2025年3月29日(土)に東京・茅場町にて第15回・公認会計士ナビonLive!!が開催されます。
本記事では、2024年8月31日(土)に「変わりゆく公認会計士のリアル」をテーマに開催された第14回公認会計士ナビonLive!!より、トークセッション「会計士が語る、スタートアップのファイナンスとバックオフィスのリアル」の様子をお届けします。
本セッションに登壇いただいたのは、株式会社IVRy(アイブリー)の後藤祐貴さんと、株式会社Voicyの中川由貴さん。両社共に資金調達を重ね、スタートアップ業界でも注目されている会社であり、そこでご活躍する公認会計士の方々です。
そんなふたりに、スタートアップ業界に魅力や、公認会計士はそのスキルを活かしてスタートアップで活躍できるのか、自分に合う/合わないスタートアップの見分け方、スタートアップのカルチャーなどについて聞きました。
モデレーターは独立してtokumo会計事務所の代表を務める公認会計士の安松綾菜さんです。
※本記事の登壇者の肩書・経歴等はイベント登壇時のものになります。
※本記事の内容は公認会計士ナビにてセッションでの発言内容に編集を加えたものとなります。
業界に居続けることになる、スタートアップの魅力とは
安松(tokumo):モデレーターを務める安松綾菜です。
「スタートアップ」と聞くと、やりがいやIPOといったポジティブなイメージを思い浮かべる方は多いかと思います。一方で、会社が不安定でいきなり倒産してしまうのではないか、朝から晩まで働いているのではないかといった、不安を抱く方もいるでしょう。
そこで本日は、スタートアップの最前線で活躍するおふたりをお招きし、スタートアップのリアルを聞いていきたいと思います。
後藤(IVRy):はじめまして。対話型音声AI SaaSを開発する株式会社IVRyで経理とファイナンスのマネージャーを務めている後藤です。
私はEY新日本有限責任監査法人で4年ほど会計監査に携わった後、1社目のスタートアップを経由してFASを提供している会社に転職し、財務DDやバリュエーションなど、M&Aのトランザクションサービスを経験しました。ご縁があって、2023年10月に2社目のスタートアップである現職のIVRyに入社しています。
IVRyは2024年5月に30億円の資金調達を実施しているのですが、私はそれにも関わりました。
株式会社IVRy
Accounting & Finance Manager/公認会計士
後藤 祐貴
2014年 11 月、公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人に入所。2018年10月よりSTORES株式会社に転職し、経営管理マネージャーとして会計面のPMI、連結決算オペレーション構築、IPO準備業務に従事。2021年1月よりG-FAS株式会社に転職。主に財務DD、株式価値評価業務に従事。2023年10月より株式会社IVRyにて経理責任者として入社。経理チーム組成、資金調達業務、事業計画策定・管理等幅広い業務に従事。
中川(Voicy):株式会社Voicyでコーポレートの責任者をしている中川由貴です。
私は会計士試験に2011年に合格し、有限責任監査法人トーマツに入社。トータルサービス事業部でIPO監査などに従事し4年ほど勤めた後、スタートアップに移っています。
現職のVoicyには2019年5月に参画し、現在は6年目。Voicy代表の緒方が会計士でトーマツの先輩という縁で入社し、事業計画やファイナンスはもちろん、去年から組織や採用のも管掌しています。
株式会社Voicy
経営企画・コーポレート責任者/公認会計士試験合格
中川 由貴
大学卒業後、2011年会計士試験合格。有限責任監査法人トーマツに入社。トータルサービス事業部に所属。ベンチャー企業を中心に、法定監査、IPO支援業務に従事。ベンチャー企業2社経験後、2019年に株式会社Voicy入社。Voicyでは、Corporate divisionゼネラルマネージャーとして、経営企画・経営管理業務に従事。デット/エクイティでの資金調達や中期経営計画の作成、KPI設計などを担当し、2023年からは採用・組織開発にも従事。2025年3月現在は、Voicyを退職し、株式会社Leaner Technologiesに在籍中。
安松(tokumo):それでは最初に、おふたりがスタートアップに入ったきっかけを教えてください。
中川(Voicy):私はトーマツ時代、IPO準備会社に関わる機会が多かったので、元々スタートアップとの接点は多く、憧れももっていました。とはいえ、いざその中に飛び込むとなるとなかなか勇気が持てずにいたんです。
