来る2018年9月1日(土)に東京・茅場町にて「会計士とスタートアップの関わり方」「“フリーランス会計士”というキャリア」をテーマに第9回・公認会計士ナビonLive!!が開催されます。
本記事では第9回の開催に向けて、今年1月に開催された第8回・公認会計士ナビonLive!!の内容を振り返ります。
第8回 公認会計士ナビonLive!!のトークセッションでは、「公認会計士が活躍できるのは事業会社かコンサルか!?」をテーマに、事業会社とコンサルティングファームで活躍する5名の公認会計士と、会計業界に精通した転職エージェントでもある公認会計士ナビ編集長が、公認会計士のキャリアについて語りました。
※本記事はセッションでの発言を一部補足・編集した記事となっております。
第8回 公認会計士ナビ on Live!!
~公認会計士が活躍できるのは事業会社かコンサルか!?~
【日時】 2018年1月27日(土)13:30~16:30
【場所】 野村コンファレンスプラザ日本橋6階
【トークセッション テーマ】公認会計士が活躍できるのは事業会社かコンサルか!?
【登壇者】
・東 陽亮(株式会社GameWith 取締役管理部長 公認会計士)
・石倉 壱彦(株式会社3ミニッツ 取締役CFO 公認会計士)
・長田 新太(グローウィン・パートナーズ株式会社 シニアヴァイスプレジデント 公認会計士)
・武地 健太(freee株式会社 専務執行役員CPO(Chief Partner Officer) 公認会計士)
・渡辺 匡章(株式会社エスネットワークス マネージャー 公認会計士)
【モデレーター】
・手塚 佳彦(公認会計士ナビ編集長/株式会社ワイズアライアンス 代表取締役 CEO)※登壇者の役職、肩書等はイベント開催時のものです。
本記事では、トークセッション「公認会計士が活躍できるのは事業会社かコンサルか!?」より、freee株式会社 専務執行役員CPO(Chief Partner Officer) 武地 健太 氏(公認会計士)のコメントをご紹介します。
登壇者
武地 健太
freee株式会社
専務執行役員CPO(Chief Partner Officer)
公認会計士
2003年、公認会計士試験合格。古都長岡京の出身。会計一家に育つ。京都大学卒業後、あずさ監査法人大阪事務所で会計監査や上場支援に携わる。27歳で東京進出し、ボストン・コンサルティング・グループ入社。マネージャーとして、製造業・IT業を中心に、新規事業開発・中期経営計画策定・M&A支援等のコンサルティングに従事する傍ら、新人育成に情熱を傾ける。2016年にfreeeに参画。”経済活動のログ”として会計の可能性をトコトン追求していきたい。
※所属企業・役職等はイベント登壇時のものです。
事業会社とコンサルティングファームの3つの違い
武地氏が参画した、freeeとボストン・コンサルティング・グループ。どちらも有名なスタートアップとコンサルティングファームであり、転職先として興味を持つ公認会計士も多いだろう。
だが、そもそも事業会社とコンサルティングファームのそれぞれに具体的にどのような違いがあるのか理解していなければ、どちらを選択すべきか迷ってしまう。
ボストン・コンサルティング・グループは、コンサルティングの中でもハードで厳しい戦略系コンサルティングを行っている会社だ。生き残るのが難しい業界で8年近く活躍し、そこからfreeeに転職し活躍する武地氏。両方のフィールドでの成功体験をもとに、事業会社とコンサルティングファームの違いについて語ってもらった。
同質の集団vs異質の集団
事業会社とコンサルティング会社には、3つの違いがあると武地氏は指摘する。
“人” “仕事内容” “報酬”の3つだ。
まず、“人”の違いについて聞いた。
人については明確に違いがあります。私がいたコンサルティングファームの構成員の過半数はコンサルタントで、その主流は東大卒です。価値観が近い同質の人ばかりで、良い言い方をすれば話が通じるのが早い。コンサルファームであればそういった自分と近い人たちと働くことができます。
一方、事業会社にはいろんな人がいます。freeeだと、エンジニア、マーケター、バリバリのセールスマンもいて、コミュニケーションの取り方や感覚も違えば、モチベーションや仕事への取り組み方もまったく違います。
例えば、会計士やコンサルタントならモチベーションが高いときでも低いときでも一定の仕事はするけど、エンジニアにはモチベーションが高い時に集中して一気に仕事をする人もいるなど、事業会社はいろいろな人がいます。
このようにどういった人たちと働くかは大きな違いのひとつです。
同じことの繰り返しが好きかどうか
また、ふたつめの“仕事内容”については、携わる仕事の特性を挙げてくれた。
仕事内容についていうと、コンサルファームではプロジェクトによって毎回やることが変わりますので、ある意味その場限りの仕事で、二度と同じ仕事はありません。
一方、事業会社ではいろいろ工夫して変えてはいるものの、本質的には似たようなことが何回か起こります。
どちらのタイプに魅力を感じるか、自分に合っているのかは、選ぶポイントになると思います。
戦略コンサルと事業会社では報酬の差は倍!?
