来る2020年3月7日(土)に東京・丸の内にて「経営を支える公認会計士たち ~事業会社を動かすキャリアの身につけ方~」「強みを活かして独立した公認会計士たち ~会計士の独立と専門性~」をテーマに第12回・公認会計士ナビonLive!!が開催されます。
本記事では第12回の開催に向けて、昨年8月に開催された第11回 公認会計士ナビonLive!!の内容を振り返ります。
第11回 公認会計士ナビonLive!!の第1部トークセッションでは、「“ファイナンス”で輝く会計士のプロフェッショナルスキル」をテーマに、PEファンド、FAS、経営コンサルティングの分野でファイナンススキルを活かして活躍する3名の公認会計士と、会計業界に精通した転職エージェントでもある公認会計士ナビ編集長が、公認会計士のキャリアについて語りました。
※本記事はセッションでの発言を一部補足・編集した記事となっております。
第11回 公認会計士ナビonLive!!
“ファイナンス”で輝く会計士のプロフェッショナルスキル/好きなことを仕事にした会計士たち ~本業・副業・パラレルキャリア~【日時】 2019年8月3日(土)13:15~16:15
【場所】 FinGATE KAYABA
【トークセッション テーマ】“ファイナンス”で輝く会計士のプロフェッショナルスキル
【登壇者】
・赤塚 佳弘(みずほキャピタルパートナーズ株式会社 ファンドビジネスグループ ヴァイスプレジデント/公認会計士)
・清水 寛司(東京共同会計事務所 コンサルティング部 スーパーバイザー/公認会計士)
・中島 亮介(株式会社経営共創基盤(IGPI) マネジャー/公認会計士)
【モデレーター】
・手塚 佳彦(公認会計士ナビ編集長/株式会社ワイズアライアンス 代表取締役 CEO)※登壇者の役職、肩書等はイベント開催時のものです。
本記事では、第1部トークセッション「“ファイナンス”で輝く会計士のプロフェッショナルスキル」より、株式会社経営共創基盤(IGPI)の中島 亮介氏(公認会計士)のコメントをご紹介します。
中島 亮介
株式会社経営共創基盤(IGPI)
マネジャー/公認会計士
2008年、公認会計士試験合格。あずさ監査法人にて保険会社・銀行等を中心に、財務諸表監査、内部統制監査のほか、財務デューデリジェンス・海外資金調達支援等の財務アドバイザリーサービスに従事。2014年、株式会社経営共創基盤に入社。インフラ企業等の事業計画策定、経営管理体制強化、調達コスト最適化・生産性改善等のオペレーション改革や、製造・小売業の事業再生計画策定・ハンズオン実行支援、M&A支援等に幅広く従事。
山梨県出身、1985年生まれ、東京大学経済学部卒。
- 参考サイト:経営共創基盤
※所属企業・役職等はイベント登壇時のものです。
公認会計士には多様な活躍フィールドがあるが、その中でも「ファイナンス」の専門性を武器に活躍する会計士たちがいる。経営共創基盤にて事業再生を中心とした「経営コンサルティング」に従事する中島亮介氏もそのひとりだ。
あずさ監査法人を経て、経営共創基盤にて活躍する中島氏が、これまでのキャリアや、ファイナンスの知見を活かして携わる企業再生の仕事について語った。
経営を全方位的に支援する、経営共創基盤のコンサルティング
あずさ監査法人にて金融機関の監査や財務デューデリジェンスなどの業務に従事した後、2014年に株式会社経営共創基盤に入社した中島氏。セッションの冒頭で、経営を全方位的に支援する経営コンサルティングファームとして名高い同社の概要について語った。
経営共創基盤は、チエ・ヒト・カネのすべてを提供価値と考えており、財務から事業までワンストップのフルサービスでコンサルティングサービスを提供しています。企業再生のようなレイターステージの企業に対するコンサルティングは、ある種”お家芸”ですが、近年では創業期・成長期の企業に対するコンサルティングも増えてきています。
