『弥生会計』でお馴染みの弥生株式会社様(以下、弥生)では、税理士や公認会計士の方々を対象にしたパートナープログラム「弥生PAP」(やよいぱっぷ)を運営しており、その会員の皆様向けに弥生や業界のトレンドをお届けする弥生PAPカンファレンスを年2回開催しています。
弥生PAPカンファレンスは、例年、全国7会場(東京、大阪、名古屋、広島、福岡、札幌、仙台)で開催されていましたが、2020年秋はオンライン開催のみで行われました。
今回の弥生PAPカンファレンス2021年は、2回のオンライン開催以外に、仙台、札幌ではリアル開催も行われました。仙台会場では、事前申込みされた方の参加率が100%ということで、多くの方が待ち望んでいたリアル開催の1年半ぶりの再開となりました。
東京会場はオンラインでの開催に
弥生PAPカンファレンス2021は、電子インボイス推進、年末調整のデジタル化、弥生PAP会員による記帳代行支援サービスの活用事例などの発表をメインコンテンツに開催されました。
今回は、前編、後編の2回に渡り、2021年6月11日に開催された弥生PAPカンファレンス2021東京会場の模様をお届けします。
※記事内のスライドはすべて弥生PAPカンファレンス2021東京にて用いられたものです。
弥生PAPカンファレンス2021東京プログラム
- 弥生の現況とこれから(弥生株式会社代表取締役社長 岡本浩一郎)
- 記帳代行支援サービス(弥生株式会社 営業推進部 加藤健一、営業推進部 北林はる菜)
- 弥生PAP会員による事例発表
- 「子育てママの一人税理士事務所」における記帳代行支援サービスの活用とその効果について(髙野妙子税理士事務所 代表・税理士 髙野妙子)
- 弥生の記帳代行支援サービスの導入と弥生スマート取引取込の効果的な使い方(伊藤会計事務所税理士 伊藤桜子)
- ビジネスアップデート(弥生株式会社 営業推進部 東京支店 支店長 川上悠記)
本記事の目次
電子インボイスシステム導入で業務から紙がなくなる
2023年10月のインボイス制度導入に対応するため、2020年7月に、弥生、ならびに、インフォマート、SAP、OBC等の10社が発起人(弥生株式会社が代表幹事法人)となり「電子インボイス推進協議会(EIPA)」が設立されました。
インボイス制度の導入まで約2年と期限が迫る中、「業務効率化や制度改正対応のためのデジタル化は避けて通れないが、具体的な仕組みが見えない。」と不安を感じている会計事務所の方も多くいらっしゃると思います。
カンファレンスの前半では、弥生株式会社の代表取締役社長 岡本浩一郎氏が、昨年から課題としてきた、電子インボイスと年末調整業務がどのように変わるのか、最新の動向を踏まえながら見解を述べました。
前編では、岡本代表のプレゼンテーションをお届け致します。
弥生株式会社 代表取締役社長 岡本浩一郎 氏
民間主導での、日本国内の事業者が共通して利用できる、電子インボイスシステムの構築と普及促進を目的として設立された「電子インボイス推進協議会(EIPA)」。
前回(2020年秋)のPAPカンファレンスでは、岡本代表からEIPA設立までの経緯が語られました。
その時点では、50社弱の企業がEIPAに参画していましたが、現在は、正会員が104社、他に特別会員が6団体と8名となり、半年間で2倍以上の規模になりました(2021年5月末時点)。多くの企業が、電子インボイスシステムに強い関心を寄せていることが伺えます。
電子インボイスの導入期限を間近に控えて、効率化する業務範囲と電子インボイスのベースとなる仕組みについて、具体的な提言がされました。デジタル庁の平井大臣もEIPAが提言した仕組に賛同されるなど、実現に向けた議論が着実に進んでいる状況です。
「請求から支払・入金まで」デジタルに
一般的な中小企業の商取引では、見積書は弥生販売やMisocaで作成し、会計システムも弥生会計が利用されるなど、社内のシステム化は進んでいる一方で、外部とのやりとりはFAXや郵送を利用することが多く、紙が使われているケースが大半です。
岡本代表は、「事業者間のやり取りがアナログに留まっていることが、事業者の生産性向上の妨げとなっている。この部分を変えていく必要がある。」と、企業間のやり取りをデジタル化する必要性について説明されました。
2023年10月までに、スライドの赤い枠で囲まれた部分について、デジタル化が実現されようとしています。
売り手は、電子インボイス(デジタルデータ)を買い手に提供し、買い手はそのデータを元に支払処理を行います。売り手は、入金データと電子インボイスをデジタル上で照合し、自動で消込を行うという流れになります。これにより請求から支払、入金消込業務までが、デジタルで一気通貫で処理できるようになります。
岡本代表は、「インボイス制度はデジタル化を進めるための良い機会となった。まず請求と入金取引をデジタル化するが、最終的には、見積、受注、納品検収も含めた業務全体のデジタル化を目指したい。」と今後の道筋を示されました。
電子インボイスの日本標準規格にPeppolを採択
電子インボイス制度はすでに、ヨーロッパや、シンガポール、オーストラリアでも取り組みが始まっていますが、日本で、電子インボイスの受け渡しのために売り手と買い手をつなぐ仕組みとして、どの規格を採用すべきかという議論がありました。
そして、EIPAでは、日本の電子インボイスの日本標準使用のベースとしてPeppolを採用すべきという結論に達しました。
日本の標準規格となりうるためには、「2023年までに使える仕組みであること」、「グローバルスタンダードになる可能性が高いこと」という条件をクリアする必要がありますが、Peppolはこれらの点で他の規格をリードしており、採択されることになりました。
