【追記】
最新版の監査法人比較記事は下記になります。下記ページをご参考ください。
→BIG4監査法人を比較!2023年12月版_四大監査法人の決算・業績(売上・利益)、クライアント数、人員数ランキング!
BIG4監査法人(四大監査法人)の業績を2018年10月版としてまとめました。
今回、2018年10月版として四大監査法人(あずさ・EY新日本・トーマツ・PwCあらた)を「規模(人員数)」「クライアント数」「業績」の3点から比較してあります。
東芝事件などを契機に大型クライアントの異動も目につく近年の監査法人業界ですが、BIG4監査法人の業績や規模はどうなっているのでしょうか?各社の決算書から比較してみました。
今回の比較のポイント・注意点
- 今回比較に使った数字は、四大法人とも、公認会計士法第34条の16の3第1項に規定する「業務及び財産の状況に関する説明書類」を参考にしています。
- 監査法人トーマツは、前期は決算期変更の影響で会計期間が8ヶ月間でしたが、当期は通常通り1年の会計期間に戻っています。このため、監査法人トーマツの前期と当期の業績比較は8ヶ月と12ヶ月の比較となります。
- 比率(%)に関してはすべて、小数点以下第三位を四捨五入して表示しています。
今回参考にした資料
- 有限責任あずさ監査法人 第34期 平成29年7月1日~平成30年6月30日
- EY新日本有限責任監査法人 第19期 平成29年7月1日~平成30年6月30日
- 有限責任監査法人トーマツ 第51期 平成29年6月1日~平成30年5月31日
- PwCあらた有限責任監査法人 第13期 平成29年7月1日~平成30年6月30日
今回の目次は以下のとおりです。
本記事の目次
1:四大監査法人を『人員』で比較する
人員数はトーマツが依然トップ、あずさがEY新日本を逆転、増加数トップはPwCあらた
それでは、まずは四大監査法人の『人員』を比較してみましょう。
人員総数、社員数、公認会計士数などを比較した表をご覧ください。
四大監査法人の人員数詳細
※クリックすると拡大します
<注記>監査法人トーマツの「業務及び財産の状況に関する説明書類」の人員数は、海外駐在員及び海外派遣の監査スタッフは含んでいません。上記に掲載している表も同様になっています。
人員総数
【ポイント】
- トーマツは横ばいだが、依然としてトップ独走。
- EY新日本を除く3法人は増加。
- PwCあらたが300人近く増加。
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<注記>昨年まで、あずさ監査法人は「業務及び財産の状況に関する説明書類」に正確な人員総数の記載がなく約6,000名との記載になっていましたが、当期より詳細な人員数が開示されております。
人員総数に関しては、昨年3位だったあずさ監査法人が約200名増加して2位に浮上しています。一方、前回2位だったEY新日本監査法人は約700名と激減し3位になりました。なお、4位のPwCあらた監査法人は約300名増加しており、増加数ではトップです。来期以降もこの順位が定着することになるのでしょうか。
社員数(公認会計士である社員及び特定社員の合計)・比率
【ポイント】
- 社員数は、2期連続であずさが1位。
- あずさ、トーマツ、EY新日本の社員数は減少傾向に。
- PwCあらたは増加したものの、社員数、社員比率ともに他法人よりも低め。
前回に引き続き、社員数の1位はあずさ監査法人です。2位以下も順位に変動はありませんでした。PwCあらた監査法人を除き社員数はすべての法人で減少しています。
あずさ監査法人とEY新日本監査法人は業務収入が増加していますが、社員数は減少傾向です。
なお、EY新日本監査法人については、2016年に幹部社員の退職勧奨制度が導入されています。
- 新日本監査法人、幹部社員の退職勧奨制度を導入(日本経済新聞 2018年9月16日付)
