第9回:クライアント管理をどのように行うべきか?【会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント】

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みなさん、こんにちは。東京共同会計事務所の窪澤と申します。
今回は、会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイントの第9回として、「クライアント管理」についてお話しさせていただきます。

これまでの記事はこちら →シリーズ:会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

著者

東京共同会計事務所
税理士/マネージャー
窪澤 朋子

上智大学外国語学部卒業
平成15年税理士登録。前職の鳥飼総合法律事務所で、14年にわたり、税務訴訟及び税賠訴訟の補佐人・不服申立の代理人を務める。主な担当事件に、ストック・オプション事件、ガーンジー島事件、グラクソ事件、外国籍孫事件等。
税賠案件では、税賠訴訟の他、税理士紛議調停・訴訟前の交渉等、多数の案件に関与。税賠保険事故調査書のレビュー経験あり。
著書に、「税理士の専門家責任とトラブル未然防止策」(清文社・分担執筆)等。

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クライアントの情報はいろいろ

クライアントに対しては、定期的に訪問したり、帳簿のチェックを行ったりするだけでなく、日々様々な相談を受けて、これらに対する回答を行います。「質問⇒回答」で終わることもあれば、後日、その質問が税務申告書を作成する際に必要な情報となったり、新たな提案事項やプロジェクトにつながったりすることもあります。

税務申告に限っていえば、過去の申告書や届出書一式、申告書作成時の作業ファイル、会計データ一式があればよいかもしれませんが、何年も前の「質問⇒回答」が相続対策の提案に生きてきたり、税務調査で問合せを受けたりとなる場合もあります。このように、申告業務につながらないやり取りであっても、時系列順に保管しておいたほうが、後々細やかなアドバイスを行うことができます。

この何気ないやり取りが、後に税賠に発展することも残念ながらしばしばあります。「たしか昔にこんなアドバイスをされたつもりだったけど?」というクライアントの思い込みは、言った、言わないの水掛け論につながりやすいですし、明らかに受任業務対象外にも拘わらず善かれと思い行ったサービスに誤りがあり損害賠償請求を受けることもあるのです。

多元的な情報の管理の方法

顧問契約を締結しているクライアントからは、毎年の法人税申告書作成や個人の確定申告書作成を受任しているケースが多いことと思います。また、日常のやり取りの内容は、法人税申告書作成に必須の情報と、そうではない情報とに分かれます。法人税申告書の作成に必要な情報であれば、当該事業年度の申告書作業ファイルへファイリングすることになりますが、面談や電話で得た情報と申告書作業用のファイルとは、別に管理するほうがわかりやすいと思います。
クライアント訪問時の作業内容や面談記録は、クライアント別のファイル、データフォルダ内への格納、あるいは会計事務所向けのグループウェア内のクライアント管理のツール等で永年保存するのがよいでしょう。また、メールも、PCの破損を踏まえてバックアップを取っておくなど、消去・破損等のリスクに対応出来る管理をしておくことが望ましいです。

情報の保管期間

税賠が起きるタイミングは、直近の申告書作成に係るものだけではありません。3年前の相談に係るもの、15年前の相続対策に係るものという場合もありえます。15年前に行われたコンサルティングであったとしても、コンサルティングに関連する相続が発生したのが1年前であれば十分に税賠リスクはあるのです。
会計帳簿の保管期間は、税務上は原則として7年、会社法上も10年とされていますが、税賠リスクを考えると、クライアントとのやり取りやスキームの提案に関する資料については、7年又は10年という期間を区切って廃棄するのではなく、永年保存することが望まれます。
また、同様に、顧問契約が既に終了している場合であっても、コンサルティングに係るファイルやメールの保存を継続しておくことが望ましいということになります。

担当者交代・退職の場合の情報へのアクセス

担当者がきちんと情報を管理していても、担当者が交代している場合、既に退職している場合などは、なかなか目的の情報にアクセスできないことがあります。
このようなことを防ぐために、ファイリングの方法やデータの保存場所は、担当者各人に任せるのではなく、事務所内・部署内で一定の方法を定め、全員で当該方法に従ったファイリング・保存を行うことが非常に重要と思われます。
また、ファイリングや格納された情報を見てすべてが把握できることが最善ですが、場合によっては、情報にアクセスできたとしても、当時の詳細な事情までは判明しないこともあります。このような場合には、退職した元担当者へ連絡がつくかどうかで、トラブルの解決の行方が左右されます。したがって、退職者への連絡手段をきちんと確保しておくことも、トラブルが発生した場合にスムーズに対応できるコツとなります。
私たちの業界は意外と狭い業界ですので、転職後もお互いにかかわりが生じる可能性は高いように思います。転職した元担当者に対して、円満な関係の継続、完璧な引継ぎ、そして情報のまとめを依頼できる環境にあれば、万一のことが発生しても慌てずに済むはずです。

【今回のポイント】

  • クライアント管理は、申告書作成ファイルとは分けて保管を
  • 面談記録、メールのやり取り、作成した文書などあらゆる情報をわかりやすく保存

次回に続く

第10回はこちら

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記事引用元:【第9回】会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント:クライアント管理をどのように行うべきか? | 東京共同会計事務所求人・採用サイト

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