【追記】
最新版の監査法人比較記事は下記になります。下記ページをご参考ください。
→BIG4監査法人を比較!2023年12月版_四大監査法人の決算・業績(売上・利益)、クライアント数、人員数ランキング!
毎年恒例、BIG4監査法人(四大監査法人)の業績をまとめました。
今回、2021年10月版として四大監査法人(あずさ・EY新日本・トーマツ・PwCあらた)を「規模(人員数)」「クライアント数」「業績」の3点から比較しています。
当期は、新型コロナウィルスの流行拡大で、繁忙期も緊急事態宣言下となり、四大監査法人においてもリモートワークが一般化するなど、監査に対する取り組み方にも変化や課題の多い年となりました。
また、四大監査法人から中小監査法人へ、監査人の交代が加速した年でもありました。
監査を取り巻く環境が大きく変化する中、さらなる監査品質向上を目指す監査法人業界ですが、四大監査法人の業績や規模に影響を与えているのでしょうか?各社の決算書から比較してみました。
本記事では、下記の目次の通り、前半でランキングを、後半で当期のポイントのまとめをお届けします。
本記事の目次
- 1.四大監査法人『人員数』ランキング!
- 人員総数
- 社員数・比率
- 公認会計士、会計士試験合格者等の人数・比率
- 2.四大監査法人『クライアント数』ランキング
- 監査証明クライアント総数
- 非監査証明クライアント総数・比率
- 3.四大監査法人『業務収入・利益』ランキング
- 業務収入
- クライアント1件あたり業務収入
- 構成員・社員ひとりあたり業務収入
- 営業利益・営業利益率
- 構成員・社員ひとりあたり営業利益
- 当期純利益
- 監査証明、非監査証明ともにクライアント総数は減少傾向
- 監査証明収入増加、非監査証明収入はトーマツのみ大幅増加
- トーマツ監査補助職員の増加
参考資料
今回比較に使った数字は、4法人とも、公認会計士法第34条の16の3第1項に規定する「業務及び財産の状況に関する説明書類」を参考にしています。
- 有限責任あずさ監査法人 第37期 2020年7月1日~2021年6月30日
- EY新日本有限責任監査法人 第22期 2020年7月1日~2021年6月30日
- 有限責任監査法人トーマツ 第54期 2020年6月1日~2021年5月31日
- PwCあらた有限責任監査法人 第16期 2020年7月1日~2021年6月30日
注意点
- 比率(%)に関してはすべて、小数点以下第三位を四捨五入して表示しています。
- 金額に関してはすべて、小数点以下や1万円未満あるいは百万円未満を切り捨てて表示しています。
- 本記事内で使用している表の画像はすべてクリックすると拡大することができます。
Ⅰ.首位はどの法人?四大監査法人比較ランキング
1.四大監査法人『人員数』ランキング
まずは四大監査法人の『人員』を比較してみましょう。
※監査法人トーマツの「業務及び財産の状況に関する説明書類」の人員数は、海外駐在員及び海外派遣の監査スタッフは含んでいません。上記に掲載している表も同様になっています。
人員総数
人員総数は、監査法人トーマツが7,000名を超えトップです。
前期と比較すると、順位に変動はありませんが、トーマツとEY新日本が増加、あずさとPwCあらたが減少と、2極化しています。特に、監査法人トーマツの増加が顕著です。
社員数・比率
社員数(公認会計士である社員及び特定社員の合計数)は、あずさ監査法人がトップです。
こちらも前期からランキングの変動はありません。各法人の状況を見てみると、あずさとPwCあらたが増加し、トーマツとEY新日本が減少しています。中でも、監査法人トーマツでは、昨期、まとまった人数のパートナーが退職になったという噂もありましたが、それを裏付けるように35名も減少しています。
社員(パートナー)比率も、あずさ監査法人がトップです。
社員数と同様に、あずさとPwCあらたが増加し、EY新日本とトーマツが減少しています。順位については、あずさとEY新日本が入れ替わり、当期はあずさが1位となりました。
なお、PwCあらたの社員比率は他の3法人と比較して低めですが、差が縮まってきています。
公認会計士・会計士試験合格者等の人数・比率
公認会計士・会計士試験合格者等の人数は、監査法人トーマツがトップです。
前期と比較すると、トーマツとEY新日本が増加し、あずさとPwCあらたが減少しています。監査法人トーマツは微増でしたが、昨年1位のあずさが大きく減少したため、トーマツが1位になりました。
公認会計士・会計士試験合格者等の比率は、EY新日本監査法人がトップです。
前期と比較して、あずさ監査法人が増加し、他の3法人は減少しました。ランキングに変動はありません。
なお、監査法人トーマツは、公認会計士・会計士試験合格者等の人数が増加しているので、同比率も増加しそうなところですが、減少しています。これは、公認会計士・会計士試験合格者等の増加数以上に、監査補助職員が大幅に増加しているためです。
2.四大監査法人『クライアント数』ランキング
次に、四大監査法人の『クライアント数』を比較してみましょう。
ここでは、監査証明と非監査証明のクライアント数や比率を比較しています。
※1:金商法クライアント比率={(金商法・会社法)+金商法}クライアント数/監査証明クライアント総数で計算。
※2:非監査証明クライアント比率=非監査証明クライアント数/(監査証明クライアント総数+非監査証明クライアント数)で計算。
