第5回:税務顧問の契約書はなぜ重要なのか?【会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント】

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東京共同会計事務所の窪澤と申します。
このコラムでは、複数回に渡って、税務業務に携わる税理士や公認会計士の皆さまが知っておきたい税理士賠償責任(以下「税賠」といいます。)に関するポイントをお届けしてまいります。

これまでの記事はこちら →シリーズ:会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント

著者

東京共同会計事務所
税理士/マネージャー
窪澤 朋子

上智大学外国語学部卒業
平成15年税理士登録。前職の鳥飼総合法律事務所で、14年にわたり、税務訴訟及び税賠訴訟の補佐人・不服申立の代理人を務める。主な担当事件に、ストック・オプション事件、ガーンジー島事件、グラクソ事件、外国籍孫事件等。
税賠案件では、税賠訴訟の他、税理士紛議調停・訴訟前の交渉等、多数の案件に関与。税賠保険事故調査書のレビュー経験あり。
著書に、「税理士の専門家責任とトラブル未然防止策」(清文社・分担執筆)等。

第5回も「税賠保険」についてです。

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税賠保険が下りる典型例

今回は、税賠保険が下りる典型例を取り上げ、事故の発生から決着までをご紹介したいと思います(実際に発生した事故ではありません)。 近年、税賠保険の適用件数が消費税の届出書に次いで多い(株式会社日税連保険サービスのHPによります)、所得拡大促進税制の典型例です。
A税理士は、2019年2月、顧問先B社について、所得拡大促進税制の適用ができたにもかかわらず、この税制の適用をせずに税額を計算し、B社の法人税の申告書を提出してしまいました。なお、A税理士は、2019年5月に行われた税理士会の研修に参加したことがきっかけで、自らこのミスに気づきました。ご存知かと思いますが、所得拡大促進税制は、申告時の適用が要件とされており、適用を受けなかったことに後から気付いても、更正の請求により税額控除を行うことはできません。
研修から帰ったA税理士は、2018年12月決算のB社の申告書と会計データを再度確認します。従業員数の増加に比べ、給与総額は大幅に増加しています。しかし、継続雇用者に係る給与総額のデータは、B社の経理担当者Cさんに確認しないとわかりません。A税理士は、事務所所長の承諾を取ったうえで、B社に連絡することにしました。

ミスが発覚したらすぐに対応を

A税理士はすぐにB社に連絡したところ、Cさんに驚かれてしまいました。

Cさん「前期の申告、間違っていたのですか?しかも、後から直せないミスですって??」

A税理士「私のミスで、このようなことになり、誠に申し訳ございません。ただ、御社にデータをご確認いただかないと、ミスをしてしまった税額が計算できないのです。」

Cさん「わかりました。給与のデータは私の方で確認し、すぐにお送りします。データをお送りしたらなるべく早く、金額を教えてください。私も、社長に報告しないといけませんので。」

幸い、Cさんからは、すぐに継続雇用者に係る給与総額のデータをもらうことができました。
A税理士がすぐさま再計算したところ、税額控除ができなかった金額は、350万円でした。A税理士は、B社のD社長にアポイントをお願いしました。

D社長「間違っていた税額については理解しました。これは、税務署から返してもらうことはできないのですか?」

A税理士「所得拡大促進税制は、優遇税制でもあり、税額控除を受けるためには、申告時に適用して別表を添付することが要件とされています。御社は、前期までは給与が減少していたので、対象ではありませんでした。今期は適用可能だったところ、私が見落としてしまいました。」

D社長「ミスは仕方ないのかもしれませんが、そちらのミスで我々の税金が増えてしまうのは納得できませんね。」

A税理士「ええ、おっしゃる通りです。本件については、所長にも確認いたしまして、またご連絡いたします。」

損害賠償金は顧問先で課税されてしまう

A税理士は保険会社に連絡し、「事故報告書」を提出することになりました。保険会社からは、典型例なので気を付けてくださいね、と言われてしまいましたが、親切に手続きを教えてもらえました。 また、損害額となる、控除できなかった額につき、事務所で負担することになると思われることについても、保険会社に報告し、保険会社の了承を得ました。

