中小監査法人の存在感が増している。
2022年のIPOマーケットでは、BIG4監査法人が担当した新規上場企業は全体の52%と半分近くまでシェアを落とし、準大手・中小監査法人も主要プレーヤーとなっている。若手会計士を中心に新たに立ち上げられる新たな監査法人の姿も見られるようになってきた。
一方で、存在感は増しつつも、200社を超える監査法人*の大部分を占める中小監査法人は、「中小」とひと括りにされ、個々の特徴は見えにくいのが実情だ。
*2023年1月末時点での日本公認会計士協会会員のうち、監査法人会員数は279法人。
本記事では、そんな知られざる中小監査法人の特徴や魅力を明らかにすべく、應和監査法人(おうわかんさほうじん)を紹介する。
実は筆者は、同監査法人の総括代表社員を務める澤田昌輝氏と監査法人トーマツ時代の同期であり、退職以来、20年ぶりの再会となる。新聞や専門誌への寄稿など、近年の彼の目覚ましい活躍ぶりを目にしつつ、陰ながら見守ってきた。その澤田氏から、監査法人の立ち上げやマネジメント、メンバーたちの働き方、そして、應和監査法人のブランドをどのように確立していったのか、話を聞かせてもらえることを楽しみに取材へと臨んだ。
目次
- 大手監査法人のシニアパートナー経験者によって設立された監査法人
- IT専門家、事業会社経験者、公認会計士以外の多様なメンバーも在籍
- 監査品質を担保するのは個人ではなく組織。監査マニュアルへのこだわり
- 残業のないアサインを意識、應和監査法人での働き方
- IPO監査が若手会計士を成長させる
- せっかくの会計士資格、監査の醍醐味を味わって欲しい
大手監査法人のシニアパートナー経験者によって設立された監査法人
應和監査法人は、中央青山監査法人でシニアパートナーを務めていた澤田昌宏氏によって2007年に設立された。
澤田という名字からも連想されるように、現在の應和監査法人の総括代表社員の澤田昌輝氏(以下、澤田氏)の父に当たる人物だ。(こう聞くと、澤田氏は2代目として後を継いだように思われるが、後述の通り、実際の経緯は少し違う。)
当時、中央青山監査法人はカネボウ事件に揺れ、解散へと向かっていた。他の多くのパートナーたちが他の監査法人に移籍していく中、自身の想いを体現する監査法人を設立するという珍しい選択をした公認会計士のひとりが澤田昌宏氏であった。「大手監査法人での知見を活かして、中小規模の上場企業を支える監査法人をつくりたい」との想いから、監査法人設立という道を選んだのだ。
そして、その翌年に、参画したのが、澤田氏であった。
澤田 昌輝(さわだ まさてる)
應和監査法人
総括代表社員
公認会計士・税理士
2001年、公認会計士試験2次試験合格。中央大学経済学部卒業。有限責任監査法人トーマツにてエンターテインメント系を中心に監査、株式公開、財務調査を行い、ニューヨーク事務所への派遣を通じ、国際業務の経験も積む。2008年、應和監査法人に参画。2017年8月より総括代表社員。株式公開、コンテンツビジネス、M&A、企業再生・再編などに伴う財務調査やコンサルティング、IFRS業務、中小企業へのアドバイザリー業務を専門とし、近年では、中小やベンチャー企業向けのセミナー講師を務めるなど幅広く活動を行う。
日本公認会計士協会会計制度委員会委員/日本公認会計士協会東京会、会計監査委員会副委員長/公認会計士によるIPO関連業務支援プロジェクトチーム構成員/日本公認会計士協会中小事務所等施策調査会 監査専門部会専門委員(現任)/日本公認会計士協会東京会千代田会幹事(現任) /日本会計士協会東京会広報委員会ニュース・ウェブ小委員会(現任)
「お父さんの監査法人を継ぐんだよね?羨ましい」。当時勤めていた監査法人ト―マツの同僚からはそんな声が上がったものの、「新設の監査法人ですから、クライアントもほぼいないですし、実際は羨ましがられるようなものではなかったんですよ」と、澤田氏は当時を振り返る。
トーマツを退職する際には、当時流行りの投資ファンドに転職したいなどとも考えていたが、父が監査法人を設立するに当たって「現場の作業を手伝う若手がいた方が良いだろう」くらいの気持ちで参画であったという。
ところが蓋を開けてみると、顧客開拓や組織づくりなど、他のメンバーたちと試行錯誤しながらの、苦労も大きい船出となった。
IT専門家、事業会社経験者、公認会計士以外の多様なメンバーも在籍
應和監査法人は、應和税理士法人、應和ビジネスアドバイザリー株式会社、そして、弁護士法人や社会保険労務士事務所などの6法人で構成する應和グループに所属し、国際ネットワークであるAGN Internationalのメンバーファームでもある。
應和グループは約50名で構成、そのうち、約7割のメンバーが應和監査法人に在籍している。
應和監査法人の概要
役職員数
38名
- 公認会計士:18名
- その他:19名(日本公認会計士協会準会員含む)
職員の平均年齢:35.3歳
役職員における女性比率:約50%
クライアント
29社
- 金融商品取引法監査:9社
- 会社法監査:10社