そんな中、社内で組織再編があり、ちょうどいいタイミングだなと思って転職を決意しベンチャーに飛び込むことにしました。
安松(tokumo):中川さんは監査法人を退職された後に2社のスタートアップを経験していて、ずっとこの業界にいますよね。何かしらの魅力を感じているからでしょうか。
中川(Voicy):スタートアップは会社ごとにミッションやビジョンを掲げていて、そこに向かって色々なキャリアをもつ方々が集まっています。その中で、会計士やアカウンティングのスキルを手段として使えるというのは魅力的だと感じているからですね。
とはいえ、スタートアップには華やかなイメージもあるかもしれませんが、実際には泥くさいこともたくさんあります。私がVoicyに入って最初にやったことは複合機の契約でしたからね(笑)。そう考えると、必ずしも会計士のキャリアを活かして働けるというわけではない部分もたくさんあります。
後藤(IVRy):1社目のスタートアップの時は、今から考えると安直なのですが、ショートカットして偉くなりたいといった気持ちがあったからです。つまり、CFOに早くなりたかったんですね(笑)。
最初のうちは良かったのですが、CFOへ近づいている手応えが感じられないと、だんだんとモチベーションが下がっていきました。
安松(tokumo):ちなみにIVRyに入社する前に、FASを挟んだのはどうしてですか?
後藤(IVRy):そのスタートアップで一緒に仕事をしていたCFOが投資銀行出身の方なのですが、彼と比べると自分にはファイナンスの知識が圧倒的に足りないと痛感したからです。会計とファイナンスの差を日々感じていました。その当時私は31歳だったので、ファイナンスを学ぶなら最後のチャンスだと思い、FASに転職したんです。
安松(tokumo):その後、IVRyに転職していますね。
後藤(IVRy):はい。実はIVRyの社長と私は17〜18年前に自動車運転免許の教習所で出会って以来の友達なんです。その彼が5~6年前に起業し、誘ってくれたのもありジョインしました。「入社してくれないなら友達をやめる」なんて冗談交じりに言われましたね(笑)。
資金調達なんてやったことない!そのとき、どうする?
安松(tokumo):スタートアップでの業務内容に関しても聞かせてください。
本日お越しいただいているのは監査法人にいる方が多いのですが、監査法人で培ったスキルがスタートアップ業界で通用するのか、不安に感じている方もいるかと思います。
監査法人時代のスキルは現職に活きているか、教えてください。
tokumo会計事務所
代表/公認会計士
安松 綾菜
1997年生まれ。2019年公認会計士試験合格。2020年有限責任あずさ監査法人入社後は、大手製造小売業を中心に法定監査、IPO支援業務、ファンド監査業務等に従事する。
税理士法人への転職後、2023年に独立。tokumo会計事務所として、会計システム構築支援、クラウド会計導入支援などのサービスを提供している。同志社大学商学部卒業。夫も公認会計士。
後藤(IVRy):当然、監査対応ではスキルが活きますよね。つまり、どういった資料をどのタイミングで出すとか、こういう整理をしておけば指摘を受けない、といったことです。
中川(Voicy):どんなスタートアップでも経理や財務は必要なので、そういう意味でハードスキル(専門知識や技術など)はすぐに活かせると思います。
実際に私も、トーマツを卒業してすぐに入社した1社目のスタートアップでは、経理として仕訳を切ったり管理会計の仕組みを構築したりしていました。
プロジェクトマネジメントのスキルもかなり活きますね。どのぐらいの工数がこのくらいの期間で必要なので、このくらいのメンバーが必要、といった計算は監査法人出身の方は得意で、スタートアップでも役立つと思います。
安松(tokumo):なるほど。一方で、例えば資金調達のような、これまで経験したことのない業務もスタートアップではやらなければいけないこともありますよね。そういった場合にはどのように取り組んでいましたか?
中川(Voicy):正直、「やらざるを得ない環境になったら何とかなる、何とかしなければならない」というものではないでしょうか。
とはいえ、初めて取り組む業務の中には、自分だけではできないことは必ずあります。そのため私は周りの人にかなり頼っていました。資金調達で言えば、既に出資いただいているベンチャーキャピタル(以下「VC」)の方や、他社の資金調達を経験しているCFOやトーマツ時代の同僚ですね。そういった方々の力を借りることで、これまでなんとかなってきたんだなと実感しています。
安松(tokumo):そういった方々との繋がりはどのように築いてきたんですか?
