税理士や公認会計士の増加、日本経済の停滞などの影響から会計業界の停滞や閉塞感が叫ばれる中、それを切り拓くヒントはどこにあるのか。公認会計士ナビでは「シリーズ:会計×イノベーション」と題し、複数回に渡り、会計業界に見られるイノベーションを特集していきます。第2回はクラウド請求書管理サービス Misoca(みそか)です。
第2回:クラウド請求書管理サービス Misoca(みそか)が描くペーパーレスの世界
今から遡ること2年前、2011年11月、世界的なIT系WEBメディアであるTechCrunch(テッククランチ)が主催するイベント、TechCrunch Tokyo 2011にてひとつのWEBサービスがデビューした。
である。
当時、上場が近いと噂され、世界的に注目を浴びていたFacebookに触発されたソーシャル系アプリが数多く紹介される中、『請求書』という普段注目されることの少ない分野にフォーカスしたMisocaは、イベントに登壇はしたものの、その場で発表される数々の華やかなソーシャルアプリと比較すると決して華々しいデビューを果たしたわけではなかった。
しかしながら、その後、流行り廃りの激しいWEBサービスの世界において、ソーシャルアプリやゲームが次々に起ち上げられては終了していくのを横目に見ながら、Misocaは少しずつ機能拡張を行い、手堅く利用ユーザー増やし、現在では8,000以上の事業者が登録し、毎月の請求総額が数億円にも及ぶクラウド請求書管理サービスへと、静かに、そして、着実に成長を遂げてきている。
この請求書の管理機能からスタートしたMisocaは、現在では見積書や納品書も管理できるWEBサービスとなっており、いわゆる「販売管理や管理業務支援のWEBサービス」として認識されている。しかし、Misocaの真の強みや、彼らが目指すビジョンはさらにその先にあるという。Misocaとはいったいどのようなサービスなのであろうか?
開発者である豊吉隆一郎(とよしりゅういちろう)氏と松本哲(まつもとさとし)氏のふたりに話を聞いた。
クラウド請求書管理サービス Misoca(みそか)、その機能とは?
Misocaは、名古屋に本社を構えるベンチャー企業・スタンドファーム株式会社が開発したクラウド請求書管理サービスである。2011年9月のローンチ後、7,000以上の事業者が登録し、請求書・見積書・納品書といった書類をブラウザ上で簡単に作成・管理し、そして、郵送までできるWEBサービスである。
まずは、Misocaの機能や特徴について見てみよう。
●WEBブラウザで利用可能
Misocaはブラウザから利用できるサービスであり、WEBサイトが閲覧できる一般的なPCさえあればどこからでも利用することができる。そのため、請求書管理のためのソフトの購入やダウンロード、バージョンアップに伴う買い替えなども不要であり、月額利用料や請求書の郵送料を支払うだけで継続的に利用することができる。(機能は制限されるが月額料金が無料のプランもある。)
●テンプレートに入力するだけで請求書を簡単作成、クリックするだけで郵送もできる
Misocaがユーザーに支持される理由のひとつに、テンプレートに必要事項を入力していくだけで簡単に請求書が作成できるという点がある。Misocaのインターフェースは「可能な限りシンプルに」という視点から制作されており、わかりやすく、入力しやすい画面も特徴である。
また、Misocaでは請求書を作成するだけでなく、完成した請求書をワンクリックでPDFに加工したり、ブラウザ上から郵送手続きを行うこともできる。郵送に関しては、大手印刷会社と提携し、印刷から郵送までが自動化されたドキュメントセンターで処理されるシステムになっており、機械による封入の後、誤封入を防止するために、カメラによる画像チェック、センサーによる重量と厚みのチェックを経て郵送されるというセキュリティ面からも安心な仕組みで運用されている。
●売掛金管理
Misocaでは売掛金管理も行うことができる。Misocaで作成された請求書には、請求書ごとのステータスが表示され、クリックすることによって「未請求/請求済」「未入金/入金」といったステータスを管理することができる。この請求ステータスに関しては、Misocaから郵送手続きを行うと、自動で請求済にステータスが変更されるなど、ユーザーのクリック忘れを防ぐ工夫も行われている。
●「見積書」「請求書」「納品書」の3つをワンストップで作成・管理
Misocaでは、「請求書」だけではなく、販売管理のフローにおいて必要となる「見積書」「請求書」「納品書」という3種類の書類をワンストップで作成・管理することができる。また、見積書を納品書に変換したり、納品書を請求書に変換する機能も実装されているため、見積書を作成し、見積が承認されれば納品書や請求書を作成するという一連の作業をスムーズに行うことができる。
●弥生会計へのインポートや源泉徴収税、消費税の課税設定
