みなさん、こんにちは。東京共同会計事務所の窪澤と申します。
今回は、会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイントの第8回として、前回に引き続き、「業務日報」についてお話しさせていただきます。(※本記事記載の【業務日報】とは税理士法上作成義務が課されている【業務処理簿】を指すものではありません。)
これまでの記事はこちら →シリーズ:会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント
著者
東京共同会計事務所
税理士/マネージャー
窪澤 朋子
上智大学外国語学部卒業
平成15年税理士登録。前職の鳥飼総合法律事務所で、14年にわたり、税務訴訟及び税賠訴訟の補佐人・不服申立の代理人を務める。主な担当事件に、ストック・オプション事件、ガーンジー島事件、グラクソ事件、外国籍孫事件等。
税賠案件では、税賠訴訟の他、税理士紛議調停・訴訟前の交渉等、多数の案件に関与。税賠保険事故調査書のレビュー経験あり。
著書に、「税理士の専門家責任とトラブル未然防止策」(清文社・分担執筆)等。
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事務所職員Aさんの1日
●月×日、会計事務所職員Aさんの1日はあわただしく始まります。クライアントからの電話やメールのやり取りをしているうちに、あっという間にお昼に。午後、クライアント先X社に訪問の予定があるので、この春に改正予定の税制改正のうち、当該クライアントに関わる部分をピックアップしてご説明するための準備も必要です。
夕方、クライアント先X社から事務所に戻ってきたら、先週仕上げた今月期限のY社の申告書ファイルが、数多くコメントがついたレビューシートとともにデスクに置かれています。「そうか、またやり直しだ・・・」と思ってレビューシートをチェックしながら会計ソフトと申告書作成ソフトで作業をしていると、別のクライアントZ社からの電話。「先生からこの前お願いされた書類、FAXでお送りしましたが見ていただけましたか?」複合機のところに行ってみると、誰かが大量に出力した印刷物をものすごい勢いで印刷している最中で、肝心のZ社からのFAXはまだ届いていないようです。もう少し待ってみるか。Y社の申告書の修正が終わったら帰ろうと思っていたけれど、とりあえずコーヒーでも買いに行ってくるか・・・(最近では会計事務所でも働き方改革が進みつつあるそうなので、こんな職員ばかりではないのかもしれませんが)。
業務日報に残しておきたい内容は?
上記のAさんの行動のうち、税賠予防という観点から考えて、必ず業務日報に残しておくべきなのはどの内容でしょうか。
これを考えるときには、まず、後から振り返った時に、Aさんが●月×日に確実に行ったと分かるのは何か、を考えてみましょう。クライアントとのメールのやり取り、これはサーバーとPCに問題がない限り、確実に記録に残っています。その他にはいかがでしょうか。X社への訪問、これはどうでしょう。交通系電子マネーの履歴等を見れば、事務所の最寄駅からX社の最寄駅まで移動したことはわかるかもしれませんが、実は「AさんによるX社への訪問」は、Aさん又はX社が記録として残しておかない限り、客観的な記録は何も残らないのです。
その他、Aさんが事務所で行った、Y社の申告書の修正やZ社からFAXで届いた書類の確認、これも記録に残っていません。上記の事情だと、FAXが確実に届いたかどうかも定かではありませんね。 そうすると、業務日報に残しておくべき内容を検討するためのポイントは、(1)重要な行動、または、重要でない可能性がある行動のうち、業務日報に残しておかないと、当日に行ったことが立証できなくなってしまう行動、すなわち、(2)業務日報以外の立証手段がない行動の2つということになります。
このような視点での検討を行って、Aさんの●月×日の行動のうち、必ず残しておくべき事実は、
(ア)X社への訪問
(イ)Y社の申告書の修正
(ウ)Z社からのFAX内容(新規取得土地の契約書)の確認
の3つとなりました。
このうち、(ア)X社への訪問、というのは●月×日の最重要事項になります。訪問時に行った作業内容や確認事項、指導内容等については、X社への報告書を作成しX社へ送信するとともに、詳細に記録を残しておくことが望まれます。ただ、この内容については、クライアント管理、あるいは個々のクライアントごとのファイリングの一環で対応する必要がありますので(後日別途解説いたします)、業務日報への記載としては、1行の記載にとどめます。
業務日報の簡素化
Aさんが、退社する直前に、業務日報の画面を開いて、この3行を入力してから帰ってくれればよいのですが、Aさん、疲れきっていて、業務日報を開く気になりません。明日入力しよう、今日はもう帰ろう・・・。そう思って帰宅すると、次の日には、また新たなあわただしい1日のスタート。こうして、業務日報への入力を溜めていると、いつ何をしたのか、だんだん曖昧になってきてしまいます。
疲れているAさんでも、退社前に、何とか業務日報への入力ができる方法としておすすめなのが、クライアントやメニューのプルダウン方式です。クライアントについては、コード入力でクライアント名が表示されるような仕組みでもよいでしょう。重要なことは、「訪問」「申告書作成」「申告書修正」「書類の受領」という作業内容をプルダウンメニュー等にしておいて、選択式にする、ということです。
業務日報を1週間まとめて入力しようと思うと、どうしても不完全な内容になります。この内容であれば、退社前の1分で、最低限必要な業務日報の入力を完成させることが可能となります。なるべく簡単に入力できる方式を採用することで、忙しい職員さんに、作業当日のうちに、確実に入力してもらえる業務日報にしましょう。
業務日報の必要性は何となくわかったけれども、職員が1日に行う業務は非常に幅広いので、その1つ1つをすべて業務日報へ記載することは到底できないと思われるかもしれません。それでは、効率の良い業務日報の作成の仕方を、次回考えてみたいと思います。
【今回のポイント】
- 業務日報に記載すべき内容は、「重要な行動」「業務日報以外の立証手段がない行動」の2つ
- 業務日報の入力にプルダウンメニューを取り入れるなど、短時間で入力しやすくする工夫を
次回は、クライアントへの訪問とその記録についてお話ししていきたいと思います。
次回に続く
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本連載は、東京共同会計事務所様の採用・求人WEBサイトからの転載記事です。東京共同会計事務所では公認会計士の方を採用中ですので、金融キャリアにご興味をお持ちの公認会計士の方はぜひご参考ください。
記事引用元:【第8回】会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント:業務日報の作成のポイント | 東京共同会計事務所求人・採用サイト