毎年恒例、四大監査法人(BIG4監査法人)の業績をまとめました。
今回、2023年6月末の決算情報をもとに四大監査法人(あずさ・EY新日本・トーマツ・PwCあらた)を「規模(人員数)」「クライアント数」「業績」の3点で比較しています。
ここ数年、四大監査法人から中小監査法人への会計監査人の交代が増加するとともに、四大監査法人の監査報酬の平均単価も上昇傾向が続いています。
また、公認会計士試験の合格者が増加する一方で、四大監査法人に就職した合格者の監査法人離れも進んでいます。これらの傾向が、四大監査法人の業績や規模にどのような影響を与えているのでしょうか?各社の決算書を比較してみました。
本記事では、下記の目次の通り、前半でランキングを、後半で当期のポイントのまとめをお届けします。
本記事の目次
- 1.四大監査法人『人員数』ランキング!
- 人員総数
- 社員数・比率
- 公認会計士、会計士試験合格者等の人数・比率
- 2.四大監査法人『クライアント数』ランキング
- 監査証明クライアント総数
- 非監査証明クライアント総数・比率
- 3.四大監査法人『業務収入・利益』ランキング
- 業務収入
- クライアント1件あたり業務収入
- 構成員・社員ひとりあたり業務収入
- 営業利益・営業利益率
- 構成員・社員ひとりあたり営業利益
- 当期純利益
- 昨年に続き著しく大きいトーマツの非監査証明収入
- 業務収入増加でも営業利益は減少
- 監査、非監査ともにクライアント総数は減少傾向
- 人員総数は増加も会計士総数では明暗分かれる
参考資料
今回比較に使った数字は、4法人とも、公認会計士法第34条の16の3第1項に規定する「業務及び財産の状況に関する説明書類」を参考にしています。
- 有限責任あずさ監査法人 第39期 2022年7月1日~2023年6月30日
- EY新日本有限責任監査法人 第24期 2022年7月1日~2023年6月30日
- 有限責任監査法人トーマツ 第56期 2022年6月1日~2023年5月31日
- PwCあらた有限責任監査法人(現:PwC Japan有限責任監査法人) 第18期 2022年7月1日~2023年6月30日
注記
- 比率(%)に関してはすべて、小数点以下第三位を四捨五入して表示しています。
- 金額に関してはすべて、小数点以下や1万円未満あるいは百万円未満を切り捨てて表示しています。
- 本記事内で使用している表の画像はすべてクリックすると拡大することができます。
- PwC Japan有限責任監査法人に関しては、2023年6月末時点でのPwCあらた有限責任監査法人として表記しています。
Ⅰ.首位はどの法人?四大監査法人比較ランキング
1.四大監査法人『人員数』ランキング
まずは四大監査法人の『人員』を比較してみましょう。
※監査法人トーマツの「業務及び財産の状況に関する説明書類」の人員数は、海外駐在員及び海外派遣の監査スタッフは含んでいません。上記に掲載している表も同様になっています。
人員総数
人員総数は、監査法人トーマツが7,000名を超えトップです。
前期と比較すると順位に変動はなく、4法人とも増加しています。
社員数・比率
社員数(公認会計士である社員及び特定社員の合計数)は、あずさ監査法人がトップです。
昨年2位の監査法人トーマツと同3位のEY新日本が、同数で並びました。あずさの減少とEY新日本の増加が目立ちます。
社員比率は、昨年1位のあずさ監査法人を抜いて、EY新日本がトップです。
なお、PwCあらた監査法人の社員比率は、以前は約4%と他法人の半分程度でしたが、かなり差が縮まってきています。来期はPwC京都監査法人との合併により、社員比率の変動が予想されています。
公認会計士・会計士試験合格者等の総数・比率
公認会計士・会計士試験合格者等の総数は、あずさ監査法人がトップです。
前期に続いて監査法人トーマツは減少し、あずさ、EY新日本、PwCあらたは増加しました。その中でもEY新日本監査法人が突出しており、唯一減少したトーマツとの差は159名にも及んでいます。この原因については後述しますが、EY新日本監査法人の採用が功を奏したとの声も聞かれています。
公認会計士・会計士試験合格者等の比率は、EY新日本監査法人がトップです。
前期と比較して、全法人が減少しています。公認会計士・試験合格者等の総数は全体的に増加傾向にありますが、補助職員の積極的な採用等が公認会計士・試験合格社等の比率を減少させているものと思われます。
2.四大監査法人『クライアント数』ランキング
