2021年1月1日~12月31日までの監査法人IPOランキングをまとめました。
2021年のIPO総数125件を担当した監査法人を『IPO件数』『時価総額』『騰落率』の3つの指標でまとめてあります。
⇒2020年以前のランキング・その他監査法人関連ランキングはこちら
【注記】
※監査法人の規模別の集計においては、大手(EY新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらた)、準大手(太陽、BDO三優、東陽、仰星、PwC京都)、その他を中小として分類しています。分類の定義は「監査事務所検査結果事例集(令和3事務年度版)PDF(公認会計士・監査審査会 令和3年7月付)に基づいています。
また、外国監査法人に関しては、国内の提携監査法人の規模に準じて分類し集計しています。(例:KPMG LLP、EY LLP→大手監査法人、BDO USA, LLP→準大手監査法人)
※個々の監査法人の実績に関しては、外国監査法人は個別の法人として取り扱い、提携監査法人の実績には含めずに集計しています。
※優成監査法人は2018年7月2日に太陽有限責任監査法人(以下、太陽監査法人)と合併を行っております。2017年以前の優成監査法人のIPO実績は優成監査法人として集計し、2018年分は太陽監査法人に含めて集計しています。
IPO件数ランキング
トーマツがあずさと同着で2位へ再浮上、太陽がトーマツ、あずさに迫る勢い
まずはIPO件数でのランキングです。
IPO件数ランキング
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※鞍替え、指定替え、TOKYO PRO MARKETを含まないランキングです。
IPO総数は前年から32件増えて125件となり、一気に100件の大台に乗りました。前年の上半期はコロナ禍で一時的にIPOの中止・延期が相次ぎましたが、今年はコロナ禍にありつつも、東証の市場再編を目前に控えてIPO件数が著しく増加しました。
そのような中、IPO件数では、EY新日本監査法人が3年連続で首位をキープしています。監査法人トーマツは一昨年の水準に回復し、昨年4位から、あずさ監査法人と同着の2位に浮上しました。
また、4位の太陽、5位のPwC京都、6位の仰星、7位の東陽などの準大手が、大きく件数を伸ばしてきています。
監査法人の規模別で件数はどう変動したのか
IPO件数を監査法人の規模別で比較すると、大手監査法人と準大手監査法人がシェアを増やしていることが分かります。
四大監査法人に関しては、前年と比較して、
- EY新日本監査法人:33件(対前年̟+6件)
- 監査法人トーマツ:19件(対前年+9件)
- あずさ監査法人:19件(対前年-3件)
- PwCあらた監査法人:4件(対前年+1件)
と合計で13件のプラスとなっています。
また、外国監査法人はKPMG LLPとEY LLPの2件の実績があります。
- KPMG LLP:1件(対前年+1件)
- EY LLP:1件(対前年+1件)
上記2法人はBIG4のメンバーファームですので、これらを大手に含めると15件のプラスとなります。
また、準大手監査法人の実績を前年と比べてみると、
- 太陽監査法人:17件(対前年+6件)
- 仰星監査法人:7件(対前年+2件)
- PwC京都監査法人:8件(対前年+7件)
- 東陽監査法人:6件(対前年+5件)
- BDO三優監査法人:2件(対前年-2件)
と18件のプラスとなっております。
中小監査法人に関しては、前年と比べて1件のマイナスになっています。
- 監査法人A&Aパートナーズ:2件(対前年+1件)
- ひびき監査法人:1件(対前年-1件)
- 監査法人 東海会計社:1件(対前年±0件)
- 如水監査法人:1件(対前年+1件)
- 千葉第一監査法人:1件(対前年+1件)
- 監査法人アヴァンティア::1件(対前年+1件)
- 東邦監査法人:1件(対前年+1件)
- 海南監査法人:0件(対前年-1件)
- 永和監査法人:0件(対前年-1件)
- 應和監査法人:0件(対前年-1件)
- 興亜監査法人:0件(対前年-1件)
- 双葉監査法人:0件(対前年-1件)
今年は、四大監査法人と準大手監査法人がIPO件数を増やしていますが、特にここ数年、準大手監査法人による引受が急増しています。
ここで、2013年から2021年までの監査法人規模別シェアの推移を見てみましょう。
監査法人の規模別のIPO件数割合
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※外国監査法人に関しては、国内の提携監査法人の規模に準じて分類し集計しています。(例:KPMG LLP、EY LLP→大手監査法人、BDO USA, LLP→準大手監査法人)
9年間の推移を見ると、もともとIPO監査は、EY新日本、トーマツ、あずさの3法人による寡占状態でしたが、大手監査法人のシェアはここ数年減少傾向にあり、今年は9年間で最もシェアが低くなっていることが分かります。