請求書という分野は会計・税務領域と密接に関係しているが、Misocaにも会計や税務に関連する機能が実装されている。例えば、Misocaのデータは弥生会計に対応したCSVフォーマットでエクスポートでき、弥生会計のユーザーはMisocaの請求データを弥生会計にCSVでインポートすることによって、記帳作業を簡略化することができる。
また、源泉徴収税への計算(復興税含む)や消費税の課税・非課税の設定にも対応するなど、税務まわりへの細かい配慮も行われている。
●口座振替による回収代行サービス
Misocaでは、東証一部上場の大手決済代行会社であるGMOペイメントゲートウェイのサービスと提携することによって、口座振替での代金回収も行っている。これは、会計事務所の顧問料や不動産の賃料、システム会社の保守・メンテナンス費用など、毎月継続的に請求している料金を回収するような場合に適しており、口座振替サービスを利用することによって、Misocaで請求した料金が自動で顧客の口座から振替えられ、毎月確実に料金を回収することができる。また、この回収代行サービスは、毎月の請求料金が定額でなくとも利用することができ、口座振替サービス自体には月額基本料もかからない(※1)利便性の高い機能となっている。 ※1:引き落とし1件につき150円(2013年9月現在)の手数料は必要。
名古屋のガレージベンチャーが始めた“シンプルな”請求書管理サービス
名古屋のガレージから始まったMisocaのアイデア
ここで、Misocaの開発者である豊吉氏と松本氏へと話を移そう。
Misocaはどのような人物が、どのような経緯で開発したサービスなのだろうか?
豊吉氏と松本氏はMisocaを運営するスタンドファーム株式会社を名古屋のガレージからスタートさせている。ふたりのエンジニアがガレージで起業するその姿はスティーブ・ジョブズがウォズニアックと共に自宅ガレージでAppleをスタートさせたのを彷彿とさせる、と言うといささか言い過ぎではあるが、創業後、ガレージにこもり、日々持ち込まれる開発案件をふたりでこなす中、Misocaの構想を思い付いたきっかけは「自分たちにとって毎月の請求書の管理や郵送があまりに面倒だったから」だと言う。
事実、生粋のエンジニアである彼らにとっては、毎月、月末が訪れるたびにExcelで請求書を作成、印刷し、封筒に入れ、ポストに投函しにいくという作業は、大切な売上を回収するために欠かせないプロセスではあるものの、決して生産的・創造的な作業ではなく、創業当初から煩わしさを感じていたという。
こういった実体験から、
「自分たちと同じように請求作業を面倒に感じている人は実は多いのではないか」
「請求書は必要な物だけれども、起業家やフリーランサーが非生産的な作業に時間をとられてしまっているのは世の中にとっての損失ではないだろうか」
と感じるようになり、Misocaの開発へとつながっていったという。
Misocaを支えるふたりのエンジニアとそのネットワーク
Misocaは請求書をWEBで管理するというシンプルなサービスであるが、そのサービスは豊富な経験に裏打ちされたエンジニアたちによって支えられている。
スタンドファームのCEOである豊吉(とよし)氏は若干32歳だが、高専時代からのプログラミング経験を含めると人生の半分以上をプログラミングに捧げている。岐阜高専の在学時にはNHKロボットコンテストの準優勝チームにプログラミング担当として所属し、高専卒業後は、フリーのエンジニアとしてシステム開発や複数のWEBサイトの制作に従事、その顧客には上場企業も含まれるなどエンジニアとしてのスキルにも定評がある。
一方、CTOを務める松本氏も、エンジニアとしてのキャリアは抱負だ。高校時代にプログラミングを始め、大学ではコンピュータサイエンスを専攻、過去に人事給与システムの構築経験もあるなど、各種法令や規則が関連する複雑なサービスの開発を得意としている。また、バックオフィスサービスやサーバ、セキュリティ周りへの造詣が深く、請求書という重要書類を管理するシステムを構築するにあたり重要な役割を果たしている。
このように、確かなスキルを有するふたりであるが、ふたりは「自分たちがエンジニアとして活躍できている理由はそこではない」と自らの強みを否定する。彼らの真の強みは彼らの周囲にいる優秀なエンジニア仲間たちとのネットワークであるというのだ。
実のところ、彼らのエンジニア人脈は幅広い。ふたりは約7年に渡ってエンジニアのための勉強会を開催しており、全国の技術系勉強会にも積極的に顔を出すなどRuby(※プログラミング言語のひとつ)エンジニアの間でも顔が広い。また、CTOの松本氏は、毎週月曜の夜に名古屋近辺のエンジニアが集まり技術を磨き合う名古屋Geekバーを主催するなど、名古屋のエンジニアでふたりを知らないものはいないと言っても過言ではない。
