既に会計士として活躍しているけど、合格発表の時期になると試験の動向がつい気になってしまうという方も多いのではないでしょうか。また近年は会計士資格の人気が無くなり受験生が減っているのではないかと、危惧されている方もいらっしゃると思います。
確かに、少し前まで会計士資格は人気が無くなったと言う話をよく耳にしましたが、実は人気が復活しつつあることをご存知ですか?
本記事では、受験生は増えているか、皆さんの受験時代と比べて試験の合格率や難易度はどうなっているのかなど、最大過去20年までの公認会計士試験データを収集して、試験の動向を分析してみました。
会計士試験をこれから受験しようとしている方にも受験の参考にして頂ければ幸いです。
本記事の目次
※本記事で使用しているデータはすべて公認会計士・監査審査会から発表されている「公認会計士試験情報」を参考に作成しております。
1:公認会計士を目指す人は再び増えてきている
まずは過去20年の公認会計士試験の「願書提出者数」のグラフをご覧ください。
【公認会計士試験の願書提出者数の推移】
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公認会計士ナビを運営していると「公認会計士を目指す人って減ってるんですよね?」と言われることも多いのですが、実は、人気はわずかながら回復してきています。
願書提出者数、つまり、公認会計士試験にチャレンジしている人は、平成22年が25,648人と最も多く、そこから5年間で半分以下に激減し、多くの人はこの時のイメージから「減っている」と思っているようですが、そこから令和元年まで4年連続で微増し続けています。
また、願書提出者数が急増した平成18年からの数年間を除くと、実は既に以前の水準とほぼ同等まで戻りつつあり、過去20年で見ると「会計士を目指す人が減った」というよりも、「会計士を目指す人が一時的に増えていた」と読み取ることもできそうです。
2:合格者数も徐々に増えてきている
公認会計士試験の難易度のバロメーター、「合格者数」と「合格率」の推移を分析
次に公認会計士試験の「合格者数」と「合格率」のグラフをご覧ください。
会計士試験の合格者数
【公認会計士試験の合格者数の推移】
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まず合格者数ですが、過去20年では、平成12年が最も少ない838人、平成19年が最も多い4,041人となっています。同じ国家試験ですが、平成12年から19年のわずか7年で合格者数に5倍も差が生じているのは驚きです。
これについては、平成14年に金融審議会 公認会計士制度部会から『公認会計士監査制度の充実強化』に関する報告が出されていて、平成30年(2018年)頃までに公認会計士を50,000人に増やす構想が打ち出されていたことがあります。
- 公認会計士監査制度の充実強化(金融審議会公認会計士制度部会 平成14年12月17日付)
平成18年からは内部統制監査、四半期財務諸表レビューが導入されるとともに、平成18年以降はこの金融庁の方針もあり合格者数が急増しました。
ですが、もともと1,000人程度だった合格者が一気に増加したこと、また、その後のリーマンショックによる景気後退から平成22年は合格者の4割が就職浪人となり、せっかく会計士試験に合格したのに、実務経験が積めずに公認会計士資格を取得できない人が続出してしまいました。
- 会計士合格者数、最少に 「5万人構想」頓挫も(日本経済新聞 2012年11月12日付)
なお、金融庁が公認会計士50,000人を目標としていた平成30年(2018年)の末時点での公認会計士数は、約37,000名(日本公認会計士協会の会員である公認会計士と準会員である会計士試験合格者の合計)となっています。
その後、一時的に合格者数は抑えられたものの、平成28年から令和元年にかけては、4年連続で微増となっています。
公認会計士試験の合格率
【公認会計士試験の合格者数と合格率の推移】
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次に合格率の推移を見ると、平成19年が19.3%と最も高く、平成23年が6.5%と最も低くなっています。平成19年に5人に1人が合格するほど難易度が下がったと思いきや、就職浪人が問題化した翌年には15人に1人しか合格できないほど難しくなってしまいました。
この期間に受験した方の中には、短期間で合格できると思っていたのに受験期間が長引いてしまうなど、試験制度に翻弄されて苦労された方も多くいらっしゃると思います。
ちなみに、直近の傾向はどうかと言うと、平成26年から令和元年までの6年間は10%から11%台で推移しており、難易度は高いものの大きな変動はなく、安定して推移しています。
