僕が ITベンチャーへ進んだきっかけ(公認会計士のリアル 第1回:井上 健)



公認会計士のリアル_1_井上健氏_サムネイル今回よりスタートするシリーズ企画 公認会計士のリアル

日本経済が成熟し、公認会計士にも多様性が求められる時代において、監査法人を飛び出した公認会計士たちはどのようなキャリアを歩んでいるのだろうか・・・

ビジネスの第一線で活躍する若手公認会計士が彼らのキャリアや日々の想いをリアルな言葉で語ります。

第1回 著者 井上 健(いのうえ けん)

第1回は株式会社リアルワールド 経営本部にて統括マネージャーを務める公認会計士・井上 健氏による執筆です。

大学在学中に公認会計士試験に合格し、大手監査法人に就職。監査法人での仕事も順調であり、順風満帆な会計士生活を送っていた彼はなぜ、監査法人を飛び出したのか。

なぜ大企業や大手コンサルティングファームではなく、ベンチャー企業を選んだのか。

そして、そこで何を感じているのか・・・複数回に渡ってお送りします。

【著者】

公認会計士 井上健

井上 健(いのうえ けん)
株式会社リアルワールド
経営本部 統括マネージャー/公認会計士

1985年生まれ。慶應義塾大学卒。 2006年、大学3年時に公認会計士試験に合格後、大手監査法人にて5年間勤務。東証一部上場会社、SEC登録企業の監査、IFRSアドバイザリーやJ-SOX監査等々に従事し、複数社の現場責任者も経験。

その後、IT系ベンチャー企業である株式会社リアルワールドに入社。経営本部統括マネージャーとして、監査法人の頃に培った経験と蓄えた会計知識を土台にしつつ、海外事業展開、事業分析、予算管理、投資管理、経理業務、採用活動等々の業務に従事。(経歴は執筆時のものです。)

公認会計士なのに質問に答えられない・・・

 

「会計を使うとどう儲かるの?」

 

皆さんはこのような質問を経営者に聞かれた場合、なんて答えますか?

例えば、

「会計を使うと適正な財務諸表が作成でき、●●●」

「会計を使うとお金の流れが●●●」

「そもそも会計ソフトを作って●●●」  etc…

簡単に羅列しましたが、当然それ以外も様々な答えがあるのではないでしょうか?

ただ、恥ずかしながら自分はいまだに「これ」という答えが見つかっておりません。どれも正解だと思っているのですが、自分の中で腹オチした答えが出ないのです。

この質問が私の人生を大きく変えてくれた質問でした。この質問をきっかけに監査法人からの転職を決意したからです。

監査法人時代の葛藤

公認会計士 井上健 その1

私は大学三年生の時に公認会計士を取得し、そのまま大手監査法人の国際部に就職しました。

ビッククライアントにも恵まれ、同期と上司の方々に色々と支えていただきながら、監査及びアドバイザリー業務に従事していました。正直、かなり恵まれた状況で5年弱働く事が出来ていたと思っています。

しかし、3年がたったころでしょうか、私の中で「このまま監査法人に居続けていいのかな?」という疑問がふっと湧いてきました。

きっかけは良く分かりません。何となく3年という響きがそうさせたのかもしれませんし、周りの同期との会話でそういう話が出たのかもしれません。ただ、時間がたつにつれて、この疑問が私を少しずつ不安にさせていきました。

そんなある日、自分の知人の経営者に経理で相談させてよという話を頂戴しその相談に乗っていたところ、

 

「会計を使うとどう儲かるの?」

 

この質問を投げかけられました。

知人の経営者の何げないこの一つの質問に私は完全に沈黙してしまいました。

教科書的な回答なら出来る。「財務諸表を●●●」というような回答なら出来る。

でも、、、それって儲かるのか?てか会社ってどうやって儲けてるんだっけ?あれ??

公認会計士 井上健 その2

こんなことをグルグル考えていました。考えて考えて、、、結局良く分からなくて、その経営者に教科書通りの回答しかできなかったことを今でもはっきり覚えています。そして、その時に経営者の方も「ふーん」といった表情をしていたことも。

この時からこの質問が頭を離れなくなりました。

一応4年間ほど大手企業も含めて数10社の会社の監査もしてきた自負もありましたし、それなりに財務諸表を読み込んでいた自信も持っておりました。ですが、こんな簡単な質問に対しても答える事が出来ない。なんでなんだろう、、、と。