事実、現在、彼らとともに働くエンジニアたちはふたりの人脈やTwitterでの呼びかけから集まっており、こういったエンジニア仲間たちとのつながりが彼らを刺激し、時に彼らを助け、良いプロダクトの開発につながっているという。
「東京では、エンジニアが不足しており、企業規模問わずエンジニア採用に苦戦しているが、自分たちの周りにはひと声かければ力を貸してくれる仲間がたくさんいる。今後、開発規模を拡大するにあたっても、人材面での不安はあまり感じていない。」とCEOの豊吉氏は力強く語る。
シンプルで使いやすいサービスで中小企業のITリテラシーを高めていきたい
Misocaを運営するふたりに「公認会計士や税理士にMisocaをどのように活用して欲しいか?」と尋ねてみると、冗談めかしながらこんな答えが返ってきた。
『公認会計士や税理士のみなさんには、Excelスキルが高い方も多いですし、会計ソフトを使いこなしている方がほとんどでしょうから、Misocaを使う必要性はあまりないかもしれませんね(笑)』と。
実際、彼らはMisocaに関して、公認会計士や税理士を唸らせるような複雑さや高度さは追求しておらず、
最低限のことがシンプルにできるサービス、かつ、ネットやパソコンに詳しくない人でも簡単に使えるサービス
であることがMisocaの最大の特徴であると語る。
Misocaから会計事務所へのシンプルなふたつの提案
前述の冗談はさておき、公認会計士や税理士に対して、Misocaをふたつの視点から活用して欲しいと豊吉、松本の両氏は語っている。
●Misocaをユーザーとして使ってみて欲しい
ひとつめは、特に独立開業している公認会計士には、自らがユーザーとしてMisocaを利用して欲しいとのことだ。実際にMisocaのユーザーには会計事務所も含まれているが、Misocaを活用することによって、顧問先への請求作業や売掛金の管理を省力化している。
特に、税務顧問や監査報酬の回収には口座振替サービスの利便性が高く、1件150円の手数料で毎月の顧問料を回収することができるなど、業界の類似サービスと比較してもリーズナブルな料金設定となっている。
●管理やITが苦手な小規模事業者にMisocaを勧めてみて欲しい
また、ふたつめは、Misocaをクライアントに導入することによって、その利便性を享受して欲しいと言う。Excelや会計ソフトへのリテラシーの高い公認会計士や税理士の中には、それらへのリテラシーが十分ではない中小企業や小規模事業者クライアントとの間にギャップを感じたことがある方も少なくないだろう。実はここに「Misocaはシンプルなサービスである」という特徴が発揮されるというのが彼らの持論である。
日々、IT化が進む現代においては、会計事務所自体も業務を効率化していく必要がある。しかし、会計事務所の業務効率を考える際に難しいところは、クライアントの業務体制によって会計事務所のスタッフの工数が大きく影響を受けてしまうという点である。ベテランの税務スタッフであったとしても、クライアント企業が伝票や請求書の管理が杜撰であると、日々のやりとりが増え、スタッフの工数も大きくなってしまう。また、このようなクライアントは得てして、PCやITの扱いに慣れておらず、自計化を進めようとしてもなかなかうまくいかなかったり、自計化の指導に時間がかかってしまって採算が合わなかったりするケースもある。税務顧問の経験のある公認会計士であればこういったケースを体験したことのある人も少なからずいるだろう。
しかしながら、シンプルかつ直感的に利用できるMisocaであれば、ITリテラシーがそれほど高くなく、Excelや会計ソフトの利用を得意としていないクライアントでも簡単に使うことができる。請求書の管理がしっかりと行えていないクライアントや、新設法人などにMisocaを利用してもらい、データをCSVファイルで受け取るだけで会計事務所側の工数削減にもつなげることができるのである。
これに関してCEOの豊吉氏は次のように語る。
「日本の小規模事業者の問題点のひとつに、IT化やクラウド化が遅れているということが挙げられます。それには小規模事業者が使いやすいサービスが少ないという背景もあるし、小規模事業者のITがリテラシーがまだまだ高くないという背景もある。Misocaは、最低限のことがシンプルな操作でできるサービスを意識しているため、一般的な会計ソフトや販売管理ソフトは使えずとも“Misocaなら使える”という方々が必ずいます。そう言ったクライアントにまずはMisocaを利用してもらい、そこに慣れれば会計ソフトなどワンランク上のものにチャレンジしてもらうなど、顧問先のITリテラシー向上のきっかけとしてMisocaを活用して欲しいと思っています。」
Misocaが描くペーパーレスの世界
請求書管理から、見積書や納品書の管理、口座振替サービスへと着実にサービスを広げてきたMisocaだが、今後はどのような方向を目指しているのだろうか?
