前編に引き続き、2019年6月13日、東京・ベルサール秋葉原にて開催された弥生PAPカンファレンス2019春(東京)の模様をお届けします。
前編では、弥生株式会社の岡本代表が講演した「デジタル手続法案成立と海外のデジタル化の潮流」、マーケティング本部の飯野本部長の「消費税法改正での事業者の課題と会計事務所の支援方法」についてお伝えしました。
後編では、弥生PAP会員の会計事務所による、消費税法改正に対応した教育制度などの事例発表の模様をお届けします。
※記事内のスライドは弥生PAPカンファレンス2019春にて用いられたものです。
消費税法改正をきっかけに、会計事務所が見直すべき課題と取り組み
今回の事例発表は、国内最大手の会計事務所である辻・本郷税理士法人の税理士・菊池典明氏による「法改正を機に見直すべき事務所課題と取り組みについて」です。
昨今では、好景気による求人数の増加や税理士試験の受験者の減少などから、会計事務所における採用競争が激化しており、規模の大小問わず採用に苦戦する会計事務所は少なくありません。
また、うまく人材を増やすことができたとしても、経験が浅いスタッフが増えるとサービスが低下する可能性があるため、人材教育も大きな課題となります。辻・本郷税理士法人でも、消費税法改正も相まって、同じ課題を抱えていました。
そこで、辻・本郷税理士法人では、採用力の強化と働き方改革に配慮しつつ、人材教育改革に着手し、
- 業務の妨げにならないような研修方法への改善
- 従業員のモチベーションが上がる研修システムの導入
- 研修内容の見直し
などを行いました。
ここでは、辻・本郷税理士法人が行った具体的な取り組みと、その成果についてお伝えします。
辻・本郷税理士法人 概要
- 新宿(本店)ほか全国拠点合計63か所。グループ企業・提携先合計20社。海外拠点6か国
- 設立日:2002年4月1日(辻会計事務所と本郷公認会計士事務所の統合)
- スタッフ人数:税理士207名、公認会計士63名。税理士法人スタッフ合計1,292名。
- 顧問先数:12,000社超
法改正に対応するため全従業員がスキルアップ。効果的で満足度の高い教育手法とは
プレゼンテーションでは、まず改革前の事務所の現状が発表されました。
辻・本郷税理士法人では、人材不足に対応するためにこれまでよりも積極的に初心者(新卒)の採用も行ったため、顧問先への提案や説明などのサービスの質を担保する必要が生じました。
また、研修に時間がかかり残業時間が増えるなど、従業員の満足度の維持が課題となりました。
そこで、辻・本郷税理士法人では、
「サービスの質を担保する効果的な教育方法への改善と、従業員の満足度を上げる方法で研修を行うこと、が課題」
と考え、以下3つの教育研修制度を整備しました。
1. 実トレ試験
2. ステップアップ研修
3. 役割別の教育(顧問先担当者、作業担当者など)
実トレ試験とその効果
まず『実トレ試験』について、実際の試験問題を交えながら、説明がされました。
この研修制度の改善点を、菊池氏は以下のように説明しています。
- 20分という短時間での試験形式 →集中して取り組める。残業時間の削減
- 表彰制度 →従業員のモチベーションアップ
- 回答しやすい出題形式 →1回5問。4問が選択式で1問が計算問題
- 丁寧な回答解説付きで、すぐ答え合わせができる →知識の蓄積に効果的
受身形式の研修と異なり、従業員が進んで勉強したいと思える工夫が施されています。
なお、試験に関するデータを分析したところ、試験結果と担当者の売上及び生産性には強い相関関係があることも分かったそうです。知識が増えたことで自信を持って業務に取り組めるようになり、さらに表彰制度で従業員のやる気が引き出された結果ではないかと感じました。
なお現時点で、実トレ試験は、辻・本郷税理士法人、ならびに、その提携会計事務所に提供されていますが、今後は提携外事務所にも提供を予定されているとのことです。
ステップアップ研修
続いて、『ステップアップ研修』について紹介がありました。最新の情報、実務上の留意点などをタイムリーにWEB配信するシステムです。
