2021年3月10日と11日、freee株式会社のオンラインイベント「リモート監査カンファレンス〜監査法人/事業会社の両方の視点から切り込むコロナ禍での会計監査〜」が行われた。
Day1 は会計監査に関わる人向け、Day2 はIPO準備企業のバックオフィス部門・CFOの人向けで、監査をする側と監査を受ける側という異なる視点から、freee経理部のリモート監査事例レポートや、リモート監査の現状と課題についてのセッション、クラウド監査対応ツール『kansapo』のデモが行われた。
本記事では、Day1のレポートをお届けしたい。
『リモート監査カンファレンス〜監査法人/事業会社の両方の視点から切り込むコロナ禍での会計監査〜』Day1タイムテーブル
- オープニング(挨拶) freee株式会社IPO事業部 Alliance 佐塚 昌彦 氏
- freeeで実践している「リモート監査」の現状について freee株式会社経理部マネージャー 池嶋 真吾 氏
- 監査チームが集い語り合う「リモート監査」の現状・今後について
モデレーター 太陽グラントソントン・アドバイザーズ マネジャー・公認会計士 武藤 敦彦 氏
パネラー 有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー・公認会計士 木村 圭志 氏
パネラー 太陽有限責任監査法人 パートナー・公認会計士 中村 憲一 氏
パネラー 太陽有限責任監査法人 パートナー・公認会計士 古市 岳久氏
freee株式会社 経営管理部 Accounting 池嶋 真吾 氏 ほか - クラウド監査対応ツール「kansapo」のご紹介 税理士法人つばめ代表 公認会計士・税理士 河村 浩靖 氏
- Q&Aおよび中締め freee株式会社 IPO事業部 Alliance 佐塚 昌彦 氏
※記事内のスライドはすべてセミナー資料からの引用です。
本記事の目次
- リモートワーク導入直後に決算早期化を実現
- リモート監査とリモートワークを効率化するための3つのポイント
- リモート監査の課題を公認会計士がディスカッション
- 情報加工の作業が不要に。クラウド監査対応ツール「kansapo」
リモートワーク導入直後に決算早期化を実現
今から約1年前の2020年4月7日に緊急事態宣言が発令され、多くの企業でリモートワークが導入された。IT化やツールが未整備の状態で戸惑う企業も多かった中、freeeは特に障壁を感じずリモートワークが導入できたという。
池嶋 真吾 氏 freee株式会社 経理部マネージャー
緊急事態宣言下と解除後のfreeeの状況について、経理部マネージャーの池嶋氏は、経理も監査もリモートで行ったが、支障が出ることはほとんどなかったと語る。
freeeでは、2020年5月30日まで原則出社禁止期間とし(緊急事態宣言終了が2020年5月25日)、それ以降も出社条件を緩和してリモートワークを続けている。この間で、必ず出社が必要だったのは、電子証明書形式のパソコンの同期と、押印と郵送が必要な残高確認状の発送業務の2業務のみだったと言う。
リモートワーク導入直後であれば、従来の業務をスケジュール通りにこなすだけでも大変なところだが、freee経理部では、四半期決算の締めを従来よりも2営業日短縮し、業務改善を行う余裕があったというから驚きだ。
リモート監査とリモートワークを効率化するための3つのポイント
freeeでは決算早期化を実現しただけでなく、リモート監査も効率的に行えるように様々な工夫が凝らされている。自社プロダクトである会計freeeなど業務効率化の3つのポイントをまとめた。
効率的にリモート監査・リモートワークを行うための3つのポイント
- 会計freeeで仕訳から元資料まで簡単に遡及
- ペーパーレス化されたワークフロー
- コミュニケーションツールとしてGoogle Workspaceを活用
会計freeeで仕訳から元資料まで簡単に遡及
人が綴ったファイルから証憑を探すことは意外と難しく、時間がかかってイライラしたり探す手間を煩わしく感じたことはないだろうか。
会計freeeは、クラウドかつERPで、一つのプロダクトの中に稟議から仕訳までが一元管理されており、簡単に情報を遡及して見られるのが大きな特徴だ。
例えば、月次推移で気になる箇所があれば、その画面から証憑や契約書に遡ることができる。会計freeeは、ドリルダウンで必要な情報に簡単にアクセスできるので、探す時間を大幅に削減できて、監査、経理ともに業務効率化のメリットを享受できる。
最近はリモートで監査を行う割合が高まっていて、見たいときにすぐ監査証拠を入手できないケースもあるが、監査人に会計freeeへのアクセス権を付与すれば、リモートでも帳簿と証憑が確認できるため、リモート監査を効率的に行うことができる。
