証券化分野におけるトップファームである東京共同会計事務所。
その所内で証券化に関するアドバイザリーやSPC管理を担当しているのがフィナンシャル・ソリューション部(FS部)だ。そのFS部はどのようにして、証券化・SPC分野における専門性を発揮しているのか。その裏側を解説する。(全3回のうち3回目)
FS部は、ミッションごとに分かれた複数のチームにて構成されているが、最終回の今回は、複数に分かれるFS部内のチームの中から、バックオフィスサービスグループ 資金チーム(資金チーム)を紹介する。
資金チームは「計算チーム」と「支払チーム」から構成されている。SPC管理をワンストップで担うFS部において、資金チームの役割は、各SPCの複雑な契約書を読み解き、資金の入出金のタイミングを明確化、資金の支払いまでを担うキャッシュマネジメントだ。裏方としてSPCの管理を一括して請け負うFS部を、さらに影から支える重要な存在だと言えるだろう。
今回話を聞いた小野氏は、「資金チームの仕事は、一見すると “単に計算するだけ”、“単に支払いをするだけ”だと思われがちだが、決してそうではない」と語る。その業務の奥深さや、資金チームの職務、小野氏のキャリアなどを聞いた。
東京共同会計事務所
フィナンシャル・ソリューション部
バックオフィスサービスグループ 資金チーム
シニアスタッフ
小野 裕也
京都大学理学部、京都大学大学院卒業後、不動産会社に入社し、不動産管理に従事。2017年、アセットマネジメント会社へと転職し、アクイジション営業や期中管理等の業務に従事。
2020年、東京共同会計事務所に入所し、資金チームにてSPCのキャッシュマネジメントに従事。
約570社の計算、約2,200社・月間最大約7,000件の支払いに対応するプロフェッショナル
── 最初に、「資金チーム」が所属するFS部について教えてください。
FS部は「証券化」を担っている組織です。まずは証券化という仕組みを簡単に説明させてください。
例えば、ある事業会社が不動産などの資産を売却したいとします。ですが購入する側から見ると、何十億円もする不動産を少ない資金で購入し、最大限の収益をあげたいと思いますよね。そこで用いられるのが証券化という仕組みになります。
不動産の保有のみを目的とする会社「SPC(Special Purpose Company、特別目的会社)」を設立し、そのSPCが不動産の価値を担保に銀行から借入をしたり、投資家から出資を募ったりした資金で、事業会社から当該不動産を購入します。つまり、証券化という仕組みを使うことで、少ない資金で複数の不動産などへ分散投資を実現することができるわけです。
SPCには当然ながら、会計やキャッシュマネジメント、法務対応などが必要ですが、SPCの形態によって一般的な会社とは異なる法令が関連してきますので、勝手が違います。そこでそれらの管理を専門家にアウトソースするケースが多いんです。東京共同会計事務所のFS部はこうしたアウトソースをワンストップで請け負っている組織となっています。
── FS部全体で、SPCのアウトソースを請け負っているんですね。その中で、資金チームはどのような役割を担っているのでしょうか?
まず、資金チームは、管理しているSPCのバックオフィス業務をサポートする「バックオフィスサービスグループ」に所属しています。
資金チームはフィナンシャル・ソリューション部 バックオフィスサービスグループに所属(資料提供:東京共同会計事務所)
また、資金チームは、「計算チーム」と「支払チーム」のふたつのチームから構成されています。
私が所属している「計算チーム」は、サポートスタッフも含めて合計5名のチームです。計算チーム全体で約570件のSPCを扱っているので、ひとりあたり約100~200件のSPCを担当している計算になります。
ところで、SPCは銀行とは金銭消費貸借契約書を、投資家とは契約書を結んでいます。その契約書の中で、「不動産テナントからの入金は、利息、事務委任報酬などの経費、最後に投資家へ配当の順で払う」といったように、収益をどの順番で分配するかが明確に決められているんです。
ですが、この計算は非常に複雑です。例えば、不動産を保有するSPCを例に挙げると、口座にテナントからの入金があっても、退去費用として積み立てが必要な分は支払いできませんので、それらの必要な額を除いた金額が支払い可能額になります。こういったルールがSPCごとに無数にあるんです。
どのくらい入金があって、いくらを誰に支払うのかを金銭消費貸借契約書に従って計算し、レポートをアセットマネージャーに提出する。
この一連の流れを「ウォーターフォール業務」と呼ぶのですが、これが計算チームの重要な役割の一つです。その他にもDSCR計算やLTV計算、投資家への配当額計算などもあり、ウォーターフォール業務とともに重要な業務になります。
──これが計算チームの仕事ですね。一方の支払チームについても教えてください。
計算チームで作成したウォーターフォールに従って支払いをするのが「支払チーム」の役割です。
口座開設からインターネットバンキングの申し込み、通帳のお預かり、出金伝票の作成、資金支払いまで、その名の通り、支払いに関するありとあらゆる事務の対応をおこなっています。支払チームは、サポートスタッフも含めて合計約30名のチームです。
SPCの支払いに関する業務、口座手続きに関する業務などの全般を担っています。
── 計算チーム・支払チーム共に繁忙期はあるのですか?
計算チームは特段繁忙期はありませんが、たまたま業務が重なり合って3月・6月・9月・12月は忙しかったりします。ただ、SPCの決算月との関連性はあまりありませんね。支払チームは2月・5月あたりが特に忙しくはなりますね。
また、支払チームは月末に支払いが重なるので、毎月末までの10日前後が忙しくなります。毎月最大7,000件の支払いがあるので、支払いに向けた作業や準備等、それだけで月末は大変です。
決して簡単ではない、SPCのキャッシュマネジメントのやりがいとは?