- 任意監査(IPO準備会社含む):10社
※2023年3月1日現在
また、平均年齢が35.3歳と若く、女性比率が50%、公認会計士以外にもITの専門家や事業会社出身者などのメンバーが所属するなど、組織の多様性が應和監査法人の特徴だ。
澤田氏は、應和監査法人の組織についてこう語る。
近年では、BIG4監査法人でも、ITの専門家や会計士資格者以外の人材採用が増えていますが、我々も同様にITの専門家や、アソシエイト職という形で他業種からの転職者も受け入れています。
採用のポイントはクライアントと高いコミュニケーション能力で接することができるかどうか。こういったメンバーと、会計の専門家である公認会計士が同じチームで業務に取り組むことによって、多様な視点での監査を行える体制を構築しているのです。
監査品質を担保するのは個人ではなく組織。監査マニュアルへのこだわり
マニュアルと運用体制の重要性
應和監査法人が、こういった多様なメンバーでの監査を実現している背景には、人材育成のための研修制度や、作り込まれた監査マニュアルといった、整備された「監査のインフラ」がある。
公認会計士である資格者はもちろん、非資格者のアソシエイトにも、毎月2回の研修を開催し、会計・監査や監査ツール、マニュアルへの理解を深めているのだ。
会計・監査の知識がないメンバーをチームに加えただけでは、“アシスタント”としての仕事しかできません。素養のある人材を採用し、かつ、研修でノウハウを提供し、整備されたマニュアルなどのインフラもあってこそ、“アソシエイト”として活躍してもらうことができるのだと考えています。
應和監査法人の現場で使われている監査マニュアルにも、独自のノウハウやこだわりが込められている。
近年では、「マニュアル監査」と言った言葉で、マニュアルに従った監査の是非の声が聞こえますが、監査マニュアルは、監査品質を一定水準に保つために、欠かせないものだと考えています。
特にマニュアルについては、BIG4監査法人の出身者の知見やノウハウを持ち寄って、妥協することなく作り込みました。
澤田氏曰く、創業者である父から伝えられた最も大きな財産は、「大手監査法人の品質への考え方」だったと言う。
私も大手監査法人での勤務経験はありますが、シニアパートナーまで務めた父の監査品質やリスク管理への視座は、数段高く、どういった考え方で監査法人を経営すべきなのかということを教わりました。
應和監査法人は、日本会計士協会の品質管理レビューでも一定の評価をいただいています。これまで、監査品質を維持し、無事に経営してこられたのも、根幹に父から教わった考えがあり、それを大切にしてインフラやツールを整えてきたからだと思っています。
海外の監査法人から学んだ組織的監査の重要性
澤田氏が監査品質の維持や監査マニュアルについてより深く考えるようになったきっかけには、海外の監査手法に触れた経験も影響しているという。
監査法人トーマツ時代にニューヨーク事務所に派遣されました。そこでは日本とは異なり、会計士資格を持たない多様なバックグラウンドを持つ人たちも、会計士と一緒になって監査現場で働いていました。
應和監査法人が加盟するAGN Internationalのメンバーファームと話していても、欧米では、会計士以外の人材も監査現場で活躍していると聞いています。欧米の監査法人が会計士に限らないチームで監査を行っているのを目の当たりにし「必ずしも会計士だけで監査しなくても監査品質は保てるのか」と、組織のあり方を深く考えるきっかけとなりました。
残業のないアサインを意識、應和監査法人での働き方
監査とは“人を観る”仕事でもある
應和監査法人では、オフィスやクライアントに出社しての業務を基本としている。もちろん、近年のデジタル化の流れに沿って調書はすべてペーパーレス化し、オンラインミーティングや必要に応じてのリモート勤務の申請制度もある。決してITをないがしろにしているわけではない。むしろ今後、さらにITの専門家を増やし、IT投資は加速するつもりだ。
ではなぜ出社を基本としているのか。それはメンバー同士が集まってのコミュニケーションや、往査でクライアントと顔を合わせることを大切にしているからだ。
監査とは、究極的には人を観察することだと思っています。
古いかもしれませんが、やはり「会うとわかる」ことがあると思うんです。誤謬があったとしても、それは「システム」が起こすわけではなく、突き詰めれば、「人」が原因で起きていると言えます。往査して経理担当者と顔を突き合わせれば、会計への理解力不足が原因で誤謬が起きそうと注意できるかもしれませんし、どの担当者が何を担当しているかを見ることで、ミスが起きそうなエリアに職業的懐疑心が働きます。
直接会うことで、指導的機能を発揮できる機会も増えますし、監査人としてのやりがいにもつながるんです
残業にならないことを意識したアサイン
メンバーの「働きやすさ」についても澤田氏は語ってくれた。
SNSで監査法人の労働時間の長さが度々話題になる中、應和監査法人では、極力、残業にならないアサインを組むよう意識しているという。