一方で、準大手監査法人と中小監査法人を合わせたシェアはここ数年で最も高くなっています。本記事では2013年以降のデータのみ集計してありますが、おそらく過去最大のシェアとなっているのではないでしょうか。
今年は、前年コロナ禍でIPOを見送った企業や、2022年4月の東証再編の駆け込み需要などで2008年以来14年ぶりの100件超え、また、2007年以降で最高のIPO件数となりました。
ここ数年のIPO市場は、IPO準備企業の増加で大手監査法人が受嘱しきれず、準大手監査法人や中小監査法人が引き受けるという構図が続いてきているため、おそらく本年も準大手や中小のシェアが高い状況が続くと思われます。
一方、年初からの株安、ロシアによるウクライナ侵攻などによる株価低迷などにより、本年はIPO市場が減速する可能性もあり、監査法人のIPO件数にどういった影響を及ぼすのか、要注目です。
四大監査法人のIPO勢力図
次に四大監査法人のIPO件数とシェアを2019年から2021年までの過去3年分のデータで比較してみましょう。
四大監査法人クライアントのIPO件数比較(3ヶ年比較)
2019年から2021年の3年間で比較すると、IPOの総数は86件から125件へと39件のプラス(約45%増)となる一方で、四大監査法人のIPO件数の合計は、67件から75件へと8件のプラス(約12%増)に留まっています。なお、四大監査法人のうち件数を増やしているのはEY新日本監査法人のみという状況です。
四大監査法人のシェア比較(3ヶ年比較)
四大監査法人のシェア合計を見ると、3年間で18%もシェアを落としています。うち、あずさが9.2%減、トーマツが6.9%減となっており、この2法人の凋落が大きく影響しているという見方ができるでしょう。
また、四大監査法人のIPO件数を9年間の推移で見てみると以下のようになります。
四大監査法人クライアントのIPO件数の推移(過去9年間)
過去9年間で見ると、四大監査法人のIPO件数合計では、46件から75件へと増加傾向にあります。
一方、監査法人ごとに見ると、EY新日本監査法人は6件から33件へと実績を伸ばした一方で、トーマツは緩やかに減少、あずさとPwCあらたは微増に留まっています。四大監査法人のIPO件数が増加した原因は、EY新日本監査法人の件数が増加したためと結論付けることができます。
EY新日本監査法人では、2020年7月から「IPO認定者制度」を導入し、IPO監査人材の育成を通して、IPO監査難民問題の解決を図る取り組みが行われています。また、2020年11月からスタートアップを支援する専門チーム「EY Startup Innovation」を設置してワンストップサービスを提供するなど、より積極的にIPOに取り組んでいる様子が伺えます。
IPO監査は「高リスク・低報酬」というイメージがありましたが、近年の監査法人の人員不足などから、大手監査法人が提示する監査報酬は高額化しつつあるとの声がスタートアップ業界からも聞こえてきています。
昨今では、スタートアップの資金調達額も大型化しているものの、高額な監査報酬の支払いはなるべく避けたいのがスタートアップの本音であり、また、監査法人の人員不足が引き続き緩和されない中で、このままEY新日本監査法人がさらに件数を伸ばしていくか、それとも、ひとまずのピークとなるのか、今後の動向が気になります。
太陽監査法人の躍進、IPO監査における「新BIG4」の時代へ
また、IPO監査のランキングを語る上で注目すべきは、ここ数年、安定して実績を伸ばしている太陽監査法人です。
前述の四大監査法人の件数実績に太陽監査法人を加えた5法人の3年間の実績は以下のようになります。
太陽監査法人を含めた五大監査法人のIPO件数比較(3ヶ年比較)
順位だけ見れば、昨年の3位から4位へとランクダウンとなっている太陽監査法人ですが、件数は大きく伸ばしており、この3年間で倍増しています。また、前年と今年の2年連続でトーマツと同水準まできており、業界3~4位の地位を確立しつつあります。
太陽監査法人を含めた5法人のIPO件数の推移(過去9年間)
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※2017年以前の太陽監査法人の実績には優成監査法人の実績は含まれておりません。
過去9年間での件数推移を見ても、太陽監査法人は、横ばいorやや微減のあずさやトーマツと異なり、右肩上がりで件数を増やしています。この勢いが続けば、近いうちに2位へと浮上する可能性もありそうです。
ここ数年の太陽監査法人の安定した実績を考慮すると、IPO監査においては、EY新日本、あずさ、トーマツに「太陽」が加わり「新BIG4」の体制になったと言えます。グラフ上も、太陽監査法人はEY新日本と類似の成長曲線を辿っており、今後どこまで成長するのか期待が持てます。
時価総額(初値)ランキング
EY新日本が首位。トップの時価総額は昨年より上昇