人員の総数に社員が占める比率は、あずさ監査法人が9.75%、EY新日本が9.68%、トーマツが8.50%となっており、トーマツの比率が若干低めになっていますが、ほぼ横並びです。
一方、PwCあらた監査法人の社員数は145名と他の3法人の約4分の1となっており、人員総数に占める社員比率も4.75%と他法人の半分程度となっています。
公認会計士、会計士試験合格者等の人数・比率
【ポイント】
- 人数では、1位トーマツと2位あずさが僅差。
- 比率では、EY新日本が1位。
公認会計士と会計士試験合格者の総数の順位は前回と同じです。
一昨年トップだったEY新日本監査法人は前期が159名減、当期が140名減と2期連続の大幅減少となりました。前回に引き続き3位ですが、2位のあずさ監査法人との差が広がっています。また、EY新日本監査法人以外の3法人は公認会計士等が増加しており、PwCあらたは100名増加しています。
公認会計士等の比率に関してはEY新日本監査法人が74.60%と最も高く、PwCあらたは50.67%と他の3法人と比較すると低くなっています。
なお、公認会計士等比率を前回と比較すると、
- EY新日本は増加(前回68.7%→今回74.60%)、
- トーマツは横ばい(前回66.6%→今回66.88%)、
- あずさは減少(前回73.7%→今回71.79%)、
- PwCあらたも減少(前回52.1%→今回50.67%)
となっています。
唯一増加したEY新日本監査法人ですが、公認会計士等の比率が前回より増加するとともに、社員比率も前回の8.9%から9.68%に増加しています。これは、当期に減少した人員687名の約8割にあたる548名が、監査補助職員とその他の事務職員等であり、社員や公認会計士等以上に監査補助職員や事務職員が大きく減少したことが原因になっています。
他方で、四大法人の中でPwCあらた監査法人の会計士比率が最も低い理由としては、業務収入に占める監査収入比率が他法人とくらべて極端に低いことから、非監査証明業務(アドバイザリー業務など)に従事する会計士資格者ではない人材が多いことが考えられます。
法人の人員総数に対する監査補助職員の割合は、あずさが15.95%、EY新日本が11.60%、トーマツが28.43%、PwCあらたが28.87%となっており、PwCあらたとトーマツがほぼ同率の1位になっています。
また5期間の人数が把握できるトーマツとEY新日本の監査補助員数を見ると、EY新日本は当期に減少はしたものの、昨期までで監査補助職員の人数が倍近くまで増加、トーマツに関してもこの5年で2倍となっていることが分かります。
【参考:監査補助職員数の推移】
※昨年まで、あずさ監査法人は「業務及び財産の状況に関する説明書類」に正確な人員総数とその内訳の記載がなかったため、監査補助職員数は不明となっています。
※PwCあらた監査法人は、平成29年から「業務及び財産の状況に関する説明書類」を開示したため、それ以前の監査補助職員数は不明となっています。
監査補助職員数が増加傾向に推移している理由として、トーマツが千葉に設けた「トーマツ監査イノベーション&デリバリーセンター」のように、デジタル技術を活用して有資格者以外の人材が監査業務を補助する体制を構築している点が起因していると考えられます。
- 監査業務の変革と働き方改革の促進を目指し、業務集中化拠点として「トーマツ監査イノベーション&デリバリーセンター」を12月に開所(ニュースリリース|デロイト トーマツ グループ)
- 千葉市、トーマツを誘致 幕張新都心に(日本経済新聞 2017年11月27日付)
この点、継続的監査の時代になれば少数の公認会計士をデータ専門家やAI技術者が補佐する形へ監査チームが変わる、とする記事が日本経済新聞よりリリースされているなど、今後、監査法人の人員構成がどのようになっていくのか要注目です。
- 「監査チームの形変わる」 (日本経済新聞 2018年10月8日付)
2:四大監査法人を『クライアント数』で比較する
監査クライアント数はEY新日本が依然トップ!