願書提出者数と合格者数の相関関係から、公認会計士試験の人気回復傾向を探る
次に、「願書提出者数」と「合格者数」の推移を見てみたいと思います。
【公認会計士試験の願書提出者数と合格者数の推移】
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合格者数は平成19年にピークとなっているものの、願書提出者数は横ばいの後、平成22年にピークとなるなどズレがあり、平成25年頃になってようやく、合格者数と願書提出者数が相関しています。
合格者数と願書提出者数の関係にタイムラグが生じている原因は、会計士試験は受験勉強を始めてから合格するまで数年かかることから、「会計士試験の合格者が増えているので受験しよう」と、合格者数が多い時期に勉強を始めた受験者の数が遅れて反映されているためだと推察されます。
現在は、合格者数は増えているものの、監査法人への就職が心配されるほど増えすぎているわけでもなく、就職まで視野に入れてどの資格試験を受験するか考えた場合、公認会計士は受験しやすく就職しやすい資格と言えるでしょう。人口減少が続く中でも、会計士資格本来の魅力と受験しやすさが相まって、願書提出者数が増加しているものと考えられます。
3:女性の合格者数も増えてきている
女性の合格者は男性より少ないが、女性比率は高まってきている
次に公認会計士試験の「女性合格者数」と「合格者の女性比率」のグラフをご覧ください。(女性の合格者数・合格率は平成17年以降しか開示されていないため、15年分のデータとなります。)
【公認会計士試験の女性合格者数と合格者の女性比率の推移】
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女性合格者数の推移を見ると、平成19年が最も多く701人で平成26年が最も少なく189人となっており、ピーク時と最小年で約4倍の開きがあります。また、平成26年から令和元年まで6年連続で増加しており、令和元年は315人とピーク時の半分近くまで回復しています。
合格者全体に占める女性合格者の比率に関しては、今年、令和元年の23.6%が過去15年で最高であり、合格者の4人に1人を女性が占めています。
この5年ほど女性の合格者比率が高めに推移していますが、願書提出者に占める女性比率は合格者数に占める女性比率とほぼ比例関係にありますので、会計士を目指す女性が増えてきていることが影響しているようです。(令和元年の公認会計士試験では、願書提出者数に占める女性比率が24.4%で、合格者に占める女性比率23.6%とほぼ同率となっています。)
- 令和元年公認会計士試験の合格発表の概要について(公認会計士・監査審査会Webサイト)
2016年4月1日に女性活躍推進法が施行され、監査法人も、今まで以上に女性活躍推進を含むダイバーシティーに積極的に取り組み始めました。激務と思われていた監査法人が、女性が働きやすい環境へ変化しているというイメージが広がり、女性の願書提出者数と合格者の増加につながったという見方ができます。
4:合格者の平均年齢は下がってきている
最後に、公認会計士試験の「合格者の平均年齢」の推移をご覧ください。(合格者の平均年齢は平成17年以降しか開示されていませんので平成17年以降のデータとなります。また、平成18年と平成19年は公表されていないため、グラフが空白になっています。)
【公認会計士試験の合格者の平均年齢の推移】
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過去15年の平均合格年齢の推移を見ると、平成30年は25歳と最も若く、令和元年も25.2歳となっており、若年化の傾向が見られます。
これについては、平成22年頃の会計士試験合格者の就職難のイメージや、最近では会計士の仕事がAIに奪われるという風評などもあり、社会人の受験者が減り、合格者の平均年齢低下へとつながっている可能性も考えられます。
また、公認会計士協会も、小・中学生向け会計講座「ハロー会計」や女子高校生向け「JK(女性公認会計士)×JK(女子高校生)」といったイベントを開催するなど、学生向けの広報活動に力を入れており、そういった点の影響もあるかもしれません。
以上、直近20年間の公認会計士試験の動向をお届けしましたが、ご自身の合格年次と比べて最近の動向はいかがでしたでしょうか?また、公認会計士資格の人気が回復しつつあるのも、嬉しい事実でした。
これからもより多くの方が公認会計士試験受験を決意し、公認会計士になって理想のキャリアを叶えられるよう祈念致します!
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)