2020年1月1日~12月31日までの監査法人IPOランキングをまとめました。
2020年のIPO総数93件を担当した監査法人を『IPO件数』『時価総額』『騰落率』の3つの指標でまとめてあります。
⇒2019年以前のランキング・その他監査法人関連ランキングはこちら
【注記】
※監査法人の規模に関しては、大手(EY新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらた)、準大手(太陽、BDO三優、東陽、仰星、PwC京都)、その他を中小として分類しています。また、BDO USA, LLPは、準大手監査法人に含めて集計しています。分類の定義は検査結果事例集(公認会計士・監査審査会 平成30年7月付)に基づいています。
※優成監査法人は2018年7月2日に太陽有限責任監査法人(以下、太陽監査法人)と合併を行っております。2017年以前の優成監査法人のIPO実績は優成監査法人として集計し、2018年分は太陽監査法人に含めて集計しています。
IPO件数ランキング
EY新日本が3年連続の首位に。トーマツは前年の半分以下に
まずはIPO件数でのランキングです。
IPO件数ランキング
※クリックすると拡大します。
※鞍替え、指定替え、TOKYO PRO MARKETを含まないランキングです。
IPOの総数は93件となり、2008年以降で最高となっています。上半期にはコロナ禍でIPOの中止・延期が相次ぎ、回復には時間がかかると見られていましたが、予想以上に早い回復となりました。
そのような中、IPO件数では、EY新日本監査法人が一昨年から3年連続で首位をキープしています。続くあずさ監査法人も前年と比べて増加しており、昨年3位から2位に浮上しました。一方、昨年2位の監査法人トーマツは、半分以下に件数を減らし4位になりました。
また、太陽監査法人がトーマツを抜いて3位となり、IPO監査における勢力図が大きく変わった年となっています。
監査法人の規模別で件数はどう変動したのか
IPO件数を監査法人の規模別で比較すると、四大監査法人がシェアを減らし、準大手監査法人、中小監査法人がシェアを増やした構図が見えてきます。
四大監査法人に関しては、前年と比較して、
- EY新日本監査法人:27件(対前年̟+5件)
- あずさ監査法人:22件(対前年+3件)
- 監査法人トーマツ:10件(対前年-11件)
- PwCあらた監査法人:3件(対前年-2件)
と合計で5件のマイナスとなっています。
また、準大手監査法人の実績を前年と比べてみると、
- 太陽監査法人:11件(対前年+3件)
- 仰星監査法人:5件(対前年+3件)
- BDO三優監査法人:4件(対前年±0件)
- 東陽監査法人:1件(対前年+1件)
- PwC京都監査法人:1件(対前年±0件)
と7件のプラスとなっております。
中小監査法人に関しては、前年と比べて5件のプラスになっています。
- 監査法人A&Aパートナーズ:1件(対前年-1件)
- 海南監査法人:1件(対前年±0件)
- ひびき監査法人:2件(対前年+2件)
- 永和監査法人:1件(対前年+1件)
- 應和監査法人:1件(対前年+1件)
- 興亜監査法人:1件(対前年+1件)
- 監査法人 東海会計社:1件(対前年+1件)
- 双葉監査法人:1件(対前年+1件)
- 大有監査法人:0件(対前年-1件)
今年は準大手監査法人だけではなく、中小監査法人もIPO件数を増やしており、IPO監査が中小監査法人まで広がっている様子が伺われます。
ここで、2013年から2020年までの監査法人規模別シェアの推移を見てみましょう。
監査法人の規模別のIPO件数割合