次に、四大監査法人をクライアント数から比較してみましょう。
ここでは監査証明と非監査証明のクライアント数や比率を比較しています。
四大監査法人のクライアント数
※クリックすると拡大します
<注記>
※1:金商法クライアント比率={(金商法・会社法)+金商法}クライアント数/監査証明クライアント総数で計算。
※2:非監査証明クライアント比率=非監査証明クライアント数/(監査証明クライアント総数+非監査証明クライアント数)で計算。
監査証明・非監査証明クライアント総数
【ポイント】
- 監査証明クライアント数は、EY新日本が1位。あずさが猛追。
- あずさのみ監査証明クライアント数が増加。ほか3法人は減少。
- 過去3期でみると、EY新日本よりもトーマツの方がクライアント数が大きく減少。
- あずさは新規受嘱を停止していたにも関わらずクライアント総数が増加。
監査証明クライアント数に関しては、EY新日本監査法人が3,889社と最も多くなっています。
また、EY新日本監査法人に関しては東芝事件に伴う行政処分の影響で監査クライアントの大幅減少が予想されましたが、減少数は前々期が113社減、前期が76社減、当期は6社減となり(3期合計で195社の減少)、クライアント離れは一段落した感があります。
一方で、監査法人トーマツは、前々期は147社減、前期は28社減、当期は61社減となっており(3期合計で236社の減少)、EY新日本を上回る監査クライアント数の減少となっています。
これについては、監査法人トーマツの監査契約の新規の締結及び更新のポリシーが、前期より厳しくなっていることが関係している可能性があります。以下「業務及び財産の状況に関する説明書類」から該当部分を引用しています。
なお、監査契約の更新には審査担当者社員の承認を要することとし、監査業務リスクが高く、業務の継続にさらに高度な判断を要する場合には、リスク管理室長による追加承認手続を実施することとしております。
監査契約を更新するためには、従来より厳しい審査基準をクリアする必要があります。これにより、審査を通らずに監査契約が打ち切られている可能性があります。
唯一監査証明クライアント数が増加したあずさ監査法人は、働き方改革の一環として2017年8月に「過重労働撲滅プロジェクト」を発足し、新規監査業務の受嘱を停止していましたが、77社の増加となっています。新規上場による増加の影響もありますが、新規監査業務の受嘱を停止していたにも関わらず、総数はかなり増加しているようです。
なお、2018年7月1日より新規監査業務の受嘱を再開しています。
四大監査法人全体では監査証明クライアント数は2社減少しています。近年ではIPOを目指す企業も増加していることから、準大手・中小監査法人に新規の監査証明クライアントが流れている様子がうかがえます。
非監査クライアント数に関しては、EY新日本監査法人は333社減、あずさは183社の大幅減で、EY新日本とトーマツの順位が入れ替わり、1位がトーマツ、2位がEY新日本となっています。PwCあらた監査法人はクライアント数を増やしたものの、上位3法人に及びませんでした。
全体でみると非監査証明クライアント数は395社の減少となっており、監査証明業務より非監査証明業務の方がより多く減少しています。このことから、四大監査法人が新規契約に慎重になっている様子がうかがえます。
一方、非監査クライアントを比率で見ると、前回と同じくPwCあらた監査法人が52.65%と最も高く、あずさが37.34%と最も低くなっています。
3:四大監査法人を『業務収入・利益』で比較する
業績は二極化-四大監査法人の業務収入・利益
それでは、最後に業務収入や利益を比較してみましょう。(なお、監査法人トーマツは決算日の変更のため当期12ヶ月に対して前期は8ヶ月での決算となっています。)
業務収入(売上高)
【ポイント】
- 業務収入は、トーマツがEY新日本を抜いて首位。
- 2位のEY新日本と3位のあずさは僅差。
- 監査証明収入は、四法人すべてが増収に。
- 非監査証明収入では、トーマツが首位に浮上。
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<注記>「ひとりあたり」の金額は小数点以下を切り捨てて表示。
四大監査法人の業務収入を見てみると、増収3法人、減収1法人と明暗が分かれました。(ただし監査法人トーマツは、前期8ヶ月と当期12ヶ月の会計期間での比較になっています。)
業務収入は、監査法人トーマツがEY新日本を抜き、首位となりました。
また、2位のEY新日本監査法人に3位のあずさが僅差で迫っており、このままEY新日本が減収、あずさが増収の傾向でいくと、来期はあずさがEY新日本を抜き2位になる可能性もあります。
監査と非監査それぞれの業務収入に目を向けてみると、監査はEY新日本監査法人がトップ、非監査ではトーマツがトップとなっています。
