来る2019年8月3日(土)に東京・茅場町にて「“ファイナンス”で輝く会計士のプロフェッショナルスキル」「好きなことを仕事にした会計士たち~本業・副業・パラレルキャリア~」をテーマに第11回・公認会計士ナビonLive!!が開催されます。
本記事では第11回の開催に向けて、今年3月に開催された第10回・公認会計士ナビonLive!!の内容を振り返ります。
第10回 公認会計士ナビonLive!!の第2部トークセッションでは、「会計士とスタートアップとHARD THINGS」をテーマに、スタートアップで活躍する3名の公認会計士と、会計業界に精通した転職エージェントでもある公認会計士ナビ編集長が、公認会計士とスタートアップのキャリアについて語りました。
※本記事はセッションでの発言を一部補足・編集した記事となっております。
第10回 公認会計士ナビonLive!!
~会計士とプロフェッショナルキャリアの選び方/会計士とスタートアップとHARD THINGS~【日時】 2019年3月16日(土)13:15~16:15
【場所】 FinGATE KAYABA
【トークセッション テーマ】会計士とスタートアップとHARD THINGS
【登壇者】
・植西 祐介(株式会社プレースホルダ 取締役CFO/公認会計士)
・小出 孝雄(株式会社マイネット 社長直轄 企業戦略室 室長/公認会計士試験合格)
・服部 数馬(株式会社VAZ 取締役 執行役員CFO/公認会計士)
【モデレーター】
・手塚 佳彦(公認会計士ナビ編集長/株式会社ワイズアライアンス 代表取締役 CEO)※登壇者の役職、肩書等はイベント開催時のものです。
本記事では、第2部トークセッション「会計士とスタートアップとHARD THINGS」より、株式会社プレースホルダの取締役CFO 植西 祐介 氏(公認会計士)のコメントをご紹介します。
植西 祐介
株式会社プレースホルダ
取締役CFO/公認会計士
一橋大学商学部卒業後、住友化学株式会社にて事業企画、投資計画立案、業績管理、工場管理業務を担当。2011年、公認会計士試験合格。2012年より新日本有限責任監査法人にて製造業、飲食、商社等の複数業界の会計監査・内部統制監査業務を経験後、2014年よりEYアドバイザリー株式会社にてオペレーション改善、中期計画立案に従事。
外資系戦略ファームのボストン・コンサルティング・グループでは複数グローバル企業においてM&A、中長期経営計画立案/オペレーション改善等のプロジェクトを多数経験。現在は株式会社プレースホルダの取締役CFO。
公認会計士&社会保険労務士(試験合格)のダブルライセンス。
参考サイト:株式会社プレースホルダ
※所属企業・役職等はイベント登壇時のものです。
教育の未来がそこにある、デジタルテーマパーク開発型スタートアップ「プレースホルダ」
プレースホルダは2016年8月設立後、2回の資金調達を経てシードからミドルステージへ、社員30名、アルバイトスタッフ70名、従業員総数が100名規模*と順調に成長を遂げる、注目のスタートアップである。
*従業員数はイベント開催時のものです。
スタートアップ業界と言えば、ITに技術に特化して開発を進めて成功を収めるケースをよく見かけるだろう。しかし、プレースホルダは違う。
CFOの植西氏は同社の事業について語った。
プレースホルダの事業内容は、デジタルテーマパークの開発と運営です。
創業者である代表の後藤はソーシャルゲーム開発会社『ポケラボ』を起業してグリーに売却した連続起業家でもあります。テーマパークとディズニーが大好きで、子どもたちが遊びながら新しい技術に触れることで自然に勉強・知育になっていくテーマパークを開発しようと、プレースホルダを創業しました。
「Create Dream & Excitement」をミッションに掲げ、「エンターテインメントの世界をがらりと変える価値を提供していこう」と、「ARやVR、プロジェクションマッピングなど最先端技術を使っていこう」という2点を軸にしています。
弊社では「“遊び”が“学び”に変わる」をコンセプトに、テーマパーク「リトルプラネット」を運営しています。
リトルプラネットでは、砂遊びやボールプールのような昔ながらのアナログな遊びにプロジェクションマッピングなど最先端のデジタル技術を取り入れて、子どもたちに新しいインタラクション、気付きを与えるアトラクションを開発しています。また、グッズの販売や、ワークショップ、イベントなども開催しています。
通常のスタートアップは限られた開発資源を特定の領域に集中してエッジを立てて事業展開をするのが一般的ですが、弊社は、アトラクション開発、テナント交渉、設計、施工、パークの世界感作り、運営など幅広く手掛けており、スタートアップでは珍しい領域を手掛けているのかなと思います。
スタートアップのCFOの役割のひとつ、ファイナンス戦略
エクイティとデットを使い分けるファイナンス戦略
CFOと言えば資金調達が主な役割だと思う方も多いかもしれないが、プレースホルダのようなスタートアップの場合も同じなのだろうか。
植西氏は、現在の業務で“Finance”が占める比率は2割程度と述べつつ、スタートアップでいかに資金調達を成功させるかについて語った。
弊社は今までエクイティファイナンスを2回行っています。デットファイナンスでは10社程度の金融機関と交渉しており、そのうち数行から資金調達をしています。資金調達する場合は事業計画を作成しますが、投資家と銀行では事業計画に求められているものも異なります。