中川(Voicy):前のセッションの進藤さんのお話にもありましたが、今日みたいなイベントで知り合うこともあれば、紹介いただくこともあります。VCから他のVCを紹介いただくこともありますし、全然違う業界の方を紹介いただくことも珍しくありません。
監査法人時代に感じた視野の狭さ 会計士として人的資産をどう築くのか秘訣や心がけを聞いた【第14回 公認会計士ナビonLive!!(1)】 |
スタートアップに向いているのは、こんな会計士
安松(tokumo):資金調達という意味では、IVRyも直近でファイナンスしていますよね。
後藤(IVRy):正直、エクイティの資金調達は監査をやっていればできるというものではありません。会社の深い理解と成長の可能性を投資家に示して自分たちの株を高く評価してもらうという意味では、セールスに近いものとも言えます。
IVRyは今回、シリーズC(外部の投資家からの、3回目の本格的な資金調達)の資金調達を実施しました。そのためシリーズA、Bのときの投資家が株主として既にいるため、彼らとコミュニケーションを取りながら、絶対にミスしてはいけないところを確認して、プロジェクトマネジメントを実施しています。
安松(tokumo):後藤さんはFASの経験もありますが、こちらの経験やスキルはスタートアップには活きていますか?
後藤(IVRy):FASの経験があると、例えば事業計画を作成する際のサンプルは頭に入っているので、そういう意味では間接的には活きています。ただFASをやっていないと資金調達ができないかというとそういうわけでもありません。
それよりも、スタートアップでは「目の前にある仕事をいかにやりきるか」といった「やりきり力」の方が非常に重要だと思いますね。
安松(tokumo):「やりきる」といった言葉が出てきました。スタートアップに合うのはどんな人材でしょうか。
中川(Voicy):自分のキャリアよりも、会社や、会社が属しているマーケットの成長を楽しめる人だと思います。もちろん、会社の成長は自分のキャリアを高めることに繋がります。
しかし、私も身をもって体感した時期があるのですが、自分のキャリアが目的になってしまうと、どうしても会社の方向性とのズレを感じてしまうんです。
後藤(IVRy):そうですね。会社を自分事として第一に考え、その会社をいかに伸ばすかを真剣に考えられるような人がスタートアップに向いているし、そうでないと厳しいと思います。
しかも、その気持ちや行動を自分だけではなく、メンバーに落とし込んでいかなくてはなりません。
FASはクライアントの要望に120%で応えて、そのプラス20%が次の契約に繋がっていく、といったイメージなので、スタートアップとFASはかなり違いますね。
スタートアップごとに全然違うカルチャーを調べる術
安松(tokumo):スタートアップ特有のカルチャーについても聞かせてください。
中川さんは現職の前に、スタートアップ2社の経験がありますよね。スタートアップごとにカルチャーの違いは感じますか?
