会計事務所の生産性はどうすれば向上するのか?:弥生PAPカンファレンス2019秋・東京レポート(後編)

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前編に引き続き、2019年11月1日、東京・ベルサール秋葉原にて開催された弥生PAPカンファレンス2019秋(東京)の模様をお届けします。

前編では、弥生株式会社の岡本代表が講演した「海外事例に見るデジタル化の潮流と日本のあり方」についてお伝えしました。

後編では、弥生PAP会員の会計事務所による、生産性向上実現の取り組みなどの事例発表の模様をお届けします。

記事内のスライドはすべて弥生PAPカンファレンス2019秋(東京)にて用いられたものです

弥生PAPカンファレンス2019秋(東京)プログラム

弥生ロゴ

  • 弥生の経営概況報告、今後の方針(弥生株式会社 代表取締役社長 岡本浩一郎)
  • 生産性向上の具体策について講演(株式会社名南経営コンサルティング)
  • 弥生PAP会員による事例発表
    • ツール活用による生産性向上実現の取り組みとその効果について(三反田会計事務所)
    • 業務標準化による生産性向上の取り組み(アップパートナーズグループ長崎オフィス)
  • 弥生製品の最新機能や弥生PAP会員サービス強化ポイントの紹介(弥生株式会社)

    本記事の目次

    生産性が高い税理士事務所が行なっている取り組みとは?

    今回の事例発表は、昭和59年創業、愛知県名古屋市に本社を置く、株式会社名南経営コンサルティング 取締役 亀井英孝氏による3年で一人1時間あたり売上高を1.5倍にする生産性向上の具体策」です。

    名南経営コンサルティング 取締役部長亀井秀考氏

    税理士事務所経営では、設備投資や多額の資金よりも、人材が何より不可欠な資源です。しかし、あらゆる業種で採用競争が激化しており、税理士事務所が置かれる環境も厳しさを増しています。また、仮に採用できたとしても経験が浅いスタッフが増えるため、生産性向上が大きな課題となっています。

    名南経営コンサルティングは、このような税理士事務所が置かれている現状を踏まえて、全国の税理士事務所の生産性向上に関するコンサルティングサービスを提供しています。

    ここでは、名南経営コンサルティングが全国の税理士事務所に提供しているコンサルティングサービスの内容として、生産性向上に必要な具体的な取り組みについてお伝えします。

    名南経営コンサルティング 概要
    • 愛知県名古屋市(本社)ほか東京事務所、大阪事務所、福岡事務所
    • 設立日:昭和59年9月
    • スタッフ人数:不動産鑑定士2名、中小企業診断士4名。社会保険労務士6名。有資格者含むスタッフ合計105名。
    • 顧問先数:約3,000件
    • 名南経営コンサルティングWebサイト

    ※2019年12月18日時点の名南経営コンサルティングWebサイトより

    会計事務所が現在の1.5倍の生産性を目標にすべき理由

    プレゼンテーションでは、まず一般的な税理士事務所の現状が発表されました。

    弥生PAPカンファレンス2019秋_後編_図1

    亀井氏によると、総務省や国税庁によって公開されている統計データを元に計算した結果、税理士事務所の一人1時間当たりの売上高は3,500円あたりが平均値になりそうとのこと。

    税務に詳しい人材を採用したい大企業と税理士事務所は、採用面で競合する関係にありますが、同じ方法で計算してみると、大企業の一人当たり1時間当たり売上高は6,000円を超えており、税理士事務所の採用環境は厳しいものとなっています。

    この状況を打破するため、会計業界も、現状の3,500円から、最低でも1.5倍に当たる5,000円を、できれば大企業と同じ6,000円を目指して生産性を上げていくのが理想と、亀井氏から説明がありました。

    稼働率が高いのに生産性が低い理由

    名南経営コンサルティング 取締役部長亀井秀考氏

    では税理士事務所は、なぜ生産性が低くなっているのでしょうか。

    名南経営コンサルティングは、その理由を探るため、税理士事務所の労働時間を「有効時間」「未来投資時間」「削減対象時間」の3つに分類して分析しました。

    弥生PAPカンファレンス2019秋_後編_図2

    「削減対象時間」を減らすことはもちろんのことですが、亀井氏によると、多くの税理士事務所では、未来投資時間がほとんど使われていないため、有効時間の割合が高くなり、稼働率が高くなっているのだそうです。