まずエクイティの場合は、投資家は成長性を重視するため、ポジティブケースとネガティブケースといった複数の成長パターンを想定し、マルチプル・バリュエーションの手法で変動幅を持たせた将来の成長可能性を見られます。時には残余財産分配といった優先株設計、その他の株主間で定められる特定条項などの各種投資条件も交渉しながら調達クロージングをしていきます。
一方、銀行は成長性ではなく実績を圧倒的に重視します。将来的な利益より、各店舗における償却性資産の運用と営業キャッシュフロー獲得による堅実な黒字計画での資金回収を好みます。そのため短期的で変動のない事業計画が好まれますが、我々のようなスタートアップは成長途上なので店舗が黒字になるのはまだ先です。そこを仮に既存店が赤字状態だったとしても無担保・無保証の条件をいかに取り付けられるかであったり、金利を短期プライムレートといったベースレートからの何%のスプレッドで抑えられるかという、条件調整をしながら銀行との交渉を進めていきます。
店舗ビジネスの資金繰りの実務
スタートアップの成長スピードに合わせて必要な資金を調達し、資金管理するのは容易なことではない。植西氏曰く、プレースホルダのような事業形態ならではの資金管理の難しさがあるという。
スタートアップは成長過程で資金需要が高い上に、弊社では固定資産、人件費、在庫など多種多様な費目があるため、資金管理は簡単ではありません。
例えば、ひとつの店舗を新規出店するときは多額の初期投資額が必要とされます。また、アトラクションを自社開発しているため、優秀なエンジニアやデザイナー採用による人件費比率も少なくありません。他にも、キャラクター関連グッズを企画製作する場合でも最低発注単位が定められており、一つ10万円以上の初期投資がかかる場合もあります。
このように各オペレーションにおける複数種類、多額の投資がかかるため、CFOには総合的な視点が求められ、一方で細かい実務面での資金繰りにも気を遣う必要があります。
資金調達前でまだ資金繰りがタイトな頃には、新規出店の投資支出、人件費、社会保険料、多業種に亘る取引先といった一つ一つの支払項目のスケジュールを、週次や日次単位で綿密に計画して神経を尖らせていた時期もあります。スタートアップのCFOの仕事にはそれくらい細かいところまで気を配る側面も時としてあります。
CFOがスタートアップで果たす役割
スタートアップは資金だけではなく、人員面でも限られた人数で協力して業務をこなさなければならない。業務の2割程度をファイナンス関連とする植西氏だが、ほかにどのような役割を果たしているのだろうか。
財務、資金面以外に、リーガルの交渉も行ってます。新規店舗の出店の際には不動産デベロッパーと事業開発のメンバーと共に交渉し、出店条件や敷金・保証金といった初期経費の条件交渉も私が行う時もよくあります。
ほかにも出店に関する人事採用、経営企画、経理、法務、SCM、事業開発など幅広く管理業務があり、 “CFO”の“F”の部分は業務全体の1、2割というところです。スタートアップのCFOは会社の成長に対する責任が大きくやりがいはあるものの、同時に総合力も求められます。
会計士が目標とするキャリアからスタートアップへの転職を決意した理由
創業者との運命的な出会い
植西氏の経歴は、新卒で入社した住友化学株式会社で事業企画、投資計画立案などに携わりながら会計士試験に合格し、新日本監査法人での監査、グループ会社でのコンサルティング業務、戦略コンサルファームのボストン・コンサルティング・グループへと進む。植西氏のようにトップティアの戦略コンサルで活躍できるキャリアを目標とする若手会計士もいるだろう。
だが、普通ならゴールとなり得るキャリアから一転してスタートアップの世界に飛び込んだ。これはどういう理由だったのだろうか。プレースホルダの創業者との運命的な出会いがスタートアップに入るきっかけになったと植西氏は語る。
私が数年前に短期語学留学でフィリピンのセブ島に行ったとき、共同創業者の二人と偶然にも一緒の留学先で知り合ったのがきっかけです。当時の彼らは起業準備前にセブ島に語学勉強をしに来ていたのですが、正直その時の印象はそこまで強くなく、SNSの連絡先をたまたま交換していたくらいでした。
その後、二人がプレースホルダを共同創業して1年程度が経過してしばらくした時に、「CEOのアシスタント募集、週2~3日」という募集が出ていたのをSNSで発見して、その時初めてプレースホルダの事業内容を改めて調べてみるととても興味が沸く内容でした。
それで気になって連絡して話を聞いてみると、当時、初の新規出店が決まり管理業務が増大した関係で、バックオフィスやアシスタント業務を任せられる人を初めて探し出したという話でした。
ところが、新規パークを出すのにアルバイトスタッフの労務管理を行う体制が社内で作られていない、契約や資材購買といった業務はCEOが自ら行っている、出店意思決定における判断基準も未定、当然ながら店舗別の管理会計も存在しない、財務諸表・試算表の作成も全部会計事務所任せ、さらには近々大型の資金調達を考えているという話でした。
これだけやらなければならないことがある状況を聞いた時に、「週2~3日のアシスタントじゃ無理だな(笑)」と思う一方で、何も整っていない状況にワクワクし自分が自ら手伝いたいという気持ちも大きくなりまして、これも何かの縁と思い、二人と面談して一緒に参画することになりました。
人生のバリュエーションをどう考えるべきか?