そして、3つ目の“報酬”についても、監査法人、コンサルティングファーム、そして事業会社への転職経験をもとに、赤裸々に語ってくれた。
率直に言うと、年収の優先順位が高い人は戦略コンサルに行った方が良い、全然違います。私もボストン・コンサルティング・グループからfreeeに転職したとき、年収は大きく下げています。
といっても、初めてボストン・コンサルティング・グループに転職した際は、会計士と言えども戦略コンサル未経験で転職していますから、監査法人の年収の3分の2くらいからスタートしていますし、そこから大きくアップし、freeeへの転職時には再び下げて事業会社での仕事にチャレンジしています。
また、戦略系コンサルは、報酬がいいけど激務だと思っている人もいるかもしれません。たしかに、働き方改革はしているものの拘束時間は長いです。コンサルタントは本人の頭(発想や知識)で戦っていてレバレッジできる武器が少ないので、必然的に拘束時間は長くなります。特に戦略コンサルは労働時間が長い傾向があります。
当時はいつでも仕事をしている感じで、私なんて圧倒的に車酔いしやすいほうでしたが、今は車の中で1時間キーボードを打っていてもまったく問題ないくらい鍛えられたりもしました。
私は仕事がつらいと感じないほうですが、きついプロジェクトだと、日曜日の夜や月曜の早朝も働くような状況が半年間続いたこともあります。
コンサルティングファームに転職できる年齢の上限は?
コンサルティングファームという厳しい環境に飛び込むために、転職適齢期はあるのだろうか?20代という若さで飛び込んだ武地氏の感想は厳しい。
残酷な現実をいいますと、コンサル、特に戦略系コンサルティングファームは若くないと入れません。30代までだと考えたほうが良いでしょう。
これは2つ要因があります。1つは厳しい環境なので、若い人と30代後半になってきた人を比べたら、体力的に若いほうがいいからです。
2つ目は、コンサルティングファームは仕事の型がないので、柔軟な発想で仕事ができない人は向いていません。
もし、自分がコンサルティングファームに向いているのか監査の現場で見極めるとしたら、例えば、自分が知らない会計処理があったときに、最初に監査小六法をめくる人は向いてないと思います。「こういう会計処理したら良い」という発想があって、それから監査小六法をめくるという順番で動ける人は向いています。
コンサルティングファームでは、以上の2つの理由で、型にはまらない考え方ができる若い人を求める傾向があります。
監査経験は事業会社で役立つのか?
