「会計士のキャリア小六法」では、「会計士のキャリア形成についての考え方のポイント」をミニコラム形式でみなさんにわかりやすくお伝えしていきます。
第3回のテーマは「公認会計士の転職と景気の関係は?」です。
第1回と第2回では、公認会計士の転職に影響を与える内的要因について解説しましたが、今回は景気などの外的要因について解説します。
転職時期を検討するにあたっては、一般的には「景気の良い時に転職しよう」というのが通説ですが、公認会計士に関しては専門性の高い業界であることから、もう少し踏み込んで外的要因を分析することができます。
この公認会計士の転職に影響を与える外的要因には下記の3つがあります。
- 全体の景気
- 会計業界の景気
- 志望業界の景気
それぞれについて解説すると以下のようになります。
1:全体の景気
景気の状況に関してはシンプルで、以下のように考えられます。
- 景気が良い ⇒求人が多く転職しやすい
- 景気が悪い ⇒求人が少なく転職しにくい
2:会計業界の景気
会計業界の景気に関しては、会計ファーム(主に大手監査法人)の公認会計士ニーズを目安にしておくと、業界全体の動向もわかります。
大手監査法人が人材を必要としている(採用を積極的に行っている)
⇒求職者(売り手)が優位、採用側(買い手)が不利な環境
⇒転職がしやすい
大手監査法人が人材を必要としていない(ほとんど採用していない、減らしている)
⇒採用側(買い手)が優位、求職者(売り手)が不利な環境
⇒転職がしにくい
自分が勤めている監査法人が「採用を積極的に行っているかどうか」は、意外とわかりにくいかもしれませんが、そういった時は「自分や周囲のメンバーが忙しいかどうか」を目安にしてみてください。「忙しい場合」はどの法人や他の会計ファームも忙しく、人手不足である可能性が高いです。
3:志望分野の景気
志望分野の景気に関しては、ほとんどの場合で全体の景気と連動しますが、まれにその業界のみ景気が良い(悪い)場合があります。
例えば、少し前になりますが、日本全体がリーマンショック後の不景気をやや引きずっている中でソーシャルゲームやアプリの業界のみが好景気であったようなケースです。
もしくは、「中小企業金融円滑化法」の施行によって、企業再生分野でのニーズが増加したケースなどです。
FAS(クロスボーダーM&A)の転職市場を振り返ってみる
それでは、今回は、若手会計士の転職先として人気が高いFASを例に挙げてみましょう。
今回はその中でもクロスボーダーM&Aにフォーカスしてみます。
時期としては好景気から大不況へと転じたリーマンショック後の時期をとりあげます。
まず、2008年から2011年にかけての景気は以下の通りです。
2008年~2012年のFAS業界の景気
- 2008年前半~半ば:好景気
- 2008年後半~2010年:不景気(M&AやIPO案件がストップ、FASの業績悪化)
- 2011年~2012年:引き続き不景気、また、東日本大震災で国内環境の見通しが不透明に。日本企業のクロスボーダー(海外)M&Aが増加。
FAS業界に関してもリーマン・ショックの後、景気が大きく悪化しました。その後、2009年~2010年で底を打ち、2010年から2011年にかけてはやや回復か横ばい、東日本大震災でさらに不況が続いた状況でした。
また、2010年から2011年にかけては大手監査法人がリストラを行い、会計業界では会計士余りの状況となっていました。
一方で、2011年あたりからは、内需縮小や円高に伴い、日本企業が海外で積極的なM&Aを展開したことから、クロスボーダー案件を手がける大手FASでは英語力を必要とする案件にアサインできる人材へのニーズが高まりました。
これをもとに2011年~2012年の時期に「外的要因」の3要素に当てはめてみると以下のようになります。
- 全体の景気…不景気(リーマンショック→東日本大震災)
- 会計業界の景気…非常に不景気(監査法人のリストラ)
- M&A分野の景気…海外M&A分野のみ好景気
このように、リーマン・ショック後の転職マーケットを見てみると、全体としてはあまり景気が良くなく、会計業界においても転職にはあまり好ましくない時期となっていました。
また、FAS志望者に関して言えば、英語力がある会計士であれば転職活動を行うのに悪くはなく、英語力がない場合はもう少し景気が回復してからのほうが好ましかったと言えるわけです。
次回は、転職適齢期のまとめとして、これまでにお伝えした「内的要因」と「外的要因」の両方を合わせた転職適齢期の判断の仕方について解説します。
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【改訂履歴】
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初稿:2013年12月19日
第2稿:2019年4月30日改訂
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