テクノロジーの進化、働き方やクライアントニーズの多様化。会計業界が大きな変革期を迎えている今、多くの会計事務所が未来への舵取りに思考を巡らせていることでしょう。日々の業務に追われながらも、「このままではいけない」という漠然とした危機感。そして、「変化する会計業界で生き残り、顧客に対して価値を提供できる会計事務所でありたい」という熱い想い。
その想いに応え、会計事務所の持続的な成長の実現を目指す税理士たちが集う場が、株式会社マネ―フォワード、株式会社日本M&Aセンター、株式会社ヒュープロの3社が主催する「次世代会計事務所のための Growth Academy」です。
次世代会計事務所のための Growth Academyとは?
「次世代会計事務所のためのGrowth Academy」(以下、Growth Academy)とは、事業成長を目指す中小規模の会計事務所の経営者・経営幹部層に向けて、これからの時代を生き抜くための経営戦略、DX推進、人材採用、M&A支援といったテーマを、実践的に学ぶことができる全7日間の集中プログラムです。
2024年に初開催し、参加事務所から「自社の課題を言語化するきっかけになった」「課題解決の糸口を見つけられた」といった高い評価を受け、2025年も7回シリーズにて開講されています。
参考
7回シリーズで構成されるGrowth Academy、2025年6月4日に開催された第1回に続き、7月9日に開催された第2回の模様をお届けいたします。
第2回のテーマは「DXを事業成長の柱に!事業を伸ばす会計事務所の作り方」。全国各地より約30の会計事務所、33名が参加する熱気に溢れる会となりました!
本記事の目次
- DX推進に欠かせない、生成AIの活用。講義とGeminiを使ったハンズオンで会計事務所実務への活用のヒントを得る!
- 3代目税理士たちのDX経験談から学ぶ、事業成長の柱としてのDXとは?
- 最後はワークショップ!DX推進のための課題や悩みを共有
DX推進に欠かせない、生成AIの活用。講義とGeminiを使ったハンズオンで会計事務所経営への活用のヒントを得る!
会計事務所のDXを推進するうえで避けては通れないテーマのひとつが「生成AIの活用」です。世間に溢れる生成AIの情報が気になりつつも、じっくり学ぶ機会が持てていない会計事務所の方も多いのではないでしょうか?
当日、第一部は、多くの分野で応用が期待されている生成AIについて基本的な知識を学び、さらに実務での活用のヒントに触れる内容となりました。
前半は講義形式での解説、後半は実際に生成AIを使ったハンズオンスタディが行われ、参加者は知識と実体験の両面から生成AIの活用を学びました。
ご承知の通り、生成AIはAI(人工知能)を用いて新たなデータを生成する技術です。前半の講義では、生成AIの概要や現在ビジネスシーンでよく使われている生成AI、最近のトレンドであるAIエージェント(設定された目標に対して、自律的に学習・行動し達成を目指すAI)など、日々進化する生成AIの基本に触れました。
マネーフォワード社では自社内の業務への生成AI活用が進められており、豊富な活用事例が紹介され、会計事務所が生成AIを活用する際のガバナンスや体制整備を考える上で参考になる情報や面白いエピソードに、多くの参加者が耳を傾けていました。
また、バックオフィス業務を次のレベルに引き上げるため、すべての「マネーフォワード クラウド」にAIエージェント機能を提供していく方針であることも改めて示されました。
後半のハンズオンスタディでは、冒頭で生成AIを活用する上で重要となる「プロンプト(指示文)」の基本と、その考え方が解説されました。
続いて、参加者のみなさんも実際に生成AIを操作しながらの講義です。
参加者は、Gemini(Googleの提供する生成AI)のDeep Researchを使ったドキュメントの要約、Canvasによる図表への変換、NotebookLMを活用したソース調査など、基本的な操作を実際に体験。
会計事務所に精通したマネーフォワード社による講義ということで、税制改正や会計事務所が直面しがちな経営課題など、会計事務所の方々が日々の実務で触れている内容が盛り込まれた資料が用意され、参加者は講師のリードのもとGeminiに作業を指示し、生成AI活用のイメージを深めました。
会計事務所の実務に即したコンテンツが用意されていたこともあり、参加者からは「生成AIはここまでのアウトプットができるのか」と驚きの声も上がりました。また「マネジメントレベルでの活用に向けた課題も具体的に見えた」と、生成AIの可能性と現実的な活用のヒントを得る機会にもなりました。
3代目税理士たちのDX経験談から学ぶ、事業成長の柱としてのDXとは?