ペーパーレス化されたワークフロー
ペーパーレス化もリモート推進の重要なポイントだが、制度を確立するためには、紙でもらわないことと、紙を見ないで業務を行うことが必要にとなる。
紙でもらわないためには取引先の協力が不可欠だが、クラウドプロダクトを扱うfreeeでは社員のペーパーレス化への関心が高く、社員から取引先に対して電子データでもらえるよう協力を依頼していると言う。またコンビニのレシートのように紙になってしまう場合は、社員がスマホで証憑アップロードする仕組みになっている。
次に、freee経理部では、購買申請から商品受領、支払までの一連の取引を原始証憑を見ないで行うワークフローになっている。
一般的に、書類がどこかで止まっていて決算が締まらないということは良くあるだろう。freeeではほとんど紙を見ずに仕訳や承認を行っていて紙を待つ必要がないので、決算日から9営業日目で決算を締めるという決算早期化を実現している。
コミュニケーションツールとしてGoogle Workspaceを活用
3つ目のポイントとして、監査法人との資料のやり取りやコミュニケーションツールに、Google Workspaceを活用している点があげられる。
1日2回朝と夕方に15分ずつ、Google Meetで定例のテレビ会議を行っている。リモート監査で直接往査する機会がなくなると、電話対応した人に業務が偏りがちになるが、会社と監査チームがテレビ会議で顔を合わせることで、本来の担当者に業務を分担しやすくなる効果があると言う。
また、Googleのスプレッドシートを活用して依頼資料を管理しており、スプレッドシート内のリンクをたどればどこに資料があるのかも分かるようになっている。会計freeeには保存されていない取締役会議事録などは、Googleフォルダに入れて保存している。
スプレッドシートを共有することで、メンバー全員が資料の受け渡しに関する最新の状態が見られるので、資料の渡し忘れや、重複して同じ資料を依頼してしまうといったことも起こらずに済んでいると言う。
リモート監査の課題を公認会計士がディスカッション
次に、太陽グラントソントン・アドバイザーズ マネジャーの武藤 敦彦氏がモデレーター、監査法人トーマツと太陽監査法人の公認会計士らがパネリストとして登壇し、リモート監査について様々な角度からディスカッションが行われた。
武藤 敦彦氏 太陽グラントソントン・アドバイザーズ マネジャー・公認会計士
リモート監査の現状と課題
モデレーターの武藤氏より、リモート監査が始まって1年経ったところでの現状と課題について、パネリストたちに質問が投げかけられた。
監査証拠の評価とコミュニケーションに課題
まず、会計監査とIPO支援業務を担当している太陽監査法人パートナーの古市 岳久氏から、可能な限り監査クライアントに往査する機会を減らしている現状で、監査証拠とコミュニケーションについて、2つの課題が示された。
古市 岳久氏 太陽有限責任監査法人 パートナー/公認会計士
エビデンスをPDFで入手する機会が増える一方で原本を確認しなければならない場合もあるので、どのような形で監査証拠を入手すべきなのか、監査証拠の証拠力の評価が重要だと語った。また、ウェブ会議システムでコミュニケーションの頻度は上がっているが、相対ではないため質が下がるので、どう組み合わせていくかが課題として提起された。
データの受け渡しに改善の余地
次に、会計監査のほかIT監査も担当している太陽監査法人パートナーの中村 憲一氏が、監査証拠の質に少し懸念があるという見方を示した。
中村 憲一氏 太陽有限責任監査法人 パートナー/公認会計士
電子データの取り扱いが増える一方で、監査法人によってストレージやメールなど色々な受け渡し方法を利用している点や、同じデータを何度も要求してしまっている現状の課題を指摘した上で、これらを解決するためには、誰がデータを受け取ったのか履歴を残すことや、データのバージョン管理が必要だと今後の課題を示した。
理解の枠を広げることが重要
最後に、上場企業監査とIPOをメインで担当している監査法人トーマツのシニアマネジャー木村 圭志氏が、PDFの取り扱いやリスク評価について指摘した。
木村 圭志氏 有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー/公認会計士
各監査チームが会社の状況に応じてPDFの扱いをどうすべきか検討しているが、其の中でも、PDFがどういう形で作成されたのかというところを含めて、会計士が理解の枠を広く深めていく必要性やリスク評価が重要と認識を示した。