── 業務のやりがいや面白さについて教えてください。
計算チームは、毎月やることはある程度決まっているものの、担当している案件のスキームや契約次第で、必要な知識が異なるという点に特徴があります。大変な側面もある一方で、日々新たな知識を得られるという点は個人的にはとても楽しいですね。
また、計算チームも支払チームもですが、証券化というのは、銀行も投資家も事業計画通りにミスなく遂行されることが望まれています。そのため大変さという意味では「1円単位のミスができない」という点に集約されると言えます。そのミスで多大な影響があるからです。
例えば先日、銀行振込の手数料が変わったので、それに該当する計算をすべてやり直したことがあります。ひとつひとつの契約を完璧に理解して、緻密な作業が必要とされる点は大変ですが、それを完璧にやりきることがやりがいでもあります。
資金チームを含め、各部署が協力してSPCの課題をワンストップで解決する。
黄色部分が資金チームの担当。(資料提供:東京共同会計事務所)
── 緻密さが要求されて、ミスもできない。非常に大変そうですよね。「支払業務」という名称からは想像できない緻密な仕事をされているのがわかりました。
そうなんです。「支払業務」と聞くと、「支払うだけなので簡単でしょ」と思われることも多々あるのですが、全然そんなことないということは、声を大にして言いたいですね(笑)。
例えば、SPCが利用している金融機関の中には、インターネットバンキングがない金融機関があったりします。また、中には口座のある支店でないと支払いの受付をしてもらえないところもあり、そういった場合、金融機関が遠方の場合は伝票を郵送しなければなりません。
こういった特殊な対応が本当にたくさんあり、膨大にある支払いのスケジューリングも大変だし、これまで蓄積してきたノウハウが必要な部分がたくさんある。なので周囲の方にもこの大変さやその価値を理解してもらえると嬉しいですね。
── まさにキャッシュマネジメントの達人集団ですね。そういった業務だからこそ、お客様であるアセットマネージャーとしては、アウトソースして完璧にやってくれるなら、かなり有り難いのではないでしょうか?
そう思っていただけていると嬉しいですね。
金融分野でも業務改善ができる。支えるのは自由闊達なチームの雰囲気
── 小野さんは転職して東京共同会計事務所に入所したと伺いました。経緯を教えてください。
私は前々職で不動産会社に勤めていて、アセットマネジメント会社から依頼されてマンションの管理などを担当していました。その後、アセットマネジメント会社に転職し、プロジェクトごとに事業計画を立てて投資家を勧誘するフロント業務に従事していましたが、昔から「仕事のプロ」になりたいと思っていました。
ですが、不動産会社やアセットマネジメント会社時代は、大手企業ということもあって、スキルは高まりつつも、その仕事のプロというよりはその会社のプロ、その会社のルールややり方に詳しい人のようになっているとのジレンマも感じていました。
そんな中で、東京共同会計事務所の話を耳にする機会があり、ここに行けばいろいろな会社から多様な案件の相談を受けられるし、自分が目指すプロフェッショナルになれるんじゃないかと感じたんです。それで東京共同会計事務所への転職を決意しました。
── その中でもを選んだのはなぜでしょうか。
不動産会社時代には、例えば毎月のテナントへの請求書発行といった定型業務、アセットマネジメント会社ではフロント業務をやってきた中で、自分はある程度の期間で区切り・ゴールがあって、それに向かって日々の業務に対応していく仕事が向いていると感じていました。
それに、私はフロントよりも裏方としてやっていく方が向いているのではないかとも感じていたこともあって、資金チームに参画しました。
── 小野さん以外に資金チームにはどのような方がおられますか?また、どういった方に資金チームに応募していただきたいでしょうか?
銀行の窓口業務をされていた方が多いですね。ですが、銀行の中でもネット銀行出身の者もいますし、まったく違う業種から来ている者もいます。
応募していただきたい方に関しては、業務に馴染みがあるという意味では、金融機関や不動産関連企業でのバックオフィスに関わっていた方は、資金チームにフィットしやすい方が多いと思います。
ですが、計算や支払い、スケジュール管理ができれば特殊な知識は入所時点では不要です。もちろん、入所してからは知識を身につけていかなければなりませんが、都度ちゃんと周りに確認できる方であれば大丈夫です。
また、作業を正確かつスピード感を持って取り組めることは必要ですが、お人柄に関してはいろいろな方がいてくれると嬉しいです。資金チームは、業務の特性上、粛々と作業をすることが多いですので、チームを盛り上げてくれるような方も歓迎です。
あとは、単に今の業務をこなすだけではなくて、「これ、変えたらいいんじゃないかな」という視点を持ち、提案できる方だとなお嬉しいですね。
金融機関では、社内のルールがしっかりと決まっていて、業務プロセスを変えることは難しいと思いますが、資金チームでは、日々の業務において改善すべき点があれば、現場の声を聞いてもらえる風土があり、前向きに改善していけるので、その点は金融機関出身の方には新鮮だとも思います。
小野氏とFS部のメンバーたち
── 今後のキャリアの展望を教えてください。
計算チームにはすごい先輩がおられて、私も一生懸命やっているのですが、私の1.5倍くらいの担当を受け持ち、その計算をこなしているんですね。しかも支払チームのサポートをしながら。分からないことを聞けば何でも知っていて、その方に早く追い付きたいと思っています。
キャリアステップとしては、この先マネージャー職が待っているのですが、私自身は実務が好きなのと、プレイヤーとしてもまだまだスキルアップできると感じているので、まずは今の仕事を突き詰めたいなと思っています。
── 資金チームのことがよくわかりました。小野さん、本日はありがとうございました。
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