この質問に対しCTOの松本氏は、『現在のMisocaは請求書や見積書を管理するというシンプルなサービスだが、Misocaが最終的に目指しているのは、全ての書類を電子化して管理する電子書類管理のプラットフォームです』と語る。
現在、Misocaでは請求書、見積書、納品書に続いて、領収書を管理できる機能を開発中であり、これにより請求・会計周りの書類を一括管理できるサービスの実現を目指している。また、これらと並行して、請求書を紙ではなくWEB上の電子データでやりとりし、電子的に保存しておくWEB請求書も開発中だと言う。
さらに、少し長期的な話ではあるが…と前置きしながらも『今後は契約書といった法的な重要書類も含めあらゆる書類を電子データとして保存できるサービスを目指している』とCEOの豊吉氏はビジョンを語る。
現在、タブレットの普及などからペーパーレス化が進みつつあるが、それらの多くが「データをPDFにして保存する」といったものだ。会計事務所や監査法人業界でもこの数年で電子化が進んではいるが、おそらく同様のものが多く、電子化を標ぼうし、重要書類をPDF化しつつも原本は紙で保存されているのが現状であろう。
これに対しCTOの松本氏はこう考えているという。
「書類をPDFにして保存することは真の電子化ではありません。そもそも原本があってそれをPDF化している時点で、余分な労力や原本の保管コストがかかってしまっています。
私達が目指しているペーパーレスは原本となる書類すらも電子化されている、そもそも紙の原本が存在しないレベルでの電子化です。つまり、契約書などの重要書類への署名や捺印も電子的に行い、そのデータがクラウド上に保存されている状態を作りたいと思っています。」
こう言うとかなり突拍子もない話に聞こえるかもしれないが、欧米では電子文書関連の法律も整備され、それに関連するプロダクトもかなり普及してきているなど既に実用化が始まっているという。例えば、日本では印刷して捺印し、紙で保管されている契約書が、欧米では電子署名サービスを使って契約者がサインをし、電子文書として保存されるということが起こり始めているのだ。
さらに松本氏はこう続ける。
「日本でもe-文書法や電子帳票保存法が施行され、国税庁も電子データの領収書や契約書には印紙が不要との見解を述べるなど、書類を電子データで管理することは税務上も法務上も一定の基準を満たせば問題はありません。実は重要書類を電子データとして保存する環境は法的に既に整っているのです。また、技術的な面でも特定の電子データを“いつ誰が作成したのか”を電子的に記録し、証明することは既に可能となっていますから、電子スタンプのような形でオンライン上の電子データに印鑑を押すこともできるのです。」
ふたりはこう熱く語りながらも冷静さは忘れない。
CEOの豊吉氏は最後に以下のように補足した。
「もちろん、紙やハンコが文化として根強く残る日本では、電子書類があたり前の状況になるにはまだまだ時間がかかるでしょう。ただ、長期的に見てそういった時代は必ず来ると思っているし、Misocaがそれの流れを加速させるきっかけになりたいと思っています。
僕達が今、請求書管理サービスを提供しているのはいずれ来る電子データの世界のための土台づくりです。電子化が進むと行っても、ある日突然、みんなが紙の使用を辞めるわけではありません。まずは請求書や見積書、納品書をクラウドで管理するようになってもらう。次に、WEB請求書や領収書を利用してもらい、請求書や領収書といった書類を電子データで扱うことに慣れてもらう。そして、最終的には契約書も含めて重要書類はオンラインで作成し、保存する世界を実現していきたい。今、みなさんのオフィスのキャビネットや倉庫に保管されている重要書類が全てクラウドで管理され、ビジネスシーンからから必要最小限の紙以外すべての紙が無くなってしまうのが僕達の理想です。」
Misocaはどこまで世界をシンプルにしていくのだろうか。
Misocaが描くペーパーレスの世界は今日も少しずつ近づいている。
(終)
クラウド請求書管理サービス Misoca(みそか)