エスネットでのアツいIPO支援の話(公認会計士のリアル 第5回:渡辺匡章/エスネットワークス)



公認会計士のリアル_5_渡辺匡章氏_サムネイル様々な公認会計士にスポットライトを当てるシリーズ企画 公認会計士のリアル

日本経済が成熟し、公認会計士にも多様性が求められる時代において、公認会計士たちはどのようなキャリアを歩んでいるのだろうか…ビジネスの第一線で活躍する若手会計士が彼らのキャリアや日々の想いをリアルな言葉で語ります。

第5回 著者 渡辺 匡章(わたなべ まさあき)

第5回は、株式会社エスネットワークスでIPOサポート室長を務める公認会計士・渡辺匡章氏による執筆です。

近年、日本の起業・ベンチャーマーケットも活況を取り戻しつつあります。一方、リーマンショック以降のIPOマーケットの低迷によって、公認会計士を始めとしたIPOコンサルティング分野のプレーヤーは激減し、IPO分野のキャリアを志す公認会計士も皆無となっていました。

今回は、そんな冷えきったIPOマーケットにおいてもIPOへの情熱を失わず愚直にキャリアを積み続けたアツい公認会計士のお話です。

著者

渡辺 匡章(わたなべ まさあき)

株式会社エスネットワークス

IPOサポート室 室長 公認会計士

東京都文京区出身 慶應義塾大学商学部卒業

2006年に公認会計士試験合格後、株式会社エスネットワークスに入社。2007年にJASDAQ上場会社の東証二部への鞍替え支援、鞍替え成功後の連結決算・開示支援、制度施行を控えたJ-SOXへの体制構築を行う。2010年より関西支社の立ち上げや、関西・東海地方の上場準備企業複数社の管理体制構築及び事業戦略作成支援に従事。上場準備会社に上場準備プロジェクトチームの責任者として常駐し証券会社・監査法人の対応及びプロジェクトを統括するなどIPOを中心とした案件に従事。2012年よりエスネットワークス名古屋支店も立ち上げメンバーとして兼務。2014年よりIPOサポート室を立ち上げ、日本全国の上場準備企業の発掘や実務支援を行っている。

自己紹介 -なぜ、IPO支援のキャリアなのか

みなさん、はじめまして。株式会社エスネットワークス、IPOサポート室長の渡辺です。この度、縁あって公認会計士のリアルに登場させて頂くことになりました。

私は会計士試験に合格してすぐにエスネットワークスに入社し、IPO支援、FAS(デューデリジェンスや株価算定)や組織再編などいろいろなコンサルティング案件に携わってきたのですが、その中でも自分の中で最も印象に残っているIPO支援の話を中心にお話ししたいと思います。

私は、現在、当社にて「IPOサポート室長」というポジションに就いていますが、前述のとおり、エスネットワークスではIPO以外の案件に携わるチャンスも多々ありました。ただ、IPOとの絡みは切っても切れないところにありまして、気がつけばIPO支援を中心としたベンチャー企業の支援がキャリアの中心となっています。これには自分自身がもともと会計士を目指したきっかけや就職する際にベンチャーの仕事をやりたいという思いや、入社後もIPOを意識して案件に携わってきたという背景があるのですが、入社1年目でアサインされたIPO準備企業の支援プロジェクトに大きく影響を受けたというのがあります。

入社1年目でIPO支援プロジェクトに -成長企業の勢いを魂で感じた

1年目でIPO支援の案件にアサインされたと言っても、当然ですが、当時は1年目なので自分自身も何をやっているかあまりわかっていなかったですし、優秀な先輩に引っ張ってもらってどうにか食らいついていたというのが正直なところです。また、レイターステージの企業でしたので、自分がアサインされたときには「IPOコンサル」というよりは、「実務作業のラストスパートを支援する」と言ったほうがニュアンスとしては近いかもしれません。ただ、そのときの経験が今の仕事の基礎になっていると感じていますし、それは、仕事だけではなく人生そのものに対してと言っていいくらいで、そのときの出会いや当時の想いが私の今のコンサルタントとしての基盤を形作っていると言っても過言ではありません。実際、そのプロジェクトは上場後も本当にいろいろありました。

初めての案件はIPO支援

私が初めてのIPO案件にジョインさせて頂いたのは、ちょうどクライアントが審査に入る佳境のタイミングだったため、最初から本当に目まぐるしい経験をすることになりました。

期限内に決算を締めて開示書類を作るとか申請書類や審査のQ&A対応などをしたのですが、当時はまだ上場審査はかなりガチガチで重箱の隅をつつくような審査でしたので、質問もものすごい分量がボンボン飛んできていました。それを夜中までクライアントと一緒に作ったりしてやっていたのですが、申請書類の作成なんかは、

