
毎年恒例、四大監査法人(BIG4監査法人)の業績をまとめました。今回は前回と比べて、少々様式を変えています。
今回は、2025年6月期(監査法人トーマツは2025年5月期)の決算情報を元に四大監査法人(あずさ・EY新日本・トーマツ・PwC Japan)を「規模(人員数)」「クライアント数」「業績」の3点で比較しています。
ここ数年、四大監査法人から中小監査法人への会計監査人の交代が増加するとともに、四大監査法人の監査報酬の平均単価も上昇傾向が続いています。
また、今回とりあげるのは、旧PwCあらたが、2023年12月1日付けで旧PwC京都と合併し、PwC Japanを発足して2年半が経過したタイミングの決算でもあります。
これらの事象は、四大監査法人の業績や規模にどのような影響を与えているのでしょうか?各社の決算書を比較してみました。
下記の目次の通り、前半でランキングを、後半で当期のポイントのまとめをお届けします。
本記事の目次
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参考資料
今回比較に使った数字は、4法人とも、公認会計士法第34条の16の3第1項に規定する「業務及び財産の状況に関する説明書類」を参考にしています。
- 有限責任あずさ監査法人 第41期 2024年7月1日~2025年6月30日
- EY新日本有限責任監査法人 第26期 2024年7月1日~2025年6月30日
- 有限責任監査法人トーマツ 第58期 2024年6月1日~2025年5月31日
- PwC Japan有限責任監査法人 第20期 2024年7月1日~2025年6月30日
備考
- 本記事の本文内では各法人名の「監査法人」「有限責任監査法人」はすべて省略して記載します。
- 比率(%)に関してはすべて、小数点以下第三位を四捨五入して表示しています。
- 折れ線グラフの金額は、小数点第2位を四捨五入して表記しています。
- 本記事内で使用している表の画像はすべてクリックすると拡大することができます。
- 2023年12月1日付けでPwCあらたとPwC京都が合併しPwC Japanが発足しました。記事内の表におけるPwC Japanの過去の数値は、PwCあらたの数値をそのまま記載しています。
Ⅰ.首位はどの法人?四大監査法人比較ランキング
1. 四大監査法人「人員数」ランキング
まずは四大監査法人の「人員」を比較してみましょう。以下は各法人の24年度の人員数の詳細です。
※監査法人トーマツの「業務及び財産の状況に関する説明書類」の人員数には、海外駐在員及び海外派遣の監査スタッフは含んでいません。上記に掲載している表も同様です。
1-1 人員総数
監査法人各社の「人員総数」を2015年からグラフにしました。
2023年度から2024年度にかけて、トーマツが1,801人(22.2%)も急減しているのが目立ちます。内訳として大きいのは「監査補助職員」が3,704人から2,165人へと1,539人の減少です。
トーマツは2023年12月、組織再編に伴い「リスクアドバイザリー事業」を、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(現「合同会社デロイト トーマツ」)に移管。これ自体は2023年度に発生したものですが、この時点では人員の異動はなく、年度が変わってから人員が移管したものと推察されます。(※)以下、この推察が正しいものとして、論考を進めます。
とすると、トーマツの人員の急激な減少は、法人全体としての規模縮小やリストラ、大量退職などによる単純な人員減ではなく、グループ内での組織再編に伴う減少だと考えられます。
トーマツの急変に影に隠れてしまいましたが、PwCはほぼ横ばいであるものの、あずさは7,108→7,362人と254人増加(+3.6%)、EY新日本は5,984人から6,517人と533人(+8.9%)増加しており、2021年頃からの増加基調が継続しています。
なお、前述のトーマツの減少に伴い、前期から順位が変動しました。
1-2 社員総数・社員比率
続いては2015年からの「社員総数・社員比率」です。
