2019年1月1日~12月31日までの監査法人IPOランキングをまとめました。
2019年のIPO総数86件を担当した監査法人を『IPO件数』『時価総額』『騰落率』の3つの指標でまとめてあります。
⇒2018年以前のランキング・その他監査法人関連ランキングはこちら
【注記】
優成監査法人は2018年7月2日に太陽有限責任監査法人(以下、太陽監査法人)と合併を行っております。2017年以前の優成監査法人のIPO実績は優成監査法人として集計し、2018年分は太陽監査法人に含めて集計しています。
IPO件数ランキング
EY新日本が2年連続の首位に。2位トーマツ、3位あずさもEY新日本と僅差
まずはIPO件数でのランキングです。
IPO件数ランキング
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※鞍替え、指定替え、TOKYO PRO MARKETを含まないランキングです。
IPOの総数は86件となり、前年と比べて減少しています。
そのような中、IPO件数では、EY新日本監査法人が昨年から引き続き首位になりました。EY新日本監査法人も昨年と比べて7件減少していますが、トーマツは昨年と同数、あずさは昨年から減少しているため、僅差で首位になった形です。
また、昨年3位の監査法人トーマツが2位に浮上し、あずさは3位に後退しました。
四大監査法人のシェアは約1割減
IPO件数を監査法人の規模別で比較すると、四大監査法人がシェアを減らし、準大手監査法人、中小監査法人がシェアを増やした構図が見えてきます。
四大監査法人に関しては、前年と比較して、
- EY新日本監査法人:22件(対前年-7件)
- 監査法人トーマツ:21件(対前年±0件)
- あずさ監査法人:19件(対前年-6件)
- PwCあらた監査法人:5件(対前年+2件)
と合計で11件のマイナスとなっています。
また、準大手監査法人の実績を前年と比べてみると、
- 太陽監査法人:8件(対前年+1件)
- BDO三優監査法人:4件(対前年+3件)
- 仰星監査法人:2件(対前年+2件)
- 東陽監査法人:0件(対前年-1件)
- PwC京都監査法人:1件(対前年±0件)
と5件のプラスとなっております。太陽監査法人は毎年実績を伸ばし、あずさに続き第4位となっています。
中小監査法人に関しては、前年と比べて2件のプラスになっています。
- 監査法人A&Aパートナーズ:2件(対前年+1件)
- ひびき監査法人:0件(対前年-1件)
- 大有監査法人:1件(対前年+1件)
- 海南監査法人:1件(対前年+1件)
大手監査法人が減少した一方で準大手監査法人と中小監査法人が増加していますが、中小監査法人よりも準大手監査法人の方がより増加しています。
ここで、2013年から2019年までの監査法人規模別シェアの推移を見てみましょう。
監査法人の規模別のIPO件数割合
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※大手(EY新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらた)、準大手(太陽、BDO三優、東陽、仰星、PwC京都)、その他を中小として分類しています。また、BDO USA, LLPは、準大手監査法人に含めて集計しています。分類の定義は検査結果事例集(公認会計士・監査審査会 平成30年7月付)に基づいています。
7年間の推移を見ると、大手監査法人については7年間で最もシェアを減らしており、減少傾向にあることが分かります。
一方で、準大手監査法人はここ数年でシェアを増加させています。
中小監査法人に関しては、年によりやや波がありそうです。
もともとIPO監査はEY新日本、トーマツ、あずさの3法人による寡占状態でしたが、2017年の夏頃から、これら大手監査法人がIPO準備企業を中心に新規の監査契約を控える動きがありました。その流れを受けて、PwCあらたや準大手・中小監査法人と契約するIPO準備企業が増えて、2年経った2019年になり、影響が表れてきたようです。
IPO件数の勢力図、トーマツは減少傾向
次にIPOの件数とシェアを過去3年分のデータで比較してみましょう。
四大監査法人のIPO件数とシェアを2017年から2019年で比較すると以下のとおりです。
まずは件数の変動から。
四大監査法人クライアントのIPO件数比較(3ヶ年比較)
2017年と2019年で比較するとIPOの総数は90件から86件へと、4件のマイナスとなっています。
また、四大監査法人のIPO件数も、2017年の71件から2019年の67件へと、同じく4件のマイナスとなっています。
監査法人ごとの3年間の増減を見ると、EY新日本とトーマツが件数を減らした一方で、あずさとPwCあらたが伸びている様子が分かります。
また、7年間の推移は以下の通りです。
四大監査法人クライアントのIPO件数の推移(過去7年間)
過去7年間で見ると、四大監査法人のIPO総数は、2013年の46件から2019年の67件へと1.5倍に増加しています。
そのような中、EY新日本監査法人の件数が、2013年の6件から2019年には22件となっており、大きく実績を伸ばしている点が特筆されます。他方、2013年当時はIPOと言えば監査法人トーマツひとり勝ちというイメージがありましたが、近年ではそのような傾向は見られなくなっています。
四大監査法人のシェア比較(3ヶ年比較)
次に四大監査法人のシェアを見てみましょう。
四大監査法人のシェア合計は、2018年に増加しましたが、2019年には再び2017年と同水準となっています。各法人のシェアは、2017年は監査法人トーマツがトップでしたが、2019年はEY新日本、トーマツ、あずさの3法人が同程度となっています。
太陽とPwCあらたのシェア増大、IPO監査は「五大監査法人」の時代となるか!?
