女性会計士の中には、結婚や出産を機会に今後のキャリアに悩まれている方も少なくないと思います。
かくいう私も、監査法人時代には「結婚して子どもが生まれたらこのまま監査を続けられるのかな…」と悩んだことがあります。
今回は、そんな皆さんに最近の監査法人や事業会社、会計事務所における女性の採用トレンドに触れながら、女性会計士のキャリアの選択肢についてご紹介できればと思います。
女性会計士の皆さんがこの記事を読んで、自分の力を最大限発揮できる働き方を見つけてもらえたらと思っています。
著者プロフィール
大津留ぐみ(公認会計士・税理士)
会計士・税理士ライター
編集プロダクションで編集やライティング業務に従事した後、公認会計士試験にチャレンジし合格。大手監査法人の東京事務所にて監査業務を経験。出産を機会に監査法人を退職。その後は家庭と子育てを優先しつつ、税理士法人での月数日の税務業務、非常勤会計士として年に数回の会計監査業務を行いながら、大津留ぐみのペンネームでライターとしての執筆活動にも従事。公認会計士・税理士。
監査法人での女性会計士の働き方、今昔
公認会計士の資格をとる人には、長く仕事を続けたいと思っている人も多いでしょう。
手に職があるので女性でも比較的働きやすい、長く働ける仕事につけるというイメージで公認会計士を目指した方も多いのではないでしょうか。
しかし、大手監査法人でも出産・育児休暇制度が未整備だったころは、超優秀で育児や家事に関して家族や両親からバックアップあるような、一握りの恵まれた人しか職場復帰できない時代もありました。
それほど昔ではない私がJ1の頃、監査法人での仕事と家庭とを両立して活躍されている女性会計士の方のお話を聞く機会がありました。
確かパートーナーとしてバリバリキャリアアップされていた方で、優秀な上に仕事に対する情熱が強くて、しかもご両親やご主人のサポートなど家族にも恵まれた環境で育児休暇から復帰したという内容でした。
この話を聞いたとき、優秀なわけでもないし家族のバックアップを期待できない自分には、出産育児と仕事の両立なんてとても無理だと思ったものです。
また、少し前のリーマンショックの直後など監査法人でリストラが行われていた頃だと、育休から復帰してもすぐにはアサインがなくて戻りづらい時期もあったかもしれません。そういった時期ですと、産休や育休がとれる事業会社への転職を考える方も多かったと思います。
ですが最近は、監査法人も他の業界と同様に人手不足になっており、産休や育休をとって復帰することは当然のこととして可能ですし、女性が働きやすい様々な制度が整ってきていますので、以前に比べると女性会計士も働きやすい環境ができてきていると思います。
主婦会計士が選べる4つの働き方
さて、そんな状況を踏まえて、現在、家庭との両立を考える女性会計士や主婦の会計士の人たちにはどのような選択肢があるのでしょうか?
公認会計士ナビでは転職エージェントサービスを行っていますので、そのノウハウから、最近の女性会計士の働き方の選択肢を以下の4つに分類してみました。
- 監査法人での勤務
- 事業会社での勤務
- 非常勤会計士としてプチ独立
- 会計ファームでの残業なしや時短勤務
1~3が従来からの働き方、また、4が最近見られ始めたこれからトレンドになるかもしれない(女性の私としてはトレンドになって欲しい)働き方です。
従来から見られた1~3の働き方も社会情勢や時流に合わせて変化していますので、それぞれを詳しく見てみましょう。
1.監査法人で正職員勤務
多くの会計士の方は監査法人からキャリアをスタートすると思いますが、結婚や出産後もそのまま監査法人で勤務するというのが、1つ目の選択肢です。
育児をしながら働く上で、女性への理解がある環境は欠かせませんが、大手監査法人の場合、産休・育休など福利厚生がしっかりしていますし年収面でも条件がいいので、大企業と比べても遜色ありません。
監査法人だと会計士同士なので、仕事のボリュームを理解して配慮してもらいやすいことから、さらに働きやすいでしょう。
また、産休・育休後に監査法人に復帰する場合ですが、近年は、人手不足のため、残業や繁忙期がある監査部門に配属になるケースが多いと思います。ただし、近年では、各監査法人でも女性活躍推進のための施策が設けられているので、従来と比較すると働きやすくなっています。