監査証明クライアント総数
監査証明クライアント総数は、EY新日本監査法人がトップです。
前期と比較すると、あずさ監査法人が微増で残る3法人は減少しており、合計で113社減少しています。特に、監査法人トーマツの減少幅が大きくなっています。順位に変動はありません。
非監査証明クライアント総数・比率
非監査証明クライアント総数は、監査法人トーマツがトップです。
前期と比較するとすべての法人が減少となっています。四大監査法人合計では267社減少しており、その大半をEY新日本とあずさが占めています。前期から順位に変動はありません。
非監査証明クライアントの比率は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、監査法人トーマツが増加し、残り3法人は減少しました。
3.四大監査法人『業務収入・利益』ランキング
それでは、最後に『業務収入・利益』を比較してみましょう。
業務収入
業務収入は、監査法人トーマツがトップです。
前期と比較すると、トーマツ、EY新日本、PwCあらたは増加、あずさのみ減少となっています。ランキングに変動はありませんでした。
続いて、業務収入を、監査証明収入と非監査証明収入に分けて見てみましょう。
監査証明収入
監査証明収入は、EY新日本監査法人がトップです。
監査証明クライアント総数が全体的に減少傾向であったにも関わらず、前期に続きすべての法人が増加しています。ランキングに変動はありませんでした。
非監査証明収入・比率
非監査証明収入は、監査法人トーマツがトップです。
前期と比較して、監査法人トーマツが大幅に増加し、残り3法人は減少しました。前期から順位に変動はありませんでした。
非監査証明収入の比率は、PwCあらた監査法人がトップです。
トップのPwCあらた監査法人は、前期の非監査証明収入の比率が50%を超えていましたが、当期は50%を割っています。また、BIG4全体では、前期と比較して、監査法人トーマツが増加する一方で、残る3法人は減少しました。
クライアント1件あたり業務収入
次に、クライアント1件あたりの業務収入を監査証明と非監査証明に分けて見てみましょう。
監査証明クライアント1件あたり監査証明収入
監査証明クライアント1件あたり監査証明収入では、監査法人トーマツがトップです。
前期に引き続き4法人とも増加しています。前期の増加額は4法人とも1百万円台で同程度でしたが、当期は監査法人によってバラツキが見られ、あずさ監査法人はほぼ前期並みとなっています。
順位は、監査法人トーマツは前期と変わらず首位ですが、PwCあらたが、前期4位から一気に上昇し当期は2位になりました。
非監査証明クライアント1件あたり非監査証明収入
非監査証明クライアント1件あたり非監査証明収入は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、順位に変動はありませんが、1位のPwCあらた監査法人とまだ差は開いているものの、トーマツが大幅に増加しています。
構成員・社員ひとりあたり業務収入
次に、構成員・社員ひとりあたりの業務収入について見てみます。
構成員ひとりあたり業務収入
構成員ひとりあたりの業務収入は、EY新日本監査法人がトップです。
前期と比較すると、EY新日本監査法人は減少したものの、残る3法人は増加しています。順位に変動はありません。
なお、2位のPwCあらた監査法人は、前々期から当期にかけて、1,499万円から1,823万円へと大きく増加しており、1位のEY新日本に迫る勢いです。
社員ひとりあたり業務収入
社員ひとりあたり業務収入は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、トーマツとEY新日本が増加し、PwCあらたとあずさが減少しています。2位の監査法人トーマツがは前期も3,000万円以上増加する一方で、1位のPwCあらたは2,000万円近い減少となっており、トーマツがPwCあらたを追い上げています。なお、順位に変動はありませんでした。
営業利益・営業利益率
営業利益は、あずさ監査法人がトップです。
前期と比較すると、PwCあらた監査法人のみ減少し、残り3法人は増加しています。あずさ監査法人がPwCあらたと逆転し、首位になりました。
営業利益率は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、PwCあらた監査法人が減少していますが、残り3法人は増加しています。前期から順位に変動はありません。
構成員・社員ひとりあたり営業利益
構成員ひとりあたり営業利益は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、PwCあらた監査法人が減少していますが、残り3法人は増加しました。前期から順位に変動はありません。
社員ひとりあたり営業利益は、PwCあらた監査法人がトップです。
PwCあらた監査法人が前期に続いて大幅に減少する一方で、残り3法人は増加しました。ですが、PwCあらた監査法人と他の3法人の差はまだ開いており、前期から順位に変動はありません。
当期純利益
当期純利益は、PwCあらた監査法人がトップです。
前期と比較すると、あずさとEY新日本が増加し、PwCあらたとトーマツが減少しました。前期1位だった監査法人トーマツが3位に転落し、順位が変動しています。
