2022年1月1日~12月31日までの監査法人IPOランキングをまとめました。
2022年のIPO総数91件を担当した監査法人を『IPO件数』『時価総額』の2つの指標でまとめています。
⇒2021年以前のランキング・その他監査法人関連ランキングはこちら
注記
※監査法人の規模別の集計においては、大手(EY新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらた)、準大手(仰星、BDO三優、太陽、東陽、PwC京都)、その他を中小として分類しています。分類の定義は「監査事務所検査結果事例集(令和4事務年度版)」(公認会計士・監査審査会 令和4年7月付)に基づいています。
また、外国監査法人に関しては、国内の提携監査法人の規模に準じて分類し集計しています。(例:KPMG LLP、EY LLP→大手監査法人、BDO USA, LLP→準大手監査法人)
※個々の監査法人の実績に関しては、外国監査法人は個別の法人として取り扱い、提携監査法人の実績には含めずに集計しています。
※優成監査法人は2018年7月2日に太陽有限責任監査法人(以下、太陽監査法人)と合併を行っております。2017年以前の優成監査法人のIPO実績は優成監査法人として集計し、2018年分は太陽監査法人に含めて集計しています。
IPO件数ランキング
EY新日本が1位、太陽がトーマツと同着で2位へ浮上。あずさは4位へ
まずはIPO件数のランキングです。
IPO件数ランキング
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※鞍替え、指定替え、TOKYO PRO MARKETを含まないランキングです。
IPO総数は前年から34件減少して91件となりなりました。前年は東証の市場再編を目前に控えてIPOの駆け込み需要がありましたが、2022年は例年並に戻ったようです。
そのような中、IPO件数では、EY新日本監査法人が3年連続で首位をキープしています。太陽監査法人はIPO総数が減少しているにも関わらず前年並みの件数をキープし、監査法人トーマツと同着の2位に浮上しました。
また、あずさ監査法人はIPO件数が前年の半分以下に減少し、4位となっています。
この点、日本経済新聞の記事によると、あずさ監査法人の阿部博パートナーは「延期案件が上場すれば、23年は例年並みに戻るだろう」とコメント。2023年は再びベスト3に食い込んでくるかもしれません。
なお準大手監査法人の中でも、5位のPwC京都、同着5位の仰星は、前年と同程度の件数で推移しています。
監査法人の規模別で件数はどう変動したのか
次に監査法人の規模別のIPO件数割合の10年間の推移を見てみましょう。
監査法人の規模別IPO件数割合
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※外国監査法人に関しては、国内の提携監査法人の規模に準じて分類し集計しています。(例:KPMG LLP、EY LLP→大手監査法人、BDO USA, LLP→準大手監査法人)
2022年は、四大監査法人の割合が51.6 %にまで減少しました。
かつてのIPO監査は、EY新日本、トーマツ、あずさの3法人による寡占状態でしたが、ここ数年、四大監査法人はIPO準備企業の受け入れをセーブしていると言われており、準大手監査法人や中小監査法人にクライアントが流れる構図になっています。
そのため、PwCあらたを含めた四大監査法人としてのシェアは2018年を境に右肩下がりとなっており、2022年は過去10年間で最も低くなりました。本記事では2013年以降のデータのみ集計していますが、おそらく過去最低のシェアとなっているかと思います。
また、2022年は、準大手監査法人の伸びが鈍化している一方で、中小監査法人の割合は昨年と比べて倍増しました。これにより、大手のみならず、準大手もこれ以上のIPO監査案件の受嘱が難しくなってきており、中小へとクライアントが流れていることも推測できます。
近年のIPOマーケットでは、証券会社も大手監査法人によるIPO監査にこだわらない姿勢を示しており、この傾向は今後も続くものと思われます。
なお、公認会計士ナビチャンネルでは、江黒公認会計士事務所代表の公認会計士、江黒崇史氏をゲストに迎えて、2022年のIPOを総括した動画を配信しています。2022年の中小監査法人の状況についても詳説しているので、こちらもご覧ください。
四大監査法人のIPO勢力図
次に、四大監査法人のIPO件数全体に占めるシェアを、過去10年分のデータで比較してみましょう。
「監査法人の規模別IPO件数割合」で、四大監査法人合計のシェアが2013年の85.2%から2022年は51.6%に落ちてきたことを確認しました。内訳をみてみると、その最大の要因は監査法人トーマツのシェア減少です。またあずさ監査法人も2020年からシェアを落としています。
