みなさんこんにちは、公認会計士ナビ編集部です。
公認会計士には様々なキャリアがありますが、みなさんは「証券化」に関するキャリアをご存知でしょうか?
証券化は専門的な分野であるため、どんな仕事をするのかイメージがわかないという人も少なくないかもしれません。
しかし、証券化のキャリアには、税務・会計に関する様々な論点や、複数の法令、多様な投資・金融スキームに触れながら、一般的な会計キャリアとは大きく差別化された専門性を身につけていくことができる魅力があります。
今回、証券化分野の大手会計事務所である青山綜合会計事務所さんにご協力頂き、証券化のキャリアについての情報をお届け致します。
前編では、同社にて執行役員を務める税理士の吉岡さんより、証券化分野において会計事務所がどのようなサービスを提供しているのかをお届けします。
また、後編では、実際に監査法人から同社に転職して証券化業務に取り組む大野さんより、公認会計士として監査法人の経験がどう活かせているのかをお届けします。
これを見れば証券化の仕事やキャリアがよくわかる保存版記事です。
それでは、まずは前編をご覧ください!
本記事の目次
1:証券化専門の会計事務所はどんなことをやっているの?
2:一緒に仕事をするクライアントや周辺プレーヤーは?
3:法律・会計・税務、証券化の仕事に必要な専門知識とは?
4:年間スケジュールと繁忙期のイメージ
5:どのようにキャリアアップするの?職位と担当業務の関係は?
6:証券化の仕事の魅力とは?
7:証券化分野のトッププレーヤー、青山綜合会計事務所はこんなところ!
今回お話を伺った方
前編では、青山綜合会計事務所の執行役員で税理士の吉岡さんにお話を伺いました。
吉岡 淳/税理士
青山綜合会計事務所 執行役員
兼 ファイナンシャルビジネスサービスグループ
Aグループ グループマネージャー
新卒で証券会社に入社し、営業を経験。その後、4年の接客業経験を経て、3年間、税理士試験に専念。2年半の会計事務所勤務を経て、2010年6月に株式会社青山綜合会計事務所に入社。
SPC案件を扱う現場で、チームを取りまとめるグループマネージャーとして従事。税務、会計、不動産、金融と多岐にわたる高度な専門知識を活かし、これまで約140件のSPC案件に携わる、証券化のプロフェッショナル。
※所属・役職等は記事公開時のものです。
1:証券化専門の会計事務所はどんなことをやっているの?
-本日はよろしくお願いいたします。証券化を専門とする会計事務所の仕事について、いろいろとお伺いできればと思っています。では最初に、業務の概要について教えていただけますか?
会計事務所における証券化業務では、投資用のビークルの設立から、管理・運営、決算や税務申告、そして解散時の清算作業まで、また、これらに関係する会計や税務アドバイスなどを行います。
このビークルの中でも特に利用されるものに、資産流動化法等に基づくTMK(Tokutei Mokuteki Kaisha、特定目的会社)や、会社法に基づくGK(Godo Kaisha、合同会社)などがあります。
証券化においては、まずビークルを組成して資産の所有権をビークルに移して、これらの資産から生まれるキャッシュフローを裏付けとしてローンや出資を調達し運用していきます。
ビークルには、匿名組合出資を利用した合同会社、資産流動化法に基づく特定目的会社、投資事業有限責任組合、など様々な形態があります。
また、これらはそれぞれ以下のように略して呼ばれます。
- SPV…特別目的事業体
- SPC…特別目的会社
- TMK…特定目的会社
- GK…合同会社
- KK…株式会社
- LPS…投資事業有限責任組合
- TK…匿名組合(GK-TKスキーム)
このビークルには従業員は置かれず、資産のみが保有されます。
資産は不動産や金銭債権(または、信託受益権。以下同じ。)が一般的ですが、最近は太陽光発電などの再生可能エネルギーも増えています。
我々のような証券化専門のサービスを提供する会計事務所では、そのビークルの管理・運営を行っており、投資家やローンの出し手である金融機関から独立した中立的な立場でビークルを管理・運営できるような仕組みになっています。
-「ビークルの管理・運営」とは、具体的にどのような仕事を行っておられるのでしょうか?