8年間の推移を見ると、もともとIPO監査は、EY新日本、トーマツ、あずさの3法人による寡占状態でしたが、大手監査法人のシェアはここ数年減少傾向にあり、当期は8年間で最もシェアを下げていることが分かります。一方で、準大手監査法人と中小監査法人はここ数年でシェアを増加させています。
また、近年は、IPO監査難民の問題が深刻化しています。この問題は、監査法人側の事情(監査品質の厳格化、人員不足などによる受注控え)以外にも、ベンチャーキャピタルなどからの資金調達が増えたことに伴い、そのEXITのためにIPOを目指す企業が増えていることも背景にあります。
このままの流れでIPOを希望する企業が増加すれば、準大手監査法人や中小監査法人に依頼するケースがさらに増えていくことも予想されます。
IPO監査難民問題については、『公認会計士ナビチャンネル』の『IPO監査難民について語る』でも取り上げていますのでご覧ください。
四大監査法人のIPO勢力図
次に四大監査法人のIPO件数とシェアを2018年から2020年までの過去3年分のデータで比較してみましょう。
四大監査法人クライアントのIPO件数比較(3ヶ年比較)
2018年から2020年の3年間で比較すると、IPOの総数は90件から93件へと3件のプラスとなっていますが、四大監査法人のIPO件数の合計は、78件から62件へと、16件のマイナスとなっており、うち11件のマイナスがトーマツとなっています。
四大監査法人のシェア比較(3ヶ年比較)
各法人のシェアを見ても、四大監査法人が3年間で20%シェアを落としたうち、監査法人トーマツが12.6%減となっており、大手監査法人の件数やシェア低下にはトーマツの凋落が大きく影響しているという見方もできるでしょう。
また、四大監査法人のIPO件数を8年間の推移で見ていると以下のようになります。
四大監査法人クライアントのIPO件数の推移(過去8年間)
過去8年間で見ると、四大監査法人のIPO総数は2013年の46件から2020年の62件へと1.3倍に増加していますが、市場全体のIPOの総数は54件から93件へと1.7倍に増加しています。
また、EY新日本監査法人の件数が、2013年の6件から2020年には27件と大きく実績を伸ばす一方で、2013年当時はIPO監査ではひとり勝ちであったトーマツは27件から10件へと実績を落としており、グラフも対象的な推移となっています。
こう見ると、「IPO監査において、準大手・中小監査法人のシェアが増している」という点について、直近5年程度では、
- 大手監査法人のシェアは下がったが、大手の件数が減ったわけではない。
- 増加分を大手監査法人が受けきれず準大手・中小がカバーした。
- 監査法人トーマツの減少分が準大手・中小監査法人に流れた。
という構図も見えてきます。
なお、大手監査法人と契約したくてもなかなか契約できないIPO準備企業が多いと思いますが、EY新日本監査法人では、2020年7月から「IPO認定者制度」を導入し、IPO監査人材の育成を通して、IPO監査難民問題の解決を図るような取り組みが行われています。
一方のトーマツに関しては、ここ数年でIPO監査の新規契約を大きく絞っており、また、これまでIPO監査をメインに担当してきたトータルサービス部(通称:TS部)もトーマツ内の組織再編に伴い閉鎖となっていますが、TS部門のメンバーが各監査部門に分散することによって、いずれの部門にもIPO監査の経験者が在籍し、IPO監査を引き受けるためのナレッジがある体制となっています。
これ以外にも報酬水準が高くないIPO監査を大手監査法人がどこまで積極的に引き受けていくのかなど様々な要因がありますが、こういった各法人の動きが数年後のIPO監査マーケットにどう影響を与えていくのか動向が気になります。
太陽監査法人の躍進で、IPO監査は「新・BIG4」の時代を迎えたか!?
