BIG4監査法人の中でかなりアドバイザリー業務に力を入れているのは、PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)だろう。PwCあらたの業務収入のうち、アドバイザリーによるものは約50%を占め、BIG4監査法人の中では群を抜く。
そんなPwCあらたが、2022年7月にアドバイザリー部門を再編する予定だという。
これまでの業種別の組織から、その垣根を取り払った、新「財務報告アドバイザリー部門」。総勢400名の規模を誇る、業界最大級のアドバイザリー部門になりそうだ。
今回、その詳細と、PwCあらたでの公認会計士の新たなキャリアモデルに迫った。
目次
- 事業会社、金融、IPOの3部門を統合、「新・財務報告アドバイザリー」へ
- 変わるクライアント、消える業種の垣根、クライアントが真に求めるソリューション提供へ
- 大手監査法人の公認会計士も総合的なソリューションを提供できる時代に
- “メンバーセントリック”でCFOの課題をすべて解決できる組織へ
- PwCあらたのFRAでは公認会計士・USCPAを積極採用中!
事業会社、金融、IPOの3部門を統合、「新・財務報告アドバイザリー」へ
PwCあらたの2大アドバイザリー部門と言えば、FRAの呼称で知られる、2つの財務報告アドバイザリー部(Financial Reporting Advisory)だ。
製造・流通・サービスといった業界を担当する「MDS FRA」(製造・流通・サービス 財務報告アドバイザリー部)、そして金融業界を担当する「FS FRA」(金融 財務報告アドバイザリー部)があり、それぞれが専門とする業種に対して、財務報告や内部統制など会計関連のアドバイザリーサービスを提供し、CFOの課題解決を支援してきた。
今回、その2部門が統合され、上場支援を担う「IPOソリューション部」が加わり、計3部門を1つにした総勢400名のアドバイザリー部門が誕生する予定だという。
統合される新たな部門の名称は今までの呼称を継承し、財務報告アドバイザリー部(Financial Reporting Advisory/以下、FRA)。新生FRAとして新たに生まれ変わることになる。
新たなFRAでは、8つのソリューションを提供する。
監査法人が得意分野とする会計アドバイスや決算支援、内部統制の支援に留まらず、M&A会計やIPOの支援、そしてESG&サステナビリティ、デジタル&テクノロジー、トレジャリーと幅広い。
これらは従来のMDS FRAや、FS FRAでも提供していたソリューションでもあるが、この統合によって業種の垣根を超えて提供できるようになり、また、IPO関連のソリューションも含めてクライアントのニーズにワンストップで応えることができるようになる。
変わるクライアント、消える業種の垣根、クライアントが真に求めるソリューション提供へ
監査法人に限らず、プロフェッショナルファームの組織はその規模が大きくなるにつれて、業種やサービスに特化をした専門部門へと細分化されていくのが一般的だ。
今回のPwCあらたの再編計画は、それぞれの専門領域を有する3部門を1つに統合するという、従来とは真逆の動きに見えるが、その真意はどこにあるのか?
財務報告アドバイザリー部の代表に就任予定の長沼宏明 氏(金融 財務報告アドバイザリー部 パートナー)は、部門統合の背景について「クライアントのニーズに向き合った結果」と語る。
長沼 宏明
PwCあらた有限責任監査法人
金融 財務報告アドバイザリー部
パートナー
1998年、中央監査法人国際部に入社。その後、あらた監査法人(現、PwCあらた有限責任監査法人)に移籍。2007年~2009年、PwC米国法人のニューヨーク事務所に赴任し日本への帰任後は、それまでの会計監査からアドバイザリー業務にキャリアチェンジ。現在は金融機関に対し、IFRS対応や決算プロセス効率化など、大規模アドバイザリープロジェクトを提供している。
PwCあらたでは、製造・流通・サービス業を専門とするMDS FRA、金融業界を専門とするFS FRA、そしてIPOソリューション部がそれぞれ独自に成長を遂げて、当法人のアドバイザリーサービスを牽引してきました。
ですが、時代の変化とともに、法人の内と外の2つの視点から、現在の形が最適ではなくなりつつあると感じました。法人外部への視点としては、お客様の業種の垣根が無くなってきているため、各業種の専門家が一体となってサービスを提供する必要性が高まっているという課題が挙げられます。
そして、法人内部への視点としては、人財やデジタルソリューションへの投資といった、経営資源を集中する必要性が高まっているという課題が挙げられます。これらの課題に対して、部門を統合することで経営資源をより効率的に活用でき、かつ、お客様にとっての付加価値も高められ、法人全体が目指す方向性にも合致するということで、今回の再編へと至りました(長沼宏明 氏)
PwCあらたの設立と同時期に立ち上げられたMDSとFSの2つのFRA部門も、今や15年の歴史を有する。その間、日本企業を取り巻く環境は大きく変化した。当時は合理的であった業種別でのサービス提供が、そうなくなりつつある。