また、必要があれば、コンサルティングサービスのみならず、自己勘定での投資(資金拠出)も行いますし、当社メンバーが経営幹部としてクライアントに出向したりするケースもあります。このように経営共創基盤は多種多様なサービスラインを持つ総合格闘技的なファームですが、私はこの中でも事業再生領域のプロジェクトに多く参画しています。
その会社が“いつ潰れるのか”から始まる事業再生の現場
中島氏は、事業再生の仕事や現場についてもリアルな話を披露した。
事業再生の仕事は、今にも潰れそうな(資金ショートしそうな)状況の会社に訪問し、会社の経営課題と今後の対応方向性について議論するところから始まります。会社の雰囲気は様々ですが、自分たちの状況をよく理解していて重い雰囲気の中で進める現場もあれば、逆に改革が難しいケースとして、内心では現状維持でも何とかしのげると捉えていて、なかなか改革の手が進まない現場もあります。また、社長は楽観的に考えているが、切れ者の専務は危機感が高く焦っているといった、経営陣でも温度感が違うケースなどもまま見られます。
緊急性の高い重症患者のケースで、我々が最初に行うのが、“いつ潰れるか”(=いつ資金ショートを起こすか)の推定です。会社はキャッシュポジションの維持が生命線ですので、現在のポジションに売掛金の入金や材料費・経費などの支払い日と金額を加味して、月次、ひっ迫している会社なら日次で資金繰りを予測し、資金ショートを起こす日を見積もるのです。
私が実際に担当したあるメーカーのケースでは、キャッシュフロー予測の結果見えてきたのが、「100日後に資金ショートする」という実態でした。「100日後に資金ショートします。社長、対策が必要です」から始まり、急遽、経営会議を開き、いかに資金をつないでいくかを考えるのが事業再生のスタートでした。
事業再生には「事業経営支援」と「財務経営支援」の側面があり、後者について、序盤でのキャッシュフローモデルを作るところ等は会計士の腕の見せ所でもあります。そして、いかにコスト削減や売上向上を行うかといった事業面での戦略検討支援を行ったうえで、財務三表連動の計画モデルに落とし込むといった財務支援も行います。
この事業と財務の両方を一体で支援するのが経営共創基盤の特徴で、コンサル出身者、事業会社出身者、公認会計士、弁護士などがチームを組んで支援を行う点を特徴としています。
再生プロジェクトのチームは、会計監査におけるインチャージ(主査)のようなプロジェクトマネージャーと、スタッフとを合わせて4,5人のチームで構成されます。財務担当者、事業担当者、リストラなど法務が絡む案件では弁護士など、それぞれ専門の担当者で構成されます。会計士なら財務面中心、事業面は戦略コンサル出身者などと棲み分けすることが一般的ですが、メンバーの希望やスキルセットによって担当がまたがる、広がることもままあります。
また、経営共創基盤はハンズオンでの支援が中心ですので、クライアントの社内に机を置いてもらって、現場に常駐し、一緒に汗をかきながら施策実行を伴走していく、そして、当然ながら業績数字にコミットして結果を出していくというスタイルをとっています。
公認会計士の中には会計領域を飛び出して、中島氏が述べたような事業経営支援を経験したいと考える人もいるだろう。中島氏は、経営共創基盤での公認会計士のキャリア形成についても語った。
会計士は財務や会計が得意分野ではあるので、最初の頃はその部分のタスクを任されることが多いです。ただ、私を含めて経営コンサルファームに来る人は、事業面やオペレーションの支援など財務会計分野とは別のことをやりたいというマインドを持つ人が多いと思いますが、当社には他の領域の知見を伸ばしていくキャリアパスも多く用意されています。
希望がある場合は、周囲に声に出していればそのうち別領域も少しずつ任せてもらえるようになります。私の場合も、アピールしていたら、1年しないうちに少しずつ財務会計分野以外のことを任されるようになり、最近ではプロマネとして事業・財務の両分野を横断して、事業再生や戦略策定プロジェクト全体を動かす機会も増えてきました。
会計士は経営コンサルに向いているのか?ポイントは人を巻き込む力
