売上テストの時間が1/5に。AIで証憑突合を効率化するGenialAIは会計監査の救世主となるか!?

GenialAI、アイキャッチ、サムネイル、トップ画像

会計監査業界の人員不足が叫ばれて久しくなりました。
相次ぐ不正会計の発覚により監査手続は増加するものの、監査報酬や人員が増えるわけではなく、一人あたりの作業量は増加。その結果退職者が増え、また現場の作業が増えていく悪循環が続いています。
とは言え少子高齢化・人口減少に喘ぐ日本において、人手不足は監査業界だけの話ではなく、あらゆる業界で起きている話です。

そんな背景もあり、効率的な経営をするために最新のテクノロジーを用いたサービス・スタートアップが増えてきました。
例えば、特定の業界の生産性をあげようと、当該業界特化のSaaSが、あらゆる業界でどんどん登場しています。

今回紹介する株式会社ジーニアルテクノロジー(以下「ジーニアルテクノロジー」)は、AIを使って会計監査を効率化するサービス「GenialAI」(ジーニアルAI)を開発。大手監査法人とも実証実験を進め、着々と世に出る準備を進めています。

GenialAIのロゴ

ジーニアルテクノロジー代表の阿部川さんに、GenialAIがどのように会計監査を効率化するのか聞きました。

株式会社ジーニアルテクノロジー_Founder and CEO_阿部川 明優氏

株式会社ジーニアルテクノロジー
Founder and CEO
阿部川 明優
1985年生まれ。神奈川県茅ケ崎市出身。慶應大学経済学部在学中の2006年に公認会計士試験に合格し、PwCあらた有限責任監査法人にて、会計監査/IT監査/会計アドバイザリー業務等に従事。税務コンサルティング会社勤務を経て、米国カーネギーメロン大学へ留学。同MBAプログラム在学中の20173月にシリコンバレーでGenial Technology, Inc.を創業、Founder and CEOに就任。日本へ開発拠点を移すにあたり、20197月に株式会社ジーニアルテクノロジーを設立。

証憑突合を自動化し、監査手続を効率化

── ジーニアルテクノロジーが開発する証憑突合自動化システム「GenialAI」の概要を教えて下さい。

ジーニアルテクノロジーは、AIを使って監査を自動化するサービス「GenialAI」を開発しています。現在は証憑突合を効率化する機能に特化していますが、将来的にはAIを使って、現在人間が行っている様々な業務の自動化をしていくつもりです。

監査を取り巻くルールは年々厳しくなり、他方で会計士は年々人材不足に陥っていることは、業界の方への説明は不要でしょう。では、監査においては時間が費やされているのはどのプロセスでしょうか。効率化できる作業はないのでしょうか。
その答えのひとつが証憑突合です。テクノロジー・AIを使えば、効率化できます。

売上の監査手続を例に挙げましょう。
一般的な実証手続では、Excel上の売上データと、現物・またはPDF化された納品書や注文書等の証憑を、日付・相手先・品名・数量・金額といったデータについて手作業で突合していますよね。
ただ、監査人なら皆さんご存知の通り、証憑突合には非常に時間がかかります。私も監査法人時代、誰でもできるこの単純作業に多くの時間を費やしました。

大手監査法人は国内にシェアードサービスセンターを設置して単純作業を集約しようとしていますが、コミュニケーションコストやサービスセンターの人件費がネックとなっているようです。また一般的な企業で全件を突合するのは実質上不可能なので、手続はサンプルに依拠せざるを得ません。

そこで私たちはこの課題の多い証憑突合という作業を「GenialAI」で自動化していきます。
GenialAI
ExcelPDFとを自動的に突き合わせるRPAツールです。Excel上の取引データとアップロードしたPDF資料を自動で突き合わせ、不整合な箇所を提示してくれます。期中の売上テストは1社あたり平均約250時間かかると言われていますが、GenialAIを導入していただければ、これを約50時間へ短縮できる見込みです。

株式会社ジーニアルテクノロジー_Founder and CEO_阿部川 明優氏

Monthly Pitchに登壇する阿部川氏(写真提供:サイバーエージェント・キャピタル)

強みは日本語対応OCRやセキュリティ

── GenialAIの使い方を簡単に教えて下さい。

まず、Excel上のどの明細表をテストするか選択します。
次にどのようにExcelPDFをマッチするのかを設定。この際、チェック方式、テスト対象カラム、クレンジング関数などを使ってテストをカスタマイズできるようになっています。そして突合処理を実行します。通常は数秒で完了。
結果の詳細から不一致した明細の情報を確認できるようなっているので、人間が取引と資料を照らし合わせてレビューする、という仕組みです。テスト結果はExcel形式でダウンロード可能です。