チェック→修正→チェック→修正→チェック→修正→チェック→修正→・・・

みたいな感じでいつ終わるのかわからない泥沼でした。

その中でも審査の回答作りは強烈に印象に残っています。大量の質問が来るところ、最初はそれをみんなで分担して和気あいあいでやっていましたが、あまりの量にだんだんとヘバってくるわけです。そんな中、最後の最後あたりでこれでもかっていうくらいの資料出しを求められてみんな絶望的な気持ちになりながら、これが最後!みたいな感じでやったのですが、そうしたら、もう一回同じ量が来て泣きましたが、証券から「これが最後です」と言われて、最後の気力を振り絞ってテンション上げてそれをクライアントと4人くらいで会社に2泊くらい泊まり込みでやり遂げたりしました。(ちなみに、上場後に会社の方が自腹で叙々苑に連れて行ってくれたのが良い思い出です。)

苦労と試行錯誤の連続…

また、当時は新人であったことから、当然のことながら関係者とのコミュニケーションにも苦労しました。

例えば、自分は子会社の管理や連結決算も担当していましたが、子会社の経理部長の方がかなり年配のおじいちゃんで、しかも、結構気難しい方だったため、初めはひよっこ扱いで要領を得ない依頼をしてうっかり機嫌を損ねて電話をガチャ切りされたりするなど全然相手にしてくれませんでした。当然、「お客さんを支援しに行っているのに…」と当惑してしまうわけですが、それでもどうしたらいいか試行錯誤を繰り返しながら、子会社まで頻繁に通うことで電話だとうまく伝えきれない部分などを徐々に溶かしていき、また、相手の方がPC操作があまり得意でなく、複雑なフォーマットを送って数字を埋めてくださいと頼むと機嫌が悪くなることがわかったので、それをきっかけに現場で予算などの作成を一緒に手を動かしながらサポートしたりしたことで少しずつ信頼を得ていきました。あとはお酒が好きな方だったので「ここは飲みニケーションだな」ということで、サシ飲みを何度か重ねて途中からは息子のようにかわいがってもらいました。

連結決算などの中では、会社側の人間として監査対応もしていたのですが、新人なので初めは監査対応もボロボロで「こんなのもわからないの?」「ちゃんとチェックしてから資料出してください」と恐らく思われていたと思います。(口には出されませんでしたが・・・)

そして、夜の9時くらいにたくさんの宿題をおいて監査法人の方々は帰るのですが、それを泣きながら朝まで直したりとかしていましたね。

今思い返してもかなりハードな環境でやっていたなと思うのですが、逆にいろいろな面で鍛えられました。会計士としてのキャリアのスタートをこういった案件から始められたのは幸運だったと思います。

今でも忘れられない上場承認日 -達成感と熱狂と

ついに上場の時…

社会人としてのスタートをそんな環境で過ごしていたのですが、実際にクライアントに常駐してIPO準備を行っていると、上場へ向かう社内のムードの高まりというのが日に日にジリ、ジリ、ジリ…と熱をもって高まって行くのを強く感じました。当時、まだ社会人1年目だった自分にも、高まる期待感というか、積み上げてきたものが結実する瞬間といいますか、その会社の溜まりに溜まったエネルギーが大きく弾けそうな雰囲気がわかるわけです。

そして、今でも忘れられない上場承認日が来ました。

それは、暑い夏の日でした。

上場が承認された直後に社内に放送が流れ、「ただ今上場が承認されました」みたいなアナウンスが入ったのですが、その瞬間、鳥肌が立ったのを覚えています。

実際、申請の段階で上場承認までのスケジュールも引かれているので、審査が終わりに差し掛かると承認日はある程度わかるわけで、審査が終わってから承認日までは粛々と待つだけなのですが、社内放送が入った瞬間には頭ではわかっていたはずなのに、強い衝撃が走ったことは忘れられません。

それからその後はお客さんと一緒にどんちゃん騒ぎです。その会社の若手社員たちと一緒に社長の自宅に押しかけて大盛り上がり!真夜中に若手社員の方たちと庭に出てビールかけをやって、酒はもったいないからやめろと怒られて、それでも喜びや達成感を押さえきれず、結局、大の大人たちがホースで水をくんでばしゃんばしゃんやっていました(笑)