セッションの冒頭に、明快かつ論理的に経営コンサルティングの仕事や現職の経営共創基盤について説明をしてくれた中島氏だが、「コンサルの仕事は9割が泥臭いもの」だとも語った。
「コンサルタント」というのは、「クライアントとともに課題を解決していく人・支援者」だと考えていますが、その仕事には大きく分けて2つのステップがあると思います。クライアントにとって「1:何が課題なのかを特定すること」と、「2:課題に対して解決策を打ち出し、一緒に実行していくこと」です。
私自身も経営コンサルという仕事についてよく分からない状態で業界に飛び込みましたが、会計士は、「財務諸表」というフィルターを通じて会社を俯瞰し、財務数値の各構成要素に分解して、背景まで掘り下げながら数字の動きを分析するという作業を行っているので、会社全体を俯瞰して、構造的に会社の課題を特定していくというコンサルの思考パターンと類似している部分があり、「1:何が課題なのかを特定すること」は比較的取りくみやすいと思います。
ですが、後半の解決策を出して一緒に実行していくところはとても難しい。解決策の導出もさることながら、結局は、解決に向けて人が動いてくれるかがすべてなので、人を巻き込む力も必要になるからです。
例えば、コスト削減の施策案が会議で出されたとします。
素直に考えれば、有望な案であれば採択され、コストを削減する方向に進むと思いがちです。ところが、うまくコスト削減が成功してしまうと、会社によっては「今までの担当部長がコストを無駄に使っていた」となり、「なぜこれまで削減ができなかったのか」と経営陣から責められるケースもあり得ます。そのような会社では、担当部長は容易にコスト削減案を認めるわけにはいきません。「話は分かるけど、XXだからうまくいかない。」と、うまくいかない理由をいくらでも挙げて、抵抗勢力となることはよくあるケースです。
無理に進めても後にハレーションが起こりうるため、情理的に解決を図ることもあります。ときに、部長がお気に入りのスナックに連れ添って、カラオケで年代物の曲をご一緒し、腹を割って話しているうちに、ようやく襟を開いていただけて、解決に向けて動いていただいた、ということもありました。
経営コンサルの仕事は、「ファクト」や「ロジック」を積み上げて格好良くプレゼンするなど、華やかなイメージを持たれる方が多いと思いますが、我々の仕事のうち、それは全体のごく一部です。
「ファクト」や「ロジック」を前提に考えた戦略・施策を、いかに腹落ちしてもらって、いかに実行してもらうかを泥臭く考え、動く時間の方がずっと多いですし、現実の成果を出す目的からすれば、そちらの方がずっと重要です。
監査法人で知らぬ間に積めていた企業を俯瞰する訓練
経営コンサルタントとして活躍する中島氏だが、そんな中島氏も転職した当初はコンサルティングの仕事に慣れるまで苦労はあったという。モデレーターからの「監査法人での経験で現在の仕事に活きたものはあるか?」との質問に対して、中島氏は「現在も役に立っているものがふたつある」と語った。
公認会計士というと、入った当初から財務面は何でもできると思われがちなのですが、ファイナンスも金融機関交渉もやったことがありませんから、どうやったら良いのだろう…からスタートするわけです。
私も最初は、プロジェクトの合間を縫って、IGPI内の過去プロジェクト資料を漁り、近くの書店で専門書を漁ってインプットする毎日でした。必死に学び続ける日々で、きつい局面や出来ないことに悔しさを覚える局面も多くありましたが、上司や先輩に可愛がってもらいながら鍛えられて、何とかコンサルタントとしての所作を覚えてきました。
そんな中で、監査法人での経験と会計士資格の取得時代を通じて、得られて良かったと思うものがふたつあります。
1つ目は先ほども少し触れましたが、監査法人時代に、財務会計と言う切り口で、会社全体を俯瞰して見て、分析できるようになったことです。若いうちからこのような経験ができる仕事は限られています。