A税理士「事務所で検討いたしましたところ、控除できなかった税額については当事務所で負担させていただくこととなりました。」

D社長「それは安心しました。有難うございました。」

A税理士「また、当事務所で加入しています保険会社に確認したところ、たぶん保険が下りるのではないかということです。つきましては、当該保険の手続きに際し、誠に申し訳ございませんが、御社から、私どもに損害賠償を請求するという旨の書面をいただかなければなりません。ご了承頂けますでしょうか。」

D社長「保険が下りると聞いて、安心しました。Cからは、先生はいつもよく見てくれるので、これからもお願いしたいと聞いています。書面提出についても問題はありませんが、今後はミスを起こさないよう、気を付けてくださいね。」

A税理士「D社長、もう1点お伝えしなければならないことがあります。今回お支払いする350万円は、御社の益金になり、今期の課税所得となって、税金がかかってしまいます。申し訳ございません。」

D社長「そんな罠がひそんでいるのですか?それでは、顧問料を少し割引してもらわないといけませんな。」

A税理士「社長、ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします!」

A税理士は、保険会社に提出しなければならない「事故報告書」の作成に、相当時間がかかりました。本件に関する経緯を時系列に沿って詳細に記載する必要があったためです。その後も保険会社の担当者と何度かやり取りをした結果、無事に免責金額30万円を控除した320万円が保険金として支払われました。

B社には、350万円を損害賠償金として支払ったうえで、B社に課税されてしまう税金分を考慮して、今後半年間顧問料を割引することになりました。A税理士は、面倒だからと使っていなかった申告書作成時のチェックシートを、早速今月の申告から使うことにしました。

ミスが起きないための工夫とともに、コミュニケーションの継続が肝要

優遇税制の適用漏れは、一般的に、ミスの発生理由が税理士側にあることが多いものと考えられます。租税特別措置法には、数多くの優遇税制が設けられており、その概要は一般紙などでも報道されることもあるものの、顧問先は、税務の情報には詳しくないことがほとんどですので、税理士としては、顧問先への優遇税制の適用可能性を1つ1つ検討していく必要があるものと考えます。
税務雑誌や税制改正のニュース等で優遇税制の個々の制度に関する理解を深めることや、チェックシートの活用も、ミスの防止に役立つのではないかと思います。
また、税賠が発生した際は、コミュニケーションの継続がとても重要です。
A税理士は、ミスに気づいた際、すぐに正直にB社のCさんに連絡しています。これは相手方の心証を悪くしないためにも、非常に大切な点です。また、今回のケースでは、Cさんに給与のデータを確認してもらえないと、損害額がわからない事例となっていますが、このようにミス発覚の時点でB社とのコミュニケーションが困難となってしまうと、損害額を確定することができないまま、突然顧問先から損害賠償請求にかかる内容証明が届く、などということになりかねません。
分からない事が多い状態で、顧問先に安易に謝罪するという行動も慎むべきですが、事故の発生が発覚したら、事務所内のライン上の上司にきちんと相談の上で、適時適切に顧問先及び保険会社に連絡を行うことも、とても大事です。

【今回のポイント】

  • 優遇税制の適用漏れは、税賠保険が下りる可能性が高い
  • 顧問先へ支払った損害賠償金は、顧問先で課税の対象となる
  • ミスに気づいたら、顧問先とコミュニケーションを継続しできる限り協力してもらう

次回に続く

→第6回はこちら

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記事引用元:【第5回】税務顧問の契約書はなぜ重要なのか?:会計事務所が知っておきたい税理士賠償責任のポイント | 東京共同会計事務所求人・採用サイト

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