2030年に求められる会計事務所の役割とは?―「士業サミット2023」レポート #士業サミット2024【PR】



株式会社マネーフォワード代表取締役社長 CEO_辻 庸介氏_辻・本郷 グループ 会長_公認会計士_税理士_本郷 孔洋氏

2024年10月22日(木)13時より、株式会社マネーフォワードによる士業サミット2024が開催されます。

本記事では、それに先立ちまして、昨年2023年10月20日に開催された「士業サミット2023」にの振り返り記事をお届けします。

法令改正やテクノロジーの進化など、企業を取り巻く環境は大きな変化を迎えています。
これらの変化に、会計事務所はどのように対応していけばよいのか?
士業サミット2023では、変化する環境をテクノロジー、マーケットニーズなど様々な観点から分析し、これからの会計事務所の進むべき道が示唆されました。

今回は、士業サミット2023の中からトークセッション「2030年に求められる会計事務所の役割とは?」をご紹介いたします。

日本最大規模の会計事務所、辻・本郷グループ会長の本郷孔洋氏(公認会計士・税理士)と株式会社マネーフォワード代表取締役社長 CEOの辻 庸介氏による対談セッションです。
法改正やDX化が会計業界や社会に対してどのような影響を与えるのか、その上で会計事務所としてこれらの変化に対してどのように向き合うべきなのか、会計事務所の未来の課題と今できる対策をレポートします。

会計事務所のサービスは「作業」から「コンサルティング」へ―強者が生き残る2030年

中小企業や会計事務所にとって大きなターニングポイントとなる制度が始まりました。
それが、2023年10月1日から施行されたインボイス制度です。

消費税の免税事業者からの仕入税額控除が段階的に縮小し、これまで免税事業者であった小規模事業者の取引環境が激変することが予想されます。

会計事務所にとっても、インボイスの実在確認や要件確認、記帳要件、経過措置の多い税額計算など、テクノロジーなしには対応が難しい局面を迎えています。

会計事務所も中小企業も、強いところしか生き残れない

株式会社マネーフォワード代表取締役社長 CEO_辻 庸介氏_辻・本郷 グループ 会長_公認会計士_税理士_本郷 孔洋氏(写真左)辻・本郷 グループ 会長 公認会計士 税理士 本郷 孔洋
(写真右)株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻 庸介

辻 庸介氏(以下、辻氏):2030年、少し先の未来についてお聞かせください。労働人口の減少と高齢化社会、テクノロジーの進化、グローバル化の広がりなどの背景が予想される2030年、会計事務所の役割についてどう思われますか?

本郷 孔洋氏(以下、本郷氏):インボイス制度が定着することで、制度や社会情勢に対応した会社が生き残り、同時に生き残りをかけたM&Aも進むことが予想され、中小企業の数は現在より大きく減るのではないか、と考えています。
中小企業の数が減るということは、会計事務所にとって潜在顧客が減ることを意味します。

また同時に、生き残った「強い企業」に対応した、質の高いサービスへの転換も迫られることになります。
会計事務所のサービスは、記帳や申告書作成などの「作業」から、専門性を活かした「コンサルティング」への転換が求められるようになるでしょう。

会計事務所も、制度対応はもちろんのこと、情勢に合わせたサービス転換ができた事務所だけが生き残るのではないでしょうか。生産性の向上や高付加価値のサービス提供のために会計事務所のM&Aも増えると思いますので、会計事務所の数も減っていくと予想しています。

テクノロジーの進化で「作業」の速習が可能に

本郷氏:幸いなことに、近年のテクノロジーの進化により、会計・税務の自動化が進んでいます。
例えば、クラウド会計を使うことにより、仕訳が自動化され、仕訳の科目で悩む時間は格段に減りました。
これまでExcel入力が必須だった路線価のまとめやお客様からお預かりした通帳コピーも、RPA(Robotic Process Automation。パソコンで行っている事務作業を自動化できるソフトウェアロボット技術)を活用すれば人が入力作業することなくデータ化できます。
作業の時間が減ることで、コンサルティングなど高付加価値な業務に時間を使えるようになります。

また、自動化が進むことで、誰でもすぐに「作業」ができるようになりました。
辻・本郷税理士法人では、1ヶ月ほどの研修を受ければ、各種の申告書作成ができるようになります。以前は、どうしてこうなるのか、まず「こと・わけ」を理解しなければアウトプットにたどり着けず、習得するまでに3年はかかったことですが、作業が自動化されたことにより、「こと・わけ」を十分に理解していなくてもアウトプットができるのです。