なお、後日談ですが、翌日、社長の奥様が近所に謝って回られたとの事でした。。。

魂に染み込んだIPO

これが私の初めてのIPO支援の経験です。

自分が担当したのは長い上場準備の最後のほんの数ヶ月で、特に何かひとつが印象的だったというわけではないのですが、こういうIPOの独特の空気感とか充実感、達成感、会社がひとつになっていく雰囲気、みんなの幸せそうな表情などが景色みたいに心に焼き付いていて、これをもっともっといろんな所でやりたいと思いましたし、何と言うか、魂でIPOのにおいを嗅いでしまってもうやめられなくなってしまいました。

その後、現在に至るまで、アーリーステージのベンチャーの資本政策をサポートしたり、ベンチャーキャピタル相手にゴリゴリと資金調達の交渉をしたり、IPO準備室長としてクライアントに常駐してIPOを支援したり、大阪や名古屋でもIPOの支援をさせて頂いたり、、、当然、どの案件もひと筋縄では行かず、数々の困難やトラブルを乗り越えたエピソードが多々あるのですが、今回はスペースも限られているので、そう言った話はまたの機会に。

「IPO支援」ではなく「経営支援」 -クライアントとのアツい関係

さて、ここまでIPOに関する話を述べてきましたが、最後に私がどのようなスタンスでIPO支援を行っているかについてお話しできればと思います。

様々な経験を積めたエスネットワークス

最初に少し触れた通り、私は入社以来ずっとIPOだけに特化してやってきたというわけではありません。当社には、上場企業のBPR(業務改善)や組織再編を担当する部門、PEファンド等からの依頼でM&AやFAを行う部門、事業再生を行う部門、事業承継を行う部門など、大まかに分けられた複数の部門があります。

この“大まかに”という点がポイントなのですが、例えば、事業再生を行っている部門であっても金融機関などから組織再編の仕事が来ることもありますし、案件ベースでは部門に紐付いていても、コンサルタントはシャッフルしてプロジェクトを行っていることもあります。私自身も、IPOを中心としつつも、デューデリジェンスや株価算定、組織再編なども経験し、コンサルタントとしての経験や視野を広げさせて貰っています。そんな感じで仕事をしながら、自分自身もスタッフから小さいチームのインチャージ、そしてマネージャーになり、案件をマネジメントしていくことだけでなく、今は普段の仕事の半分くらいは営業も担当しています。当社の場合、入社してから3年くらいすると、自然とみな営業を意識するようになります。当社は案件ごとに、本当にいろんなメンバーをシャッフルしながらやりますし、特定の分野だけを続けるというよりはいろんな仕事をやりながら、自分の強みを見出していくとより仕事がやりやすくなるという感じですので、キャリアという意味では自分のやりたい仕事は自分で作っていく!という感じですね。もちろん、ノルマ営業みたいなことはありませんし、そんなすぐに仕事が獲れるようになるわけではないので、上司や先輩にいろいろサポートしてもらいながら、ちょっとずつできるようになっていきます。また、営業よりも実務の方が好きなメンバーはそっちを突き詰めてプロフェッショナルを極めることも当然できます。

IPOは企業にとって目的ではなく手段

私自身も現在行っているプロジェクトのほとんどがIPO絡みとは言え、正直に言ってIPOにこだわっているわけではなく、また、IPOだけの支援を行っている認識もなく、成長過程にあるベンチャー企業の経営を支援するという意識で仕事をしています。今では自分が公認会計士であるという意識もほとんどなく、経営者の相談にのり、その過程で会社の成長のための通過点としてIPOという選択肢をとることが必要な会社にはIPOを実現するためのサポートを提供しているという感じでしょうか。

「IPO準備」と言うと、規程やワークフローを整備して、稟議制度や内部監査な制度を構築、中期計画や予算を作成…と言った作業のノウハウをクライアントに提供するイメージが強いかもしれませんが、企業側からするとIPOすることが目的ではなく、あくまで会社を大きく成長させて行くことが目的ですので、実際、実務作業以外にも幅広く支援しています。なので、単にIPOが目的なだけであればそれこそ、余計なことはしない方が良いのですが、そこはプロとしてどこまでだったらリスク取れるかを会社に対して説明しながらちょっと回り道をしてもやった方が良ければそれを一緒にやりに行きます。先々必要になるから今、これをやりましょう、証券会社にはこうやって説明すればNOとは言われませんから、みたいな。

例えば、あるクライアントでは、予算に関しては創業者である社長が目標的な感じで「売上は…円」「利益は…円」といった感じで決めていたのですが、上場準備のタスクとして積み上げ方式で計画作ることと中期的な計画を作る必要があったので、役員合宿を提案しました。

