新日本監査法人が行った地方事務所の閉鎖や子会社の精算-その背景から見えた業界の課題とは?【業界ウラ読み】

  • 2017/7/19

去る2017年5月30日、新日本有限責任監査法人(以下、新日本監査法人)が、新事業年度の7月1日から監査品質を高める経営体制に移行することを目的として、子会社や地区拠点の見直しを発表しました。

メディアでは大きな話題とはならなかったこのトピックですが、今回、そこから読み取れる監査法人業界の課題について考察します。

新日本有限責任監査法人からのリリース

まず、子会社の清算に関して、新日本の子会社でシンクタンク機能を担うEY総合研究所は、2017年6月末で解散となりました。また、岐阜、山梨、水戸、秋田の4つの地区事務所を閉鎖し、地方の拠点を集約することで、監査の品質を管理する体制をより充実させる方針です。

グループ内で重複する事業、監査法人の組織のあり方

新日本は、昨今の監査品質をより高める必要性に迫られた中で、経営効率を高める改革に踏み切りました。EY総合研究所は「親会社に求められていた売上目標は達成している」(新日本監査法人関係者)ものの、所属している10人ほどの従業員は解散に伴い離職することになりました。

他の子会社についても見直しを進める考えですが、コンサルティング業務をはじめとする子会社は、基本的に新日本監査法人本体と兼任している従業員がほとんどであり、こうした子会社の従業員は、会社の清算に伴って新日本監査法人本体の業務に専念する方向です。

大手監査法人には、複数の部門や関連会社がありそれぞれの担当領域が決まっているものの、業務や顧客が属人的になっている部分もあり、部門を越えて特定のパートナーに顧客やサービスが紐付いていたり、監査法人と関連会社間で重複するサービスを提供している場面も見受けられます。

これは、監査法人がかつては個人の会計士事務所からスタートしていることに起因しており、それらが合併して監査法人が大型化するに伴い、顧客やサービスが人ではなく組織に紐付けられた体制になるよう徐々に改善が進められてきた背景があります。

今回の新日本監査法人の関連会社清算の背景には、そういった法人内の長年のしがらみや人間関係、政治的背景の清算にも踏み込んだ決断と言えるでしょう。

東芝問題で続けてきた改革と地区事務所の品質管理問題

新日本は、改革の理由を「品質をより高める体制に新年度から移行するため」としています。

東芝の不正会計問題が発覚して以来、新日本の監査品質に対する行政の目は厳しくなっていました。2015年9月~12月には、金融庁の外郭団体である公認会計士・監査審査会が、新日本監査法人の監査や業務プロセスなどを審査しました。同団体はこの結果、以前に指摘されたことと同じような監査の不備が散見されるなど、新日本の体質に問題があると指摘しており、他の取引先でも同様の問題が起こりうる可能性もあると言及していました。

その後、新日本監査法人は2015年12月22日、金融庁から業務改善命令を受け、2016年1月には業務改善計画を金融庁に提出しました。

改善計画は、

  • 透明性が確保されたガバナンス
  • 現場に密着した監査品質管理
  • 監査品質重視の組織風土の醸成

の3本柱で構成されています。

この一環で掲げたのが事業部・地区ブロックにおける品質管理の強化です。事業部・地区ブロックごとに監査品質管理委員会を設置して品質管理を強化することや、業務執行社員が何年も続けて同じ会社の監査を担当できないことを定めるなど、組織の改革に着手してきました。

今回、新日本監査法人は、岐阜、山梨、水戸、秋田の4つの地区事務所を閉鎖することとなりましたが、一般企業であれば、地方拠点の閉鎖は不採算拠点の閉鎖など損益を意識した視点で行われるケースも多いと思われます。しかし、新日本監査法人においては、「監査の品質管理」という側面から閉鎖を決断した可能性も高いとの見方もできます。

事実、今回閉鎖となった新日本監査法人の地区事務所のひとつに関しても、「メンバーが数名しかおらず、近くの別の地方事務所などから人手を借りて監査を行っている。監査調書のレベルも、残念ながら東京や大阪などの大規模拠点のみならず、準大手や中堅の監査法人よりも劣るケースもあると感じている」(新日本監査法人関係者)との声も聞かれました。

この「地区事務所」に関しては、新日本監査法人に限らず、他の大手監査法人でも似たような課題を抱えている可能性はあります。

地区事務所では、大都市圏とは異なり、遠方や僻地にあるなど監査効率が良くないクライアントも多々あり、地元在住の限られた会計士をアサインすることによって監査を行っています。
そのため、事務所自体も少人数で運営され、また、地方であることからクライアントにも大きな変動がなく、監査をする人員が何年も固定されがちです。そのため、メンバーの監査品質の向上や、監査人とクライアント間の緊張を維持しづらいなどの課題もあります。

一方で、他拠点のメンバーをアサインするにも、出張ベースでは採算的に非効率となったり、都市部のメンバーは地区への異動を希望したがらなかったりといった問題も生じます。逆に、地区事務所を閉鎖するにも、そこに所属するメンバーはその地域に生活基盤ができているため、閉鎖を決断しにくいという側面もあります。

そういった部分に大鉈を振るい地区事務所の閉鎖を決断したのは、新日本監査法人の監査品質を重視するという強い意思、ならびに、危機感の現れでもあると言えるでしょう。

今後、こういった方針が業界内で一般化していくのであれば、他監査法人においても、地方も含めて監査品質を重視した拠点の再編が行われることもあるのかもしれません。

もしくは、一般企業(特に大企業)で行われているような、本社と地方拠点を行き来する「異動」(転勤)によって、地区事務所の人員をローテーションさせるという方法が出てくるのかもしれません(一般企業では、本社と地方拠点を異動することによって、人事評価面でプラスになるインセンティブをつける運用をしているといったケースもあります)。

監査法人版ガバナンス・コードなど監査法人も組織としての変化を求められる時代に

東芝問題などを背景として、金融庁は監査法人業界に求める品質を厳しくしています。今年3月には「監査法人のガバナンス・コード」を公表しており、新日本以外にも、すでに大手監査法人を中心として、監査の品質を高めるために組織のガバナンス強化が進められています。

今回の新日本有限責任監査法人の件に関しては、東芝問題が圧力となった側面は強いですが、監査法人各社にとっては、今後、監査法人版ガバナンス・コードによる組織改革とともに、人に依存する業務の在り方を見直し、改善していけるのかも問われているのかもしれません。

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