もちろん仕事ですから、予定外の出来事も起こりますが、各チームやメンバーの負担が大きくならないように、割当時間を普段からしっかり協議しています。
應和監査法人が意識するのは「責任と報酬が見合った働き方」だ。
キャリア採用をしていると、候補者から「残業はしたくないが年収は維持したい」「責任は負いたくないが年収は欲しい」と言った声を聞くこともあります。
その働き方はとても理想的で、そういったものを求める気持ちも良くわかりますが、実際はそうもいきません。
應和監査法人では、残業をなるべく少なく、主査や管理職など責任に応じて年収もアップするというのを基本の考え方としています。
IPO監査が若手会計士を成長させる
経営者と本音で向き合うIPO監査
ここ数年のスタートアップ業界の盛り上がりや、大手監査法人がIPO準備企業の受け入れをセーブしはじめた反動で、準大手や中小監査法人へのIPO監査の依頼が増加している。
実際、應和監査法人にも多数のIPO監査依頼が来ている。2020年6月4日に東証マザーズ(現:東証グロース)へ上場した株式会社コパ・コーポレーション、2023年3月28日に東証グロースへと上場を果たしたアクシスコンサルティング株式会社のIPO監査は應和監査法人が担当した。
IPO監査を受けているからといって、すべての会社が無事に上場するわけではない。クライアントが上場まで至った実績を持つ中小監査法人は限られる中で、應和監査法人は、多様なバックグラウンドを持つメンバーが知見を持ち寄りながら、クライアントを着実にIPOへと導けるよう伴走している。
毎月3~4社、年間にすると40社程度IPO監査のご相談をいただいています。
應和監査法人としては、もちろんすべての依頼を受けることはできませんが、限られたリソースで対応する中でも、上場という目的に向かって経営者と本音で向き合うことを大切にしています。
クライアントと本音で話せる信頼関係や、多様な経歴を有するメンバーの経験を活かして、本質的な助言を行うことを強みとしており、おかげ様で、IPO監査を受嘱させていただいている企業の多くが、上場に向けての準備を順調に進めています。
IPO監査の魅力とは?
IPO監査には、継続監査にはない面白さがあると、澤田氏は言う。
まず、「上場の喜びを経営者と分かち合えること」は、IPO監査の醍醐味と言える部分です。ふたつ目は、「会計士として成長できる点」にあります。
IPO監査では、上場企業監査よりも経営者と直接話をする機会が多い点も特徴だ。
IPO監査では、会計処理方針の選択ひとつをとっても、会社のビジネスを理解しなければ妥当か判断できません。今まで会計・監査という点しか見えていなかったものが、経営者とディスカッションを重ねることで、会計・監査とビジネスが線で繋がるような感覚になるんです。
また、IPO監査では、クライアントは、初めて監査人からの指導を受けることが一般的であるため、細かい点まで見る必要がある。
例えば、雑損失や雑収入、雑費など、金額的には重要性がないものの中に質的に重要性がある取引が含まれていることは、継続監査よりも多い。規程や会計処理方針の妥当性そのものの検討も必要だし、それが正しく適用されているかも確かめなければならない。こういった経験を通じ「IPO監査には、会計士として成長できる機会が多い」と澤田氏は魅力を述べる。
せっかくの会計士資格、監査の醍醐味を味わって欲しい
ところで、昨今、若くして監査法人を退職する公認会計士は少なくない。澤田氏は、「せっかく公認会計士の資格を得たのだから、監査の面白さをもっと味わって欲しい」「特に若い会計士には、監査を捨てないで欲しい」とメッセージを送る。
私は若い会計士に、監査の面白さを全部経験してほしいんです。
継続監査の同じことの繰り返しに飽きてしまったという方には、例えばIPO監査をやってみてほしい。大手監査法人から中小監査法人へと転職することで、違ったやり方での監査を経験してみるのも良いでしょう。職位が上がれば経営者と直接コミュニケーションを交わしたり、議論したりするようにもなって、新たな発見もあるはずです。その選択肢の中には、監査法人のパートナーも含まれます。これはやりがいがある仕事ですし、報酬的なモチベーションもあるはず。ぜひとも目指してもらいたいです。
なお、應和監査法人では、8~10年目ぐらいのキャリアでパートナーにチャレンジできるようにしたいと思っています。とはいえ、パートナーになるのはゴールではありません。パートナーになってからも当然勉強は必要なので、そこからも成長できるような機会を提供できればと考えています。
こういった考えに共感してくださる方がいれば、ぜひ應和監査法人の門を叩いていただけると嬉しいですね。
動画公開中!公認会計士の成長論【應和監査法人 澤田氏×RSM汐留パートナーズ 前川氏 対談】
本記事に出演いただいた應和監査法人の澤田氏と、RSM汐留パートナーズの前川氏、公認会計士ナビ編集長の手塚の3名での対談動画も公開中です!
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