通信や小売業界が金融業に進出したり、多くの伝統的日本企業がCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を設立し、スタートアップ投資に乗り出したりするなど、企業活動における金融と非金融の垣根は確実になくなりつつある。
「非金融業と金融業の両方を行っている企業をMDSとFSのどちらの部門が担当するのか?お客様の業種の垣根がなくなっているのに、こちら側が業種に垣根を作っている意味はなくなってきています。さまざまな業種のプロフェッショナルが一体となりソリューションを提供できるようになることは、お客様にとってもさらなる付加価値となるでしょう」と長沼氏は語る。
また、PwCあらたにとっても、今回の部門統合による効率化のメリットは大きい。
元々グローバルなプロジェクトを得意とするPwCあらたであるが、最近はグローバルな大規模プロジェクトの支援要請がかつてないほど増加している。今回の統合によって多様なプロフェッショナルが集結し、また人財のプールも大きくなるため、より大規模なプロジェクトに柔軟に対応できるようになり、社会に大きなインパクトを与えられるようになる。
また、クラウド、AI、DXと言った、ここ数年で大きくマーケットが拡大したデジタルソリューション分野においては、投資をしながら新サービスやツールを開発・拡大していく必要があるが、部門が分かれていたため「ゴールが同じにも関わらず、各部署がそれぞれで取り組む形になっていた」という。ソリューション開発への投資に関しても、資金とナレッジを集約し、より効率的に行えるメリットは大きいと言えるだろう。
これまでも部門間での連携は積極的に行っていましたが、案件の特性やご相談を頂くタイミングによっては連携しきれなかったものもありました。また、私たちが把握していないところで、連携まで至らなかったケースもあったのではないかと思います。
今回の統合を通じてそういった部分もカバーできるようになり、お客様のニーズにもよりきめ細かく応えていくことができます。(長沼宏明 氏)
大手監査法人の公認会計士も総合的なソリューションを提供できる時代に
新・FRAで得られる新たな会計士のキャリア
今回の統合で意識されているもう1つの大きな要素が、PwCあらたに所属する公認会計士たちのキャリアだ。
従来の大手監査法人では、各部門が特定の業種やサービスに特化していたことから、そこで働くメンバーが経験の幅を広げるには、異動や転職が必要だった。
しかし、今回の統合プロジェクトを牽引した中瀬 智治氏(現・金融 財務報告アドバイザリー部 パートナー)は、「FRAでは、従来の大手監査法人では見られなかった総合的なキャリア形成の機会を提供できます」と胸を張る。
中瀬 智治
PwCあらた有限責任監査法人
金融 財務報告アドバイザリー部
パートナー
2001年中央青山監査法人金融部に入所。あらた監査法人(現、PwCあらた有限責任監査法人)に移籍後は会計監査とアドバイザリー業務を両立していたが、財務報告アドバイザリー部設立と同じくしてアドバイザリー業務にシフト。
現在は、財務報告に係る内部統制(SOX)関連業務、リスク管理/コンプライアンス高度化業務、内部監査支援業務を主たるフィールドとし、金融機関を中心に国内外幅広い会社に業務提供している。
新たなFRAでのキャリアの特長は、「多様な業種やソリューションに関与しながらキャリアを広げていくことができる」という点だ。業種やサービスラインで区切られた部門間の垣根がなくなったことで、異動の手続きを経ることなく、プロジェクトへのアサインベースでさまざまな経験を積んでいくことができる。
新たなFRAでは、1つの部門にさまざまな業種、かつ、多様なソリューションがあるため、同じ部門にじっくりと腰を据えながら、プロフェッショナルに必要な多様な経験を積んでいくことができます。
もちろん、例えば「金融業を専門にしていきたい」など、従来のように特定の専門分野に特化したキャリアプランをとることも可能です。
FRAでは、既存のメンバー、新たに入社してくるメンバーのいずれにも、一人一人、どういった業種やどういったソリューションを担当していきたいか、そして、どういったキャリアを形成していきたいかをヒアリングしながら、アサインを調整していく方針です。(中瀬智治 氏)
会計や内部統制を基礎に、多様なキャリアを受け入れる
今回の統合に当たって、FRAは自社のメンバーのキャリア形成も重視している。実際、今回の発表がサプライズとならないよう、パートナーが分担して対象部門の全メンバー一人一人に事前に説明を行ったほどの力の入れようだ。
「400名規模の組織になることで、メンバーにとって新たにどんな機会が生じ、どうキャリアの可能性が広がるのかを、これからさらに伝えていきたい」と中瀬氏は語る。
世の中がかつてないスピードで変化し、公認会計士のキャリアも多様化する現在、異動や転職を経ることなくさまざまなプロジェクトに関与し、専門家としての総合的な知見を高めていけるFRAでのキャリアは、魅力的な選択肢の1つと言える。
「会計の専門家としてじっくり腰を据えて専門性を高めたい人、幅広い経験を積みたい人、経営者やCFOと同じ目線でソリューションを提供することに魅力を感じる人など、さまざまな志向を持った人材が活躍できる場にしたい」と、中瀬氏は新たなFRAについてそう語る。
公認会計士には、監査人として企業を外部から評価する専門性を高めたい人もいれば、会計や内部統制のプロフェッショナルとして企業を内部から支える専門性を高めたい人もいると思います。