中川(Voicy):カルチャーの違いはありますね。例えば、会社にどういった職種のメンバーが多いかが影響すると思います。
現職のVoicyだと、半数以上がエンジニアのメンバーなので、プロダクト開発やエンジニアの組織文化がそのまま会社のカルチャーになりました。
前職のスタートアップは営業のメンバーが多かったので、飲み会や売上の必達などが組織文化に繋がっていたと感じています。
登壇者の皆さんには懇親会にも参加いただきました
安松(tokumo):カルチャーの違いは、どこから生じるものなのでしょうか。プロダクトなのか、社長なのか。
中川(Voicy):どちらもあると思います。Voicyは社長の思いも強いですね。
後藤(IVRy):僕は社長次第だと感じています。そのためスタートアップに転職するなら、社長を絶対見ておくべきです。
例えばIVRyは、noteで継続的に発信をしています。毎日SNSにIVRyのnoteが流れることで、転職希望者の目に留まるようにしようとしているんですね。
なんでこんなことをしているかというと、社長が「毎日やるんだ」とハッパかけていたからです。かつ、それを自ら率先してやっていました。それがいつの間にかカルチャーとして会社に染みついていた。現に、今は社長は毎日発信しろとわざわざ言っていません。もうカルチャーになったからです。
最初のカルチャー作りは社長次第で良くも悪くも変わりますし、その後の影響がかなり大きいので、社長がどのような人間か?という点は非常に重要だと思います。
安松(tokumo):私も後藤さんのnoteを拝見したのですが、IVRyは「人がいい」という印象を受けました。スタートアップに関心を抱く方が「人がいい会社」を見極めるポイントがあれば聞きたいです。
後藤(IVRy):明確な答えはパッと思いつかないのですが、会社に知り合いがいれば、リファラル(従業員による転職者紹介制度)は有効だと思います。知り合いがいなければ、事前にその会社のメンバーにたくさん会うなどして、数でカバーするのもいいでしょう。
私の場合も、1社目のスタートアップは転職する前に、社長を含めたくさんの方にお会いしています。オフレコで「実際どうなんですか?」と聞いて、中の様子を確認していました。
スタートアップに関しては、こんな感じで自分で情報を取りに行くことが大事かと思います。
中川(Voicy):人に会うことは確かに大事ですね。
最近はカジュアル面談をしているスタートアップも多いので、そういった制度を使って積極的に会社の方に会ってみるのがいいと思います。
バックオフィスはカルチャーや組織づくりに貢献できるのか
安松(tokumo):ここまで組織やカルチャーについて聞いてきましたが、それらに対してバックオフィスができることを聞かせてください。
中川(Voicy):Voicyの場合は、そもそも代表の緒方が「組織もひとつのプロダクト」と普段から語っています。私はこの5年ほど、そのプロダクトをどういう思想で設計するのかという擦り合わせをしてきました。例えば行動指針やバリューの言語化です。スピードにこだわるのか、質にこだわるのかで、言語化の結果はかなり異なるでしょう。そういったものの共通認識づくりを大事にしてきました。
その先に、評価制度や等級、給与といったものがあるわけですが、私はカルチャーの言語化を大事にすべきだと思っています。
後藤(IVRy):めちゃくちゃ難しい質問ですね。バックオフィスとしてというよりは、僕がやったことをお答えします。
IVRyには「Beyond the Wall」「Keep on Groovin’」「Grab and Grit」という3つのバリューがあるのですが、四半期に一度、バリューを体現した人を「Value賞」として表彰するんです。
それで私は先日表彰されて、今着ているこのシャツを会社からもらいました。
後藤さんの着ているシャツはValue賞としてもらったもの。IVRyの文字がプリントされている
後藤(IVRy):バックオフィスは通常目立たないので、こういう賞はもらいにくいんです。
でも今回自分がValue賞を貰えたことで、背中で見せると言ったら大袈裟ですが、コーポレートの立場でやり切った、積極的にやり切った、ということはバックオフィスのメンバーに示せたのかと思っています。
安松(tokumo):ありがとうございます。最後に、本日会場には監査法人やスタートアップで働かれている方など、色々な方にお越しいただいております。その方々に対してひと言お願いします。
中川(Voicy):私自身、キャリアを築く上で、色々な方と話をすることが、非常に大事なことでした。ぜひ色んな人と話をして、自分のキャリアを見つめ直すきっかけにしていただけたらいいかなと思います。
後藤(IVRy):今日は前でお話させてもらっていますが、僕も皆さんと立場は変わりません。ずっとキャリアに迷っていますし、ずっと情報収集し続けています。
会計士のキャリアに終わりはないため、何かをやり遂げたとしても次の何かが出てくる。そのため、ずっとキャリアを追いかけ続けることになるでしょう。
会計士は選択肢も多くて迷うこともあるかと思いますが、それは普通です。悩んだら誰かに相談してみてください。共有する場をつくることが大事だと思います。
安松(tokumo):本日は中川さんと後藤さんをお迎えして「スタートアップのファイナンスとバックオフィスのリアル」を聞かせていただきました。ありがとうございました。
【参加受付中!】第15回 公認会計士ナビonLive!! 開催!
第15回・公認会計士ナビonLive!!の開催が決定!
「会計士×付加価値との出会い」をテーマに、「独立」「M&Aアドバイザリー」「次世代のデータ分析スキル」「コミュニケーション力」といった分野にフォーカスをして公認会計士の方々にお話を伺い、みなさんとの交流の機会をお届けする予定です。みなさまのご参加お待ちしております!