社員総数については、昨年度から順位の変動はありませんでした。ただし、トーマツが前期から58人減少(▲10.94%)しています。これは上記組織再編の影響でしょう。他法人はほぼ横ばいとなっています。
社員比率については、トーマツが上記の組織再編の影響もあり、人員総数が大幅に減少した結果、前期6.55%から当期7.40%へ0.85%増加しています。EY新日本とあずさは減少傾向、PwCの上昇傾向は24年度も継続しました。
以前は、PwCとその他3法人で社員比率が2倍前後違いましたが、その差が縮まってきています。
1-3 公認会計士ならびに合格者等の総数・比率
続いては2015年からの「公認会計士ならびに合格者等の総数・比率」です。
昨年度は1位がEY新日本、2位はあずさでしたが、順位が逆転しています。
あずさ、EY新日本ともに公認会計士・会計士試験合格者等は増加しているものの、あずさの方が変動幅が大きく、順位が入れ替わった模様です。
あずさは、公認会計士の数は3,012人から3,011人と横ばいですが、試験合格者等が1,365人から1,537人へと172名増加。試験合格者の採用競争が順調だった様子が窺えます。
EY新日本は、公認会計士の総数自体は3,061名と4法人の中で最も多く、公認会計士数も前期比で72名増加(2,989人→3,061人)しています。
トーマツは前述の組織再編の影響もあってか、公認会計士・会計士試験合格者等が減少。これにより、公認会計士・会計士試験合格者等という意味では、あずさとEY新日本に離されました。ただしこれは、監査業務への集中を示唆しており、この結果のみを見て「監査業務における競争力が低下している」というのは早計でしょう。
「公認会計士ならびに合格者等の比率」においても、トーマツの組織再編の影響は大きいのがわかります。あずさは2015年から長期的に減少傾向でしたが、23年度から24年度にかけてはほぼ横ばいでした。PwCは微減です。
2017年度から横ばい傾向だったEY新日本は突然減少。2016年程度の水準となっています。この原因は23年度から24年度にかけて、監査補助職員数が1,023名→1,441名に増加したことです。
2. 四大監査法人「クライアント数」ランキング
次に、四大監査法人の「クライアント数」を比較してみましょう。
以下は、2024年度の監査証明と非監査証明のクライアント数やその比率です。
※1:金商法クライアント比率={(金商法・会社法)+金商法}クライアント数/監査証明クライアント総数で計算。
※2:非監査証明クライアント比率=非監査証明クライアント数/(監査証明クライアント総数+非監査証明クライアント数)で計算。
2-1 監査証明クライアント総数
まずは「監査証明クライアント総数」です。
昨年から順位に変動はありません。EY新日本が総数で首位を独走し、さらに数を増しています。一方で、あずさとPwCは減少、トーマツは微増です。
2-2 非監査証明クライアント総数
「非監査証明クライアント総数」を見てみましょう。
非監査証明クライアント総数では、トーマツが依然としてトップを独走しているものの、数自体は減少。2015年度以来最低の数値となりました。先述の組織再編の影響もあるかと思われます。
また総数の減少により、非監査証明クライアントの比率も減少。PwCと順位が入れ替わっています。あずさとEY新日本はここ数年の横ばい傾向が継続しました。
2-3 構成員1人あたりクライアント数
トーマツが、組織再編による人員減により「構成員1人あたりクライアント数」で0.92件となり、トップとなりました。他の3社は減少傾向が続いています。
2-4 社員1人あたりクライアント数
「社員1人あたりクライアント数」について、23年度ほぼ同率だったPwCとトーマツですが、24年度はトーマツが大きく水を開けました。EY新日本も微増し2位に。PwCは3位となっています。トーマツの急増は組織再編による社員数の大幅減が原因でしょう。
「構成員」でも「社員」でも、1人あたりクライアント数はトーマツがトップとなりました。効率が良いともいえますが、特に監査業務においては効率性が高くとも不正などが見逃されてはいけません。数値のみからは確認できない、効率性と実効性のトレードオフをどう克服するかにも、注目です。
3. 四大監査法人「業務収入」ランキング
最後に「業務収入・利益」を比較してみましょう。