このまま四大監査法人の減少傾向が続くのか、今後の動向に注目です。
四大監査法人のIPO件数の推移(過去10年間)
また、四大監査法人のIPO件数を10年間の推移で見てみると以下のようになります。
四大監査法人クライアントのIPO件数の推移をみてみると、2013年にトップだった監査法人トーマツは10年間で4割ほどIPOクライアントの件数を減らしています。また、あずさ監査法人は、年によってばらつきはあるものの、ここ3年は減少傾向です。
一方、EY新日本監査法人は、2013年から2016年にかけて一気に件数を伸ばし、前期はIPO駆け込み需要の影響で増加していますが、それ以外は目立った増減がありません。EY新日本監査法人ではIPOの専任者を養成してIPOに力を入れる一方で、EYの方針で、規模の大きな案件以外は契約が認められなくなっているとの噂があります。2016年以降に件数が伸びていないのは、契約を大型案件に絞ったからとも推測されます。
厳しいIPO環境下で太陽が堅調
IPO監査のランキングを語る上で注目すべきは、ここ数年、安定して実績を伸ばしている太陽監査法人です。
前述の四大監査法人のIPO件数に太陽監査法人を加えた5法人の10年間の推移は以下のようになります。
四大+太陽監査法人のIPO件数推移(過去10年間)
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※2017年以前の太陽監査法人の実績には優成監査法人の実績は含まれておりません。
太陽監査法人は、2016年以降4強入りしており、2022年は監査法人トーマツと並び、初めて2位になりました。
クライアント時価総額(初値)ランキング
EY新日本が首位。トップの時価総額は前年の半分を割る
次に監査法人別に、IPOクライアントの初値時価総額を比較します。
初値時価総額の合計額でのランキング
監査法人別の初値時価総額の合計額でのランキングは、1位EY新日本(前年1位・861,819百万円)、2位太陽(前年5位・281,456百万円)、2位トーマツ(前年3位・594,362百万円)の順となっています。
EY新日本については、IPO件数が2021年とくらべて33.3%減少し、初値時価総額は54.2%の減少となっており、案件の規模も小さくなっていることが窺えます。
初値時価総額の平均額でのランキング
では、次に初値時価総額の「平均額」(1件あたりの初値時価総額)ランキングを見てみましょう。
2期連続でトップだったPwCあらた監査法人はトップ10から姿を消し、仰星監査法人がトップに躍り出ました。
また、上位3法人は、それぞれ、初値時価総額の1~3位を担当した形となっています。
- 銘柄別初値時価総額1位の大栄環境(株)(162,583百万円)を担当した仰星監査法人が、初値時価総額の平均額ランキングの1位
- 銘柄別初値時価総額2位のANYCOLOR(株)(144,268百万円)を担当した太陽監査法人が、初値時価総額の平均額ランキングの2位
- 銘柄別初値時価総額3位の(株)ソシオネクスト(129,112百万円)を担当したEY新日本監査法人が、初値時価総額の平均額ランキングの3位
2023年のIPOマーケット、物価高騰が続く中、スタートアップ育成施策でIPOは増加するか?
2022年のIPO件数は、太陽監査法人があずさを抜きトーマツと並んで2位となりました。
1位のEY新日本監査法人のIPO件数は、IPOの総数が2021年より3割近く落ちた影響もあり、3割以上減少しています。一方で、太陽監査法人が横ばいであったことから、2023年のEY新日本と太陽の動向によっては、太陽が1位になるといったこともあるかもしれません。
また例年、大型案件は四大監査法人が担当していましたが、2022年は、初値時価総額の1位が仰星監査法人、2位が太陽監査法人となるなど、準大手監査法人が大型案件を手掛けるケースも見られました。
2022年は、ロシアのウクライナ侵攻の長期化による物価の高騰が続くなどの影響で、IPOを見合わせた企業が多かったと想定されます。
一方で、2022年8月に東京証券取引所より「IPO等に関する見直しの方針について(PDF)」が公表され、スタートアップの育成を目的として、資金調達の緩和策が検討されることになりました。
このように、2023年はIPO件数が増加する要素がありそうですが、IPOマーケットにどう反映されていくのかにも注目が集まります。
2023年以降のIPOマーケットや監査法人ランキングはどのようになるのでしょうか?公認会計士ナビでは継続してウォッチしていきます。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)
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