    では、「有効時間」の割合が高い、つまり、職員の稼働率も高いのに生産性が低いのはなぜでしょうか。それは、有効時間の使い方に原因があると、亀井氏は指摘します。

    亀井氏によると「有効時間」は「主体業務」「付随業務」「付帯業務」の3つに分けることができるそうです。

    例えば、「試算表や決算書に基づき、より良い経営ができるアドバイスを受ける」サービスに対して、お客様が税理士事務所に顧問料を払っているとします(主体業務)。そして、そのために試算表や決算書を作ったり(付随業務)、本来はお金をいただかなければならないのに無償でサービスを提供したり(付帯業務)しています。

    実は、税理士事務所は付随業務や付帯業務の割合が高く、報酬をもらえる主体業務の割合が相対的に低いため、稼働率は高いけど生産性が低くなっていると分析しました。

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    以上より、「削減対象時間」に加えて、「付随業務」「付帯業務」を削減し、未来投資時間を増やすことが、会計事務所が目指す方向であると、亀井氏より説明されました。

    有効時間に潜む、会計事務所が抱える問題

    税理士事務所では当たり前となっている習慣の中に生産性を阻害する要因が隠れていると、亀井氏は言います。

    弥生PAPカンファレンス2019秋_後編_図4

    クライアント1担当制から業務分担制へ

    税理士事務所の職員には、お客様からの評判が良く巡回が好きだけど、きっちり申告書を仕上げるのは苦手という人もいれば、その逆の人もいます。

    すべての職員がすべての業務を得意とするのであれば、1クライアント1担当制は理想的ですが、実際はそうではありません。苦手な業務をすることは、事務所全体の生産性が落ちる要因にもなります。

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    亀井氏は、1クライアント1担当制に代わって、会計業務を機能ごとに分解し組織的に業務分担することで、得意な業務に専念することができるようになり、生産性が向上すると説明されました。

    また、採用するたびに全部を教えるとかなりの時間がかかりますが、分担制にすることで研修指導時間が短縮され、銀行の営業担当(資料回収など巡回)、経理(試算表作成、決算書作成など)といった、前職の専門を生かすことも可能となります。

    お客様標準から事務所標準へ

    近年は、顧問料の値下げ圧力が強く、お客様の言うことを100%受入れてやっていると採算が合わない時代へと変化しました。環境の変化に合わせて、業務フローの見直しが必要であると、亀井氏は語ります。

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    これは、お客様に合わせて作業するというやり方ではなく、事務所標準を作り、それをお客様にあてはめるという方式です。

    簡単なところから成功体験を積み上げて行くことで、事務所標準導入は成功する

    ところで、事務所標準を作ってお客様にあてはめるというお話をすると、「あのクライアントも、このクライアントも無理なので、うちでは絶対できません。」という税理士事務所の方の声を良く耳にします。

    ですが、実際に協力してもらえなさそうな先をリストアップしてみると、全クライアントのうち、平均すると3~5%未満で、10%を超える事務所はなかったそうです。つまり、90%を標準化し、残りは採算が合っていれば従来のやり方で進めると考えれば、標準化は可能になります。

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    標準化が成功するためには、協力的なクライアント、かつ、定型的な業務から始めて徐々に成功体験を積み上げて行くことで、職員の標準化に対する抵抗感を和らげながら進めることが大切だと、亀井氏は言います。

    例えば、試行錯誤しながら進めていく中で、当初のやり方を変更しても協力してくれるクライアントや、インプットとアウトプットの資料が簡単な年末調整から始めるようにします。

    1社ずつ成功を積み上げながら全体の生産性を高めていくような事務所作りを進めていただきたいと語り、亀井氏はプレゼンテーションを締めくくりました。

    弥生PAPカンファレンス2019秋_後編

    生産性向上の取り組み事例(1)三反田会計事務所

    生産性向上の取り組み事例(1)三反田会計事務所

    ここからは、生産性向上に取り組んでいる2つの会計事務所の事例をご紹介します。

    ひとつめは東京都大田区の三反田会計事務所(さんたんだかいけいじむしょ)の事例です。

    三反田会計事務所 概要

     

    余談ですが、三反田会計事務所のオフィスは、過去に何度かロケに使われたことがあり、孤独のグルメSEASON4第11話「大田区蒲田の海老の生春巻きととりおこわ」の舞台としてもドラマに登場しているそうです。

    課題と取り組み

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    三反田会計事務所では、進捗管理表を紙で作成したり、ホワイトボードでスケジュール管理を行ったりしていました。そんななかで三反田所長が感じていた課題は次の3点です。

    • 現状の“見える化”が出来ていない
    • 業務の“標準化”が出来ていない
    • 業務の“効率化”が出来ていない

    三反田所長は、名南経営コンサルティングがサービス提供するツール『MyKomon』や、『リモートサポートby弥生PAP』『スマート取引取込』などを導入し、課題解決に成功しました。

