2017年12月19日から12月22日にかけて、監査法人と関与先の決算対応に関する複数のニュースがリリースされています。
あずさ監査法人が関与する“あみやき亭”の決算に関する記事、トーマツが関与する“ソフトバンク”の決算に関する記事、あずさが関与する“富士フィルム”の決算に関する記事など幅広くご紹介します。
監査法人と関与先のこれからの関係。決算業務効率化が双方にもたらす利点
- あみやき亭・会計士「毎日が決算」 揺れる監査法人(上)(日本経済新聞 2017年12月19日付)
不正会計問題を受けて監査の品質向上のため業務量は増加しています。各監査法人ではこのような事態に対処するため監査のIT化を進めていますが、仕事が楽になったと実感している方は少ないのではないでしょうか。
この問題の流れで監査法人の品質向上ばかり目が向けられていますが、本来は監査は関与先と監査法人が協力して成り立つはずですよね。それなのに監査法人ばかり批判が集まることに違和感を感じませんか。
そんな中、関与先と監査法人との協力関係を見直すきっかけとなる記事が報道されました。あずさ監査法人が関与するあみやき亭の決算に関する記事を日本経済新聞がリリースしています。
翌2日、あみやき亭は2017年4~9月期決算を発表した。3月期の決算企業では一番乗りだ。02年の上場当初から原則、締め日の翌営業日に決算を開示してきた。開示1番を巡ってIT(情報技術)企業などと競う時期もあった。だが、監査の厳格化が進む中、翌営業日に開示する3月期企業は、あみやき亭だけになった。同社の佐藤啓介会長は「やるからには1番にこだわりたい」と意気込む。
引用元:あみやき亭・会計士「毎日が決算」 揺れる監査法人(上)(日本経済新聞 2017年12月19日付)
記事によると、あみやき亭の高速決算を可能にしているのは“日次決算”。監査法人は毎日送られてくるデータを確認することで業務が平準化できるうえに、問題点が見つかればタイムリーに会社と話し合うため会計処理をめぐって意見対立することはほとんどないそうです。
監査法人が独自でできる努力は、限界に来ているのではないでしょうか。経営者に決算の重要性を認識してもらい、率先して監査法人と協力関係を築いてもらう。そのための経営者との交渉力が、これからの会計士には求められているのかもしれません。
過去だけでなく将来性も監査。エース級の会計士に求められるものは。
- 揺れる監査法人(中) 将来性の目利き力必要に ソフトバンク、買収で「のれん」膨張(日本経済新聞 2017年12月21日付)
監査法人に所属している会計士の皆さん。どんなキャリアパスを持っていますか?
将来の独立を見据えて、関与先の規模を問わず色んな業務に携わりたいと思っている人。金融機関など専門分野の監査スキルを磨きたいと思っている人。大手監査法人に入ったからには、大手でしか経験できない規模が大きくて複雑な会計処理をしている会社の監査をしてみたいと思っている人。
監査法人トーマツに所属している人にとっては、3つ目のキャリアパスにあたるのがソフトバンクグループなのかもしれません。
そんなソフトバンクグループの監査人はどのようなスキルが求められるのか、経理統括常務執行役員のコメントとともに、日本経済新聞が記事をリリースしています。
担当会計士を悩ませる原因の一つはソフトバンクの資産評価だ。英半導体設計、アーム・ホールディングスの買収では2.9兆円(9月末)という巨額の「のれん」が注目を集めた。のれんとは買収価格と純資産の差を示す。それが膨らむのは、ソフトバンクはアームが将来、大きな価値を生み出すと考えているからだ。ソフトバンクののれんは9月末で計4兆3900億円と総資産全体の16%を占める。
引用元:揺れる監査法人(中) 将来性の目利き力必要に ソフトバンク、買収で「のれん」膨張(日本経済新聞 2017年12月21日付)
記事によると、ソフトバンクは会計士の理解を得るために孫会長兼社長と監査法人の面談回数を増やしたり、経理統括常務執行役員に公認会計士の資格を持ちデロイト系の会計事務所に在籍していた君和田和子氏を起用するなど、決算に力を入れているようです。
のれんの評価は、事業の将来性の評価にかかっています。実績は評価のための根拠資料でしかなく、過去の数字を検証するだけで評価できるものではありません。
業界に詳しい専門の担当者が磨き上げた知識で作り上げた数字に、会計知識だけで太刀打ちすることは難しいでしょう。関与先から投げられた直球を受けとめられるエースがいるのか、監査法人が試されています。
日本企業のグローバル展開で海外子会社が不適切会計。監査法人と企業のなすべき対応は
- 揺れる監査法人(下)権限集中で再発防ぐ 富士フイルム、海外で不適切会計(日本経済新聞 2017年12月22日付)
昨年発覚した富士ゼロックスの海外子会社が起こしたリース取引に関する不適切会計は、記憶に新しいですね。このような不祥事が再発しないために、親会社や監査人は、海外子会社の情報や問題点を把握するためにどのような改善策をとっているのでしょうか。
富士フィルムホールディングスの監査人であるあずさ監査法人の監査体制と、企業側の組織改革に関する記事を、日本経済新聞がリリースしています。
海外ネットワークの整備が急ピッチで進む。あずさは海外の会計事務所とのやり取りを密にするため、海外赴任経験のある人材を大幅に増やした。さらにグローバル企業を担当する国内の監査チームが、海外子会社を担当するKPMGの現地事務所の監査チームに直接指示を出す体制に切り替えた。「現地の情報を収集しやすくなり、不正につながる情報も素早く把握できる」(金井氏)
引用元:揺れる監査法人(下)権限集中で再発防ぐ 富士フイルム、海外で不適切会計(日本経済新聞 2017年12月22日
記事によると、あずさ監査法人は現地拠点を通じて間接的に海外の情報をやりとりしていましたが、日本のあずさが直接情報を収集するネットワークへと改革したことが功を奏して、海外子会社が起こしたリース取引の不適切会計が発覚したとのことです。
また富士フィルムも、今までは子会社任せにしていましたが、300社にのぼるグループ会社を直接監査する体制に切り替えたそうです。
優良企業として再起したい企業と見逃しは許されない監査法人の目指すところが一致して、協力体制が築かれました。本来あるべきこのような協力体制が、これからの監査のモデルケースとなるのでしょうか。
(ライター 大津留ぐみ)