辻氏:以前に比べると、速習が可能になってラーニングに関するコストも下がりました。

本郷氏:人材育成のプロセスも見直す時が来ているのを感じます。

覚悟の経営とDX―会計事務所の課題

現在の会計事務所が抱える課題は大きく2つある、という本郷氏。
1つは覚悟の経営、もう1つは生産性の低さです。これらは人材採用、DX、働き方改革、経営戦略にも影響を及ぼす重要な課題です。

士業サミット2023_2030年に中小企業を取り巻く環境の変化

覚悟の経営

辻氏:本郷先生の著書「ほんごうが経営について考えたこと2023」(2023年、東峰書房)では、インフレ型対応の経営は「覚悟の経営」だとおっしゃっています。

「賃上げ、収益悪化、内部留保の掃き出し、非効率」と、これまでのコスト重視、内部留保、経営効率等を考える経営者のマインドとは真逆の発想ですね。

本郷氏:会計事務所は、不採算の顧問先があっても、利益がでる顧問先でカバーすればよい、と考えてきたように思います。損益通算のような形で経営してきましたが、それではもう成り立たなくなっていくでしょう。
採算の合わない顧問先は断る、その覚悟を持つことが必要です。

辻氏:賃上げも、これからの経営の課題ですね。

本郷氏:コロナ禍を経て、人材採用は厳しさを増しています。
採用には、賃上げ、それも大胆な賃上げが最も効果的です。ただし、会計事務所の場合、職員の賃上げをすると所長の手取りが減ってしまいます。
ですから、賃上げするには、覚悟を決めなくてはいけない。

若い求職者は、賃上げにはビビットに反応しますから、数%程度の賃上げでは効果がありません。思い切って2割の賃上げをして募集をかけたところ、かなりの応募がありました。

もちろん、現在働いている職員も賃上げしなければなりません。
そこで、人事制度を改訂して、これまでの年功序列型からジョブ型雇用を導入しました。新入社員は全員ジョブ型雇用に、既存の職員は公募制にしました。当社は専門職が多いので、ジョブ型を選ぶ人が多いように思います。
結果として、人件費の総額は思ったほど上がっていませんでした。

一時期、「ユニクロが賃金最大4割アップ」ということがニュースになりましたが、おそらく人件費そのものが4割上がっていることはないと思います。賃上げは人事制度の見直しと一緒に行うことが重要です。

生産性向上に不可欠なDX

本郷氏:私は現在、税理士法人の「未来戦略室」の運営に関わっています。
未来戦略室は事業会社の経営戦略室のような役割を持ち、当社・税理士業界のより良い未来を創造するための組織です。

未来戦略室の最優先課題は「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」と「人」です。
当社も生産性の向上は喫緊の課題であり、生産性の向上にはDXは不可欠です。

辻氏:DXへの取り組みは、多くの会計事務所が課題認識していると思います。うまく取り組んでいる事務所は顧客拡大、賃上げの実現と優秀な人材の確保などが進んでいます。

本郷氏:一方で、当社では全社的に導入することの難しさも感じています。
公認会計士や税理士の特性である、精緻で職人的なマインドと、拙攻で機械的なDXとの相性が良くないのです。
ともすると、既存の職員がDXの抵抗勢力になってしまうこともあります。

ですから、既存の職員にDXを無理強いせず、まずはDXに抵抗のない人や得意な人からDXに取り組んでもらう。
そのうえで、「作業」はなるべく社内の該当部署に任せるような社内分業制にして、全社で見たときに生産性を上げるようなバランスをとっています。

実際に、うまくDXが進めば生産性の向上はもちろん、働き方改革も実現できます。
当社でも、DXが進んでいる部署はリモートワークを実現し、作業はすべて社内分業化、打ち合わせもほぼリモートで進めており、顧問先は一時期1人あたり70-80件を担当していました。
DXは単なる作業のデジタル化ではなく、まさに経営の「デジタルによる変身」だと思います。

2030年、成長戦略を描けた会計事務所は成長する

1960年代は戦後、人々が個人事業主として事業を始めた「青色申告の時代」。

1970年代は、個人事業主の事業が拡大し法人成りする方が増え、法人の税務会計対応が伸びた時代。

バブル期の1980年代は資産税の時代。

1990年代の混迷の10年を経て、2000年代は不良債権処理税制とSPCに力を入れた事務所が伸びた時代―。

およそ10年ごとに変わりゆく会計業界のトレンドをつぶさに見てきた本郷氏は、2001年に税理士法人制度が創設された直後に税理士法人化し、現在の辻・本郷税理士法人の基礎を作りました。

士業サミット2023_辻・本郷グループ

経営のテーマは3年ごとにアップデートする

本郷氏:かつて監査法人が8大事務所から4大事務所に集約されていった歴史を見てきましたから、税理士法人制度が創設された時に、これからは税理士法人の時代が来る、会計事務所のM&Aも進むと直感しました。
ちょうどその頃に持ち上がった辻会計事務所との合併は即決しました。