顧客との契約内容にもよりますが、ビークルの設立から清算までの一連の流れの中で必要とされるサービスを提供しており、具体的には以下のような業務があります。
- ビークルの設立:設立のための登記手続き、銀行口座の開設、投資スキームに関するアドバイス
- 代表者派遣:公認会計士や税理士がビークルの役員に就任
- 期中の管理:会計・税務、キャッシュマネジメント、印鑑や銀行口座の管理、ローン契約に付随する特約条項(コベナンツ)の管理、配当計算 等
- ビークルの解散・清算:解散に伴う登記手続き、残余財産の計算分配 等
ビークルの組成時には、投資家からの資金が入りますが、その投資スキームや調達方法など、どういったビークルをどのようなスキームで利用するかなど、税務・会計面からのアドバイスを行います。
スキームが決まると、次にビークルの設立です。
ビークル設立の手続は、登記は提携の司法書士が行い、設立全般に関する作業の進捗は会計事務所側でマネジメントします。
弊社では、印鑑や銀行口座などの管理代行や、ビークルを登記するための住所の提供、ビークルの代表者の派遣も行いますので、クライアント様には社名や決算期等を考えていただければビークルが作れます。
また、資産購入時には、金融機関からローンの借入を行うことが一般的ですが、その際に必要な会計・税務に関する意見書を作成します。資産が売り主の貸借対照表からオフバランスされているか、連結会計上の取扱は適切か、などについての意見書です。
なお、弊社では、ビークルの設立から清算まで同じメンバーが担当しますが、設立後のキャッシュマネジメントや印鑑の管理に関しては、内部牽制機能を働かせるために部署を分けて行っています。
これら一連の流れは会計事務所が独断で行うのではなく、クライアントであるAM会社(アセットマネジメント会社)などの関係者と連絡をとりつつ、指示を貰いながら進めていきます。
2:一緒に仕事をするクライアントや周辺プレーヤーは?
-次に、証券化を依頼するクライアントや周辺のプレーヤーはどうなっているのでしょう?
クライアントは、AM(アセットマネージャー)や金融機関、国内外の投資家がメインとなります。
私たちはビークルとの事務管理契約を締結し、AMや投資家の方々とコミュニケーションを取りながら業務を進めていきます。
証券化される資産が不動産の場合はAMからの依頼が多く、まだAMが決まっていない場合や資産が金銭債権の場合は、金融機関やアレンジャーと呼ばれる投資銀行(証券会社)から依頼を受けます。
また海外の投資家(ファンドなど)が日本の不動産に投資する場合、税務メリットの観点から、日本の不動産を海外のビークルが直接買うケースはほとんどなく、日本で不動産を保有するためのビークルの組成依頼が多くあります。
海外投資家に関しては、リーマンショック前は欧米系の投資家が多かったのですが、最近はシンガポールや香港を経由しての中国の投資家や、韓国の投資家も増えています。
-青山綜合会計事務所さんでは、どのようにクライアントを獲得しているのですか?
おかげさまで業界での知名度や実績の高まりもあって、弊社では積極的な営業活動を行ってはおらず、リピーターやご紹介での依頼が多いです。
海外の投資家の方だと弁護士の方にご紹介を頂いたり、弊社にバイリンガルのCR(クライアントリレーション)メンバーがいるので、クライアントからご紹介頂くことも多いです。
3:法律・会計・税務、証券化の仕事に必要な専門知識とは?
-証券化専門の会計事務所の仕事では、どのような法律知識が必要でしょうか?また、その他にはどのような知識やスキルが必要でしょうか?