以下、参考として、BIG4監査法人のWebサイトから、女性活躍推進のための主な施策をご紹介します。
【大手監査法人の女性活躍推進のための主な施策】
1.有限責任監査法人トーマツ
- 2018年4月から東京都千代田区神保町に企業内保育園を開園
- FWP(フレキシブルワーキングプログラム)の導入。仕事と家庭のバランスを保ちながらキャリアアップを目指せるように、法定の期間を超えた休職や業務軽減など柔軟な働き方ができる
参考:ダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組み(有限責任監査法人トーマツWEBサイト)
2.有限責任あずさ監査法人
- 法定基準を上回る育児・介護休業制度やフレキシブルワークプログラムを導入
- 「病児保育サポート制度(国内で訪問型の病児保育事業を専門に展開しているNPO法人と提携)」、「コンソーシアム型(複数企業向け)保育施設/ポピンズナーサリースクール丸の内」の法人利用枠を確保
3.新日本有限責任監査法人
- 出産育児支援制度の導入(小学校卒業までの時間外勤務・休日出勤の免除、短時間勤務、所定勤務日数の低減、ベビーシッター利用補助など)
- 育児コンシェルジュ制度(育児のプロフェッショナルによるサポート)
参考:ダイバーシティへの取り組み(新日本有限責任監査法人WEBサイト)
4.PwCあらた有限責任監査法人
- 保育園探しを支援するコンシェルジュサービスの導入
- 管理職によるキャリア形成支援制度の導入
参考:PwC Japan、「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」行動宣言への賛同(PwCあらた有限責任監査法人WEBサイト)
2.事業会社での勤務
2つ目は事業会社への転職です。
1では、大手監査法人が大企業と比べても女性活躍のための施策や待遇面で遜色ないというお話をしました。ですが、そもそも監査という仕事が好きでなかったり、もしくは、監査の場合は繁忙期に仕事が偏るためこういったスタイルの仕事を続けていくのが良いのかなどの理由から、監査を離れて事業会社の経理職などに転職しようか悩む方もいらっしゃると思います。
事業会社での出産・育児休暇の期間や支援制度は企業によって異なりますが、監査法人と遜色ない制度のある企業となると、一般的には福利厚生が充実している大企業が転職先の候補となります。
ただ、女性会計士の場合、公認会計士試験に合格するのが20代半ばとすると、そこから公認会計士の資格を取得(修了考査に合格)してからの転職となると、20代後半~30歳前後での転職となる人が多くなると思います。
この年齢での転職となると、結婚や出産・育児が現実的な時期と重なりがちなため、女性に人気の企業に応募が偏り選考倍率が高くなったり、また、産休・育休制度を主目的として応募すると、熱意や志望動機の面で(男性も含めた)他の応募者と比べて不利になるケースもあります。
そのため、福利厚生の充実した大企業への転職を考えるのであれば、なるべく若いうちであったり、福利厚生だけでなく事業や仕事内容にしっかりと興味の持てる企業を選択して応募することが大切と言えます。
また、大企業といえども、年収は監査法人より下がることが多いため、年収ダウンは意識しておく必要はあります。年齢や経験、企業によっても幅がありますが、30代前半で年収500~600万円くらい、年収の良い企業でも700万円くらいを上限の目安と考えるのが良いでしょう。
3.非常勤会計士としてプチ独立
3つ目は非常勤会計士として働くケースです。
非常勤の監査業務であれば、繁忙期は忙しくなりますが、日程や往査場所を選ぶことができるので、4つのパターンの中でも自由度高く働くことができます。時間のコントロールがしやすく、日当が数万円と高いので、繁忙期だけ働いても一定以上の収入になります。
また、監査以外にも、非常勤でのアドバイザリー業務であったり、週2~3日でベンチャー企業の経理の仕事を手伝うといった仕事もできるでしょう。
特に、乳幼児のお子さんがおられる方などは、保育園への送り迎えであったり、場合によって自宅で仕事ができたりと、時間と場所のコントロールができる点は大きなメリットだと思います。(独立すると時間の自由度が上がるので、旦那さんが会計士で独立している方ですと、子供の送り迎えは旦那さんが中心に担当されているご夫婦もおられますね。)