ある程度の規模の事務所同士の合併だったので、当初は支部制にして別々の場所で運営をしていました。
ただ、別事務所で運営していた時は合併のシナジーがほとんどなかったので、3年かけて事務所を1箇所にまとめました。合併したら事務所をまとめたほうがいい、というアドバイスを聴いたからです。

事務所をまとめてからの3年間は本当に成長しました。合併してわかったのは、人材も引き継げるということ。即戦力の人材が一気に増えますし、人数が増えれば大数の法則で優秀な人材も増えていきます。
合併は1+1が3になる、という印象でしたね。

とにかく成長一辺倒だった時代も、3年ほど経つと停滞感が出てきます。朝礼をやっていても、死んだような顔をして出てくる人もいました。
その時、当時のヤマダ電機の「地方で稼いで東京で勝負する」という経営戦略に感銘を受けました。ウォルマートも地方の小さな雑貨店から世界規模のスーパーマーケットチェーンに成長しましたから、競争が少ない地方に力を入れるのは経営理論として面白いな、と。

たまたま運が良かったのは、その頃に地方の会計事務所から事業を引き継ぐ形で支部を出すことができました。現在、国内・海外を含めて94の拠点がありますが、その半分くらいはこの2年くらいで増やしていきました。

辻氏:ずいぶん急激に拠点を増やしていったんですね。

本郷氏:当時はM&Aに積極的な会計事務所が少なかった。M&A案件があると、顧問料と顧問先を見て即決していましたから、短期間で拠点がかなり増えました。

そこまでは成長が続いていましたが、2013年から私が最後に理事長をやる時、ちょうど10年目の節目だし第二創業にしていかないといけない、と思って内部を固めようと考えました。
これは失敗でしたね。内部は固めようと思って固められるものではありません。
それよりも、ネット広告をはじめとするオンライン化に取り組んでおくべきだった、と思っています。
これも3年ほど続きました。

辻氏:3年ごとに経営のテーマをチェンジする、中を固めるのではなく外に打って出ることを続けて成長してきた、ということですね。

本郷氏:その頃、ちょうど顧問先も1万件に達しましたし、区切りかなと思って理事長を退任しました。
現在、税理士法人は未来の部分、未来戦略室だけ関わっていますが、私の仕事の中心は、鉄道会社の沿線開発のような、付加サービスの開発に力を入れています。いわゆるプラットフォームづくりを目指しています。
そのために十数社の事業会社を設立し、経営に携わっています。

クラウド会計はプラットフォームそのものですよね。コネクトしている人、法人、サービスなどを集めていったら、信じられないくらいの巨大プラットフォームになる可能性を秘めていると思います。

現在の事務所の規模は無関係、成長戦略を描けた会計事務所が伸びる2030年

辻氏:2030年に向けて、これからの会計事務所にアドバイスをお願いします。

本郷氏:辻・本郷税理士法人は規模の大きな法人だ、と言っても市場シェアは1%程度です。サービス業はシェアが取りにくく、大規模法人といわれている会計事務所を集めてもおそらくシェアは10%程度ではないでしょうか。
さらに、DXは会計事務所の規模は無関係で横一線、なまじ規模の大きな事務所は出遅れてしまう危機感もあります。

2030年に向けて、現在の事務所の規模は関係なく、経営、DX、人材などで成長戦略が描ける会計事務所が伸びる余地はまだまだあると思います。可能性を信じて頑張りましょう。

取材・執筆:ライター山崎実由貴

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山崎実由貴/ライター(税・会計・経営分野) 大学卒業後、会計事務所に勤務。月次監査、決算、税務申告補助、各種届出等の実務を担当。 その後、編集プロダクションと広告代理店にて「国際会計基準(IAS)」と「バリューマネジメント(経営戦略)」のテキストを制作をはじめ、会計、経営、マーケティング、公会計分野のテキスト編集、Webページの制作、パンフレット、広告媒体の制作、大手新聞社(全国紙)の会計系プロジェクトの事務局業務などに携わる。 2005年に広告代理店退社後、フリーランスのライターとして活動。税・会計・経営分野の書籍の執筆協力、大学や企業のHP、ブログ、パンフレット等の制作、税理士事務所の情報公開用ブログの執筆など、主に税・会計・経営分野での執筆を中心に活動中。近年は、育児・産後ケアに関する記事執筆やオンラインセミナーMCなども担当。 税理士試験一部科目合格(3科目)、FP技能士(2級)、産後ケアリスト(2級)。 自然豊かな茨城県在住でクライアントの9割以上は東京都近郊の首都圏。特急列車を利用して茨城県と首都圏を行き来するハイブリッドワーカー。

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