2025年2月、一般社団法人日本スタートアップ監査役等協会(以下「JSASA」、読み:ジェイサーサ)が設立された。
JSASAは、企業価値向上に資する監査の実現を目指し、スタートアップの健全な成長・発展に寄与することにより、日本からの新産業の創出及び経済の成長・発展に貢献することを目的として設立された組織だ。
画像はJSASAのWEBサイト(スクリーンショット)
2025年6月時点では法人・個人会員合わせて約100名、賛助会員が7社となっている。個人会員には既に監査役等に就任している人物が多く、公認会計士や弁護士の登録が目立つという。10年後には1,000名規模の会員数を目指しており、また若い世代の監査役等の担い手を増やしていきたいとのことだ。
JSASAで理事長を務める江戸川泰路氏は公認会計士でもあり、公認会計士への期待も聞いてみた(イベント後、メールで質問)。以下はその回答だ(原文ママ)。
「公認会計士は、会計や会社法に精通するなど、監査役等としての適性があり、スタートアップの健全な成長・発展に大いに貢献できる存在です。
また、公認会計士がそのスキルを活かし、監査役等を担うことで、AI時代にも通用する多様な経験を得ることができます。
より多くの公認会計士がスタートアップの監査役等に挑戦することで、専門家としてのサービスの質や社会的地位の向上にも繋がっていくのではないかと期待しています。」
JSASAの設立記念シンポジウムも開催、スタートアップの監査役など業界関係者が集う
画像は日本スタートアップ監査役等協会設立シンポジウムより引用
JSASAの設立を記念して、2025年6月12日には設立シンポジウムが都内で開催されている。スタートアップの監査役などを中心とした業界関係者が集い、その冒頭にて理事長の江戸川泰路氏はJSASAの設立経緯や活動内容について語った。
JSASA 理事長
EDiX Professional Group 代表パートナー 公認会計士
江戸川 泰路 氏
近年、日本のスタートアップエコシステムは目覚ましい発展を遂げている。一方で不祥事や会計不正といったガバナンスや内部統制不全に起因した問題に直面する企業も出てきた。こういった課題に対応するために立ち上げられたのがJSASAだと、江戸川氏は述べる。追求するのは「スタートアップの企業価値を高める監査」だ。
成長ステージを踏まえた適切な監査システムの構築に取り組んでいく。監査役等に対して教育機会の提供やスキル向上を図り、働く環境の整備もしていく予定だ。スタートアップにとって難題である監査役等の採用にも、コミュニティとして取り組んでいく。
スタートアップ、特にIPOを控えたレイター期の監査役等にしても、現状では監査の範囲をどの程度に設定するか、戸惑っているケースは多いと江戸川氏は語る。中には監査調書を残していないケースもあるようだ。そのため、監査調書のひな形を作成し、会員向けに公開し、監査役等監査に役立ててもらう予定だという。
この他にもJSASAは、セミナー、研修会や相談会、分科会、調査研究活動なども企画しているようだ。
なお、JSASAの役員は以下の通り。
(理事長)
- 江戸川 泰路(EDiX Professional Group 代表パートナー 公認会計士)
(副理事長)
- 芦澤 美智子(慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 准教授)
- 松澤 香(三浦法律事務所 パートナー 弁護士)
(理事)
- 大杉 泉(大杉公認会計士事務所 所長 公認会計士)
- 奥 国範(奥・片山・佐藤法律事務所 弁護士)
- 川上 登福(株式会社先端技術共創機構(ATAC) 代表取締役)
- 国見 健介(CPAエクセレントパートナーズ株式会社 代表取締役)
- 清水 琢麿(法律事務所イオタ パートナー 弁護士)
- 髙原 明子(株式会社エニグモ 取締役 常勤監査等委員)
- 田中 智大(株式会社ファーストリテイリング 常勤監査役)
- 津金 庸平(ミライズ会計事務所 代表 公認会計士)
(監事)
- 中野 圭介(EDiX Professional Group パートナー 公認会計士)
JSASAの役員
シンポジウムには日本公認会計士協会副会長の南成人氏も来賓として登壇。なお南氏は7月から同協会会長になることが決まっている。
「公認会計士業界は一致団結してスタートアップとIPOを支援し、日本経済を盛り上げていくべき。私が会長になっても変わらずスタートアップ支援をしっかりと行っていく」と、スタートアップ業界やJSASAにエールを送った。
日本公認会計士協会 副会長 南 成人 氏
基調講演には株式会社IGPIグループ会長、株式会社日本共創プラットフォーム代表取締役会長、一般社団法人日本取締役協会会長などを兼任する冨山和彦氏が登場。「あるべきスタートアップガバナンスと監査役等への期待」と題して監査役等へのメッセージが語られた。
㈱IGPIグループ会長
㈱日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役会長
日本取締役協会会長
冨山 和彦 氏
「スタートアップ育成5か年計画」が策定されたり、「骨太の方針」に記載されたりと、今やスタートアップは国策のひとつとなっている。スタートアップには巨額の投資が集まり、メディアでその名称を見ない日はない。
しかしながら、スタートアップの存在感が増すにつれ、不祥事や会計不正なども目立つようになってきた。一般の事業会社が監査やガバナンス整備によりそのリスクを低減してきたのだから、スタートアップも同様の手立てを講じるべきだろう。
とはいえ、スタートアップといっても立ち上げたばかりのシード段階の企業から、IPO直前までその実態は玉石混交であり、画一的にガバナンス体制を敷くことは困難だ。監査役をはじめとした責任をもつ者が、実態に応じて柔軟なガバナンス体制を構築しなくてはならない。しかし現状は前例や共有例が少なく、戸惑っている担当者も少なくないだろう。
JSASAはコミュニティや勉強会、事例やひな型を共有することで、これらの課題を解決しようとしているようだ。日本のスタートアップ監査のアップデート、ひいてはスタートアップ業界発展への貢献が期待される。