また会計監査確認事務センターを利用した残高確認について、木村氏からfreee経理部に感想を求めたところ、リモートで残高確認を利用するためには、発送側と受ける側の双方がバランスゲートウェイを導入する必要があるが、監査対象会社しかシステムを入れていないため非監査会社には利用できず、リモートでは残高確認が完結しないという課題も明らかになった。
監査の未来~監査の現場から~
リモート監査導入から1年が経ち、監査現場を担う3人の会計士から、解決すべき課題が数多く示された。まだまだリモート監査が発展途上の段階だが、今後の監査の未来がどうなると考えているのか、モデレーターの武藤氏からパネリストたちに質問が提起された。
キーワードは監査の証拠力
まず、太陽監査法人の中村氏から、監査証拠の証拠力がキーワードとしてあげられた。
電子データはどこからデータが流れてくるのか非常に曖昧になりやすく、現状では、監査証拠の証拠力が少し評価しづらくなってしまうという課題がある。今後の技術の進歩とともに、例えばデータにタグ付をしてどこから来たか特定できるようにするなど、課題をクリアして欲しいと期待を述べた。
また、金融機関データの取り込みに関して、データに会社の手が加わっていないことを検証する手法として、常に目に見えるような可視化が進めば、リモート監査の監査手続にも馴染んでくるだろうと語った。
会社に対する理解の深度
次に、監査法人トーマツの木村氏が、アフターコロナのリモート監査について言及した。
木村氏は、今後コロナが減った後もリモート監査は一定程度続くものと予想し、業務プロセスをどういった形でデザインしていくのかということや、データの生成元などについても、監査人が会計以外のところをもう少し理解した上で監査をする必要があるだろうと、監査人に対して会社への理解の深度を求めた。
リモート監査とツール
最後に、太陽監査法人の古市氏は、コロナが無くなった後も技術の進歩とともに、クラウド会計システムや、契約書の電子証明、監査証拠の電子化など、色々なツールや技術が開発されるだろうと予測した。
そして、これらがどういう過程で出来上がったものか、また、リスクについても見極めて対応していくことが将来の監査につながるだろうと述べ、ディスカッションを締めくくった。
情報加工の作業が不要に。クラウド監査対応ツール「kansapo」
リモート監査の課題についてディスカッションが行われたあと、監査の効率化を支援するクラウド監査対応ツール「kansapo」の紹介があった。
予算管理、内部監査でのJ-SOX対応、会計事務所の財務諸表チェック、証券会社との予実状況の共有、監査法人の監査など、企業では、様々な利害関係者の目的に合わせて、会計データを加工して提出するという作業が行われているが、データ加工に手間と時間がかかっている。
河村 浩靖 氏 税理士法人つばめ 代表 公認会計士・税理士
クラウド監査対応ツール『kansapo』を開発した、税理士法人つばめの河村代表は、監査現場の課題を踏まえて、監査の効率化が急務だと指摘する。
ステークホルダーの目的にマッチした情報加工とデータマネジメント機能
クラウド監査対応ツール「kansapo」には、監査を効率化するための、以下の機能が搭載されている。
kansapoの2つの機能
- データマネジメント(仕訳・タグ・税区分・残高のチェック機能)
- データ活用(リードシート自動作成、科目明細、月次推移、前年同期との増減分析資料作成ほか)
企業と監査法人ともに人手が不足する中、もともとのデータの精度を上げることが重要になる。
売掛金の内訳の未選択、残高がマイナス、税率の適用誤り、勘定科目の選択誤りなどを、企業が事前にチェックするための機能がkansapoの「データマネジメント」機能だ。
次に、現在、利害関係者に合わせて手作業で情報を加工しているが、kansapoを導入することで、目的に応じた適正な情報を取得して、kansapoが加工してくれたものを、情報提供することができる。
リードシートや分析資料など監査人が必要とする資料も、kansapoレポートとして簡単にデータを準備することができる。
他にも、kansapo内には不明な数字を担当者に確認できるコメント機能がある。内容を確認したい項目を選んでTo担当者を指定して、kansapo内で担当者に直接メールを送ることができるという、便利な機能もある。
監査証拠やデータのやり取りなどリモート監査における課題や、リモート監査を効率的に行うためのfreeeの各種ツールの紹介など、コロナ禍で2度目のリモート監査を迎える監査関係者にとって関心が高いテーマが多く取り上げられた。
コロナ禍のリモート監査をきっかけに、監査の効率化を実現する、新しい監査手法やツールの登場を期待させる、興味深いイベントとなった。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)