次に初値時価総額での比較です。
初値時価総額の合計額でのランキング
監査法人別の初値時価総額の「合計額」での順位は、1位EY新日本(前年2位・449,603百万円→今年861,819百万円)、2位あずさ(前年1位・656,578百万円→今年751,284百万円)、3位トーマツ(前年4位・206,390百万円→今年594,362百万円)の順となっています。
上位3法人は、いずれも昨年より初値時価総額の合計額が増加しています。また、1位から10位を合計しても、前年の1,941,663百万円に対して、今年は3,117,243百万円と増加しています。IPO件数も増加してますが、1件あたりの初値時価も上昇しており、IPO市場が活況な様子が伺えます。
1位になったEY新日本監査法人に関しては、IPO件数が多かったこと、および、2021年の初値時価総額上位10社のうち4社**を手掛けていたことも要因となっています。
**5位…株式会社ネットプロテクションズホールディングス(初値時価総額132,904百万円)、6位…株式会社プラスアルファ・コンサルティング(初値時価総額108,936百万円)、7位…株式会社エクサウィザーズ(初値時価総額81,687百万円)、10位…ウイングアーク1st株式会社(初値時価総額62,396百万円)
では、次に初値時価総額の「平均額」(1件あたりの初値時価総額)ランキングを見てみましょう。
初値時価総額の平均額でのランキング
トップは前年に続いてPwCあらた監査法人です。また、KPMG LLPは初値時価総額の合計額では9位でしたが、手掛けたIPOが1件のみでその初値時価総額(オムニ・プラス・システム・リミテッド/初値時価総額31,598百万円)がそのまま反映されて、3位にランクインしました。
PwCあらた監査法人のIPO件数は4件ですが、3位のAPPIER GROUP株式会社(初値時価総額202,741百万円)のIPOを手掛けたことで、平均額が押し上げられた形です。
PwCあらた監査法人は、実は、3年連続で初値時価総額の平均額で1位となっており、件数は少ないながらも大型のIPOをしっかりと手掛けていることがわかります。
初値騰落率ランキング
騰落率ではBDO三優が1位!
では、最後に監査法人ごとの初値騰落率の平均を見てみましょう。
初値騰落率の平均(1件あたり騰落率)でのランキング
※クリックすると拡大します。
※騰落率の平均=騰落率の合計/IPO件数で算出しています。
初値騰落率の平均では、BDO三優監査法人が1位となり、2位に東邦が続いています。BDO三優監査法人が担当したのは2件で、うち株式会社ラバブルマーケティンググループの初値騰落率が284.52%と高かったことが要因となっています。
ちなみに、前年の2020年は、1位の株式会社ヘッドウォータース1,090.00%(公募価格2,400円に対して初値が28,560円)をはじめとして、初値騰落率が高かったのですが、前年と比較すると今年はそれほど人気のある銘柄はなかったようです。
2022年のIPOマーケット、監査法人の勢力図はどうなる?
2021年は、太陽監査法人があずさやトーマツを猛追し、大手3強から「新BIG4」へと勢力図が変化したとともに、準大手のIPO件数が増加し、四大監査法人のシェアの低下がより一層進んだ1年となりました。
日本公認会計士協会からは、「IPO を目指す企業の監査の担い手となる中小監査事務所リスト」が公表されており、2022年以降は中小監査法人によるIPOが増加する可能性もあります。
また、長期的には、公認会計士ナビでも取り上げたIPO監査を専門とするESネクスト有限責任監査法人など、新しい勢力も出てきており、大手と準大手、中小のバランスがさらに変わっていく1年になるかもしれません。
さらに、2022年4月4日付で、東京証券取引所は5市場から3市場(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場)へと再編されます。IPO企業が上場を目指すであろうグロース市場の上場基準は、時価総額基準が撤廃となり(マザーズでは時価総額10億円以上)、流通株式数が1,000以上となるなど(マザーズでは2,000以上)、上場基準が緩やかになります。
一方で、国内では、年初からの株安に加えて、ロシアのウクライナ侵攻による影響、また、海外ではスタートアップの資金調達市場が悪化していることから、国内スタートアップの資金調達にも影響を見せ始めています。こういった影響が今後のIPOマーケットにどう反映されていくのかにも注目が集まります。
2022年以降のIPOマーケットや監査法人ランキングはどのようになるのでしょうか?公認会計士ナビでは継続してウォッチしていきます。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)
<免責事項>
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