監査経験で得た知識を実務にどう活かすか
監査法人に4年半在籍してシニアとなり、2年目頃からインチャージもこなしていた武地氏。監査法人から事業会社に転職した場合、監査法人での経験が役立つことはあるのだろうか。
将来、事業家(事業を運営する立場の人)になりたいと思っている人は、残念ながら監査法人の経験で役立つものはほぼないので、すぐやめたほうが良いと思います。
といっても、監査法人で経験して良かったことが2つあります。その一つは内部統制です。
私は今、事業本部長として売上にもコストにも責任を負う立場にいますが、売った後の請求回収業務のコストについて、こうしたらコストが安くなるだろうというアイデアが出せます。内部統制の知識があると、普通は会社にこういう業務があるはずだと横断的に知っているので、無駄な業務に気付けたり、イメージが湧いたりします。
営業の人なら営業だけ、マーケターならマーケティングだけ知っているというのが普通ですが、会社全体の業務や仕組みを知っているのはすごくいいと思います。
何十年という社歴のなかで培われた、最適な管理方法
そして2つ目は、棚卸や現金実査です。意外と会社のいろんなところを見て歩けるので、会社の雰囲気、机の並べ方、どこに何が保管されているかを知ることができます。これは結構大きい財産です。
上場企業に行くことが多いと思うのですが、何十年という歳月を経て、金庫も席の配置も、ある程度最適な配置になっています。その中から一定のパターンが見つかれば、それがたぶん正解なのだろうと。
ずっと会議室にこもって資料とにらめっこしているよりいい。倉庫で泥まみれになりながら物の数を数えたことがある人なんて、うちの会社にはいませんから、話のネタにもなります。
マクロ的な視点からのキャリア構築、今後のキャリアをどう考える?
景気循環と人口減少が与える影響
監査業界の将来を悲観して、転職の機会を伺っている人も多いのではないだろうか。業界の今後について、事業会社で働く者として、どのように感じているのだろうか。
マクロ的な話を少ししましょう。事業をやっていて感じるのですが、今はバブルです。ただ景気循環でいくと2019年から2020年くらいに景気が悪くなる。
僕の肌感では、景気が良い時には良い仕事があります。今は景気が良いうえに、人口減少社会で1週間に1万人も労働人口が減っていますから、良い会社、自分がやりたいことに出会えるすごく良いチャンスが来ていると思います。
テクノロジーは100倍の速さで進化している
AIによる会計業務の淘汰が話題になったが、freeeのサービス内容と重なる部分も多いだろう。この点について、武地氏はテクノロジーの進化について言及する。
もう一つマクロ的な話をすると、テクノロジーがものすごいスピードで進化しています。
freeeは中小企業向けの会計ソフトを扱っていますが、AIで監査を行う簡単なソフトだったら、エンジニアひとりでも3ヶ月あれば作れます。
例えば、月次推移でおかしいところが勘定科目ごとにハイライトされて、そこをクリックすると詳しい内容が確認できる。そして、それが間違いだったのかどうか、修正したのかどうか、という事実をAIがどんどん学習していって、さらに精度があがります。
他にも、スマートスピーカーをfreee(クラウド会計ソフト)と連携して、スピーカーに“今日○○を買って、いくら使ったよ”と話すと、自動で仕訳できてfreee上に登録される。こういったものを当社のエンジニアが(社内用のデモとして)作りました。
これを作ったのはfreeeの24歳の文系出身の非エンジニアがわずか2時間で作ってしまいました。
会計業界で監査だけやっていると分かりづらいかもしれませんが、私の肌感ではみなさんが想像する100倍の速さでテクノロジーは進化しています。
会計業はなくなる職業と言われていますが、今までと同じことをやっているとなくなるという意味です。たとえば、50年前は電卓を早く正確に打てる人が会計士をやっていましたけども、今、50年前と同じことをやっていても通用するわけありませんよね。それと同じことが、ここから数年で起きようとしています。
といっても、監査は本質的には信用を付与している商売だから、監査という仕事はなくならないし、監査法人という存在もなくならない。
なくならないけど、テクノロジーの話とか、景気循環の話とかを考えながら自分のキャリアを見つめなおすというのは、結構面白いのではないでしょうか。
事業をやるとそんな視点で考えるんだと関心をもってくれた人は、ぜひ事業に携わってみたら良いと思います。
監査法人、戦略コンサル、事業会社。会計士が働きたいカテゴリーのすべてで、結果を出してきた武地氏。
何事もそつなくこなすイメージの一方で、戦略コンサルティングファームでもがき苦しんだ経験も吐露する。そんな人間力のある彼だからこそ、どこに行っても活躍しているのかもしれない。
人とは違う発想で何かにチャレンジしてみたい人は、事業会社は魅力的な転職先に違いないだろう。
公認会計士ナビの転職エージェントサービス
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