2019年11月26日
PwC Japanグループ
2019年11月21日ニューヨーク‐2019年のアジア太平洋地域は、企業各社の海外事業が直面する障壁が想定以上に高くなっており、ビジネスリーダーは2020年も同様の状況が継続すると予測しています。さらに2020年にはより多くの課題に直面するという見方も示されています。具体的には、25%が外国人雇用に関する課題、26%が外国とのサービスのやり取りに関する課題、24%がデータの移動に関する課題が深刻化すると、それぞれ答えています。
上記の結果は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)を構成する21カ国・地域のビジネスリーダー1,000名以上を対象にPwCが行った最新の調査で明らかになったものです。
調査では、ビジネスリーダーから同地域の政策立案者へのメッセージも明確に示されました。自社事業の成長力に最も大きな影響を及ぼす政策変更は何かという質問に対し、44%が関税の引き下げと答えています。より具体的に言えば、米中貿易摩擦の解決が、最大の成長推進要因になると受け止められています。
このように米中間の貿易摩擦や関税問題に懸念はあるものの、自社の成長見通しについては楽観的な見方が継続しており、来年度の売上成長に「非常に自信がある」と回答したリーダーは34%と、2018年調査の35%とほぼ同水準となりました。
投資を拡大する相手先として最も人気が高かったのは、昨年に引き続きベトナムでした。次いでオーストラリア、3位がシンガポールでした。中国と米国はいずれも上位3位に入らず、これは、2015年にPwCがアジア太平洋地域における対外投資先候補の分析を開始して以来、初めてのことです。
これについて、PwCグローバル会長のボブ・モリッツ(Bob Moritz)は、次のように述べています。
「米国と中国は、貿易を取り巻く状況が不確実であるため、今年の調査では相対的に魅力が低下したものと考えられます。企業各社は進出すべき地域を改めて見直しており、新たな貿易ルールがもたらすリスクについても慎重に検討しています。そうした状況がベトナムやオーストラリアといった国に有利に働いたのでしょう」
また業務の自動化が雇用に及ぼす影響についても、歓迎すべき結果が出ました。自動化の結果、雇用が増えた企業は36%で、雇用を減らした企業(24%)を上回っています。ただし昨年に比べると、両者の差は縮小しています。また自動化に伴い、従業員の役割や責務を見直す企業も増えています。
企業各社は雇用を増やしているものの、依然として適切な人材の採用には苦労しているようです。ビジネスリーダーの23%は、必要な人材を確保することが難しいと答えています。一部の市場では労働者の移動を阻む障壁がますます高まるなどの情勢を背景に、既存従業員のアップスキリングのための投資を増やす企業が増えています。来年度のデジタルスキル開発への予算配分を増やすと答えたリーダーは86%に上りました。
「職場でテクノロジーによる変革が進む中、誰も取り残されないように従業員にスキルを身に付けさせることは、非常に重要な課題です。企業、政府、NGO、教育者が協力し、大規模なスキル改革に取り組む必要があります。これは特定の業種だけの問題ではなく、官民あげて対応すべき、アジア太平洋地域全体の問題です」
と、ボブ・モリッツは語っています。
社会の信頼と規制
また調査では、規制強化が望まれている分野があることも明らかになりました。人工知能(72%)、サイバーセキュリティ(76%)、個人情報保護(同70%)といった分野では、社会からより強い信頼を得るために、追加の規制が必要だという回答が優勢でした。
ボブ・モリッツは、次のように述べています。
「ビジネスリーダーは通常、規制強化は望まないものですが、AI、サイバーセキュリティ、個人情報保護については、一貫性のある実効的な規制がなければ企業の投資計画にも影響するだろうし、消費者の信頼も得られないだろうということを認識しています
AIの規制はまだ初期段階です。従って、イノベーションを推進すると同時に、全ての人が恩恵を受けられる責任あるAIの実現に向けて、アジア太平洋地域の政府が基準を制定できる現実的な可能性があります。今すぐ行動すべきです。バラバラなAI政策が、アジア太平洋地域の発展を阻む新たなデジタル障壁となるようなことは避けなければなりません」
統一的な政策枠組みの構築に向けて迅速な行動が必要です。この点は、高度自動化とAIに関するビジネスリーダーの見方にも反映されています。ビジネスリーダーの37%が、これからの2年間において高度自動化とAIは幹部レベルの優先課題だと回答し、49%が部門レベルもしくはIT部門の優先課題だと答えています。高度自動化とAIを主要なファクターではないと見ているリーダーはわずか12%でした。