FRAには多様な業種に適した多様なソリューション、多様なプロジェクトがあるため、いずれを希望する方に対しても、自身が見据えるキャリアのゴールに向けて、じっくりと経験を積んでもらえる場を提供できます。
例えば、会計の専門家としての知見をより深めるために、自分で仕訳を切る経験をしてみたい、または会計システムのセットアップをしてみたいと考える人には、クライアントの経理部門で一緒に手を動かして会計実務を支援するプロジェクトや、決算の早期化や会計システムの入れ替えを支援するプロジェクトがあります。
また、PwCのグローバルネットワークを活かしたグローバルオファリングや、海外市場への上場支援といったIPOプロジェクト、グローバルキャッシュマネジメントのようなトレジャリー関連のプロジェクト、これからの企業経営には必須であるデータマネジメント関連のプロジェクトなど、会計、内部統制だけではない、より総合力が求められるプロジェクトを経験できる機会もあります。
会計アドバイスにじっくりと取り組みたい人はそれも良し。積極的に新しいことにチャレンジしたい人にはエキサイティングな環境で働いてもらうのも良し。FRAに来ていただければ、皆さんなりの『今やりたいこと』が見つかるのではないかと思います。(中瀬智治 氏)
“メンバーセントリック”でCFOの課題をすべて解決できる組織へ
好きなことや得意なことを伸ばす“メンバーセントリック”の理念
アドバイザリー部門として業界最大級の規模を誇り、総合的なソリューションの提供が可能になるFRAは、今後の計画ではさらなる増員も視野に入れている。
400名規模からさらに多くのメンバーを採用するとなると、拡大がハイペースに感じられるかもしれないが、PwCあらたではこの数年で中途採用を加速しており、直近の3年間だけでも統合する3部門合計で相当数のメンバーを採用している。
そして、その過程で、メンバーを円滑に受け入れ育成していくためのノウハウもブラッシュアップされてきている。
コンサルティング未経験者向けの1週間の基礎研修、専門分野ごとの研修、語学研修といった各種トレーニング、現場への配属後のOJT、メンバー同士の人間関係を円滑にするための入社直後のウェルカム・ランチやフォロー・アップ・ランチなど、アドバイザーとしてのキャリアをスムーズにスタートするための大小さまざまな施策が用意されている。
そして、これらを土台に、メンバーの希望を踏まえながらアサインを調整し、実務を通じて人を育てていく。
FRAでは、『メンバーセントリック』(=メンバーの好きなことや得意なことを伸ばす)という理念を大切にしています。
まずは会計や内部統制といったベースとなる分野からキャリアを積む。そしてその先では、興味のある業種やソリューションへと広げていく。もしくは、プロジェクトマネジメント、グローバルな案件、営業など、自分自身の得意なところを磨く。
それぞれの希望する方向へとキャリアをストレッチさせて、専門性を伸ばせるような働き方を実感しながら、キャリアを形成していってもらいたいと考えています。
お客様とチームに貢献できる特技を極めると、仕事が楽しくなりますし、そういうメンバーの集合体が組織として一番強いと思っています(中瀬智治 氏)
グローバル企業のCFOの課題をすべて解決できる組織へ
監査法人業界最大級のアドバイザリー部門として新たなスタートを切る予定のFRA。
そんなFRAが目指すのは「グローバル企業のCFOの課題をすべて解決できる組織」だ。
CFOは、経理・決算や予算管理などの日常業務を適切に運営することに始まり、M&Aや資金調達など特別なイベントにも責任を持つなど、そのミッションは非常に幅広いです。さらにはESGが社会の重大アジェンダとなる中、その職責であるIR対応の重要性も増してきています。
また、CFOは社内では番頭やご意見番としての役割も期待されており、経済社会のグローバル化、デジタル化という大きなトレンド、さらには予想もしなかった環境変化にも、全社の目線で対峙しなければなりません。
そういったCFOが抱える課題にともに向き合い、解決していくことで、FRAのメンバーにも自然とCFOと同じ目線が養われていきます。そして将来的には、FRAからグローバル企業のCFOとしての視点を持った人材を育てていければと考えています。
これは、156カ国にグローバルネットワークを持つPwCあらたで、そして400名を超える大規模のアドバイザリー部門となる私たちの、社会的使命でもあると考えています。(長沼宏明 氏)
会計・財務・ガバナンス・デジタル&テクノロジーなどの領域に、グローバルをかけ合わせ、CFOが直面する課題の解決を支援していく。
遠くない将来、業種の垣根を越え、多様なソリューションを経験した、新たなキャリアを有する公認会計士たちが生まれてくるだろう。新生FRAの今後に期待が募る。
PwCあらたのFRAでは公認会計士・USCPAを積極採用中!
PwCあらた有限責任監査法人の財務報告アドバイザリー部(FRA)では、公認会計士やUSCPA(米国以外の海外の会計士も含む)を積極採用中です!
すぐ応募してみたい方はもちろん、「まだ応募するほどではないけど、財務アドバイザリー部での仕事が気になる…」という方も気軽に参加できるカジュアル面談やセミナーも随時受付けています。