例えば、パンメーカーを考えると、営業部門はいかに多くのパンを売るかを第一に考えますし、製造部門ならいかに無駄なく製パンラインを流すか考え続けます。また、開発部門ならどんな美味しいパンを作るかが重要です。会社全体の視点から何が全社最適かを考えてアウトプットを行わなければならない機会は、事業会社であれば、役員などの上位ポジションや一部企画部門でないとありません。
一方で、会計士は、若手の頃から会社全体を見る訓練をしています。事業は儲かっているのかいないのか、その理由は何か、特定のコストに原因があるのだとするとそれはなぜか、過年度からの増減率は妥当か、といった目線で会社全体の数字を見る仕事をしますが、経営コンサルでも初期的には同じアプローチで課題分析を行います。知らないうちに行っていた訓練が現職でも役立っています。
2つ目は、管理会計の知識です。監査法人時代は財務会計が中心でしたが、監査法人から外に出ると管理会計の知識が求められることが多いです。例えば、製品別原価計算や標準原価計算など学んだと思いますが、計算法の改善など、メーカーでは良くテーマになる論点です。
あるメーカーに行ったとき、全社を挙げて拡販していた商品があったのですが、我々が入って物流費など配賦計算をして製品別貢献利益を算出したところ、これまでの主力商品が実は一番の赤字原因であったと判明するケースがありました。いったんは拡販を抑えてコスト削減に舵を切ることで会社業績が良くなるという提案ができたのは、会計士のバリューが発揮できた瞬間でした。
宮本武蔵か黒田官兵衛か、自分の将来像をイメージする
将来のキャリアについて迷っている若手会計士は少なくない。中島氏はセッションの最後に、会場の会計士に向けて「漠然とでもいいので、将来、自分がどのようなプレイヤーになっていたいかをイメージすることが大切」と語った。
私も転職するときは勇気が必要でしたが、結果的に、現在の自分は当時よりも出せる価値の幅も広がって、転職してよかったと感じています。
転職した身から言えることとしては、転職やキャリアについて考える時には、10年後、20年後に自分がどのような働き方をしていたいか、どのようなプレイヤーになりたいかを漠然とでも考えてみることがきっかけになると思っています。
私は、現職に来てみて会計士のキャリアには大きく2つの方向性があると感じています。
ひとつは、会計や財務の専門性をぐっと突き詰めていくパターン。他の専門性はないけれども、ひとつの得意領域が鋭く尖っていることで価値を出すキャリアパスです。監査法人のパートナーや会計士としての独立などもこのケースですが、会計・財務分野でひとつのことを突き詰める、私は歴史が好きなので、歴史上の人物に例えるなら、自分の刀で腕を磨き続けてその道の一流を目指す宮本武蔵タイプです。
もう一方は、分野横断的に知見を広げて、様々な角度から判断して組織全体を最適に動かす軍師のようなポジションを目指す、黒田官兵衛パターン。
経営コンサルはこちらが近いイメージですが、扱う分野・領域が多岐にわたるため、会計などのひとつの分野の専門性をぐっと突き詰めていく力は限定されます。けれども、多面的な視点から物事を見て戦略を立てる経験を積み、「この領域のことはこの人に頼もう」という各分野の知識のインデックスを幅広く持ちつつ、全体をオーガナイズ・コントロールすることで価値を出す人材になれます。
私は、黒田官兵衛のような存在を目指したいと思ったので経営コンサルを選びました。会計の専門性は前職当時に比べると部分的になりましたが、代わりに多分野へ知見を広げることができ、自分が挑戦できる範囲も大きく広がりました。
宮本武蔵のような侍タイプを目指したいのか、黒田官兵衛のような軍師タイプを目指すのか。黒田官兵衛を目指してみたいと考える方は、今後のキャリアとして経営コンサルを視野に入れていただくのも良いかと思います。皆さんと一緒に仕事ができる日を楽しみにしております。
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