また、ここ4年間、安定して6~8件の実績を出している太陽監査法人、そして、徐々に件数を増やしているPwCあらた監査法人にも要注目です。
前述の四大法人の件数実績に太陽監査法人を加えた上位5法人の実績は以下のようになります。
太陽監査法人を含めた五大監査法人のIPO件数比較(3ヶ年比較)
過去4年の実績においても、太陽監査法人は6~8件で件数を安定させてきている点が読み取れます。
また、太陽監査法人を含めた5法人のIPO件数の推移を7年間で振り返ると以下になります。
太陽監査法人を含めた5法人のIPO件数の推移(過去7年間)
※上記のグラフに関して、2017年以前の太陽監査法人の実績には優成監査法人のIPO実績は含まれておりません。
太陽監査法人は、2019年は昨年と比べて1件の増加ではありましたが、今年はIPOの総数が昨年より減少した中での1件増加であり、安定して4位をキープしています。また、PwCあらた監査法人も増加傾向にあります。
2020年も太陽、PwCあらたの2法人はこのペースで実績を伸ばすでしょうか。太陽監査法人の実績が2桁にのってくる可能性もありそうです。今後のIPOマーケットでも要注目の2法人と言えるでしょう。
時価総額(初値)ランキング
あずさが首位。トップの時価総額は昨年の15分の1に減少
次に初値時価総額での比較です。
初値時価総額の合計額でのランキング
監査法人別の初値時価総額の順位は、1位あずさ、2位トーマツ、3位EY新日本の順となっています。昨年3位のあずさが首位になりました。
IPOの件数ではあずさは3位でしたが、時価総額でトップになった点が注目されます。
あずさ監査法人が1位になった要因は、2019年時価総額1位のSansan株式会社(初値時価総額142,478百万円)と2位フリー株式会社(同116,600百万円)の両方をあずさが担当していたことが挙げられます。いずれも業界注目のスタートアップ企業であり、その2社の監査契約を勝ち取ったあずさの監査チームの大きな実績と言えるでしょう。
昨年はソフトバンク株式会社が初値時価総額7,003,593百万円で上場したほか、株式会社メルカリや株式会社MTGなど大型の上場がありましたが、今年はそれほど目立つ案件はありませんでした。そのため、昨年トップの監査法人トーマツの初値時価総額7,716,936百万円と比べると、今年トップのあずさの初値時価総額は約15分の1に止まりました。
では、次に時価総額の平均(1件あたりの初値時価総額)ランキングを見てみましょう。
初値時価総額の平均額でのランキング
トップは、PwCあらた監査法人です。初値時価総額でトップのあずさ監査法人が2位となっています。
PwCあらた監査法人は、IPO件数は5件しかありませんでしたが、うち2件が初値時価総額3位の株式会社JMDC(初値時価総額101,562百万円)と、8位の株式会社アンビスホールディングス(同46,860百万円)でした。この2件で、PwCあらた監査法人の平均額が押し上げられた形です。
初値騰落率ランキング
騰落率ではEY新日本監査法人が1位!
では、最後に監査法人ごとの初値騰落率の平均を見てみましょう。
騰落率の平均(1件あたり騰落率)でのランキング
※クリックすると拡大します。
※騰落率の平均=騰落率の合計/IPO件数で算出しています。
初値騰落率の平均では、EY新日本監査法人が94.14%で1位となり、2位にトーマツが84.21%で続いています。
EY新日本監査法人に関しては、担当した株式会社ウィルズが372.40%と初値騰落率で1位だったことが影響しています。
ちなみに2018年のIPOにおける初値騰落率の1位はHEROZ株式会社で、驚異の988.89%でした。2019年は平均的な印象を受けます。
2019年のIPOマーケット、監査法人の勢力図はどうなる?
2019年の件数ランキングでは、EY新日本監査法人が1位となり、四大監査法人のシェアは昨年と比べて1割ほど減少しました。また、四大監査法人のIPOシェアの減少分を、準大手監査法人と中小監査法人が引き受ける結果になりました。
昨今、大手監査法人の人員不足の影響などから、IPO監査を受けられないIPO難民となるIPO準備企業が増えているという話も聞こえています。
通常であれば、大手監査法人に引き受けてもらえない場合には、準大手や中小監査法人に監査を依頼すれば問題はないのですが、そこが進まない原因のひとつに主幹事証券会社の意向があります。大手を中心に一部の主幹事証券会社は、担当するIPO準備企業が、大手以外の監査法人やIPO実績のない監査法人と監査契約を行うことに難色を示すためです。
この1~2年でIPO監査の準大手・中小監査法人シフトが進んできたことによって、IPO実績を持つ監査法人が増えてきましたので、主幹事証券の方針に良い影響が出れば、IPO難民となる企業の減少につながるかもしれません。
また、来年以降に影響を及ぼすトピックスとしては、2019年12月24日に金融庁が東京証券取引所の市場改革に関する報告書案を公表しており、2022年上半期から東証の市場区分を現行の4市場から3市場へと再編したり、新1部市場の上場目安が流通時価総額100億円以上になる基準が適用する方向へと、検討が進められています。
これらIPOを取り巻く環境変化の兆しを受けて、2020年以降のIPOマーケットや監査法人ランキングはどのような結果になるでしょうか?公認会計士ナビでは継続してウォッチしていきます。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)
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