計画を作るだけなら本社で会議を開いて役員にやり方をアドバイスして数字を作ってもらえば済むのかもしれませんが、そのクライアントでは経営陣の意識や結束を高めるために役員合宿という形をとり、役員全員が3日間缶詰状態で、役員陣と社長とが腹を割って会社に対する想いや実現したい夢などを語り合いながら計画の枠組みを作っていきました。事業課題を抽出してディスカッションをしたり、大きい付箋に予算目標を記載し、それを模造紙に貼りながら経営陣全員と私でブレストしていったのですが、徐々に議論は盛り上がり、最終日の夕方には模造紙に事業や予算の計画だけでなく、全役員と私の決意表明とサインが書き込まれ計画が完成!…というような感じで、お客さんと一体となって会社を作り上げていくというアツいコンサルをやっています。

でも、やっぱりIPOっていいですね。

それこそ、アーリーステージからポストIPOまでに企業が必要としているものって、私たちの会社がもてるもの全てがヒットするんです。ベンチャーなんてないない尽くしですから全て必要とされるのも当然なんですけどね。会社をどうしていきたいという戦略の部分や組織作りの部分、それらから紐付いて財務や経営企画の機能、実際の資金調達を含めた資本政策。時にはそこから派生してM&Aや持株会社化などの組織再編が起きることも。それを成長企業のスピード感をもって経験出来ますし、会社のステージとともに求められる仕事のレベルも上がります。目の前で会社がどんどん成熟していく姿を見る事が出来るので、得られるものが多いと思います。

ですので、社内でもそこは声を大にして宣伝しています。IPOはいいよって。本当に何でも経験出来る、いいとこ取りの仕事だよって。まぁ、今は興味はあるけど目の前の仕事が忙しいってなかなか手を上げてくれるメンバーが出てこないのがツラいのですが(泣)

再び盛り上がりつつあるIPOマーケットにて…

当社は、もともとは監査法人トーマツのTS(トータルサービス)部門にいたメンバーが創業したコンサル会社であり、IPO支援は創業事業でしたが、他のファームと同じくリーマンショックをきっかけにIPO支援事業も抑え気味でした。

けれども、みなさんも感じておられる通り、現在では長らく低迷していたIPOマーケットも活況を取り戻しつつあります。また、現在のベンチャーやスタートアップのマーケットを見渡してみると、CFO的な機能や、人材、知識の供給が圧倒的に足りてないことが感じられます。2010年前後に世の中的にもIPOが本当に死滅してしまっていたので、今のフレッシュなトレンドという意味でも、現場はそういった情報すらほとんど供給されていないと思います。当社が、そして、私自身が培ってきたノウハウが今こそ起業家やベンチャー企業から必要とされている時だとも感じています。

東京でも、2012年の後半くらいからスタートアップにスポットライトが当たるようになり、起業家やキャピタリストなどがキャラ立ちしている人がどんどん出てきていますが、やるべきことをしっかりとやれば、当社もこのマーケットでもかなり突き抜けた存在として戦っていけると確信しています。

ただ、今のスタートアップやベンチャーの環境を考えると、国内のIPOマーケットで実績を出すだけではあまり面白くないよねっていうのが正直なところです。イケてるベンチャーは今はみな、世界を見ながらやっていますからね。だから私は今年中に、できるだけ突き抜けて、3年後にはやっぱり世界で勝負できるようなIPOコンサルティング会社を目指したいと思っています。当社でもすでに東南アジアに拠点作って進出支援やコンサルを行っていますが、日本から香港やシンガポールに上場する会社をどんどん出していきたいですし、シリコンバレーに資金調達しに行くベンチャーがどんどん出てその資金調達交渉を自分が一緒にやっていたいですね。

あぁ、やりたいことがありすぎて時間も人手も足りません!

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【手塚佳彦/公認会計士ナビ編集長・株式会社ワイズアライアンス代表取締役CEO】 神戸大学卒業後、会計・税務・ファイナンス分野に特化した転職エージェントにて約10年勤務。東京、大阪、名古屋の3拠点にて人材紹介・転職支援、支社起ち上げ、事業企画等に従事。その後、グローバルネットワークに加盟するアドバイザリーファームにてWEB事業開発、採用・人材戦略を担当するなど、会計・税務・ファイナンス業界に精通。また、株式会社MisocaのアドバイザーとしてMisoca経営陣を創業期から支え、弥生へのEXITを支援するなどスタートアップ業界にも造詣が深い。 2013年10月、株式会社ワイズアライアンス設立、代表取締役CEO(Chief Executive Officer)就任、公認会計士ナビ編集長。

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