以下は2024年度の四大監査法人の収入です。
3-1 業務収入
業務収入はトーマツのみ減少、他法人は増加しています。この結果、23年度から順位が入れ替わり、1位あずさ、2位トーマツとなりました。3位と4位は変わらず、EY新日本、PwCです。
以下で内訳を確認してみましょう。
3-1-1 監査証明収入
「監査証明収入」については、4法人すべてが前期比で増収を達成しています。トップ3は990億円台で激しく首位を争っており、24年度もEY新日本が僅差でトップを維持したものの、2位との差は縮まりました。
EY新日本はクライアント総数が増加(+60社)していることと連動し、順当に収入を伸ばしています。あずさはクライアント総数を減らしている(▲115社)ものの、収入は大幅増となりました。
3-1-2 非監査証明収入
24年度はPwCが圧倒的な収益力でトップを独走。前期まで首位だったトーマツは組織再編の影響もあってか、大幅な減収となり、順位が入れ替わりました。あずさ・EY新日本との差も縮まり、特にあずさとトーマツは肉薄しています。
トーマツ以外はいずれも増収となっており、監査法人業界全体として非監査証明=アドバイザリー業務が成長ドライバーとなっていることが窺えます。
3-1-3 非監査証明収入比率
「非監査証明収入の比率」は、PwCが引き続き50%を超える圧倒的に高い比率を維持しました。トーマツは組織再編もあってか急低下。あずさ・EY新日本は20%前後で推移しながらも比率を高めています。
3-2 クライアント1件あたり業務収入
次に、クライアント1件あたりの業務収入を監査証明と非監査証明に分けて見てみましょう。
3-2-1 監査証明クライアント1件あたり監査証明収入
この10年ほど、全体的に上昇傾向にある「監査証明クライアント1件あたり監査証明収入」ですが、2024年度はあずさがトーマツを抜き、トップに躍り出ました。1件あたり3,000万円の大台を超えたのは、2015年度以降初めてのことです。2024年度はトーマツが若干数値を下げたものの、どの法人も長期的には上昇傾向が続いています。
PwCは単価を急激に上昇させました。EY新日本はクライアント数が多いこともあってか、単価は最も低くなっています。
3-2-2 非監査証明クライアント1件あたり非監査証明収入
PwCが2021年度からの上昇傾向をさらに伸ばし、1件あたり3,500万円を超え、他法人を圧倒する高単価を記録しています。トーマツだけは単価が低下。これは上記組織再編の影響もあったかと思われます。
3-3 構成員・社員1人あたり業務収入
次に、構成員・社員ひとりあたりの業務収入について見ていきましょう。
3-3-1 構成員1人あたり業務収入
「構成員ひとりあたり業務収入」は、PwCが約2,300万円と最も高い数値を記録しました。トーマツは組織再編による人員減が寄与してか、2,000万円台へ急伸。EY新日本は人員の大幅増があったものの微減で済みました。あずさは堅調に数値を伸ばしています。
3-3-2 社員1人あたり業務収入
「社員1人あたり業務収入」は、全法人で数値が向上しました。その中でもPwCが約3.3億円で圧倒的トップとなり、他法人を引き離しています。トーマツは組織再編によりパートナー数を減らしたこともあってか1人あたりの数値が上昇しているものの、その影響はあまり大きくありません。あずさ・EY新日本は23年度同様に競っていますが、24年度はあずさがEY新日本を逆転しました。
4. 四大監査法人「利益・利益率」ランキング
最後に、利益率関連の指標を確認してみましょう。
4-1 営業利益
PwCが17億円を超える営業利益を計上し、他3法人を圧倒しています。一方であずさは前期の11.2億円から0.1億円へ激減、EY新日本は0.6億円から5.2億円に。トーマツは3.4億円から4.5億円へ増益しています。
営業利益率については、こちらもPwCが2.11%でトップとなりました。前期の0.29%から大きく改善しています。あずさは利益がほぼ消滅し0.01%。業界全体として営業利益率が1%未満〜1%台前半という極めて低い「薄利」となっています。
4-2 構成員1人あたり営業利益