── 証憑には様々な種類があり、例えば同じ納品書でも形式が全く異なることもあります。それらにすべて対応できるのでしょうか。

ご認識の通り、監査で扱う証憑には様々な種類があるので、一般的なシステムで証憑突合しようとしたら、OCR設定にかかる時間がネックとなるケースは多いでしょう。しかしGenialAIは一度OCR設定をしてしまえば、次回からはPDFをアップロードするだけで自動でOCRが反応します。
これらの機能をフルに使って証憑突合を自動化することで、監査時間を節約できるようになる、というわけです。

またGenialAIは、まずは大手監査法人への導入を検討しています。そうなると気になるのは情報セキュリティ体制でしょう。この点GenialAIISO27001の認証を受けています。PoC(実証実験)に協力していただいている某大手監査法人の厳格なセキュリティチェックも突破しました。

ちなみに、AIOCRを利用した証憑突合の自動化という意味では、いくつかの競合サービスがあります。しかし消極的確認方式を採用していたり、勘定科目が限られているものが多いのが実情。
なので、GenialAIの強みは大きいと自負しています。

── GenialAIは日本語にも対応しているということで、海外サービスとの差別化に繋がりそうですね。

そうですね。GenialAIOCRは日本語・英語を含む10か国語に対応しています。
想像に難くありませんが、日本語のOCRは英語に比べると大変なんです。日本語には漢字、ひらがな、カタカナが混在していて、全角と半角もある。西暦と和暦の換算、同意後の一致判定等、日本語特有の論点はたくさんありますが、GenialAIは対応論点をどんどん増やしています。

また、OCRの設定時間を短縮する「OCRテンプレート自動生成機能」を開発しました。この機能は特許を取得しています。
簡単に説明すると、証憑毎の「ここが社名、これが金額」といった設定を自動でマッピングするというものです。

正直に言うと、マッピングの精度はまだ80%程度。ですが、それでの残りの20%を人間が埋めてくれれば、現状でも証憑突合の作業時間が1/5程度になります。もちろん、将来的にはこの作業も自動化して、さらなる効率化ができるようになるでしょう。

── 残りの1/5の時間で、他に人間が対応することはどんなことでしょうか。

主にはレビュー作業です。現状の監査基準では、AI監査ツールの利用というのを認めていないので、結局、全件、人間のレビューが必要です。

──かと言って全件証憑突合したら、全件レビューはできないですよね。人間ではできない量だからシステムでチェックするのに、レビューのためにまたサンプリングしなければいけない、みたいなことが起きてしまうのでしょうか…。

確かに今の監査の基準で考えると、不合理なことが起きてしまうかもしれません。
ただ国際監査・保証基準審議会(IAASB)のデジタルワーキング・グループが、監査のDXに関する意見を取りまとめていて、AI監査ツールの利用についても盛んに議論がされています。何をどこまで担保できればOKなのか、今後ルールづくりが国内外で進んでいくでしょう。

ベンチャーキャピタルへのプレゼンから、AI×監査のマーケットに気づく

── GenialAIの開発には、監査に対する深い理解が必須かと思います。阿部川さんはもともとPwCあらたに所属していたと聞いていますが、どのような経歴なのでしょうか。

もともと私はパソコンオタクなんです。それが高じてPwCあらたに入社し、会計監査の傍らでシステム監査を担当していました。
その後、財務報告アドバイザリー部でIFRSの導入アドバイザリー等を担当。パートタイムの税務コンサルを経て、2015年から2年間、カーネギーメロン大学のMBAに通い、在学中にGenial Technology, Inc.という米国法人をシリコンバレーで立ち上げました。

── AIと監査を組み合わせるというアイディアは、創業当初から取り組んでいたのですか?

