公認会計士と弁護士というダブルライセンスをもつ菅沼 匠(すがぬま たくみ)氏が代表を務めるリンクパートナーズ法律事務所(以下「リンクパートナーズ」)は、所属弁護士の多様なバックグラウンドを活かし、新たなビジネスを展開するスタートアップやIPO準備企業を支援しています。
スタートアップの法務支援特有の難しさや、それに対するリンクパートナーズの支援スタイル、同事務所の特徴などについて、菅沼匠氏とスタートアップ法務を専門とする鹿野開路氏に話を聞きました。
本記事の目次
- 創業時からIPO後まで、スタートアップを法務面で支援
- スタートアップ特有の新規性の高いビジネスや登記への対応も
- 上場セレモニーに呼ばれるほど、顧客を二人三脚で継続して支援する
- スタートアップはいつから法律事務所と契約すべき?
- 合法だからOKではない、上場企業として大事な誠実性を踏まえたアドバイス
創業時からIPO後まで、スタートアップを法務面で支援
── リンクパートナーズにはどのようなクライアントが多いのか、教えてください。
鹿野:リンクパートナーズでは、上場を目指すスタートアップの顧問などを多数務めています。
クライアントの中には1,000億円規模のユニコーンとして上場した会社もあり、ユニコーンに至る過程のファイナンスや、ビジネスの根幹に関わる法務的な事項の取り扱いなどにも対応しています。もちろん、スタートアップが上場するに際しての、会社の関係書類や議事録の整備、労働法規規制などへの対応、法務側の契約書のチェック管理体制等の指導などもしています。
また、スタートアップと聞くと、弁護士事務所はレイター期から関わるケースが多いと思われる方もいるかもしれません。ですがリンクパートナーズの場合は、シード・アーリー段階から関係を深めているケースがほとんどです。
鹿野 開路(しかの かいじ)
リンクパートナーズ法律事務所
弁護士
弁護士登録以来、一貫して、ベンチャー企業のIPO支援とファイナンスに従事している。IPO支援では、IPOのための会社法関係書類の作成や登記にとどまらず、クライアントが提供するサービスの適法性について各省庁と対応を行う等、幅広く業務を実施。ファイナンスでは、株式、新株予約権、新株予約権付社債等のスキームについて、発行時にととまらず発行後の実務的観点、かつ、契約実務に精通した業務を提供している。
菅沼:クライアントにはスタートアップだけでなく、上場会社も少なくありません。中には時価総額300億円から3,000億円規模になった会社を支援したこともありますし、30億円で上場した後にM&Aを経て100億円規模になった会社もあります。
昨今、上場維持基準の見直しが議論されるなど、M&Aは今後、スタートアップでも上場会社でも重要性をさらに増していくと考えられます。私たちはIPOとM&Aの両方の支援ノウハウがあるので、その強みを活かして今後もシード期から上場後まで積極的に支援していきたいですね。
スタートアップ特有の新規性の高いビジネスや登記への対応も
── リンクパートナーズによる法務支援の特徴を教えてください。
菅沼:ビジネスを進める上では、関係法令に準拠しなければなりませんし、各種規約やプライバシーポリシーなどを作成する必要があります。
しかし、ビジネスモデルや現場の状況をしっかり理解していないと、本当の意味で最適なものは設計できません。
その点リンクパートナーズには、バックグラウンドの異なる様々な弁護士が所属しており、クライアントのビジネスや現場を多角的に理解できる体制を整えています。
クライアントはもちろん、その先のサービス利用者の利便性も高くなるように法令や各種規制に対応できる点が、我々の強みと言えるでしょう。
菅沼 匠(すがぬま たくみ)
リンクパートナーズ法律事務所
パートナー/弁護士、公認会計士