辻・本郷税理士法人では、働き方改革への対応で、就業時間内の固定された時間に必要な研修を続けることは困難と判断されました。
そこで、WEB配信に切り替えたところ、いつでもどこでも受講ができるため受講者が増加したそうです。
前回増税時の教訓を生かす、顧問先対応のポイント
消費税法改正を乗り切るためには、従業員全員の知識の底上げ教育とともに、顧客先への対応も重要だと、菊池氏は語ります。
前回増税時の顧客先からのクレームを踏まえて、次の5項目が重点対策ポイントとして選ばれました。
- 一般事業者 納税資金
- 建設事業者 建設仮勘定
- 建設・不動産・リース事業者 経過措置
- 一般事業者 軽減税率
- 飲食・小売業者 軽減税率
会場では上記5つについて詳細解説がありましたが、記事内では、「①一般事業者 納税資金」「②建設事業者 建設仮勘定」について振り返ってみたいと思います。
税率が上がると税額が増えて、納税資金が今までよりも多く必要になる可能性があります。前回の教訓を生かして、顧問先に対して事前にアナウンスをしているとのことです。
また納税資金の調達手段として、弥生の会計データだけで審査が受けられる、『アルトア オンライン融資サービス』が紹介されました。
次に、税率が混在してミスが起きやすい「建設仮勘定」の留意点について、菊池氏から説明がありました。
建設仮勘定は増税のタイミングで、8%と10%の建設諸費用が混在するので、資料の精査が必要な科目ということでした。特に担当者が切り替わったときに、前任者がチェックを終わらせていると思い込みそのままにしておくとチェック漏れが生じる可能性があるそうです。
重点対策ポイントの5項目は、ミスが起きる可能性は高いものの、事前に事務所内で周知していれば防げるものばかりです。従業員が理解しやすくまとめられており、顧問先へも迷わず説明できそうです。
意外と見落としがち。リスクが増える改正時は契約書見直しの好機
人材教育改革をはじめとして、消費税法改正に向けて計画的に余裕を持った準備を行っているように見える辻・本郷税理士法人ですが、それでもまだ「スケジュール的にタイトなもの」があると、菊池氏は語りました。
上記の通り、消費税法改正に対してしっかりとしたスケジュールを組んで対応を進めていますが、「契約の見直し」は、特に重要な事項であり、相当数の対応が必要なため、タイトなスケジュールの中で進めているとのことです。
菊池氏は、契約書の見直しが重要である理由について、以下の3点を挙げました。
- 仕訳本数が増加すること
- 納税額が増加すること
- 申告書の作成に注意が必要であること
消費税法改正に伴い会計事務所側の業務量の増加が考えられます。その際には顧問先との契約金額の見直しが必要になる場合もあります。
また、納税額が増加し、また、消費税関連の申告書の作成にもさらなる注意が必要となるため、会計事務所としてのリスク上昇も考えられます。
会計事務所として顧問先に適正な価格と品質でサービスを提供していくために、契約内容の見直しは大切な事項です。特に顧問先の意向やスケジュールも考慮しなければなりませんので、早期に取り掛かることが望ましいと言えるでしょう。
このような法令改正に関わる事項は、タイミングを逃すと顧客への説明は難しくなります。辻・本郷税理士法人の取り組みは、同じ状況にあるすべての会計事務所に共通した課題だと考えさせられるカンファレンスでした。
以上、前後編に渡って弥生PAPカンファレンス2019春・東京の模様をお届けしました。
次回の弥生PAPカンファレンスにもご期待ください!
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「弥生PAP」とは、弥生株式会社と会計事務所がパートナーシップを組み、弥生製品・サービスを活用して、中小企業、個人事業主、起業家の発展に寄与するパートナープログラムです。2018年9月時点で9,000以上の事務所が加入。税務サービスを提供する会計事務所様はぜひご加入をご検討ください。