創業当初はデータクレンジングのサービスを開発していたんです。ただベンチャーキャピタルにプレゼンしてもいい反応がない。市場規模が大きくなかったのが主な原因でした。
そこでアイディアを拡張して広い市場はないか検討したんです。そうしたら、前職の経験もあってAI×監査のマーケットに気がつきました。私自身も証憑突合が大嫌いでしたし、マーケットも大きい。これはチャンスがありそうだと感じました。

AI×監査にチャンスを見出したころ、ちょうどPwCあらたがAI監査研究所を設立したことを知りました。なんとかコンタクトを取って、オンライン会議でシリコンバレーから思いを伝えました。
そこから外部協力者としてPwCに役立ちそうなアイディアを共有したりして、後述する共同研究にこぎ着けています。

── ちなみにAI×監査という話は、アメリカでも盛り上がっていたのでしょうか。

2016年頃からアメリカ会計学会(AAA)でAIに関する論文がたくさん出てくるようになりました。
2017
年の12月にアメリカの内部監査協会(IIA)が公表した雑誌があるのですが、そのトップタイトルが「AI HAS ARRIVED」、つまり「AIがやってきた」なんです。なのでこの頃には既に議論がされていた印象です。

株式会社ジーニアルテクノロジー_Founder and CEO_阿部川 明優氏

起業当初は現在とは別のサービスを構想していた(写真提供:サイバーエージェント・キャピタル)

AI×監査はまだ第一段階。最終はAIが勝手に監査してくれる世界へ

── GenialAIはリスク対応にも有効そうです。例えば監査の現場では「直接販売と委託販売は別々の母集団にしたいんだけど、監査資源の制約もあって、理屈をつけて全部まとめて一つの母集団にしている」なんてこともあるように思います。こんなケースにもGenialAIは貢献するのではないでしょうか。

 そうですね。GenialAIを使って全件レビューしたり、浮いた時間を使ったりすれば、よりリスクに合致した監査対応ができそると思います。

また上では売上を例に挙げて説明しましたが、GenialAIは証憑突合が必要なほとんどの勘定科目で利用できるのも特長です。そのためあらゆる手続を効率化できるかと思います。

── 会計監査以外でもGenialAIは使えるんですか?

証憑突合という意味では、内部監査、内部統制監査等にも利用可能ですし、事業会社の仕訳レビューにも使えるでしょう。税務調査にも有効なんじゃないかと思っています。
もっと広く根拠資料との突合という意味では、例えばパスポートや運転免許証をGenialAIに取り込んでマッチングするといったことも可能です。

また将来的に、監査以外にも公認会計士のフィールドが広がっていくが見込まれています。例えばESG情報やCO2排出量を会計士がチェックする、なんて話も出てきています。ただその場合も、業務量は増えますが、おそらく人が十分に増えることはないでしょうから、効率的な手続は必要です。
この点、根拠資料との突合という意味なら、GenialAIはあらゆる場面で貢献できます。

── 最後に、GenialAIの今後の展開を教えて下さい。

前述したようにGenial TechnologyPwCあらたと共同研究しており、その一環でAIが会計監査に与える影響についてのレポートを2018年2021年に共同執筆しました。

この2018年版の中にも書いているのですが、 AI監査は主に3つの段階に分けられます。
1に単純作業の自動化。Genial AIPwCあらたが開発したCash.aiはここに当たります。
2に、簡単な判断の伴う手続きの自動化。開示情報チェックや契約書のレビューがこれに該当します。
最後に完全なAI化。最終的には経理部側にも経理処理用のAIボットがあって、監査人が提示してきたAIボットと共通のプロトコルで通信をして勝手に監査を進めてくれる、なんていう世界観です。もちろん第3段階でも最終的なジャッジは人間がしますけどね。

というわけで、Genial Technologyがいるのはまだ第1段階なんです。先は長いですが、第3段階に向けて、地道に頑張っていきたいと思います。

GenialAIのロードマップと市場規模

── AIをはじめ、テクノロジーの利用が進めば、人間が対応すべき論点に集中できるようになって、効果的かつ効率的な監査を実現できると思います。海外の話もありましたが、この論点は海外が進んでいる印象です。GenialAIAI×監査を推し進め、会計監査の救世主となれるよう、望んでいます。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

取材・執筆:pilot boat 納富隼平

 

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【納富 隼平/合同会社pilot boat 代表社員CEO・公認会計士試験合格】1987年生まれ。明治大学経営学部卒、早稲田大学大学院会計研究科修了。在学中公認会計士試験合格。あずさ監査法人で会計監査に携わった後、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に参画し、300超のピッチ・イベントをプロデュース。2017年に独立して合同会社pilot boatを設立。長文でスタートアップを紹介する自社メディア「pilot boat」、CVCやアクセラレーションプログラムのオウンドメディアコンテンツ制作・イベント運営・リサーチ等を手掛ける。公認会計士ナビでは、会計やスタートアップの記事・動画制作、イベント運営を専門に携わる。

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