『弥生会計』でお馴染みの弥生株式会社様(以下、弥生)では、税理士や公認会計士の方々を対象にしたパートナープログラム「弥生PAP」(やよいぱっぷ)を運営しており、その会員の皆様向けに弥生や業界のトレンドをお届けする弥生PAPカンファレンスを年2回開催しています。
今回の弥生PAPカンファレンス2022も前回から引き続き、オンラインとリアル(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の7会場)のハイブリッドで開催されました。
オンライン第1回目では1,000名近い弥生PAP会員が参加し、東京会場もアクリル板を挟んでほぼ満席の状態で開催されるなど、オンラインとリアルの両方で多くの弥生PAP会員が参加し、盛り上がりを見せました。
今回は、2023年10月導入の適格請求書等保存方式(以下、インボイス制度)と2024年1月に改正される電子帳簿保存法(以下、電帳法)対応をメイントピックスとして、カンファレンスが開催されました。会場から多くの質問が寄せられ、制度への関心の高さが伺われました。
本記事では前編・後編の2回に渡り、弥生PAPカンファレンス2022・オンラインの模様を、お届けします(オンラインは、2022年6月9日、15日、27日の3日間に渡り開催)。
※記事内のスライドはすべて弥生PAPカンファレンス2022・オンラインで用いられたものです。また、写真は2022年6月10日に開催された東京会場(ベルサール秋葉原)のものとなります。
弥生PAPカンファレンス2022・オンラインプログラム
- 弥生の現況とこれから(弥生株式会社 代表取締役 社長執行役員 岡本浩一郎)
※「やよいの給与明細 オンライン」デモンストレーション(弥生株式会社 マーケティング本部 事業企画部 細渕敬太) - 事業承継サービス(事業承継ナビ・弥生のあんしんM&A)(弥生株式会社 マーケティング本部 営業推進部マネージャー 土屋貴幸)
- 弥生のインボイス対応(弥生株式会社 マーケティング本部 事業企画部マネージャー 木下雅史)
本記事の目次
インボイス施行まで1年半。着手すべき課題とスケジュールを網羅的に提案
会計ソフト、記帳代行支援サービスともに順調に成長
カンファレンスの冒頭では、弥生株式会社代表取締役社長執行役員の岡本浩一郎氏から、弥生株式会社の現況について、売上、ユーザー数ともに堅調に推移していると報告がありました。
デスクトップアプリは3分の2以上と高いシェアを占める一方で、クラウドアプリについてもここ数年シェアを伸ばしており、将来的にはデスクトップアプリと同程度のシェアを実現したいと豊富が語られました。
また、2020年秋にリリースした記帳代行支援サービスは、760事務所、17,020件の顧問先へと利用が拡大しています(2022年4月末時点)。記帳代行にかかる時間を削減し、インボイス対応にかかる工数を捻出するためのツールとして、今後も利用拡大が期待されています。
インボイス制度が始まると、売り手と買い手は何をすべきか
岡本代表は、インボイス制度と改正電帳法の施行時期がほぼ同時期で、どちらも証憑に関する法令改正であることから、一緒に対応することが効率的であるとし、これを契機に、デジタルを前提として新しく業務を組み立て直すべきだと提言しました。
では、インボイス制度が始まると、どのように業務が変化するのでしょうか。
改正点の中で特に注意すべきなのが「適格請求書以外を正しく認識する」(買い手側)ことです。適格請求書を判定するためには複数のチェック項目があり、人が作業を行うと多くの工数がかかります。
この点、2022年5月にベータ版をリリースしている「証憑管理サービス」では、2022年秋以降順次、OCRによる文字情報の読み取り機能や、弥生会計製品との仕訳連携機能が追加されて、自動で仕訳が行えるようになります。
待ちに待った、デジタル化に向けた構想が発表されました。
中小企業の商取引が非効率な理由。2つの情報の分断
次に、岡本代表は、中小企業の商取引について、ほとんどの企業がシステムを利用しているのに、わざわざ紙で出力してから郵送し、受け手は同じ内容を入力し直していると解説しました。
そして、このような「情報の分断」が、中小企業の商取引を非効率的なものとしていると指摘します。
情報の分断は、インボイス発行から入金管理までの一連の流れを、データで連携することができれば解消できます。
岡本代表が代表幹事を務める、デジタルインボイス推進協議会(EIPA)では、デジタルインボイス・システムの構築と普及を進めています。
上のスライドでは、デジタルインボイスを活用した具体例が説明されていますが、ここでポイントとなるのが、各データに「請求ID(スライド中の「請求ID12345」)」が付与されている点です。
同一請求IDが付与されることで、請求、支払、入金が同一取引のものであると識別され、仕訳処理、支払処理及び入金消込業務などの一連の業務を自動で行えるようになります。
インボイス制度施行までに対応すべき課題とスケジュール
続いて、インボイス制度施行まで、会計事務所がどのように顧問先対応を進めていくべきなのか、スケジュール案が示されました。
ここで、ポイントとなるのが、会計事務所の繁忙期となる1月から3月までのインボイス制度対応です。
岡本代表は、本来であれば、会計事務所は確定申告に集中したい時期だろうと配慮を示しつつも、「今回のインボイス制度導入は消費税制度始まって以来の大改革であり、来年のインボイス制度開始時に業務を安定的に運用するためには、確定申告時期にもパイロットテストや業務の検討を進めた方が良い」とアドバイスがされました。
「証憑管理サービス」と弥生シリーズで、デジタル化を一気に加速