また、IPO監査のランキングを語る上で、ここ数年、安定して太陽監査法人が実績を伸ばし、無視できない存在となっている点にも注目です。
前述の四大監査法人の件数実績に太陽監査法人を加えた上位5法人の3年間の実績は以下のようになります。
太陽監査法人を含めた五大監査法人のIPO件数比較(3ヶ年比較)
四大監査法人がIPO件数を減らす中で太陽監査法人は件数を増やし、太陽のみ4件のプラスとなっています。
また、太陽監査法人を含めた5法人のIPO件数の推移を8年間で振り返ると以下になります。
太陽監査法人を含めた5法人のIPO件数の推移(過去8年間)
※クリックすると拡大します。
※2017年以前の太陽監査法人の実績には優成監査法人のIPO実績は含まれておりません。
ここ数年の太陽監査法人の安定した実績を考慮すると、これまで上位を独占していたEY新日本、あずさ、トーマツの3法人の中に今後も食い込んでいくことも十分に予想されます。IPO監査においては、EY新日本、あずさ、トーマツに「太陽」が加わり「新・BIG4」となっていくのか、今後に要注目です。
時価総額(初値)ランキング
あずさが首位。トップの時価総額は昨年より上昇
次に初値時価総額での比較です。
初値時価総額の合計額でのランキング
監査法人別の初値時価総額の合計額での順位は、1位あずさ、2位EY新日本、3位太陽の順となっています。昨年2位の監査法人トーマツは、僅差ながら太陽に抜かれて4位になりました。
IPOの件数ではあずさ監査法人は2位でしたが、初値時価総額の合計額ではEY新日本を大きく引き離しトップになった点が注目されます。
あずさ監査法人が1位になった要因は、2020年初値時価総額1位の株式会社プレイド(初値時価総額117,810百万円)と4位ウェルスナビ株式会社(同77,569百万円)の両方を担当していたことが挙げられます。株式会社プレイドは CXプラットフォーム「KARTE」の開発・運営、ウェルスナビ株式会社は全自動の資産運用サービス「WealthNavi」の開発・運営を行っており、いずれも業界注目の企業でした。
では、次に初値時価総額の平均(1件あたりの初値時価総額)ランキングを見てみましょう。
初値時価総額の平均額でのランキング
トップは昨年に続いてPwCあらた監査法人です。また、初値時価総額の合計額で7位のひびき監査法人が2位にとなっています。
ひびき監査法人は、IPO件数は2件であるものの、そのうちの1件の株式会社カーブスホールディングス(初値時価総額56,758百万円)が平均額を押し上げたことによって2位となっています。
また、PwCあらた監査法人のIPO件数は3件ですが、初値時価総額2位の株式会社雪国まいたけ(初値時価総額83,685百万円、2015年ベインキャピタルTOBで上場廃止後2020年9月17日再上場)のIPOを手掛けたことで、平均額が押し上げられた形です。
PwCあらた監査法人は、件数ランキングにおいては本年は3件(7位)と四大監査法人の中では後塵を拝していますが、実は、昨年・今年と2年連続で初値時価総額の平均額は1位となっており、件数は少ないながらも大型のIPOをしっかりと手掛けていることがわかります。
初値騰落率ランキング
騰落率ではA&Aパートナーズが1位!
では、最後に監査法人ごとの初値騰落率の平均を見てみましょう。
初値騰落率の平均(1件あたり騰落率)でのランキング
※クリックすると拡大します。
※騰落率の平均=騰落率の合計/IPO件数で算出しています。
初値騰落率の平均では、監査法人A&Aパートナーズが1位となり、2位に仰星が続いています。監査法人A&Aパートナーズに関しては、担当したのはMITホールディングス株式会社1社でした。
ちなみに、2019年のIPOにおける初値騰落率の1位は、株式会社ウィルズで372.40%でしたが、2020年は1位の株式会社ヘッドウォータース1,090.00%(公募価格2,400円に対して初値が28,560円)をはじめとして、初値騰落率が高くなっています。
2021年のIPOマーケット、監査法人の勢力図はどうなる?
2020年の件数ランキングでは、太陽監査法人がトーマツを抜き3位となり、IPO勢力図が大きく変わりました。
また、これまではIPO準備企業が、大手以外の監査法人やIPO実績のない監査法人と監査契約を行う場合、主幹事を務める一部の大手証券会社が難色を示すこともありましたが、IPO監査難民問題の影響か、主幹事証券の方針に変更の兆しも見えるなど、準大手監査法人と中小監査法人がIPO監査を担当するケースも増え、四大監査法人のシェア低下にもつながりました。
また、来年以降に影響を及ぼすトピックスとしては、東証の市場区分見直しがあります。2022年4月4日付で東証の市場区分を現行の4市場から3市場へと再編され、新1部市場の上場目安が流通時価総額100億円以上となり、上場維持の流通株式比率が引き上げられるなど、上場・上場維持ともに厳しくなることが予想されます。
これらIPOを取り巻く環境変化の兆しを受けて、2021年以降のIPOマーケットや監査法人ランキングはどのような結果になるでしょうか?公認会計士ナビでは継続してウォッチしていきます。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)
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