次に、四大監査法人の『クライアント数』を比較してみましょう。
ここでは、監査証明と非監査証明のクライアント数や比率を比較しています。
※1:金商法クライアント比率={(金商法・会社法)+金商法}クライアント数/監査証明クライアント総数で計算。
※2:非監査証明クライアント比率=非監査証明クライアント数/(監査証明クライアント総数+非監査証明クライアント数)で計算。
監査証明クライアント総数
監査証明クライアント総数は、前期と変わらずEY新日本監査法人がトップです。
上位3法人が減少しており、PwCあらた監査法人のみ増加しています。特に監査法人トーマツの減少が大きくなっています。なお前期から順位に変動はありません。
非監査証明クライアント総数・比率
非監査証明クライアント総数は、監査法人トーマツがトップです。
前期と比較すると、EY新日本監査法人が増加し、残る3法人が減少しました。監査法人トーマツは前期199社減少、当期も188社減少していますが、クライアント総数自体は2位以下の法人と圧倒的な差をつけています。
非監査証明クライアントの比率は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、PwCあらた監査法人とトーマツとあずさが微減で、EY新日本は微増でした。なお順位に変動はありません。
3.四大監査法人『業務収入・利益』ランキング
それでは、最後に『業務収入・利益』を比較してみましょう。
業務収入
業務収入は、監査法人トーマツがトップです。
前期と比較すると、四大監査法人すべてが増加しています。ランキングに変動はありません。
続いて、業務収入を、監査証明収入と非監査証明収入に分けて見てみましょう。
監査証明収入
監査証明収入は、EY新日本監査法人がトップです。
監査証明クライアント総数が全体的に減少傾向であったにも関わらず、すべての法人の監査証明収入が増加しています。後掲のように、クライアント1件あたりの業務収入が増加しているためです。
非監査証明収入・比率
非監査証明収入は、監査法人トーマツがトップです。
前期から順位に変動はありません。前期と比較して、トーマツ、PwCあらた、EY新日本が増加し、あずさが減少しました。
非監査証明収入の比率は、PwCあらた監査法人がトップです。
トップのPwCあらた監査法人は、非監査証明収入の比率が50%を超えています。
クライアント1件あたり業務収入
次に、クライアント1件あたりの業務収入を監査証明と非監査証明に分けて見てみましょう。
監査証明クライアント1件あたり監査証明収入
監査証明クライアント1件あたり監査証明収入では、監査法人トーマツがトップです。
なお、4法人とも増加しています。
非監査証明クライアント1件あたり非監査証明収入
非監査証明クライアント1件あたり非監査証明収入は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較して順位に変動はありません。各法人の差が広がっているので、当面順位の変動はなさそうです。
構成員・社員ひとりあたり業務収入
次に、構成員・社員ひとりあたりの業務収入について見てみます。
構成員ひとりあたり業務収入
構成員ひとりあたりの業務収入は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、PwCあらた監査法人のみが増加し、EY新日本、トーマツ、あずさは減少しました。前期から順位の変更はありません。
社員ひとりあたり業務収入
社員ひとりあたり業務収入は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると全法人が増加し、中でもPwCあらた監査法人の増加額が突出しています。PwCあらた監査法人は前期2,135万円の減少から、増加に転じています。
順位は前期から変更はありません。
営業利益・営業利益率
営業利益は、前期3位だった監査法人トーマツがトップになりました。
業務収入が全法人とも増加しているのに対して、営業利益は監査法人トーマツを除き減少。特にEY新日本監査法人はあと少しで利益から損失に転じる瀬戸際に立たされています。
営業利益率は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、監査法人トーマツのみが増加し、順位も前期の3位から2位に上昇しました。
構成員・社員ひとりあたり営業利益