大半の事業者が法令改正対応への着手はこれから
次に、弥生株式会社マーケティング本部事業企画部マネージャーの木下雅史氏より、顧問先のインボイス対応の進め方と、新製品やサービスの紹介が行われました。
冒頭で、弥生ユーザーに対して行われた、事業者のインボイス制度の準備状況に関するアンケート結果が紹介されました。これによると、事業者のうちの約3割が課税事業者の登録申請を済ませている一方で、実務的な準備はまだこれからという状況でした。
弥生としては、これから計画的にインボイス制度への対応を進めるためのスケジュールと新サービスを提案していきたいとして、木下氏から順に紹介が行われました。
スケジュールは①顧問先対応、②取引先対応、③システム対応を計画的に
インボイス制度と改正電帳法に対応した業務を、施行日までに安定的に運用できる状態にするために、3つのStepに分けて課題とスケジュールを提示しました。
まず、青い大きな矢印で示される「運用定着期間」に注目して欲しいと、木下氏は言います。
来年10月に安定的に業務が運用できるようになっているためには、来年4月から9月まで準備期間を長めに設けることが重要と言うことです。
また、来年1月から3月にかけてオレンジ色の矢印(「会計事務所繁忙期」)が配置されていますが、この時期にインボイス対応をする余裕がない場合は、今年中にStep3まで、おおよその目処を立てておく必要があると言うことでした。
Step1:適格請求書発行事業者になるメリットとデメリット
Step1では複数の課題が示されていますが、中でも、免税事業者が適格請求書発行事業者に転換すべかどうかが、最大の問題になります。
課税事業者に転換する場合も、免税事業者を貫く場合もそれぞれデメリットがあります。6年間の経過措置期間に、どちらのデメリットを許容できるかという観点から結論を出しておく必要があると説明がされました。
Step2:仕入先が免税事業者の場合の対応
Step2で特に問題となるのが、仕入先に免税事業者がいるケースです。取引を継続するか、それとも新規取引先を開拓するのか、今後の取引を検討するためのフローチャートが示されました。
2022年5月に『証憑管理サービス』ベータ版をリリースし、秋以降も追加機能を続々リリース。デジタル化で請求、支払、仕訳、入金管理まで一気通貫
次にご紹介するのが、証憑管理サービスです。第1部で岡本代表から、デジタルインボイスを活用した業務効率化の流れについて紹介がありましたが、それを実現するためのサービスが、証憑管理サービスです。
木下氏は、証憑管理サービスの特徴を2点指摘します。
1点目は、紙で受け取った証憑をデジタルデータに変換し、デジタルインボイスとともにデジタルで一元管理できる点です。2点目は、適格請求書か区分記載請求書かを自動で判定できる点です。
証憑管理サービスから会計システムなどへ、取引先の名前、日付、金額、税率、税額、適格請求書か否かといった情報が連動されることで、請求書発行後の業務の自動化を図ることができます。
弥生22シリーズのアップデートは、弥生ユーザー同士の取引に大きなメリット
ここからは、すでに発売済みの弥生22シリーズの、アップデートについて解説が行われました。
まず、「弥生販売22」や、「やよいの見積・納品・請求書」、「Misoca」は、インボイスの記載要件への対応が完了しています。また、弥生販売22に請求書の電子送信機能が追加されました(クラウド上でPDFを生成してURLを送付すると、取引先もURLをクリックしてPDFをダウンロードできる機能です)。
さらに木下氏から、請求書の電子送信機能は、弥生ユーザー同士で取引をしている場合に、どちらも請求書データを生データとして証憑管理サービスに取り込むことができるため、非常に利便性が高まると説明がありました。
上記スライドで見ると、請求書発行側は、請求書発行と同時に、取引先名、金額、請求日付などのデータを証憑管理サービスに取り込むことができます(①‘)。一方の取引先も、PDFをダウンロードすると、同様のデータを証憑管理サービスに取り込むことができるようになります(④‘)。
弥生23シリーズでは、インボイス対応の機能を次々と追加
弥生23シリーズにも様々な機能が搭載予定ですが、本記事では、①仕訳入力時の区分追加、及び、②経過措置中の仕入措置への対応についてご紹介します。
弥生では、仕訳の入力フォームに、赤枠で囲まれた請求書区分と仕入税額控除の2つの区分を追加することになりました。
また、免税事業者から仕入れた場合の経過措置中の仕入処理として、方式A、B、Cの3種類が考えられますが、弥生は、方式Bを採択しました。方式Bは記帳の都度、正確な仮払消費税額を計算するので、申告書作成時点の調整が不要になるというメリットがあります。
木下氏は、インボイス制度や電帳法対応として、証憑管理サービスや弥生シリーズのアップデートを紹介しましたが、今後も「あんしんガイド」を活用しながら情報発信を行っていきたいと述べ、パートを締めくくりました。
後編では、デジタル化に向けて大幅にリニューアルした「やよいの給与明細 オンライン」と、中小企業の事業承継が問題となる中、2022年6月にリリースされた「事業承継ナビ」についてお届けします!
→会計事務所の顧問先の事業承継を支援、弥生が「事業承継ナビ」をスタートなど:弥生PAPカンファレンス2022レポート後編
弥生PAPで会計事務所経営に必要な情報を!
「弥生PAP」とは、弥生株式会社と会計事務所がパートナーシップを組み、弥生製品・サービスを活用して、中小企業、個人事業主、起業家の発展に寄与するパートナープログラムです。2022年4月時点で11,600以上の事務所が加入。税務サービスを提供する会計事務所様はぜひご加入をご検討ください。