証券化に関連する法律は多岐に渡りますので、監査法人や一般的な会計事務所に勤めている会計士や税理士の方たちよりも、使用する法律の範囲は広いです。
例えば、ビークルの形態によっても関連する法律は違いまして、特定目的会社は資産流動化法、合同会社であれば会社法、組合については匿名組合であれば商法、任意組合だと民法が関連してきます。
また、不動産の現物を取り扱うことも多いですので宅建業法や不動産特定共同事業法(不特法)、会計や税務関連の法律以外にも、例えば、ホテルの案件だと旅館業法が絡んでくることもあります。
証券化の仕事には以下のような法律が関連してきます。
- 会社法
- 商法
- 民法
- 税法(法人税法、消費税法 等)
- 金融商品取引法
- 信託法
- 資産流動化法
- 不動産特定共同事業法
- 投資事業有限責任事業組合契約に関する法律(有責法)
- 宅地建物取引業法(宅建業法)
-法律以外にはどのような知識やスキルが求められますか?
アソシエイト職、スタッフ職では、ビークルの日々の会計入力やチェックを行うので、会計の知識と基礎的な税務の知識が必要になります。監査法人や会計事務所での勤務経験がある方であれば、キャッチアップするのはそう難しくないでしょう。
また、法人税や消費税の基礎的な知識があると尚可です。
例えば、ビークルが、「匿名組合出資を用いた合同会社」「特定目的会社」などいずれの形態かによって、配当の損金算入の要件に違いがあったり、また、金銭債権やローンの金利や、不動産がオフィスかレジデンスなのかによって消費税の課税の取扱いが変わりますので、その辺りの知識が必要になります。
-これだけ広範囲に専門的な知識を身につけるのは大変そうに見えますが?
確かにこれらの知識をすべて極めるとなると膨大な時間がかかりますので、税制や関連法令については少しずつ身に付けていくこととなります。
弊社でも、職位に応じたOJTや研修を受けながら、職位が上がることに業務範囲を広げていきスキルアップしていける形をとっています。
また、不動産証券化マスター(不動産証券化協会認定マスタ―)など証券化に関する資格の勉強を通じて体系的なところを学ぶこともできます。
-さきほど海外投資家のお話が出ましたが、証券化の仕事に語学力は必要ですか?
すべての職員に英語力が必要というわけではありませんが、英語ができると仕事がスムーズにできます。弊社は海外投資家のお客様が多いため、英語でコミュニケーションをとる案件も多く、希望すればどの職階でも英語を使う仕事はあります。
-どの程度の語学力が求められますか?
弊社の場合は、入社時点でTOEIC何点以上という基準を設けているわけではなく、実践しながら身に付けていただきます。
英語での仕事もメールでのやりとりが中心ですし、投資家も英語が母国語でない方々も多く、同じ目的を持って協力しあう関係です。ですので、コミュニケーションもとりやすく、英語が苦手な方でも意欲を持って挑戦していただければ英語力を向上していける環境ではあると思います。
4:どのようにキャリアアップするの?職位と担当業務の関係は?
-キャリアアップして職位が上がると、仕事内容はどのように変わりますか?
弊社の職位は、アソシエイト→スタッフ→リーダー→マネージャー→グループマネージャー→執行役員→役員となっており、実務やマネジメントなど案件の執行は、アソシエイトからグループマネージャーまでが担っています。
アソシエイトやスタッフの方の場合、入社当初はビークルの会計や税務業務などを行い、知識と経験が身についてくるとビークルの組成(税務や会計上のスキーム検討など)といった、高度な業務にも携わっていきます。
ビークルの組成は、入社時の経験にもよりますが、おおむね入社して2~3年目くらいから担当しはじめ、最初のうちはマネージャーのサポートを受けながら行うことになります。
青山綜合会計事務所では、各職位によって以下のような業務を担当しています。
- アソシエイト・・・会計の入力、稟議書の作成、支払い、クライアントとの簡単なコミュニケーション 等
- スタッフ・・・アソシエイトの業務の2次レビュー、クライアントの対応窓口、税務的検討事項への対応 等
- リーダー・・・案件の責任者、後輩の育成、マネジメント層のサポート
- マネージャー、グループマネージャー・・・案件のマネジメント(業務レビュー、進捗管理、メンバーのマネジメント、クライアントとのコミュニケーション 等)
また、監査を受けるビークルが多いので監査対応の仕事もあります。
例えば、一定の特定目的会社は監査が義務付けられていますし、合同会社はローン契約上で監査済み財務諸表を提出することが求められているケースが多いです。
-公認会計士の方は、監査法人での経験が活かせそうですね。
そうですね。それ以外ですと、ビークルが上場企業の連結対象の場合は、連結パッケージの作成も行っています。最近は海外の投資家が増えているので、投資家サイドの連結に取り込むために、IFRSやUSGAAPなど会計基準のコンバージョンを行って欲しいというニーズも増えています。公認会計士の方の場合、そういった仕事でも監査法人での経験や知識を活かしやすいのではないかと思います。
5:年間スケジュールと繁忙期のイメージ
-仕事の年間のスケジュールはどのような感じですか?