監査証明収入は四法人すべてが増収に、非監査証明収入はトーマツとPwCあらたが増収、あずさとEY新日本は減収となっています。
また、非監査証明収入比率では、PwCあらた監査法人が2期連続の1位になっています。
構成員・社員ひとりあたり業務収入(売上高)・利益
次に、構成員・社員ひとりあたりの業務収入や利益について見てみます。
【ポイント】
- 構成員ひとりあたり業務収入は、EY新日本は前期から約2百万円増加。
- トーマツ、あずさ、PwCあらたはほぼ同水準。
- PwCあらたの社員ひとりあたりの業務収入は3億円台を維持。
- 構成員ひとりあたりの営業利益は金額、利益率ともにEY新日本がトップ。
- 構成員ひとりあたりの営業利益は四法人すべてで減少。
【業務収入】
業務収入の部分だけ抜き出して見てみましょう。
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<注記>「ひとりあたり」の金額は小数点以下を切り捨て、および、1万円未満を切り捨てて表示。
当期の構成員ひとりあたり業務収入は、EY新日本監査法人を除き、残り3法人はほぼ同水準になっています。EY新日本監査法人は1割超も構成員が減少しましたが、業務収入の減少は1%程度にとどまったことで、利益が改善しています。
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<注記>1万円未満を切り捨てて表示。
社員ひとりあたりの業務収入は、EY新日本、あずさ、トーマツの3法人が増加しています。各法人ともパートナー数が5~10%減少している一方で、全体的な業務収入は増加傾向にあることが原因になっています。
PwCあらた監査法人に関しては、前期よりも若干減少しているものの、社員ひとりあたりの業務収入額は3億円を超えており、他の法人の2倍程度という結果となっています。
【営業利益】
営業利益を見ると、金額、利益率ともにEY新日本監査法人が最も大きくなっています。
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<注記>「ひとりあたり」の金額は小数点以下を切り捨てて表示。
営業利益に関しては、四大監査法人すべてで減少しています。前期と比べて業務収入は増加したものの、業務費用がさらに増加しているためです。
監査法人トーマツは業務収入が337億円増加したのに対して、業務費用は344億円増加しています(人件費が251億円の増加、その他業務費用が54億円の増加など)。
あずさ監査法人も業務収入が43億円増加したものの、業務費用は55億円増加しています(人件費が34億円増加、IT及び通信費8億円増加、施設関連費用13億円増加など)。
PwCあらた監査法人は業務収入が33億円増加したものの、業務費用は43億円増加しています(人件費30億円増加、その他業務費用8億円増加)。
EY新日本監査法人は業務収入が10億円の減収に対して業務費用は6億円の減少で、業務費用の削減が追い付かずに営業利益が減少しました。
なお、EY新日本監査法人を除いた3法人については、人件費の増加が顕著です。
人員総数で見ると、あずさ監査法人が182名、PwCあらたが278名増えている一方で、トーマツは9名しか増えていないのに人件費が増えている点が気になりますが、これについてはトーマツが公認会計士の採用拡大や研修拡大で人件費が増えたとの記事が、日経新聞よりリリースされています。
- トーマツが業務収入首位 4大監査法人の前期決算 (日本経済新聞 2018年9月26日付)
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<注記>「ひとりあたり」の金額は1万円未満を切り捨てて表示。
最後に、構成員、ならびに、社員ひとりあたりの営業利益です。
構成員ひとりあたりの営業利益は、全法人ともマイナスになっています。特に、あずさ、PwCあらたの減少幅が大きく、構成員ひとりあたりの営業利益はそれぞれ、7万円、2万円となっています。
以上、2018年(平成30年)10月時点の情報にもとづく四大監査法人の比較をお送りしました。
いかがだったでしょう?監査を取り巻く環境が厳しくなる中、数字に落とし込んでみるとその結果が見えてきたと思います。毎年、人員数や業務収入での1位に注目が集まりますが、利益や構成員数などにも注目することによって各法人の見え方も違ってくるのではないでしょうか。
また、2018年は7月に太陽監査法人と優成監査法人が合併したことにより、来年はトップ5の業績にも注目です。
次回以降の特集にもご期待ください。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)
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