非常勤の場合、働ける日数が景気に左右される点でリスクがあります。一方で、いくつかの仕事を掛け持ちすることもできますので、ひとつの勤務先に依存するのではなく、リスクを分散した働き方もできます。
もちろん「非常勤の仕事ってどこにあるの?」という疑問もあると思いますが、会計監査ジャーナルの求人欄で募集していたり、意外と多いのが、独立や転職をした同期や監査法人時代の上司や同僚などに声をかけてみると、意外と非常勤の仕事で誘ってくれることがあります。かくいう私も、監査の非常勤のお仕事は知人から声をかけて頂きました。
また、非常勤の場合、他には個人事業主として働くことになることによるメリットとデメリットもあります。
メリットとしては、確定申告で必要経費を損金算入できるので、税務メリットが受けられます。
一方のデメリットは、育児休業給付金が受けられないこと、正社員ではないので福利厚生がないことです。
このように非常勤にはメリット・デメリットの両面がありますが、せっかく公認会計士という資格を取得したということで、本格的な独立とまで踏み切れない方でも「プチ独立」という形でキャリアを積んで、会計士資格の特性を活かしてみるのも良いのではないでしょうか。
4.会計ファームでの残業なしや時短勤務
4つ目は、FAS・コンサルティング会社・会計事務所などの会計ファームで残業なしや時短勤務で働くケースです。
M&Aや企業再生などを行うFASやコンサルティング会社は多忙なため、「仕事には興味があるけど、女性として長期のキャリアを考えると、忙しそうで…」と躊躇される方もおられると思います。
しかし、近年では、公認会計士が残業なしや時短勤務で活躍できる制度を整える会計ファームがわずかですが増えてきています。
背景としては、近年は、会計業界全体が人材不足となっており、出産や育児などを理由に女性会計士が離職しないようにするため、また、フルタイムで働ける人材だけでなく、女性や主婦など時間に制約がある人も対象に採用して活用したい、という会計ファーム側の意向があります。
また、この流れには働き方改革も影響しており、主婦会計士などをハイレベルなアシスタントとして雇うことによって、コンサルタントの業務量(残業)を減らし、現場の負担を軽減したいという意図もあります。
そのため、一部の会計ファームやコンサルティングファームでは、女性会計士が出産に入るタイミングで、残業なしや時短で働ける職種に切り替えたり、公認会計士や税理士、経理経験者などを対象に「残業をしない正社員」や「時短勤務の正社員」(もしくは、契約社員)の中途採用を行うところも出始めています。
残業なしや時短の場合の仕事内容は、前述のようなコンサルタントのアシスタント業務がありますが、M&Aや企業再生業務のアシスタントとして、デューデリジェンスやバリュエーションのサポート、事業計画や決算書、税務申告書の作成支援などを担当します。
「アシスタント」と言っても、コンサルタントのサポートをするには一定の専門的な知識が必要ですので、監査法人などで培った会計基準、会社法、内部統制、財務、経営管理と言った専門知識を活かすことができます。
年収としては、監査経験のある公認会計士の方であれば、残業なしで500万円程度がひとまずの上限の目安、時短勤務になると勤務時間に応じて年収も下がります。
また、FAS経験や英語力のある方や、年収水準の高い会計ファームなどであれば、ごく一部ではありますが、500万円+αになるケースもあります。
こういった求人は、仕事量をセーブしながら、専門性が活かせ、また、一定の年収を得られることから魅力的であり、このような働き方で活躍する女性会計士が増えてくると、女性にとって公認会計士がより魅力的な資格になると思います。
一方で、こういった求人は公認会計士ナビの転職エージェントサービスでも、
- 主婦・時短勤務の税理士・会計士求人(公認会計士ナビの運営会社「ワイズアライアンス」のサイトに遷移します)
として、特集していますが、数としてはまだまだが少ないという実情があります。
残業なしや時短のような雇用形態が、一部の会計ファームの取り組みで終わるのか、業界のトレンドになっていくのかまだわかりませんが、こういった働き方のできる会計ファームが増えることによって、活躍する女性会計士がより増えると良いなと思います。
家庭や子育てと仕事の両立、意外なポイントは?