2001年、大学在学中に公認会計士試験に合格し、監査法人トーマツにて会計監査やIPO支援業務に従事。その後、ジャスダック証券取引所(現:日本取引所グループ)の上場審査部にて勤務。2005年にクックパッド株式会社に管理部第1号として入社し、株式公開、東証一部への市場変更などに関与する。その傍ら、司法試験を社会人合格。
2012年に弁護士登録し、2014年にリンクパートナーズ法律事務所を創業。上場支援、M&A支援の実績は多数。経済産業省による「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」の作成にも携わるなどスタートアップファイナンスの法務にも強い。
鹿野:新しいビジネスをするに際しては、労働法など一般的に対応が必要なものに加え、比較的新しい法令などにも対応しなくてはなりません。
私は特にアプリやAIビジネスの案件を多数取り扱っており、プライバシーポリシーの策定などにも頻繁に対応しています。スタートアップが展開する新しいビジネスもすぐにキャッチアップでき、支援できるのもリンクパートナーズの強みですね。
── スタートアップのビジネスは新規性が高いので、前例がない事項にも対処が必要ですね。
鹿野:その通りです。新規性が高いということは、クライアントがやろうとしているビジネスに対して、そもそも既存のどの法令が関連するかを調べるところから始めなくてはならないことを意味します。旅行系なら旅行業法、決済系だったら資金決済法といった具合ですね。
それくらいならパッと思いつきますが、中には我々弁護士でもなかなか聞いたことがない法律に遭遇することも少なくありません。そのときにどう適切に対処できるかが、弁護士の腕の見せどころとなります。
菅沼:他の法律事務所には、登記を取り扱わないケースも少なくないと思いますが、リンクパートナーズでは登記実務も対応しています。
例えば、新株予約権や株式を発行するには登記が必要なため、登記できないような設計をしても意味がありません。しかし、会社法の理屈上は問題なさそうでも実務上は登記できない、という現象は実際に存在します。
法律事務所で登記業務を扱わないでいると、そういった現象のノウハウが溜まりません。齟齬が起きてしまった際も、調整に時間がかかってしまいます。
しかしリンクパートナーズは登記も実際に対応しているので、そういった心配はありません。これも弊所の強みとなっています。
鹿野:リンクパートナーズの場合は、IPO前から顧問を担当した会社が、IPO後も引き続き顧問としてお付き合いする会社が少なくありません。スポットではなく、その後の株主対応なども含めずっと一緒に関わらせてもらっているのも特徴ですね。
上場セレモニーに呼ばれるほど、顧客を二人三脚で継続して支援する
── 法律事務所に対してのスタートアップ側のカウンターパートは、シードに近づくほど社長が多く、IPOに近づくほど法務部長ポジションの方になるのでしょうか。
菅沼:一般的にはそうですね。ただリンクパートナーズの場合は、ずっと社長と連絡を取り続けるケースも少なくありません。
鹿野:上場しても社長から「いつでも連絡してください」と言われていて、電話でご連絡することも多いですね。
── クライアントとかなり距離感が近いですね。
菅沼:そうですね。リンクパートナーズでは緊急時だけでなく、日常のコミュニケーション段階から二人三脚のように支援するスタイルを意識しています。
それが影響してか、法律事務所にしては珍しく、2024年は3社もの上場セレモニーに呼んでいただきました。
── リンクパートナーズは海外案件にも対応しているのでしょうか。
菅沼:英語を専門に扱う弁護士も所属していて、海外案件にも対応しています。
── クライアント候補はどのようにリンクパートナーズに問い合わせてこられるのですか?
菅沼:ご紹介がほとんどです。関係各所がリンクパートナーズがIPOに強いとわかっていて紹介してくださるのですが、そういった案件だけで手一杯、というのが実情ですね。
スタートアップはいつから法律事務所と契約すべき?
