『前代未聞、監査法人が金融庁を提訴したワケ』など3件まとめ:今月の会計士業界ニュース(2017年7月その3)



7月13日付で、東洋経済ONLINE、日本経済新聞、REUTERSロイターから、監査法人関係の記事がリリースされています。

東芝事件、新日本監査法人の記事をはじめ、PwCあらた監査法人に東芝事件が飛び火した件や、監査法人の金融庁提訴に関する記事が取り上げられています。

加熱する金融庁のレビューに歯止め? 監査法人が金融庁を提訴

すべての監査法人が、金融庁の勧告を黙って受け入れるわけではなさそうです。

監査事務所等のモニタリングをしているのは、金融庁の公認会計士・監査審査会(以下、CPAAOB)です。2004年に発足して以来、毎年コンスタントに複数の監査法人・公認会計士に対して勧告を出してきました。それに対して初めて反発したのが、監査法人アリアです。

平成29年6月8日付けで公表された勧告に関して金融庁を提訴した記事が、東洋経済ONLINEより出ています。

6月8日に公認会計士・監査審査会(以下、CPAAOB)が、監査法人アリアに対し行政処分を行うよう金融庁長官に勧告、冒頭の”闘争宣言”はこれを受けて掲出されたものだ。金融庁を訴えた監査法人はアリアが史上初となる。

引用元:前代未聞、監査法人が金融庁を提訴したワケ(東洋経済ONLINE 2017年7月13日付)

記事によると、CPAAOBの検査結果に不満があれば「意見申し出」ができ、勧告はあくまで内部文書とのことですが、公表されてしまえばその時点で「社会的制裁」を受けてしまうそうです。監査法人アリア側は、チェックシートにチェックマークを付け忘れたなど5年前の検査時では問題視されていなかったことが問題とされており、不当に信用が傷つけられたという言い分です。

監査法人が金融庁レビューにおびえる理由

CPAAOBは、「監査法人アリアに対する検査結果に基づく勧告について」を、平成29年6月8日付で公表しています。

この勧告によると、過去に不正会計を行った企業など監査リスクが高い上場会社の新規受託に関して新規受託の対応に不備があったり、監査証拠の入手が不十分である点などが指摘されています。

指摘されているのは形式的な不備ではなく、監査能力を疑わせるような内容です。勧告に書かれていることが事実であろうとなかろうと、公表されてしまえば監査法人に対する信用を失墜させる内容になっています。

不服申し出が出来るとしつつも、金融庁が処分を決定する前に社会的制裁を受けてしまうこの制度。監査法人は、指摘を受けないように金融庁レビューに怯える日々が続きます。

新日本監査法人、金融庁に続き会計士協会も処分へ

東芝の不適切会計をめぐり新日本監査法人処分に関するニュースがありました。

2015年に東芝の不適切会計が発覚。2015年12月22日付で「契約の新規の締結に関する業務の停止3月」「業務改善命令」「懲戒処分 業務停止1又は3又は6月」とする、金融庁の行政処分がくだりました。

日本公認会計士協会による新日本監査法人への処分に関する記事が、日本経済新聞より出ています。

2015年に発覚した東芝の不適切会計に絡み、日本公認会計士協会は16年3月期まで東芝を監査した新日本監査法人と、不適切会計の期間に担当していた会計士の会員権を一定期間停止する。13日にも発表する。利益水増しを見抜けなかった新日本には金融庁が行政処分を下しているが、社会的な影響が大きいため協会としても処分が必要だと判断した。

引用元:会計士協、新日本の会員権停止 15年の東芝問題で(日本経済新聞 2017年7月13日付)

記事によると、オリンパス事件での処分見送りに対する批判を受け、新日本監査法人に対して処分に踏み切ったようです。新日本監査法人は、2度目にしてようやく処分を受けます。

懲戒処分について、日本公認会計士協会と新日本監査法人よりプレスリリースが出ています。

クライアントの新日本監査法人離れ加速か

信用を失墜した監査法人から監査を受けても、金融市場から信頼を得られないと考えるクライアントが増えています。

新日本監査法人も組織風土改善のための改善計画を立てていますが、一刻も早く信用を回復してクライアント離れを食い止めることが必要です。改善に一瞬も手が抜けない状況です。

東芝事件終息せず。PwCあらたの調査開始

東芝の不適切会計をめぐり監査法人に関するニュースがありました。

PwCあらた監査法人は、東芝の2016年10-12月期の四半期報告書で監査意見を不表明としました。日本公認会計士協会は、意見不表明にいたった経緯の調査に乗り出しました。

東芝の不適切会計をめぐり、PwCあらた監査法人への協会調査に関する記事が、日本経済新聞より出ています。

日本公認会計士協会の関根愛子会長は13日の会見で、PwCあらた監査法人への調査を開始したと表明した。同法人は、東芝(6502.T)の2016年10─12月期の四半期報告書で監査意見を不表明とした。協会がこの経緯などを調査する。関根会長は、同法人が監査意見の不表明に至ったことについて「深く憂慮している」と述べた。

引用元:会計士協会がPwCあらたの調査開始、東芝決算への意見不表明で(REUTERSロイター 2017年7月13日付)

記事によると、前任の新日本監査法人に対しては、平成29年7月13日付けで、2か月間の会員権停止処分を出しているそうです。

公認会計士協会よりプレスリリースが出されています。

 PwCあらたパートナーと公認会計士協会会長の2つの立場。関根会長の苦渋の調査

東芝事件を巡り、新日本監査法人に処分をくだした日本会計士協会。後任のPwCあらた監査法人にも調査の手は伸びました。このPwCあらた監査法人は、日本公認会計士協会の関根会長が所属している法人でもあります。調査決断は、信頼回復への会長の決意を感じさせます。

初の女性会長として注目を集め、さらに相次ぐ不祥事に対しても厳しい決断ができるのか、その対応にも注目が集まります。

(ライター 大津留ぐみ





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【大津留ぐみ:公認会計士・税理士/会計士・税理士専門ライター】 大学在学時にシェイクスピアを学んだことをきっかけに劇作家を目指すも挫折。編集プロダクションで編集やライティング業務に従事した後、公認会計士試験にチャレンジし合格。大手監査法人の東京事務所にて監査業務、財務デューデリジェンスなどに従事。 その後、フリーランスの公認会計士として非常勤監査、税理士法人の社員税理士として税務業務に従事しつつ、大津留ぐみのペンネームでライターとしての執筆活動にも従事。ライターとして、お金、社会保障、会計、税務などに関する記事を執筆。また、2児の母となったことをきっかけに、子どもの貧困や教育格差、子どものイジメに関する記事なども執筆。現在は、株式会社ワイズアライアンスの専属ライターとして会計・税務の記事を執筆しつつ、会計事務所にて内部統制業務にも従事するパラレルワーカー。公認会計士・税理士。

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