第二部ではパネルディスカッション&ワークショップが行われました。
パネルディスカッションには、税理士法人エナリ 横浜事務所所長の江成結己様(公認会計士・税理士)、L&Bヨシダ税理士法人 新潟オフィス代表税理士の吉田雅一様(税理士)をパネリストとしてお迎えし、会計事務所におけるDX推進のリアルな取組みをお話しいただきました。
税理士法人エナリ 江成結己様(左)、L&Bヨシダ税理士法人 吉田雅一様(右)
税理士法人エナリは神奈川県小田原市で70年、L&Bヨシダ税理士法人は新潟県三条市で60年と、長きにわたり地域の事業者の税務会計をサポートしている歴史ある会計事務所です。
江成様、吉田様ともに老舗の会計事務所の3代目として事務所に入所し、DX推進の一環として支社を設立したところも共通しています。
入所した事務所の印象については「昔ながらの税理士事務所らしい温かい雰囲気があり、先代から働いている職員も多いこと、職員はプライドを持って真摯に税務会計業務に取り組んでいる」一方で、「FAXのやり取りなどアナログな作業に時間が取られがちだった」ことや「お客様のニーズに応えるために業務効率の向上が課題だった」ことが語られました。
DX推進のコンセプトは「本店にも影響を及ぼす『黒船』のようなDX推進」(江成様)、「『ブレないこと』と『現場の気持ちを楽にすること』」(吉田様)。
ダイナミックな変化を目標とした江成様、現場の延長線上の変化を目指した吉田様、と異なる手法を採りながらDXを実現しており、事務所の状況に応じた様々な実践知が紹介されました。
江成様は、ゼロから立ち上げた横浜事務所において顧客開拓を先行し、その過程でDXによる業務効率化を推進。新規顧客の99%にマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを導入した実績を持ち、その流れは本店にも波及。最終的には本店でも約400社がクラウド会計へと切り替える成果につながりました。
業務効率化を果たし、効率化した時間で新規顧客の開拓を目指すというよくあるやり方ではなく「まずは顧客を増やし、業務効率化が不可欠な状況下で走りながらDXを進めた」という戦略的なマネジメントが注目を集めました。
一方、吉田様は「『マネーフォワード クラウド』の導入1,000件」を目標に掲げ、明確な期限を設定。ブレずに実行するために、導入に携わる職員への評価制度を整備するとともに、現場リーダーの負担軽減に向けた施策も実行。
「現場が新しいことに挑戦する時、最も負担が大きくなるのが経営層と現場の板挟みになりがちな現場のリーダーです。私は現場リーダーにその“しんどさ”を背負わせたくない。結果として、自分が現場に嫌われているのでは?と思うこともあるが、あえて嫌われ役になることでリーダーが動きやすくなり、現場レベルでのDXが着実に進んでいくと感じている。」という、現場と向き合い続ける経営者ならではの苦労と覚悟には、多くの参加者の共感を呼びました。
また、「どういったツールを導入するか、選定には相当悩んだ」と語るなど、DX推進における導入ツールの重要性にも言及されました。
パネルディスカッションでは、業務効率化にとどまらず、人材採用、伝統的な業務スタイルを重視する職員との向き合い方、支店の資金繰りといった現実的な課題にも踏み込んだ議論が展開。
DXにおける「綺麗な成功体験」だけでなく、おふたりの失敗体験、人や資金に関する悩みなど泥臭い体験談も赤裸々に語られ、DXを単なる効率化ではなく、事業成長の柱として位置づけるためのヒントが詰まったセッションとなりました。
最後はワークショップ!DX推進のための課題や悩みを共有
パネルディスカッションに続き、参加者がいくつかのグループに分かれて行うワークショップの時間も設けられました。
各会計事務所が抱えるDX推進の課題や現場の悩みを共有しながら、グループごとに意見を交換。現場の巻き込み方、経営層との認識のズレなど、実際に起きている課題を題材に議論が進みました。
パネリストの事例を踏まえつつ、自事務所に置き換えた具体的な施策やアクションプランを検討したグループもあり、「明日から取り入れたいヒントが得られた」「同じ悩みを抱える事務所同士で話せたことが励みになった」といった声も聞かれました。
第2回「次世代会計事務所のためのGrowth Academy」は、実務に根ざした学びと参加者同士の対話を通じて、会計事務所がDXを事業成長につなげていくための具体的なヒントと確かな手ごたえが得られる1日となりました!