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    ツール導入に際して、職員を巻き込みながら、そして、途中で挫折しないように所長の強い意志を示しながら、仕組み作りを進めたそうです。

    具体的には、サービス提供の打ち合わせに職員を同席させて、職員の意見を参考にしながらツール選びをしたり、職員の中でツール利用が定着するような事務所ルールを作ったりしました。

    やるべき業務をチェックリストにして標準化する

    事業会社での経理業務と異なり、会計事務所では何社も同時並行で、記帳業務、決算業務など異なる業務をこなさなければなりません。別のクライアントや別の業務にとりかかる度に、どういう流れで作業を進めるのが最も効率的なのか思い出さなければならず、ロスタイムが生じます。

    三反田会計事務所は、職員が迷わずスムーズに仕事ができるために、以下のような「業務手順書」や「作業指示書」を用意することにしました。

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    「月次業務手順書」と「作業指示書」を導入した結果、以下のような成果が上げられるようになったと、三反田所長は説明されました。

    • 「誰が」「どのような手順」で業務を行うか明確なり、迷わず仕事ができるようになった。
    • 作業が明確なためミスが減り、品質向上につながった。
    • 余計な作業が増えなくなった。

    「見える化」「効率化」「標準化」と言った、当初、三反田会計事務所が抱えていた課題を解決することができました。

    わずか1年間で生産性が10%近く向上

    三反田会計事務所では、この取り組みで、工数単価が1年間で9.7%増加し、満足する結果が出せました。

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    今後は、「空いた時間で未来時間を増やし、より高価値なサービスを提供できるようになりたい」と抱負を語り、三反田所長は発表を締めくくりました。

    生産性向上の取り組み事例(2)アップパートナーズグループ長崎オフィス

    税理士法人アップパートナーズの総務部部長兼IT支援課課長の内野敦史氏

    次に、福岡を中心に展開するアップパートナーズグループ長崎オフィス総務部部長 兼 IT支援課課長の内野敦史氏と、業務部主任の藤川奈穂子氏から、同社の長崎オフィスでの取り組み発表が行われました。

    アップパートナーズグループ概要
    • 所在地:福岡オフィス(本部)、佐賀中央、佐賀伊万里、長崎、佐世保、島原、北九州、東京、合計8オフィス
    • 設立日:平成20年9月1日
    • 社員数:320名
    • お客様数:約2,400件
    • アップパートナーズグループWEBサイト

    課題と取り組み

    アップパートナーズグループの長崎オフィスは、大きく分けて「総務部」と「業務部」の2部門で構成されています。

    弥生PAPカンファレンス2019秋_後編_図13

    長崎市は坂が多く製造業は少ない一方で、楽天などの大企業のコールセンターや事務センターが多い街です。東京から進出してくる企業の時給は1,000円を超えている一方で、長崎の最低賃金は790円と開きが大きく、地元企業は人材採用が難しくなっています。

    こういった背景による人材不足を解決するためにも、長崎オフィスでは生産性の向上が喫緊の課題となっていました。

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    長崎オフィスではもともと決算書の製本や電子化などの作業を総務部が集中して行っていました。そこで業務部の残業を減らすため、業務部が行っている税務業務の中から専門性がなくてもできる業務を標準化して、総務部が行うという分業体制を取ることにしました。

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    分業体制とスマート取引取込の積極的な活用

    税理士法人アップパートナーズ藤川菜穂子業務部主任

    業務部と総務部という2つの部門間でどのように分業が進められたのか、藤川奈穂子業務部主任から、説明がありました。

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    通帳コピーや手書きの出納帳などをExcelに転記し、スマート取引取込への取込のような専門性が必要ない業務は総務部へ分業しました。

    分業体制構築に弥生会計のスマート取引取込は欠かせない存在になっていますが、クライアントの弥生会計の利用率が高く、ここ数年でスマート取引取込の性能が改善し使いやすくなったため、アップパートナーズでは弥生会計を積極的に活用しているということです。

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    取り組みの効果

    取り組みの成果として、業務部の入力時間を10%から20%削減することができました。

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    また、削減した時間をスキルアップのために活用できるようにもなったそうです。

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    業務を標準化することで、新しく入社してきた人も、入ったその日から業務にとりかかれる状態になったと言います。

    これから迎える繁忙期対策として、3月から5月の忙しい時期に短期アルバイトを採用して入力を任せて、業務部社員は申告書の作成や巡回に専念できるよう環境を整えると、今後の取り組みを語り、発表を締めくくりました。

    以上、前後編に渡って弥生PAPカンファレンス2019秋・東京の模様をお届けしました。

    次回の弥生PAPカンファレンスにもご期待ください!

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