2、3日考えて考えて考えて、、、そして考えることを辞めました。

だって、俺、事業会社で本気で儲けるところに関わったことないし分かるわけないじゃん、と。それと同時に、「だったらそういう事を本気でやってる世界に関わってみたい」と自然に思うようになりました。

『起業のファイナンス』との出会い

思い立ってからはまず一般的な転職活動を開始しました。転職エージェントに相談し、既に転職を経験されている知り合いの方に色々と相談をしたりしました。

しかし、いまいちピンとこない。

転職エージェントからはコンサルティングファームと他の会計事務所を紹介され、何社か話もさせていただきました。知り合いの方にもコンサルティングファーム等を紹介されました。

どこも非常に魅力的ですし、多分転職したらキャリアステップとして良いんだろうな。そんな事を思いながらも、なぜか心が躍らない。。。

そんな日々を数カ月過ごしたある日、1冊の本に出会います。

 「起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと」

2010年に発売された磯崎哲也氏が書かれた本です。私の人生を変えた本です。

そこには自分の知らない会計士の姿がありました。

一応、公認会計士取得時に勉強していた『ファイナンス』という分野、聞いた事はある『ベンチャー』という響き。

しかし、この本を読んでも内容が全く理解できない。教科書的な事は分かる。でも現実に起こった場合の対処や何をするかのイメージがわかない。。。「会計を使うとどう儲かるの?」と質問されたときと同じような状況に陥りました。やっぱり知らない世界が異常に多いなと。

いてもたってもいられなくなり、半ば衝動的に磯崎氏にメールをした事を覚えております。『会って話を聞かせてください』とメールを打ちました。すぐに磯崎氏から連絡があり、事務所で会ってもらえる事になりました。

そこで2時間弱、磯崎氏にITのことベンチャーの状況、ファイナンスのこと等について色々とお話を頂戴する事が出来ました。磯崎氏のお話は、当時の私では理解できない事も正直多かったですが、

 

「色々悩んでるみたいだけど、行ってみないと結局わからないよ。」

 

「ベンチャーはジェットコースターみたいで面白いよ。若いうちなら死なないし、入っちゃえばいいんじゃない?」

 

この言葉は非常に頭に焼きついてます。まさにその通りだなと思いました。知らない世界しかないこの世の中で、その世界に足を踏み入れないのは本当にもったいないなと。

その当時までインターネットといえばYahooのみといったインターネット音痴だった私が、ITとベンチャー、自分の人生で一回も絡んだ事のなかった世界をこの日知りました。この日以降、インターネットと非上場会社に対象を絞り転職先を探すこととなりました。

転職してみて・・・

色々なきっかけや人の縁のもと、現在、株式会社リアルワールドというIT系ベンチャー企業で、経営本部統括マネージャーをさせていただいております。

いまだに

 

「会計を使うとどう儲かるの?」

 

という質問に明確な答えは持てていませんし、ファイナンスに関しても勉強の日々です。

しかし、今はっきり言えるのは、転職したことに後悔が無いことと、自分の知らない世界を垣間見れる楽しさです。

 

「色々悩んでるみたいだけど、行ってみないと結局わからないよ。」

公認会計士 井上健 その3世の中は、知らない世界であふれています。知らないままで終わっても良いし、新しい世界に飛び出しても良い。正解なんて当然ありません。でも、足を踏み入れてみて初めて感じられる事は非常に多いと思います。

もし、今いる場所や今の自分に不安を感じる方がいましたら、新しい世界の存在を知る努力をしてみると良いかもしれません。

そこから、将来の自分探しの一歩を踏み出してみるのも面白いかもしれませんね。

きっと、全くイメージのつかない自分に出会えると思いますよ。

「公認会計士のリアル」のその他の記事はこちら

井上健さんが影響を受けた書籍





この記事の著者

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【手塚佳彦/公認会計士ナビ編集長・株式会社ワイズアライアンス代表取締役CEO】 神戸大学卒業後、会計・税務・ファイナンス分野に特化した転職エージェントにて約10年勤務。東京、大阪、名古屋の3拠点にて人材紹介・転職支援、支社起ち上げ、事業企画等に従事。その後、グローバルネットワークに加盟するアドバイザリーファームにてWEB事業開発、採用・人材戦略を担当するなど、会計・税務・ファイナンス業界に精通。また、株式会社MisocaのアドバイザーとしてMisoca経営陣を創業期から支え、弥生へのEXITを支援するなどスタートアップ業界にも造詣が深い。 2013年10月、株式会社ワイズアライアンス設立、代表取締役CEO(Chief Executive Officer)就任、公認会計士ナビ編集長。

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