北海道で活躍する公認会計士の実態に迫る【第13回 公認会計士ナビonLive!!(1)】_坂入翔一朗氏

坂入(PinWheel):今日は2拠点で仕事をする人の話をするはずだったのですが、このままだと単に「よくわからない人の話」になりそうなので、最後に「会計士だからこそこんな働き方ができる」というエピソードをお話しておきます(笑)。

ある東京のスタートアップ経営者に「会計士は羨ましい」と言われました。なぜかと言うと「資産が4億円ある人と同じぐらいの心の余裕を感じる」のだそうです(笑)。「仮に事業が失敗してもコンサルティングや会計士として働けばいいだけですよね。それだけ心の余裕があって起業できるのはうらやましい」と。それは確かにその通りだなと思いました。

手塚(公認会計士ナビ):「会計士資格は資産4億円と同じ価値」ということですね(笑)。坂入さん、本日はありがとうございました。

坂入(PinWheel):ありがとうございました。

執筆:pilot boat 納富隼平

【参加受付中!】第14回 公認会計士ナビonLive!! 開催!

【第14回公認会計士ナビonLive!!】_thumbnail_サムネイル

第14回・公認会計士ナビonLive!!の開催が決定!
「会計士の人的資産」「スタートアップ」「独立」「FAS・コンサルティング」といった分野で活躍する公認会計士の方々にお話を伺い、みなさんとの交流の機会をお届けする予定です。みなさまのご参加お待ちしております!

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【納富 隼平/合同会社pilot boat 代表社員CEO・公認会計士試験合格】1987年生まれ。明治大学経営学部卒、早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。あずさ監査法人で会計監査に携わった後、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に参画し、300超のピッチ・イベントをプロデュース。2017年に独立して合同会社pilot boatを設立。長文でスタートアップを紹介する自社メディア「pilot boat」、CVCやアクセラレーションプログラムのオウンドメディアコンテンツ制作・イベント運営・リサーチ等を手掛ける。公認会計士ナビでは、会計やスタートアップの記事・動画制作、イベント運営を専門に携わる。

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