公認会計士の活躍するフィールドは様々ですが、その中でも特に独自性の高い分野として「フォレンジック」というフィールドがあります。フォレンジックは、公認会計士のキャリアとしてはメジャーな分野ではないものの、不正調査や診断、対策など会計士資格の特性を活かしながら、他の会計士との差別化を図るには有力なフィールドのひとつでもあります。
「シリーズ:会計士×専門性」、第2回は前回に続き、フォレンジック分野を専門とするプラムフィールドアドバイザリー株式会社・代表取締役の梅原哲也氏に話をお伺いしました。
梅原哲也/プラムフィールドアドバイザリー株式会社 代表取締役
オークランド大学卒。大学卒業後、外資系会計事務所の台北オフィスで投資・税務コンサルティング業務に従事。2002年にNTTドコモへ入社、3年半勤務。その後、KPMG FASへ転職し、大手金融機関やメーカー、外資系企業を中心に不正リスク、コンプライアンス、不正対策、対資金洗浄、リスク管理等のコンサルティングを提供。2007年にプラムフィールドアドバイザリー株式会社を設立、代表取締役に就任。現在はグローバル展開する日本企業の不正対策やコンプライアンス、リスク管理、内部監査、財務会計分野のコンサルティングサービスを提供。同社は、世界第6位、90ヶ国に拠点をもつGGIグループの日本メンバーファームでもあり、梅原氏自身も1年間に世界を4~7周し、約15~25ヶ国を訪問する国際派のコンサルタント。
「フォレンジック」とはそもそもどのような意味なのですか?
私が代表を務めるプラムフィールドアドバイザリーでは「フォレンジック」という業務をベースにして、専門性を築いた部分もあります。このフォレンジックと言う言葉は、日本ではあまり聞き慣れません。元々、これは英語で正確な和訳がないことや、ITイノベーションの部分で、日本が遅れていることも原因としてあると思います。
そもそも「フォレンジック」とは一体何なのか? 辞書で調べてみると、「科学を用いた捜査」、「法廷の」、「システムのログや記録を詳細に調査し、過去に起こった事実を把握する証拠を集めること」等を意味しているとあります。これはかなり広義のフォレンジックと言った意味になるでしょう。
そして、当社が提供しているコンサルティングファームで、フォレンジックと言うと、「不正調査」や「訴訟対策を視野に入れた調査」、「コンピューターのログや履歴とり、事実関係を把握すること」等が含まれますが、実際に「フォレンジック部門」としては、不正に関連する診断サービスや、係争サポート、不祥事が起こった際の第三者委員会としての立場での協力、アメリカの訴訟に対応する為にeディスカバリー手続き、不正が疑われる会計監査での詳細調査、金融機関向けの対資金洗浄対策に関わるサービス等が含まれます。
当社はこれらのニッチなサービスを新興国でも展開するモデルを築き、現地の「不正対策」や「コンプライアンス対策」、「高度な内部監査手法」で、日本企業の力になれるようにサービスを研究しアレンジしています。
フォレンジックとはコンサルティングでは新たな分野なのですか?
フォレンジックは日本では、比較的新しい分野であるとは思いますが、その基礎は約15年ほど前からあります。悔しいことに、この分野においては、日本が欧米の先端の10~20年後ろを走っています。私は幸いな事にKPMG在籍中、ロンドンとニューヨークのKPMGにおいて最先端のフォレンジックを学ぶことがあったのですが、その実務レベルや技術レベルの差には驚きました。恐らく、現在の日本の大手コンサルティングファームでも、欧米の10年前の技術やノウハウにはまだ追いついていないでしょう。
フォレンジックの専門家になるにはどうすればいいのでしょう?
フォレンジックとは、非常専門性が高く、例えば、「コンピューター等でのログや履歴取り」と「不正に関する診断」では、全く異なるスキルが求められます。これらはあまりにも専門的で、ひとりで全ての「フォレンジック専門家」をやることは、技術上、難しいと思います。
ですので、フォレンジック業務に従事する人は、それぞれの得意な専門領域を持ち、チームワークでそれぞれの専門性を生かすことで、付加価値をつけていかなくてはなりません。具体的には「会計監査」に関するノウハウや「インタビュー」に関するノウハウ、「IT」に関するノウハウ、「捜査・調査全般」に関するノウハウ等が必要です。どれか一つでも極めていることは必要でしょう。
米国ドラマ「24 Twenty Four」に「フォレンジック・チーム」が出てきますが、あのような仕事はできるのでしょうか?
なかなか面白い質問ですね。結論からいうと、コンサルティングファームでは困難です。それこそ警察のシステムにハッキングして、信号を変えたり、衛星回線に侵入して撮影・監視をしたりするようなプロジェクトはありませんし、これらの行為はそもそも違法です。コンサルティングファームにおける「フォレンジック」業務は、確かにエキサイティングではあり、それこそ大変で、高いパフォーマンスが求められますが、ドラマのTwenty Fourのようなことはありません。あれはあくまでもドラマです。但し、警察のサイバー捜査への協力をするようなことはたまにありました。
フォレンジックのコンサルティングは、監査等の業務と比べて大変でしょうか?
はっきり言って、比べものにならない程、大変だと思います。仕事の精度、技術で監査を超えるレベルが求められます。監査法人から軽い気持ちで、コンサルティングファームのコンサルティング部門に入ったりすると、痛い目に遭うでしょう。チャレンジする際には、心得てチャレンジするのが好ましいと思います。一方で、得られるスキルは監査と違い、非常に大きいと思います。
どこのフォレンジックサービスを提供しているコンサルティングファームがいいのでしょう?
これは転職者としての立場と、クライアントとしての立場で異なります。就職先として考えるのであれば、少し前までは、KPMGのフォレンジックが強かったのですが、最近はデロイトが頑張っています。恐らく、KPMGを超えたと思います。チームの強さは大きなプロジェクトに対応できるかどうかにも関わりますので、就職先と言う意味では重要だと思います。当社、プラムフィールドアドバイザリーもお勧めです(笑)
クライアントとしてフォレンジックサービスを考える場合はいくつかのファクターが考えられますが、特に自社が上場企業の場合、監査法人の独立性の問題から、自社の監査人を務める系列のコンサルティングファームは避けるべきでしょう。ある程度仕事が進んでから「ここでプロジェクトを打ち切ります」なんてことは、良くあります。これでは、そこまで投資してきたことが水の泡になってしまいます。
それ以外の側面では、サービスそのものは好みや属人的な側面も強いので、まずは会って色々と話を聞いてみるのがよいかと思います。そして、次に重要なのが価格です。フォレンジックサービスは、その専門性から決して安いサービスではありません。また、サービスの特性から固定額でサービスできることが困難な場合も多々ありますので、タイムチャージの単価の比較も極めて重要になると思います。
今日は最後までありがとうございました。
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