ビークルの決算は3ヶ月毎の四半期で締めて12月が本決算というスケジュールが多いです。そのため、会計事務所側はビークルの決算に合わせて、3月、6月、9月、12月それぞれの末日から報告期日までが繁忙期になります。
12月が本決算の会社の業務受託が多く、1月から3月までは繁忙期となりその時期は時間外の業務も増えますが、繁忙期以外の時期は、適宜休暇をとったり、早めに仕事を終えて余暇を楽しんだり、英語や資格の勉強などに時間を使っているメンバーが多いです。
ビークルの業務はほぼ契約書上でいつ、何をしなければならないかが決まっているので年間の仕事のスケジュールが読みやすいのも証券化の仕事の特徴かなと思います。
6:証券化の仕事の魅力とは?
-証券化の仕事のやりがいや意義は何ですか?
弊社のような立場のプレーヤーがいなければ証券化の案件が成り立たないので、プロジェクトの中で非常に重要な役割を果たしていると感じられる点です。
また、最近増えてきた再生可能エネルギーの証券化案件は、社会的な意義がより高く感じられます。
何十億円、何百億円という大きな金額の取引に関わることができたり、金融機関やアセットマネージャー、証券会社、ディベロッパーなど大手企業の優秀な人たちと一緒に仕事ができたりするところも、やりがいを感じられるのではないでしょうか。
また、不動産の開発案件の場合ですと、完成したマンションで実際に人が生活したり、私達もよく知る商業施設やオフィスビルなどの案件を取り扱ったりすることもありますので、そういった案件では業務の成果を実感しやすかったりもします。私自身も開発物件を見るのが好きで、近隣で開発している案件を担当するときには部下にも現地を見に行くように勧めています。
7:証券化分野のトッププレーヤー、青山綜合会計事務所はこんなところ!
-青山綜合会計事務所の特徴や強み、実績について教えてください。
証券化業界に早くから進出しているのでネームバリューがあり、長年の実績を信頼してリピーターになってくださるお客様が多い点が強みです。現在、管理しているSPCは1,300件超あり、預かっている総資産は計算できないくらい莫大な金額になっています。
投資案件はすぐ出てくるものではありませんが、案件の実行が確定した瞬間から組成までをスピーディーかつスムーズに行うことが求められます。弊社の場合、長年の実績とともに、スピード感を持って対応ができる点を高く評価いただけていると感じています。
-証券化に興味を持っている公認会計士や税理士の方に向けて、何かメッセージはありますか?
証券化の仕事は特殊なので最初はイメージしにくいかもしれませんが、監査法人や通常の会計事務所で経験を積んでから新たに専門性を高めたいと考えていらっしゃる方にとって非常に良い分野だと思っています。
身につくことや使える力は監査法人や一般的な会計事務所と違うため他の公認会計士や税理士の方々と差別化したスキルを身につけることができます。
また、大手の監査法人や会計事務所だとクライアントを外から見る形となりますが、証券化分野では、ビークルの中に入って自ら手を動かすので自分で作っているという実感を持て、そういったやりがいも感じられる仕事ではないでしょうか。
より多くの公認会計士の方に証券化分野にチャレンジ頂ければと思います。
後編はこちら
→専門性をかけ合わせながら知識が深まっていく、監査法人を辞めて証券化のキャリアに進んだ会計士が感じた魅力とは?
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