公認会計士や税理士の専門分野に、「証券化」という領域がある。
1990年代後半から2000年代前半にかけて、大きく成長した証券化マーケット。世間ではそこを証券化の最盛期とし、近年は成熟期、人によっては衰退期と捉えている人もいるかもしれない。
しかし、証券化マーケットにおいて、業界のトッププレーヤーたちはその変化の兆しをいち早く捉え、着実にシェアを伸ばしてきていた。
今回、会計業界における証券化・ストラクチャードファイナンス分野のパイオニアであり、トップファームでもある東京共同会計事務所の代表、内山隆太郎 氏(公認会計士・税理士)が、転職エージェント向けに語った「証券化ビジネスの現状と今後」についてのプレゼンテーションを記事としてお届けする。
内山 隆太郎(うちやま りゅうたろう)
東京共同会計事務所
代表パートナー 公認会計士・税理士
慶應義塾大学在学中(1985年)に公認会計士試験2次試験に合格。中央監査法人と中央クーパース・アンド・ライブランド国際税務事務所を経て、1993年、28歳で独立し東京共同会計事務所を設立。証券化・ストラクチャードファイナンス分野のパイオニアとして、国内外の大手金融機関や不動産会社、総合商社などをクライアントにサービスを提供。
証券化ビジネスのピークは過ぎた!?証券化ビジネスに起きている大きな変化
証券化・ストラクチャードファイナンス分野のパイオニアとして20年以上に渡り活躍する東京共同会計事務所の創業者である内山氏。
現在では、証券化ビジネスに集中して取り組む会計事務所は少なく、業界のトレンドを肌感覚で語ることができる限られた専門家のひとりです。
内山氏は、プレゼンテーションの冒頭で「証券化ビジネスは今から10年前にピークを迎え、新鮮味がないと思っている方が多いかもしれない。ところが近年、証券化ビジネスに大きな変化が起きている」と切り出します。
最盛期はリーマン・ブラザーズやゴールドマン・サックスなどの外資系投資銀行、メガバンクや証券会社などの金融機関、そして、多数の会計事務所が参入した証券化ビジネス。
しかし、リーマンショックなどの金融危機を経て、プレーヤーは次々と撤退し、現在の会計事務所業界でSPC業務に本格的に取り組んでいるのはわずか数社にまで減少しています。
そんな環境であるが故に、証券化ビジネスについて
「ピークは過ぎた変化に乏しい分野」
「SPC管理のために大量の作業を行わなければならない大変な仕事」
とのマイナスの印象を持っている人もいるかもしれません。
しかし、内山氏は、近年、証券化ビジネスに大きな8つの変化がおこっているといいます。
証券化ビジネスに見られる8つの変化
1:AIやRPAによる記帳・申告業務の自動化
AIによる公認会計士や税理士の代替論も語られる昨今ですが、定形業務が多くパターン化しやすい証券化業務は、AIとの相性が良く、SPCの記帳や税務申告業務の自動化が始まっていると内山氏は語ります。
それに伴い、会計事務所の役割はデータの作成ではなく、インプットされたデータ自体が正しいかどうかをチェックする方向へとシフトし、入力されたデータの正確性を監査するような業務がメインになっていくであろうと内山氏は予想します。
2:クライアントの巨大化と求められる品質管理の高水準化
内山氏は、SPC業務のクライアントである不動産AM(アセットマネジメント)会社の巨大化によって、会計事務所の業務にも変化が起きていると指摘します。
かつて複数あった都市銀行が3行へと統合され巨大化したように、金融機関の合併・再編に伴い、その傘下にある不動産AM会社も統合され、業務量が増え、負担が大きくなった不動産AM会社は、できる限り業務をアウトソーシングしたいと考えるようになっています。
そのため、内山氏は、不動産AM会社からSPC管理のみならずAMに固有の関連事務全般のアウトソーシングが求められるようになってきていると語ります。
また、AM会社が大型化したことで委託先選びにおいても堅実さを求める傾向が強まっており、規模が大きく品質管理がしっかりした大手会計事務所をアウトソーシング先として選びやすくなってきていると指摘します。
3:アセットクラスの多様化
従来の証券化マーケットでは、不動産や金銭債権が主なアセットとなっていますが、マーケットは既に頭打ち傾向にあります。
そのため、SPC専門の会計事務所がさらなる成長を目指すためには、「ファンド」と言っても既存のアセットクラスとは似て非なるもの、例えば、ベンチャーキャピタルファンドやプライベートエクイティファンド、ヘッジファンドなど、多様な分野に進出していくことが必然となるだろうと内山氏は語ります。
4:SPCの連結子会社化の進行
SPCの連結子会社化も証券化関連のプレーヤーに影響を与えています。
証券化が法制化された当初のSPCは「孤児(みなしご)SPC」とも呼ばれ、本体からオフバランスしたいものを集めて切り離す目的で利用されていました。
ところが、時代の変遷に伴いSPCが連結対象となり、SPC管理は連結会計やIFRSなどより高度な会計知識が必要な分野へと変わりつつあります。
5:組織再編税制利用の増加
低金利時代の長期化により、アセット価格が高騰化し、投資の採算が合いにくくなってきています。