構成員ひとりあたり営業利益は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、監査法人トーマツのみが増加し、順位も前期の3位から2位に上昇しました。
社員ひとりあたり営業利益は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、監査法人トーマツのみが増加し、順位も前期の3位から2位に上昇しました。
当期純利益
当期純利益は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、PwCあらた監査法人が増加し、トーマツとEY新日本とあずさが減少しました。前期2位だったPwCあらた監査法人は2年ぶりに1位に返り咲き、順位が変動しています。
Ⅱ.当期のポイントまとめ
最後に、当期のポイントをまとめておきます。
1.昨年に続き著しく大きいトーマツの非監査証明収入
まず四大監査法人の収入について見ていきたいと思います。
監査法人は監査収入が業務収入の大半を占めますが、唯一、PwCあらた監査法人だけは非監査証明収入の方が多くなっています。
また、監査法人トーマツは当期は昨期よりも微減ではあったものの、昨年に続き高い非監査証明収入の割合を維持しています。
四大監査法人の決算数値が比較可能になった2016年度と当期の非監査証明収入の金額を比べると、あずさは4,182百万円増加、EY新日本は2,555百万円減少、トーマツは26,651百万円増加、PwCあらたは1,734百万円増加しています。
なかでも監査法人トーマツは、2020年から2023年の3年間で非監査証明収入が1.59倍になっており、急激に増加している様子が窺えます。
※監査法人トーマツの2017年決算は決算期変更に伴う8ヶ月での決算になります。
監査法人トーマツを含めたデロイトトーマツグループの非監査証明業務について、日本経済新聞ではデロイトトーマツグループの木村研一最高経営責任者(CEO)に取材し、以下のように伝えています。
「デジタルトランスフォーメーション(DX)や脱炭素対応の支援などの商機を取り込み、2030年5月期の売上高にあたる業務収入で現状の3倍となる1兆円をめざす。」
このグループ全体の動きがどこまで影響するかは不明ですが、非監査証明業務への積極的な取り組みが、監査法人に影響する可能性は十分にあるでしょう。
参考記事:デロイトCEO、コンサル軸に売上高1兆円めざす DX商機(日本経済新聞 2023年5月23日付)
一方で、デロイトトーマツグループは、2023年12月1日付でグループ内で組織再編を行うと発表しています。監査法人トーマツにあったリスクアドバイザリー事業本部の一部を子会社であるデロイト トーマツ リスクアドバイザリー株式会社に移転させました。これによって、来期は監査法人トーマツの非監査証明収入が減少する可能性がありそうです。
参考記事:デロイト トーマツ グループ内における組織再編のお知らせ(デロイトトーマツWebサイト 2023年11月6日付)
2.業務収入増加でも営業利益は減少
次に四大監査法人の営業利益を見てみます。
業務収入が前期より増加しているのに対して、監査法人トーマツを除く3法人では営業利益が減少しています。
このうち、営業利益の対前期減少額が大きいPwCあらたとあずさの業務費用の明細を見ると、PwCあらたは人件費と外注費が増加しており、あずさも人件費が増加しています。
監査法人では全体的に監査手続が増加しており監査時間も増加。増加した人件費をすべてのクライアントで監査報酬に転嫁するのが、難しいのかもしれません。
監査法人トーマツも人件費は増加しているものの、非監査証明収入が増加しているため、これが営業利益の確保に貢献しているものと推測されます。
また加盟ファームへの分担金の支払にも注目です。業務費用の明細でグループ分担金を明示している監査法人は、トーマツとあずさです。
監査法人トーマツは業務収入142,845百万円に対してグループ分担金が12,525百万円となっており、業務収入に対する負担率は8.77%と高い割合を占めています。
これに対して、あずさ監査法人は業務収入111,734百万円に対してグループ分担金は4,056百万円で、業務収入に対する負担率は3.63%でした。
グループ分担金に関する実際の計算方法はわかりませんが、業務収入に対するグループ分担金の比率を見ると、KPMGよりもデロイトのほうがグループ分担金の負担が重いと言えます。
EY新日本の営業利益の低さの要因は?