「構成員1人あたり営業利益」でもPwCが0.5百万円でトップに躍り出ました。一方であずさは0.2百万円から0.0百万円で最下位に。業界全体として、ひとり稼いでも利益がほとんど残らない「超・薄利」の構造が鮮明になっています。
4-3 社員1人あたり営業利益
こちらもPwCが約7.0百万円でトップに躍り出ています。あずさは0.0百万円という極めて厳しい結果となりました。
4-4 当期純利益
あずさは営業利益がほぼゼロまで落ち込みながらも、「その他営業外収益」4,248百万円の計上により8.8億円の当期純利益を確保し、当期純利益ではトップとなっています。トーマツは税負担が重く、利益は0.1億円に留まりました。
Ⅱ.当期のポイント
① 2024年度の業績概観
業界全体で増収基調にあるものの、営業利益率は0.01%〜2.1%という低い水準に留まりました。監査法人は「売上は巨大だが、利益はほとんど残らない」という構造的な苦境に立たされているのかもしれません。
原因としては、人材不足に伴う採用コスト上昇や人件費の高騰、監査報酬上昇交渉が上手くいっていないことなどが想定されます。各法人はAIなどテクノロジーの利用による生産性向上に期待をかけているかもしれません。
あずさは業務収入は1,314億円で4法人中トップとなりましたが、営業利益は1,000万円(利益率0.01%)に留まりました。人員数は7,362名で業界最多。公認会計士試験合格者1,537名という数値も、前年から+172名という純採用数でもトップで、若手採用へ投資している様子が窺えます。他方で、その分人件費増が増加して、営業利益を圧迫しています。
EY新日本も営業利益率が0.42%と、低い水準となっています。人員総数が23年度5,984名から6,517名へと大幅に増加しているものの、その中心は監査補助職員の急増です。
トーマツはリスクアドバイザリーの分離により、多方面で大きな影響が出ています。ただし営業利益が0.35%と低い水準なのは前2法人と同様です。
PwCの業務収入は842億円と最小ではあるものの、営業利益は17.7億円でダントツの首位。営業利益率も2.11%と、他社を圧倒する結果となりました。非監査収入比率が51.27%と高く、ここで稼ぐビジネスモデルが確立されています。社員1人あたりの業務収入(約3.3億円)も高く、「稼ぐ力」の高さが窺えます。
② 2025年度の論点
必ずしも上記に関連するわけではありませんが、2024年度から記事執筆時点(2025年末)にかけて話題となっている、今後の監査法人の業績に影響を与えうる事象を確認してみましょう。
各法人が生産性の向上、ひいては業績改善の一手として期待をかけるのは、AIをはじめとしたテクノロジーの利用による「監査DX」です。生成AIなどの発展は凄まじく、会計監査においてもその利用が期待されます。24年度も、監査DXの話題はたびたび報道されていました。以下の会計不正においても、その防止のためにテクノロジーの利用が期待されているようです。この動向に歯止めがかかることは現時点では想像がつきません。
続いてはニデック社の監査意見不表明です。不正や海外子会社での問題調査から発生したもので、経営者の監査法人軽視発言の可能性があったことなども話題になったのは、記憶に新しいところでしょう。会計不正関連では、オルツ社の不正はIPOマーケットの不信感を高める結果となってしまいました。
IPO関連では、東京証券取引所グロース市場の2025年のIPO社数は41社と前年比4割減の結果となっています。時価総額100億円を新たな上場維持基準にするといった市場改革が、IPO監査にも影響を及ぼす可能性があるかもしれません。
またサステナビリティ開示など、非財務指標の開示が近年話題になっています。このサポートにより、非監査証明収入が上がることも期待できるかもしれません。
2025年度の四大監査法人の業績はどうなるでしょうか。次回の特集にもご期待ください。
執筆:雨見隠(あまみおき)
過去の比較・分析記事はこちら
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- BIG4監査法人を比較!2023年12月版_四大監査法人の決算・業績(売上・利益)、クライアント数、人員数ランキング!
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