公認会計士の中には、株式公開準備企業に入社することによって、若くしてCFO(最高財務責任者)を目指したり、株式公開に伴うキャピタルゲインでの一攫千金に憧れたりする方もおられます。株式公開準備は、未上場企業が上場を果たすための資本政策や管理体制や会計処理を高度化していく作業が伴うため、会計(アカウンティング)と財務(ファイナンス)のふたつのキャリアを同時に積める可能性も秘めています。
一方で、年収水準は低いことが多く、また、IPOを実現できないリスクも有り、成長性の高い企業を見極める必要があるなど良い転職先を見つけるのはやや難易度が高いジャンルでもあります。
株式公開準備企業への転職の傾向
- 株式公開準備企業への転職は好景気時は人気となり、不況時には不人気になる傾向がある。
- 株式公開準備企業では、公認会計士のキャリアはどちらかと言うと好まれる傾向にある。但し、多くの企業は公認会計士の希望に近い年収を提示できないため、実際に良い給与条件で株式公開準備企業に転職する公認会計士はあまり多くない。
- 近年、ITベンチャーなどでは30歳前後の経営者も少なくない。そういった企業では、なるべく社長と年齢の近い若手人材を求める傾向にある。
- ベンチャー企業の場合、スキルだけではなくポテンシャルを考慮した採用も多いため、公認会計士の場合、IPO準備経験がなくとも監査経験があれば採用はされる傾向にある。
- 一方で、ベンチャー企業は事業への共感度合いや、社風でのマッチ度合いを重視する企業も多いため、スキルや経験重視で転職先を選びがちな公認会計士が敬遠されることもある。また、平均年齢が若くフランクで快活な企業も多いので、真面目で堅い人柄の公認会計士はパーソナリティー面で「風土に合わない」と判断されてしまうケースもあるなど、スキル以外でのマッチングが重視される業界でもある。
- 監査経験以外に、株式公開準備支援の経験があれば当然のことながら企業からの評価は高くなる。また、監査法人でのIPO準備支援は、上場準備資料の作成や経理規定の整備、内部統制の構築などがメインとなっていることが多いので、IPO準備ステージに入った企業で好まれやすい。
- 一方で、IPO準備以前のステージの企業では、資本政策(資金調達)やIPOに向けたベンチャーキャピタルなどの投資家との交渉経験のある人材が好まれるが、そういった分野に造詣のある公認会計士は転職市場には意外と多くない。
- 上場企業を対象に転職活動を行うと、開示資料から転職先の財務状態を知ることができるが、多くの未上場企業では、入社前に財務諸表等を見られることは少ない。また、IT分野の先進的なサービスの場合、多くの公認会計士は馴染みがないため、そのサービスが将来性がある良いものかどうか判断に迷う、または、判断がつかないケースも少なくない。
- ベンチャー企業は管理体制が未整備であったり、入社してみると社内環境が入社前の説明と大きくかい離していたりすることもある。
- リーマンショック以降の日本の証券市場の低迷時には海外市場(韓国、シンガポールなど)での上場を目指すベンチャー企業もあった。日本市場の低迷時やグローバル戦略によっては海外上場を目指す企業もある。
株式公開準備企業の年収
- 一般的なベンチャー企業にCFOとして転職する場合の年収は800万円程度、経理マネージャーや管理部マネージャーとして転職する場合の年収は600万円程度が基準となる。
- 一定の規模のある老舗企業や大型IPOを目指す企業など収益性の高い企業のIPO準備室長などの求人の場合は、600~800万円程度の年収が目安となる。
- 企業によってはストックオプションが付与される場合もある。(ただし、創業期のメンバーなどで多くのシェアを付与されるか、よほど良い行使条件のオプションでなければ、それほど高額のリターンは得られない。特に公認会計士の場合は、監査法人などから大きく年収を下げて転職してくるため、単純に金銭面の期待値ではIPO準備企業を選んだ際のリターンは大きくないと言える。)
- IPO準備企業に関しては、「IPOを目指すような成長企業=年収が高い」とのイメージは持たれがちだが決してそうではない。IPOを実現した新興上場企業が必ずしも高年収企業ばかりではないことを考慮すると、高年収のIPO準備企業が少ないことは容易にイメージできる。
株式公開準備企業でのキャリアの特徴
- 株式公開準備企業に転職する場合、どのステージ(シード、アーリー、ミドル、レイター)から入社するか、でキャリアが異なる傾向にある。
- シード、アーリーステージから入社すると、会社が成長しなかったり、株式公開を実現できなかったりするリスクはあるが、資本政策や資金調達(VCや金融機関との交渉)などファイナンス業務に関われる可能性が高い。
- ミドルステージから入社すると、ファイナンスの作業はほぼ終わっている可能性はあるが、上場に向けた申請書類の作成や証券会社、証券取引所、監査法人と共に本格的な株式公開準備作業に携われる可能性が高い。
- レイターステージから入社する場合、売り上げや利益が安定している企業を見極めることができるが、資本や資金に大きな動きがなければ、決算や開示作業中心の業務になる可能性が高い。
- 株式公開準備企業への転職は、株式公開が失敗するとその企業は未上場のままになるので、公認会計士としてのキャリアはやや活かしにくくなる。(ただし、そういった場合も含めてその会社にコミットしたいと思える企業を選んでこそベンチャー企業でのキャリアをエンジョイできるとも言える。)
株式公開関連のおすすめ書籍
株式公開準備企業での業務や仕事内容を学ぶには下記のサイトや書籍が参考になります。
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