── スタートアップはどのくらいの段階から、法律事務所と顧問契約するべきでしょうか。
菅沼:成長可能性が高い企業ほど、早めに法律顧問は入れた方が良いと思います。
システム開発に際して、エンジニアが早めに対処しておかないと問題がどんどん大きくなってしまうことがありますよね。法務も同じで、意識的に早く対応しておかないと、後からビジネスの成長を鈍化させてしまう事柄というものがあります。
鹿野:例えばあるビジネスのプライバシーポリシーが不完全だったとしましょう。この場合、ユーザーが利用に同意していないデータを勝手にビジネスで使ってしまっている可能性があります。
その場合でも、ユーザーが100人規模の際にトラブルに気が付けば素早く対処できるかもしれません。しかし1万人規模でトラブルが顕在化したら、解決には多大なコストがかかってしまう。行政から指導が入ったりしたらその対応も必要になりますし、このトラブルが上場を遅らせてしまう可能性だってあるでしょう。
そういった事態を防ぐためには、早めに法律事務所に相談してもらい、適切なプライバシーポリシーを策定する必要があります。そういう意味でも、ビジネスの初期段階からご相談いただけると嬉しいですね。
菅沼:法律事務所への相談となると、特にシード段階のスタートアップは費用が気になってしまうと思います。この点、リンクパートナーズは顧問料を月5万円からとしています。
これを高いと見るか安いと見るかは状況によりますが、後から様々なアクシデントに対応しなければならないコストを防げると考えれば、リーズナブルだと考えてもらえるのではないでしょうか。
合法だからOKではない、上場企業として大事な誠実性を踏まえたアドバイス
── スタートアップは、ビジネスだけでなくファイナンス(資金調達)も重要事項です。最近はどのような論点が多いのか、教えてください。
菅沼:2025年前半時点では、新株予約権付社債や譲渡予約権株式が話題になっていますね。
J-KISSや優先株も引き続き利用されていて、リンクパートナーズではどの形式にも対応しています。
── 会社だけではなく、投資家との折衝も担当するのでしょうか。
菅沼:対応させていただくケースもありますね。株主間契約や種類株は、発行会社対株主だけではなく、株主対株主の構図でもあります。そこで合意にあたっての支障が生じている場合は、間に入ることも珍しくありません。
鹿野:我々のクライアントにはIPOやM&Aでエグジットした会社が少なくありません。そのため、資金調達をしてエグジットした後にどういったことが起きるのか、という生の話がノウハウとして蓄積されているんです。これを活かしてスタートアップの支援をしています。
菅沼:例えば、一旦優先株を発行した後に新たな優先株を発行して新たな株主が入ってくるケースでは、どのような利害関係が発生するか、株主間契約はどのように変える必要があるのか、それに対して契約書ではどういった調整をするべきなのか、どういう順番で株主に相談するべきなのか、という論点が発生する可能性があります。
必ずしも法務とはいえない面も交えて、総合的にスタートアップの相談に乗れるように心がけていますね。
── このスタンスは、菅沼さんのスタートアップでのCFO経験なども活きているのではないでしょうか。
菅沼:はい。私は事業会社にも在籍していたことがあります。その会社はその後、無事に上場を果たしています。
外部の専門家は事業会社に色んなアドバイスをしますが、事業会社の中の実務は杓子定規にそのアドバイスを実行できない場面が多々あることを、事業会社時代に身をもって知りました。
実際に自分で経験したからこそ、実務や会社に寄り添ったアドバイスができるし、しなくてはならないとも考えています。
IPOだけではなく、その後にどんなことが発生するのか、どのように対応するのかといったことは、会社に寄り添って対応していきたいですね。
── 菅沼さんは証券取引所で働かれていた経験もお持ちなんですよね。
菅沼:当時のスタートアップ市場としては最も活況なジャスダック証券取引所の審査部に勤務していました。
当時から取引所や制度は変わりましたが、IPO審査の本質は変わっていません。上場企業として大事なのは、パブリックな存在としての法令や規制を超えた誠実性。公の器になれるかを試されている点は同じです。
そういった感覚を私だけでなく、事務所全体がもっているので、私たちは「合法であればいい」「適法だから問題ない」なんて助言はスタートアップにはしません。ギリギリを攻めたらどういうことが発生してしまうかという点も意識しつつ、スタートアップのお客様にアドバイスをしています。
── 最後に、IPOを目指す過程で法律事務所を探しているスタートアップにメッセージをお願いします。
菅沼:リンクパートナーズには多彩なバックグラウンドをもった法律家が在籍していて、スタートアップが挑戦する新たなビジネスを支援しています。
繰り返しになりますが、法務的な問題が顕在化すると、後からでは取り返すのが大変なことも少なくありません。リーガル面でお困りの際は、ぜひ、早い段階でリンクパートナーズにお気軽にご連絡ください。
取材・執筆:pilot boat 納富隼平