EY新日本監査法人は、業務収入ではトーマツやあずさと肩を並べる状況にありながら、営業利益がわずか63百万円です。四大監査法人の中で突出して営業利益が少ない原因は何なのでしょうか。
業務費用の明細をもとに、トーマツ、あずさ、EY新日本、あらたの営業利益に差が開いた原因を探ってみたいと思います。
【トーマツ】業務収入142,845百万円・業務費用141,489百万円
- 人件費 108,311百万円(76.55%)[うち17,414百万円(12.31%)が業務委託費]
- 人材開発費用 2,051百万円(1.45%)
- ファシリティ費用 3,994百万円(2.82%)
- 情報システム及び通信費 8,433百万円(5.96%)
- その他業務費用 18,698百万円(13.22%)
【あずさ】業務収入111,734百万円・業務費用110,996百万円
- 人件費 77,778百万円(70.07%)
- 施設関連費用 6,037百万円(5.44%)
- 研修関連費用 900百万円(0.81%)
- 情報システム関連及び通信費 6,212百万円(5.60%)
- その他業務費用 20,066百万円(18.08%)[うち7,838百万円(7.06%)が業務委託費]
【EY新日本】業務収入109,503百万円・業務費用109,439百万円
- 人件費 67,348百万円(61.54%)
- 人材開発費用 2,398百万円(2.19%)
- 施設関連費用 3,963百万円(3.62%)
- IT及び通信費 7,871百万円(7.19%)
- その他業務費用 27,857百万円(25.45%)[うち19,042百万円(17.40%)が業務委託費]
【PwCあらた】業務収入:60,981百万円・業務費用59,923百万円
- 人件費 40,422百万円(67.46%)
- 賃貸関連費用 1,940百万円(3.24%)
- 採用及び研修費用 1,188百万円(1.98%)
- IT機器費用及び通信費 2,651百万円(4.42%)
- その他業務費用 13,721百万円(22.90%)[うち8,406百万円(14.03%)が外注費]
法人によって計上区分や勘定科目はそれぞれ異なりますが、業務委託費・外注費と人件費を合計すると以下の通りになり、EY新日本の人件費率が高いことがわかります。
- トーマツ 108,311百万円(対業務収入比率75.82%)
- あずさ 85,616百万円(対業務収入比率76.62%)
- EY新日本 86,420百万円(対業務収入比率78.92%)
- あらた 48,828百万円(対業務収入比率80.07%)
3.監査、非監査ともにクライアント総数は減少傾向
監査証明クライアントは3法人で減少
当期の監査証明クライアント総数は、PwCあらたを除いた3法人で減少しており、その中でもトーマツの減少数は大きめです。四大監査法人合計では、139社の減少でしたので、大手監査法人の監査クライアントが準大手や中小へと流れたことが読み取れます。
ここ数年、大手から準大手・中小への監査人の異動が多く見られますが、準大手監査法人や中小監査法人も、クライアントからの問い合わせはあるものの、監査資源の問題からこれ以上の受注が難しい状況になっているといった声も聞かれます。大手から準大手・中小への監査人交代の傾向は来期以降もこのまま継続されるのでしょうか。
非監査証明クライアントが減少するも、非監査証明収入は増加傾向
次に、非監査証明クライアント総数ですが、EY新日本監査法人が増加し、残る3法人は減少しました。ここ数年を通して全体的に減少傾向となっています。
※監査法人トーマツの2017年決算は決算期変更に伴う8ヶ月での決算になります。
四大監査法人の非監査証明クライアント総数の合計は、対前期で332社(4.17%)減少していますが、非監査証明収入の合計は、対前期で2,603百万円(2.11%)増加。クライアント総数が減少しているのに非監査証明収入が増えています。このことから非監査証明クライアント1件あたりの収入が増加していることが分かります。
4.人員総数は増加も会計士総数では明暗分かれる
四大監査法人すべてで人員総数が増加
四大監査法人の人員総数は、全法人で増加しています。トーマツ、あずさに関しては、昨年もそれぞれ338名増、144名増と増加していましたので、かなりのペースで人員が増加していることが伺えます。
補助職員や情報システム専門家などの採用を積極的に行い、監査法人の人手不足を補うとともに、情報システムを駆使した新しい監査手法に対応する体制を整えているのではないかと推測されます。
人員総数の増加に対して会計士数の増加は限定的
一方で、下記の表の通り、「公認会計士・試験合格者等の総数」では、EY新日本監査法人は99名と大きく増加していますが、あずさは人員総数が418名増加しているにも関わらずわずか9名の増加、トーマツに至っては60名の減少となっています。
公認会計士・試験合格者に関しては、BIG4監査法人は毎年300名程度を定期採用していますので、いずれの法人も相当数の公認会計士が退職や異動によって抜けていることが伺えます。
また、当期の対象である2022年11月の会計士試験合格者の定期採用に関しては、EY新日本は好調、トーマツは苦戦したとの情報もありますので、その影響も出ているかもしれません。
以上、2023年12月末時点の情報にもとづく四大監査法人の比較をお送りしました。
PwCあらたとPwC京都が2023年12月1日付けで合併したことにより(存続法人はPwCあらた監査法人)、来期、PwCあらたは合併による増収・増員が見込まれます。
また今後は気候変動などサステナビリティ情報の保証業務の増加が見込まれ、業界全体で非監査証明収入のさらなる増加が見込まれています。来期のランキングにどのような影響を与えるのでしょうか。
次回以降の特集にもご期待ください。