去る2018年5月21日、freeeがAI月次監査という機能をリリースしました。
これは従来より会計事務所において行われてきた「月次巡回監査」という業務をAIがアシストする機能です。
クラウド会計ソフトの登場により大きく変わりつつある会計事務所の仕事ですが、このAI月次監査の登場によりまたひとつ変革期を迎えようとしています。
今回、freee株式会社のCPO(Chief Partner Officer)である武地健太氏(公認会計士)にAI月次監査の機能と、そこに見据える業界の未来について伺いました。
武地 健太/公認会計士
freee株式会社 専務執行役員 CPO(Chief Partner Officer)
2004年公認会計士試験合格。先祖代々会計一家の出身。あずさ監査法人・ボストンコンサルティンググループを経てfreeeにCFOとして参画。現在は「経済活動のログ」としての会計の可能性をパートナーの皆様と追求。
会計業務の自動化はデータ収集や記帳から帳簿チェックへ、「AI月次監査」とは?
-AI月次監査とはどういったものなのでしょうか?
武地:会計ソフト内で、試算表の確認・修正作業をAIが支援する機能です。具体的には、
- チェックリストを元に自動でエラーを検知し、試算表や元帳上の該当箇所をハイライトする
- 仕訳を修正するとその類似仕訳をAIが提示する
の2つの機能があります。
当面は、弊社のパートナープログラムにご登録いただいている会計事務所様限定の機能として提供を予定しています。
-会計ソフトまわりのテクノロジーがこの数年で大きく変化してきています。
武地:税理士は「納税義務の適正な実現」が使命であり、その実現のために税務業務とその前提となる財務書類の作成、記帳代行等を行っています(税理士法第一条、第二条)。
近年のIT技術の発展は、その実現手段に大きな変革をもたらしており、そのキーワードが「自動化」です。
古くは専用機やパッケージ型ソフトが決算集計や申告書の集計作業を自動化しました。
そして、過去数年間で進んだのはクラウド会計による、情報収集の電子化・記帳の自動化です。インターネットバンキングやクレジットカードのデータをインターネット上で集め、自動で日付・金額・取引先を転記し、さらに勘定科目を付けることまでします。
直近ではOCR技術の発展で、紙ベースの通帳や領収書も低コストで電子化することが出来るようになりました。電子化できれば、自動的に記帳できます。
そして、いよいよ自動化の対象が「帳簿チェック」にまで広がってきました。これは単純な自動化領域の拡大ではありません。
情報収集→記帳→確認→決算→申告の一連の業務が自動化の対象になります。
一連の業務が自動化されると、会計事務所様の業務効率と精度(正確性)が圧倒的に上がります。
業務が自動化することにより、職員の皆様の効率が上がることは言うまでもありません。さらに、AIによって月次監査の精度が上がりますので、記帳の自動化範囲をより広げることができます。
また、AIによるアシストによって、職員の方々は自らの作業をチェック・修正することができますので、業務に対する習熟度も大きく高めることができます。
AI月次監査によるメリット
- 一連の業務が自動化すると、所長様・職員様全員の効率が上がる
- 月次監査の精度を上げられるので、より記帳の自動化範囲を広げられる
- 自動チェック機能の活用で、職員様の習熟が加速度的に上がる
-AI月次監査はどのようなプロセスで開発されたのでしょうか?
武地:AIを使って監査業務を自動チェックする機能の要望は、多くの会計事務所様からいただいていました。
お客さまのニーズがあることはもちろん開発を後押しした大きな理由ではありますが、長く会計業界に関わってきた私個人としての強い思いもあります。
私は、大学卒業後に大手監査法人でキャリアをスタートしました。そこでは上場支援や財務デューデリジェンスも行いましたが、メインの仕事は上場企業の「会計監査」でした。「監査」の仕事は決算・申告の精度を担保する最後の砦です。その本質的価値は信頼・安心の付与であり、保険的な性質をもっていると考えています。
そんな監査をAIの力を借りてよりスムーズに、そして精度高くしていくことは、監査法人時代から私が夢見ていた機能の一つです。
また、私の実家は税理士法人なので、幼い頃から会計事務所の業務を目にしており、CPOに着任した時から会計業界が「これはすごい」と感動してくれるような機能を出したいと強く思っていました。
AI月次監査は、数ヶ月前の役員合宿でプロダクト開発戦略の責任者がそんな思いに共感してくれ、開発にいたりました。開発戦略を担う部署では会計事務所様の業務全体を理解するためにパートナー事務所に駐在する活動を続けており、彼らもその中で月次監査業務にはもっとテクノロジーを活用する余地があるのではと思っていたため、開発までは比較的スムーズに進みました。
-AI月次監査では具体的に何ができるのでしょうか?
「AI月次監査」の第一弾としてまずは2つの機能をリリースしました。
- 特定のルールに基づいて該当取引にアラートを上げる
- 修正した仕訳に類似する仕訳を提示する
の2つです。
具体的には、下記のような流れでAIが月次監査をサポートします
【1】クラウド会計freeeの、「試算表」「月次推移表」の画面でチェックにかかった項目がハイライトされます。
◯10万円以上の消耗品費についての固定資産計上アラート
◯受取利息の源泉税が入っていない仕訳のアラート
【2】対象の数値をクリックすると、元帳が開かれ、チェックにかかった仕訳がハイライトされます。
◯10万円以上の消耗品費についての固定資産計上アラート(仕訳もハイライトされます)
◯受取利息の源泉税が入っていない仕訳のアラート(仕訳もハイライトされます)
【3】会計事務所の担当者は、ハイライトされている仕訳をクリックし、修正します。
【4】仕訳修正すると類似仕訳が提示されます(1-3とは無関係に修正した仕訳に関しても推薦)
-さらにここから先の機能開発も考えておられるのでしょうか?
武地:月次監査での自動チェック項目を事務所様ごとにカスタマイズできる機能や、修正方法まで提案する機能を実装すべく、開発を進めております。
さらに近い将来、月次監査作業はあたかもスクリーン上でAIと対話するような形で進む世界になっていくと考えています。
AIによる自動化で税理士や会計士の仕事はなくなるのか?
-こういったテクノロジーによる新しい機能が登場すると、「税理士の仕事がなくなるのでは!?」との危機感を感じる人も多いと思います。
武地:情報収集→記帳→確認→決算→申告の一連の会計・税務業務が自動化されていく=仕事がなくなる、という危機感を持たれている会計事務所様は多いと思います。
私は、税理士の「納税義務の適正な実現」という使命は変わらず、今後制度が大きく変わることはないと考えています。
一方で、「帳簿を付ける、数字を付ける」という仕事はなくなっていくでしょう。
そのような時代に必要なのは、「数字を使う」というスタンスだと考えています。数字を使ってスモールビジネスの経営者に向き合うこと。それは、会計業界のもう一つの使命だと考えています。自動化によってリアルタイムに正しい数字が集計されるということは、使える数字が増えるということです。
技術を活用しながら「数字を使う」、freeeがその一助になれれば幸いです。
AI月次監査機能は弊社のパートナープログラム(無料)にご登録いただければ無償でご利用いただけますので、ご興味を持っていただけた方はぜひご登録いただきお試しいただければと思います。
※この記事は2018年6月14日時点での情報を元に作成しております。