岡本代表は、「Peppolはもともとヨーロッパの仕組みだが、日本の商慣習にも柔軟に対応ができる。また、電子インボイスシステムは、中小零細企業も含めたすべての日本国内の事業者が利用できるように、極めて低いコストにする必要があるが、この点も実現可能と判断した。」と、Peppolの優位性について説明されました。
電子インボイス制度の普及をデジタル庁の「フラッグシッププロジェクト」に
2020年12月に、EIPAは平井デジタル改革担当大臣を訪問し、Peppolを用いた電子インボイス制度に関して、提言を行いました。
訪問時の様子について、「平井大臣から提言について全面的にご賛同をいただき、このプロジェクトはデジタル庁の”フラッグシッププロジェクト”になるとまで言っていただけた。」と、事業者が確実に利用できるようにするために、議論と作業を積み重ねたEIPAの功績が認められたことに対して、岡本代表は頬を緩められました。
現在、EIPAでは、Peppolをベースとした日本仕様の策定に取り組んでいる段階で、今後、Peppolの日本の管理主体となるデジタル庁が取りまとめ役となり、EIPAメンバーが普及活動を行っていくことになると説明がありました。
デジタル化で年末調整業務の概念が180度変わる
前回(2020年秋)の弥生PAPカンファレンスでは、岡本代表から、現行の年末調整の仕組みの問題点についての考察が示されました。
- 戦後、昭和前半のまま基本的な仕組みが変わっていない
- 税制が複雑になり、年末調整は確定申告より難しくなっている
- 事業者の負担が大きい
電子インボイス制度の次の課題として、社会的システム・デジタル化研究会(以下、BD研究会)では、年末調整のデジタル化について議論を進めており、次世代の年末調整業務の仕組みを実現しようとしています。
年末調整業務をデジタル化する上での基本的な考え方
2020年6月に発表した提言の中に、年末調整のデジタル化の基本的な考え方が盛り込まれています。
岡本代表は、「年末調整業務のデジタル化とともに、”誰が” ”どのタイミングで” ”何をするか”を見直す必要がある。今まで事業者が年末調整業務を行っていたのは、従業員から紙を受け取れるのが企業だからという理由だった。デジタルデータになれば、事業者がやる必要があるだろうか。」と、現行制度を180度変えるような視点を示されました。
年末調整は年始に確定情報で
年末調整が確定申告よりも難しくなっている理由について、岡本代表は、「年内に行うため、所得は見積りで確定した事実がベースになっていない。見積りが外れたらやり直さなければならず、非効率だ。」と問題提起されました。
このような課題を踏まえて、将来の年末調整の仕組みが示されました。現行制度との主な違いは以下の通りです。
- 毎月の給与支払情報を行政とデジタルで共有する。
- 必要な情報はタイムリーに行政が収集するので行政が計算することが可能になる。
- 年始に一気に計算ができる。
2021年度税制改正大綱に盛り込まれる可能性も
デジタル化を含めた新たな年末調整の仕組みについて、2021年6月3日に、BD研究会から平井デジタル改革担当大臣に、提言が出されました。
岡本代表から、「オンライン会議では、平井大臣からは、”ぜひ実現したい。今年の税制改正大綱に盛り込むべきであり、一緒にやっていきましょう。”と力強いご発言があった。財務省においても提言が非常に前向きに受け止められているようだ。」と、年末調整制度の改正が前向きに進んでいると説明されました。
将来のデジタル化が具体的な仕組みとして示されたことで、会計業界にとっても、進むべき道筋が示されました。不安が解消されて、今後の変化に期待を持って望めるようなプレゼンテーションでした。
弥生の記帳代行支援サービスで業務削減、約9割の会計事務所が満足
弥生株式会社 営業推進部 加藤健一 氏
岡本代表のプレゼンテーションに続いて、弥生株式会社営業推進部の加藤健一氏より、昨年リリースされた、「弥生の記帳代行支援サービス」の機能や料金体系などの紹介が行われました。
確定申告期は業務が集中するため、より正確でスピーディーな処理が求められます。
この点、加藤氏は、「令和2年度の確定申告期に実施したアンケートによると、弥生の記帳代行支援サービスを使った会計事務所のうち56.4%が5~6割ほどの業務を削減できたとし、また、約9割の会計事務所がサービスに満足していると回答してくださいました。」として、弥生の記帳代行支援サービスを利用した会計事務所が、業務効率化を図りながら最繁忙期を乗り切ることができたと説明されました。
また、同じく営業推進部の北林はる菜氏がデモンストレーションを行い、証憑アップロードの方法など具体的な画面を見ながら説明が行われました。
弥生株式会社 営業推進部 東京支店 北林はる菜 氏
北林氏のデモンストレーションによって、まだ記帳代行支援サービスを利用していない会計事務所にも、簡単に使えるサービスであることが伝わる内容となりました。
後編(7月22日午前10時公開)では、記帳代行支援サービスのプレゼンテーションを踏まえて、実際に使用している弥生PAP会員による業務効率化の事例発表をお届けします!
→会計事務所の生産性向上や採用難を解決、弥生の記帳代行支援サービスの成果とは!?:弥生PAPカンファレンス2021東京レポート(後編)
弥生PAPで会計事務所経営に必要な情報を!
「弥生PAP」とは、弥生株式会社と会計事務所がパートナーシップを組み、弥生製品・サービスを活用して、中小企業、個人事業主、起業家の発展に寄与するパートナープログラムです。2021年5月時点で11,000以上の事務所が加入。税務サービスを提供する会計事務所様はぜひご加入をご検討ください。