そのため、投資家側においても、単純に資産を購入するのではなく、会社買収と組織再編を組み合わせて実質的な不動産買収を行うなど複雑な取引に対応できなければ有利な投資機会を手に入れることすら出来なくなりつつあり、結果、リターンを大きくするための工夫が求められるようになってきていると内山氏は語ります。
そのため、SPC業務においても組織再編税制に該当するケースが大幅に増加するなど、税務面での高い知見も求められるようになってきています。
6:案件サイズの小粒化に伴う新たな収益機会の発生
かつての証券化業界では、銀行の債権流動化によって1兆円規模のトランザクションが発生することもありました。
しかし、現在では20億円から100億円規模の案件が多く、案件の小型化が今後も更に進行していくものと思われます。
案件が小粒化すると、一般には案件数が増えてアレンジャーがより多く必要になりますが、小規模案件では採算が合わないため、金融機関がアレンジャーを引き受けないケースも増えているようです。
このアレンジャー不足の進行に伴い、例えば、会計事務所が案件組成に取り組むなど、新たなビジネスチャンスも生まれていると内山氏は指摘します。
7:社会的意義のある案件の増加
かつての証券化は、不動産や金銭債権の流動化など、純粋に投資目的の案件が多く、血の通ってないような無機質なイメージもありました。
しかし、近年は小粒化が進み、また、クラウドファンディングなどの手法の登場により、証券化の仕組みは静かに卑近なところまで浸透してきています。それは、社会的な意義の達成や関係者の想いの実現を重視するような投資案件の増加をもたらします。「血の通った人間味ある案件が増えてきている」、内山氏はそう語ります。
8:SPCの事業会社化が進行
従来、証券化分野の大型プロジェクトと言えば、不動産投資などパッシブな投資が大半を占めていました。
しかし、近年では、官民連携プロジェクトなどインフラ中心にトレンドが移ってきていると内山氏は指摘します。
そのため、SPCは「資産を入れるビークル」というだけでなく、実際に事業を行う「事業会社」に近い形で利用されるようにもなっています。
これからの証券化ビジネスはどんな仕事になっていくのか?
近年の証券化ビジネスに見られる8つのトレンドを挙げた内山氏。
1. AIやRPAによる記帳・申告業務の自動化
2. クライアントの巨大化と求められる品質管理の高水準化
3. アセットクラスの多様化
4. SPCの連結子会社化の進行
5. 組織再編税制利用の増加
6. 案件サイズの小粒化に伴う新たな収益機会の発生
7. 社会的意義のある案件の増加
8. SPCの事業会社化が進行
最後にこれから証券化ビジネスが進んでいくであろう方向について語りました。
より面白く、専門的で、IT化された仕事へ
より面白い仕事に
会計事務所における証券化ビジネスは、かつでは記帳や申告が中心業務で、SPCに所得が生まれないように注意を払いさえすれば良いビジネスでした。
それが、これからは業務にバラエティのあるものへとSPC業務が変化し、より面白いものになると考えられます。
より高度な方向へ
比較的プレーンな税務中心の仕事から、組織再編、連結会計、IFRS、監査が関連する仕事へと変化し、難易度が高く難しいチャレンジしがいのある仕事になっていくでしょう。
IT化を真っ先に体験
会計業界でいち早くIT化が進む分野であるため、IT化を真っ先に体感できる仕事になると考えられます。
より実践的な仕事に
証券化ビジネスには「特殊性の高い仕事」(≒潰しが効かない仕事)というイメージもありました。しかし、近年では、ストラクチャードファイナンスの仕組みを活用した相続対策商品としての不動産投資なども登場しています。その例を待つまでもなく、これからの証券化は、証券化単体ではなく、M&Aや相続対策、節税商品など、より実践的な会計業界になじみの深いコンサルティング分野と連携した仕事が増えていくでしょう。
より社会的意義のある仕事に
クラウドファンディングの普及により、証券化はより一般的に利用されるものとなってきています。社会課題の解決を目指すような案件も増え、より社会的意義のある仕事に近づいていくでしょう。
より能動的で収益性の高い仕事に
証券化と他分野との連携が進むことによって、案件の組成力が重要になっていくと考えられます。そうなると会計事務所の証券化ビジネスはSPCを管理する側面から、案件を組成するものへと、より能動的になり、より収益性の高いものへと変化していくでしょう。
最後に内山氏は最後にこう語り、プレゼンテーションを終えました。
これからの証券化ビジネスは、大きく変化していく時代に入っています。
この分野に携わる公認会計士や税理士にとっては勉強することが多く、ますます大変になる一方で、時代についていくことによって、自ずと専門性を磨くことができ、参加する公認会計士や税理士に面白いと思ってもらえる分野へと再び変化しつつあります。
ニーズが拡大する一方でサービス提供者が少ない。そんな贅沢で理想的な分野として、また証券化の時代が巡ってきていると感じています。
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