植西氏がなぜボストン・コンサルティング・グループからスタートアップに転職したのか疑問に思うかもしれない。しかし、その理由はとても会計士らしい考え方だった。
転職では人生のDCFバリュエーションメソッドを重視しています。横軸に時間を取って、縦軸に年収と精神的な幸せ度の合計値を取ります。
監査法人の場合、アソシエイト、シニア、マネージャー、パートナーと昇進して行けば最終的な年収は2,000万円くらいだとして、退職リスクも低くキャッシュフローは安定しているためWACC(加重平均資本コスト)は低いということになります。年収は安定していますが、精神的な幸せ度が高いのかというと疑惑は払しょくできず、本当に総合的な人生のDCF合計値が高いのかは不明でした。
一方、スタートアップは厳しい世界で、上場やバイアウトをしてキャピタルゲインを得られる確率は低いけど、リターンは振り切れています。そういう意味でキャリア選択はリスク評価だけの問題で、どのキャリアを選んでも年収面だけを見たDCF平均期待値は変わらないと思っています。
さらにこの方法のもう一つのポイントは、縦軸が年収だけではなく精神的な満足度との合計ということなのですが、私の場合は、収入に対する幸福度のカーブは、最初は大きく上昇するけど徐々に横ばいになるというパターンの人間でした。
つまり、ある程度の生活できる給与水準を超えたら、それが2,000万円になろうと1億円になろうとそれほど幸福度は変わらないのです。そして、会計士は市場価値もまだそれなりに残っており、ある程度の収入は保証される傾向にあります。
その中で、年収の変動幅は自分にとっては大きな障害ではなく、幸福度も含めた人生のバリュエーションを最大化するためには、給与水準はそこまでこだわらず、やりたいことが実現できる環境で精神的な幸福度を最大限高めるべきだと思ってスタートアップへの転身を決断しました。
私は事業会社でキャリアをスタートしたので、監査法人やコンサルでプロフェッショナルとしての経験を積んだあとは、やはりやりたいことをやっている会社に入りビジネスの中心で仕事をしたいという希望があり、スタートアップを選びました。
そして創業者との縁もありますが、プレースホルダでは、AR、VRという最先端技術を使って子どもたちの教育未来のためという社会的課題に取り組んでおり、代表の想いに共感できたこともあり、そのことも決め手となりました。
スタートアップでの会計士の存在意義
会計士が所属する大組織とスタートアップは規模の面以外にも違いが多く、興味はあるけど転職に不安を感じる会計士も多いだろう。だが植西氏は、自身のスタートアップでの経験をもとに、「スタートアップと会計士の相性は良い」と会場の参加者に向けてメッセージを送った。
会計士は人材市場でのバリューは高く様々なことに挑戦できますし、事業会社やプロフェッショナルファームなど、数字をエッジとして立てつつ活躍できるフィールドはいくらでもあります。自分の価値を最大化する場所は人によって違いはありますが、どの選択肢もありだと思います。
その中で、監査法人やコンサルなど会計士が多い既存の環境から大きく変えてみたい人にとっては、スタートアップの世界は理想的だと思っています。
会計士の理屈っぽさや、こうあるべきという正論はスタートアップには向いていないと思うかもしれませんが、あるべき体制を作っていかなければならないスタートアップでは、そういった本質的に追及する姿勢は実は必要とされている能力だと感じることも多いです。
様々な人がスタートアップに集まってくる中で、数字の面から「こうあるべき」と言える立場にいるのが会計士であって、スタートアップを取り巻く人たちとは一味違う視点を持っているからこそ力が発揮できるのではないでしょうか。
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