さて、最後に、結婚・出産後の働き方について興味のある女性会計士の方々に、私の経験も含めてアドバイスをお伝えできればと思います。
1.保育園に通うと増える移動時間と荷物。
「保活」という言葉が流行になっているように、将来、自分の子供が保育園に入れるかを気にされる方もおられると思います。
しかし、無事に保育園に入れたとしても、仕事と子育ての両立には、通園時間と荷物が意外と負担になります。
自宅や駅の近くの便利な保育園への入園は倍率も高いですし、どの保育園に入るとしても1人のときにはかからない時間が往復でかかることになります。(家から保育園まで自転車や車を使えれば良いですが、禁止されていたり現実的にできない地域も多いと思います。)
ただでさえ、会計士グッズ(PCなど)が入った重いカバンを持っているうえに、子どもの保育園グッズ(お昼寝布団や着替えなどなど)も持ち、さらに子どもを抱っこして…となると、移動だけでも大変です。
時間的、距離的に認可保育園で条件が合わなければ認可外保育園を探してみるという手もあります。料金は上がってしまうかもしれませんが英語など習い事ができる施設もあるので、一考の余地はあると思います。
2.小1の壁はある
「小1の壁」という言葉をご存知の方も多いと思います。
子どもが小学生になれば楽になって、以前と同じくらい働けると思っている方もいらっしゃるかもしれません。
小学生のお子さんの場合、学童保育(以下、学童)などに預けることになりますが、保育士さんが子どものケアをしっかりしてくれる保育園と違い、子どもが自主的に時間を過ごすことになります。宿題や勉強は学童保育で面倒を見てくれるわけではないので、帰宅してから親が見る必要があります。(学童保育への入所も地域によっては希望者が多く待機になる場合もあります。)
また、小学生になって塾や習い事に通うことになれば送迎をどうするのかという問題もでてきます。子どもを優先するのか、それとも仕事を優先するのかで、悩みが出てくる可能性があります。
3.親が参加する学校行事は意外と多い
また、小学校になれば親の手を離れるかと思いきや、クラス委員(1年間通年で引き受ける)を1年生から6年生のうちの1回は引き受けてくださいと言われたり、草むしり・図書保全・廃品回収などの学校活動に1年に1回は参加するように言われたりする学校もあります。
近年は共働世帯も多いため、積極的に引き受けてくれる方がいないクラスだと、仕事をしていることが断る理由にならないこともあります。クラス委員を引き受けてしまうと、年に数回、平日に学校に行くことになります。
4.育児中の人が多い職場は働きやすい!?
学校行事もそうですが、子どもの病気や突発的な事情で休まないといけない場合もあります。
特に保育園に通いたての免疫のない子どもの場合、冬になると流行している病気すべてにかかったりします。我が家も0歳、1歳の頃はインフルエンザA、B、風邪、胃腸炎…。治って登園するとまた病気にかかり、12月の半分は保育園を休むことになり、職場の同僚に対して大変肩身が狭い思いをしました。
ですが、このようなことは育児をしていれば避けられないことです。
「時短」があるからOKというのではなくて、職場の中の特に一緒に働く同僚や上司に同じような経験をした人がいると心強いです。好きで休んでいるわけではないということを理解してくれる人たちがいれば、仕事もしやすくなります。
5.将来のキャリアプランを早めに考えておこう
結婚したときは家庭と仕事の両立が大丈夫でも、出産をすれば育児や看病でどうしても時間がとられてしまいますので、ある程度将来が見えた時点で、落ち着いた職場に転職するのもよいのかなと思います。
ただし、転職したばかりだと、子どもや家庭の事情で休みがとりづらいかもしれないので(職場の雰囲気的にも本人の気持ちとしても)、もし転職するなら早めのほうがいいかもしれません。
いずれにせよ、子供ができると働き方も生活も大きく変わる可能性があることを想定して、配偶者の方とも早めに話し合っておくとその後の協力関係もスムーズでよいかもしれませんね。
さて、今回の記事はキャリアと家庭や子育ての両立を考える女性会計士の皆さん向けにお届けさせて頂きました。
女性が活躍しやすい環境を整えていくために、この記事を女性だけでなく男性の方々にも読んで頂けたら嬉しいなと思います。
また、前半でお伝えしましたように、公認会計士業界でも徐々にですが、女性が働きやすい環境への関心は高まりつつあります。
こういった流れによって、今まで時間的制約から復帰を諦めていた方にも活躍してもらえる業界になればと思っています。また、このような女性の働き方改革が公認会計士業界の人気回復につながることを祈念しています。
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