2024年の監査法人IPOランキングをまとめました。
同年のIPO総数86件を、担当監査法人ごとにまとめています。
⇒2024年以前のランキング・その他監査法人関連ランキングはこちら
注記
※監査法人の規模別の集計においては、大手(EY新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらた)、準大手(仰星、BDO三優、太陽、東陽、PwC京都)、その他を中小として分類しています。分類の定義は「監査事務所検査結果事例集(令和5事務年度版)」(公認会計士・監査審査会 令和5年7月付)に基づいています。なお、記事中は「大手」または「四大」と記載しています。また、外国監査法人に関しては、国内の提携監査法人の規模に準じて分類し集計しています。(例:KPMG LLP、EY LLP→大手監査法人、BDO USA, LLP→準大手監査法人)
※個々の監査法人の実績に関しては、外国監査法人は個別の法人として取り扱い、提携監査法人の実績には含めずに集計しています。
※優成監査法人は2018年7月2日に太陽有限責任監査法人(以下、太陽監査法人)と合併を行っております。2017年以前の優成監査法人のIPO実績は優成監査法人として集計し、2018年分以降は太陽監査法人に含めて集計しています。
※PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた監査法人)は2023年12月1日にPwC京都監査法人と合併し、名称をPwC Japan有限責任監査法人(英語名:PricewaterhouseCoopers Japan LLC)に変更しています(PwCあらた監査法人が存続監査法人)。同日以前のPwC京都監査法人のIPO実績は同社の実績としてカウントし、2023年12月1月以降はPwCあらた監査法人に含めて集計しています。
調査史上初! BIG4以外が1位を獲得
まずは直近3年間の監査法人別IPO件数ランキングを見てみましょう。(図1)IPO件数ランキング
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※鞍替え、指定替え、TOKYO PRO MARKETを含まないランキングです(以下同様)。
※以下、本文・図中の「有限責任監査法人」「監査法人」は一部を除き省略します。
2022年(91件)から2023年(96件)にかけて5件増加していたIPOの総数は、2024年は86件と、前年比10件の減少となりました。86件という数字は2019年依頼(図3参照)の水準となっています。
そしてなんと!2024年のIPO件数1位に輝いたのは、太陽有限責任監査法人です。準大手がトップとなるのは、公認会計士ナビが集計を始めた2013年から始めての出来事です。
シェアを下げていた大手がわずかに回復。要因は?
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※外国監査法人に関しては、国内の提携監査法人の規模に準じて分類し集計しています。(例:KPMG LLP、EY LLP→大手監査法人、BDO USA, LLP→準大手監査法人)
図2は監査法人の規模別IPO件数割合を示しています。元々大手監査法人のシェアは8割程度の水準で推移していたものの、2018年の86.7%からその割合は低下。その分、準大手と中小は共に存在感を増していました。
しかし2023年から2024年にかけては大手が47.9%から50.0%と微増しています。中小も16.7%から23.3%と躍進しました。その分シェアを落としているのが準大手です。
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※2017年以前の太陽監査法人の実績には優成監査法人の実績は含まれておりません。
しかし準大手の中の最大手である太陽の今年のIPO取扱いは14件。前述の通り、2位のEY新日本13件と肉薄しながらも2024年の1位に輝きました。
また、準大手全体のシェアが落ちている最大の要因は、2023年に9件あったPwC京都がPwCあらたに合流し、大手でカウントされているPwC Japanに集計されている影響です。それもあり、PwC Japanは2023年から2024年にかけて4件→10件と件数を伸ばしています。
なお、2位のEY新日本は昨年から1件減少の13件。トーマツ、あずさ、PwC Japanは10件で同率3位となりました。トーマツとあずさも昨年から件数を減少させています。
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図4でIPOシェア推移を追ってみると、2024年の四大監査法人各社のシェアは、PwC Japanが合併の影響もありその割合を増しているものの、他3社は各社ともこの13年で最低に近い水準でした。逆に太陽は2023年・2024年と順調にその割合を上げています。
改めて図2で大手監査法人全体で見てみても、そのシェアは2018年を境に右肩下がりとなっており、2023年には50%を割っていました。過去11年間で最も低くなっています。本記事では2013年以降のデータのみ集計していますが、おそらく過去最低のシェアとなっていたかと思われます。
とはいえ2024年は前述したPwC Japanの誕生もあり、シェアを少々回復させました。しかし中小の躍進は続いており、翌年以降も同様の傾向となるとは限りません。
なお、中小の躍進にはIPOを専門とする監査法人の登場も見逃せないでしょう。
【参考記事】 |
2025年もこのまま準大手・中小が存在感を増すか!?しかし、大手や東証にも動きが…
昨年の本特集で、2024年にはPwC Japanが合併後、初めてIPOランキングに登場することがひとつのトピックだと挙げましたが、結果的に同社は太陽、EY新日本に継ぎ、トーマツ・あずさと同率3位となりました。
また2020年頃から存在感を増していた準大手・中小から、太陽がトップになったことは、2024年最大のトピックと言えるでしょう。2025年も準大手・中小の拡大傾向は続くのでしょうか。
とはいえ、大手も手をこまねいているわけではありません。あずさは2024年1月にIPO監査関与先にかかる訂正監査の発生をゼロとすることをミッションとして「IPO統轄部」を新設し、トーマツは6月に「IPO監査事業部」の設置を発表しました。IPO監査での存在感を増そうとしている様子が窺えます。2024年は同率3位だった両社は翌年以降はトップ争いに加われるでしょうか。
さて、全体としてIPO件数は前年の96件から86件へと10件の減少(▲10.4%)しました。政府がスタートアップ育成5か年計画などでスタートアップを盛り上げようとしている中では、寂しい結果だと筆者は感じています。単にIPOの件数が多ければいいというわけではありませんが、2025年以降の増加に期待です。
ところで、数年前から大手監査法人がIPO監査の受託を控えているにも関わらず、IPO件数自体は増加し、IPOを目指すにも監査法人が見つからない監査難民問題が発生していました。その受け皿として2018年以降は、準大手監査法人のシェアが拡大。その後、今度は準大手監査法人のシェア拡大のペースが鈍化し、2021年以降は中小監査法人のシェアが拡大しました。現在までその傾向は続いています。
また大手監査法人の中には、利益率の低いIPO監査の割合を減らし、上場企業の監査に重点を置く会社もあると伝え聞きます。シニア以下の人手不足もシェア減少の一因となっており、短期的な問題解消は難しいでしょう。2025年も中小監査法人のシェア拡大は続くかもしれません。
また東証は12月に「グロース市場における今後の対応」と題した資料を発表しました。この中では上場基準の引上げに言及されていたり、「合従連衡」「M&A」という言葉が何回も登場したりしています。すぐに制度が変わるというわけではないでしょうが、この流れが中長期的にはIPO市場にも何かしらの影響を与えるかもしれません。
これらの状況は、IPOマーケットや監査法人ランキングにどのような影響を与えるでしょうか?公認会計士ナビでは継続してウォッチしていきます。
なお、公認会計士ナビチャンネルでは、IPOとM&A支援を生業とし、「アドレナリン会計士」の異名を取る江黒崇史さんをゲストにお迎えして、2024年度のIPO市場と2025年の予想についての動画を配信しています。
(執筆:pilot boat 納富隼平)
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