Ⅱ.当期のポイントまとめ
最後に、当期のポイントをまとめておきます。
1.監査、非監査ともにクライアント総数は減少傾向
当期の監査証明クライアント総数は、あずさ監査法人が微増で残る3法人は減少しており、四大監査法人の合計では、113社の減少ということが読み取れました。
公認会計士・監査審査会の「令和3年版モニタリングレポート」では、上場国内会社のうち、大手監査法人から監査事務所を変更した会社の純減数が公表されていますが、大手監査法人に関しては、2020年6月期の純減数58社から、2021年6月期は124社へと、減少幅が2倍強となっています。
一方、中小規模監査事務所は2020年6月期の40社増加から、2021年6月期は92社増加へと、2倍強に増えており、大手監査法人から中小規模監査事務所への交代が加速していることが分かります。(「令和3年版モニタリングレポート」 P93図表Ⅲ-5-2参照。)
次に、非監査証明クライアント総数ですが、こちらも4法人とも減少しました。前期から引き続き減少傾向となっています。
※監査法人トーマツの2017年決算は決算期変更に伴う8ヶ月での決算になります。
監査証明クライアント総数と非監査証明クライアント総数はともに減少していますが、監査証明クライアント総数が継続的に減少しているのと比べて、非監査証明クライアント総数は、直近2会計年度の一時的な減少と見ることもできます。
直近2会計年度といえば、奇しくも新型コロナウィルスの感染拡大時期と重なっているわけですが、もし、2期連続の減少が新型コロナウィルス感染拡大による景気悪化の影響を受けたものだとすれば、今後感染が収束し、企業から非監査証明業務の依頼が増加すれば、ふたたび四大監査法人の非監査証明クライアント総数も回復するのではないかと推察できます。
2.監査は4法人とも収入増加、非監査はトーマツのみ大幅増加
監査証明収入の推移を見ると、4法人とも増収となっています(監査法人トーマツの2017年は決算期変更で8ヶ月決算となっています)。
監査証明収入が増加する一方で監査証明クライアント総数の減少傾向が続いていることを考慮すると、1社あたりの監査報酬が年々増加していることが分かります。
品質管理向上やIT監査導入によるコスト増加で、今後も、監査報酬増額は避けられないという見方もあります。翌期以降も四大監査法人の監査報酬が増加すれば、監査報酬を理由に大手監査法人から中小監査法人へと交代する企業は増加することになりそうです。
一方、非監査証明収入は、前期は4法人とも増加していましたが、当期は監査法人トーマツのみが大幅に増加し、残る3法人は減少しました。
監査法人トーマツの非監査証明収入が増加した理由について、日本経済新聞の記事によると、収益認識基準への準備や国際会計基準(IFRS)移行支援のほか、気候変動対応や社内で使うITシステムの統制など経営課題に関する助言サービスの体制を強化したことが要因になったと伝えられています。
非監査証明収入比率も、監査法人トーマツは前期、当期と続いて増加傾向にあり、非監査証明業務に力を入れている様子が伺えます。
3.トーマツ監査補助職員の増加
当期の監査法人トーマツの人員総数は、252名増加しています。これについて、業務及び財産の状況に関する説明書類「三.事務所の概況」を見ると、監査補助職員が2,163名から2,433名へと270名増加しており、人員総数増加の主な要因は、監査補助職員の増加であることが分かります。
また、事務所別の職員の内訳を見ると、東京事務所の監査補助職員が前期の1,783名から当期は2,029名へと246名増加しており、増加した252名の大半が東京事務所の増員であることが分かります。
当期において監査法人トーマツでは、監査・保証事業本部におけるアシスタント職の中途採用を大量に行っているため、その影響が大きいと考えられます。
また、この監査補助職員には、リスクアドバイザリー事業本部に所属する職員も含まれていることから、前述の非監査証明収入の増加に関連して、非監査証明関連人員の拡大も背景にありそうです。
以上、2021年10月時点の情報にもとづく四大監査法人の比較をお送りしました。
当期のランキングは、クライアント総数、監査証明収入など、複数の指標で四大監査法人で共通の傾向が見られました。
また、業界全体に目を向けると、金融庁のレポートなどから、四大監査法人のシェアが減少する一方で、中小監査法人のシェアが拡大している様子も見受けられます。
上場企業の監査人の交代理由として監査報酬が挙げられますが、四大監査法人の監査報酬増額のトレンドが今後も続けば、来期以降も監査人の交代が増加することが考えられます。
一方で、現在、金融庁は、中小監査法人の上場企業の監査契約が増えていることを受けて、中小監査法人の監査品質向上を目的として、有識者会議で対策を講じています。今後、中小監査法人にも、四大監査法人と同程度のガバナンス体制や品質管理が求められることになれば、中小監査法人のコストが増加し、監査報酬に影響を与えることもありえます。
このような状況が、来期の四大監査法人の業績や監査契約にどのような影響を与えることになるのか、今後も注視していく必要があります。
次回以降の特集にもご期待ください。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)