【番外編】会計士の転職、FAS・会計ファームの採用にコロナ禍の影響は出ているのか?:会計士のキャリア小六法



会計士のキャリア小六法_番外編

「会計士のキャリア小六法」では、「会計士のキャリア形成についての考え方のポイント」をミニコラム形式でみなさんにわかりやすくお伝えしていきます。

今回は、番外編として、「会計士の転職、FAS・会計ファームの採用にコロナ禍の影響は出ているのか?」をお届けします。

2020年に入って世界的な問題となっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが、日常生活においての他者との接触が制限され、また、経済への影響も大きいため、当然のことながら転職市場への影響も現れています。

そこで今回は、転職を検討している公認会計士の方のために、コロナ禍においてのFASや会計ファームを中心とした公認会計士の転職市況について解説致します。

本記事の目次

求人企業の動向:コロナ禍で厳選採用の傾向が強まるも、影響は限定的

まず、転職市場全体の傾向(公認会計士に限らないすべての職種における傾向)ですが、有効求人倍率が下がり、失業率も上がるなど、コロナ禍の影響を受けて徐々に悪化してきている状況です。

参考:7月の有効求人倍率1.08倍 6年3カ月ぶり低水準(日本経済新聞 2020年9月1日)

余談ですが、実はコロナの前、2019年の秋頃から転職市場は緩やかに悪化してきていました。

FASや会計ファームを中心とした公認会計士の転職市場に関しては、マーケットが小さいため公式な統計はありませんが、公認会計士ナビの転職エージェントに依頼されている求人の動向等からは、大きく悪化しているということはありません。一方で、コロナ前と比較すると、僅かではありますが、求人数の減少や選考ハードルが上がるなどの影響は見え始めています。

ジャンル別に解説すると以下のような傾向が見られます。

FAS(M&A)

若手会計士に人気のM&A領域ですが、非常に積極的だった採用傾向にやや減速の兆しは見えるものの、引き続き採用活動は行われています。

採用への積極性や温度感を見てみると、ファームの規模や得意とする領域によっても異なっています。

例えば、クロスボーダーM&Aを手掛けるような大手ファームでは、国際的なM&Aディールが低調になっていることに伴い、採用にも慎重なファームも多く、採用活動をストップしているファームも見られます。

一方で、国内・小規模~中規模のM&A案件を専門とする独立系・小~中堅ファームに目を向けると、採用に慎重なファームはあるものの、コロナ禍でも積極的な投資活動を行っているPEファンドや大手IT系上場企業などと強いコネクションがあるファームにおいては、財務デューデリジェンスやバリュエーション(企業価値・株価評価)といったFAS業務や、FA(ファイナンシャルアドバイザリー)業務に従事する公認会計士を募集しています。

ただし、景気の見通しについては不透明感が残る状況であるため、コロナ前よりも採用ハードルは上がっており、特にFAS未経験者に関しては、しっかりと準備をして転職活動にのぞむことが好ましいと言えます。

FAS(事業再生)

事業再生分野においては、再生案件が増えている状況にあるため、採用を継続しているファームが多い状況です。

コロナ禍の初期においては、緊急避難的な資金調達を必要とする企業が多く、企業再生ファームも資金計画の見直しや緊急融資制度を利用した資金調達の支援など、本来の再生業務の前段階である財務支援を行う案件が多かったものの、そういった状況が落ち着いた現状では、本格的に業績の悪化や倒産が見えてきた企業の経営支援や再生支援案件が増えつつあります。

そのため、ファームによって多少の差はあるものの、人員を増強したいニーズが高まりつつあります。

会計アドバイザリー・IPO支援など

IFRSや連結・開示支援などをメインとする会計アドバイザリーの分野においては、コロナ禍の影響は出ているものの、やや限定的な状況です。

一般的に、会計アドバイザリーは四半期や年単位での契約となるため、コロナ禍においても案件が継続されており、それに伴い人材ニーズも継続的にある状況です。一方で、今年の下半期以降において予算の見直しが入ると、案件が減少していくることも想定されますので、今後の先行きに慎重な見方をしているファームではやや採用をスローダウンしているファームも見られます。

また、IPO支援に関しては、コロナ禍による業績悪化を受けて、IPO準備を目指す企業の減少が見られたため、わずかながらマーケットの冷え込みが見られましたが、引き続きIPO準備を行っている企業も一定数あるため、案件も稼働していたり、ファームによっては一部採用を行っているところもあります。ただし、先の見通しはやや不透明であることから、コロナ以前ほど積極的に増員をかけているファームはあまりない状況です。

国際・海外進出支援

公認会計士の中には、語学力を活かして国際分野での活躍を希望する公認会計士の方も一定数おられますが、今回のコロナ禍で最も影響を受けているのがこの国際領域です。コロナ禍による渡航制限や国際的なトランザクションの減少によって、インバウンド、アウトバウンド共に、採用をストップしたり、採用数をこれまで以上に厳選しているファームも複数見られます。

国際分野を希望している公認会計士の方にとっては厳しい状況が続きますが、同領域はこれまで英語力のある人材不足から、業界全体で人不足(一定の英語力さえあれば転職希望者が有利)の状況でしたので、国家間での人の行き来が戻るタイミングさえくれば、転職希望者有利の売り手市場が再びくる可能性は高いと思われます。

その「再び売り手市場が来る時期」が読めないのが難点ではありますが、同領域を希望する公認会計士の方は、今のうちに英語力を高めて時期を待つことも選択肢のひとつであると言えるでしょう。

求職者の動向:動き出しは低調、現在は積極的に活動する会計士も

転職活動の成果は、求人の多寡だけでなく、ライバルの多寡によっても競争率が異なってきますので、求人企業の動向と共に考慮しなければならないのが求職者の動向です。コロナ禍における公認会計士の動向はどうなのでしょうか?

こちらも「転職市場全体で、今、何名の公認会計士が転職活動をしているのか」という公式な統計はありませんが、公認会計士ナビの転職エージェントへの登録動向や、人材募集中のファームへの応募者状況のヒアリングから、例年、転職活動が活発になり始める6~7月から増え始める公認会計士の応募者が、今年は1~2ヶ月遅れて動いている状況が見えてきています。

また、8~9月は「例年と同等程度(もしくは、それ以上)の応募がきている」という声もファームからは多く聞かれます。

これらの状況から、6~7月は5月末までの緊急事態宣言の影響で、公認会計士の動き出しはやや鈍かったものの、8月以降は例年通りに転職活動を行う公認会計士が増えており、また、在宅勤務やオンライン面接などの増加によって、転職希望者が応募や面接を行ないやすい環境になっていると推測されます。(詳しくは後述の「オンライン面接が増加中」「コロナ禍で転職活動を行うべきか」を参照ください。)

コロナ禍による転職活動への変化

また、コロナ禍での転職活動において話題に挙がる3つのポイントについても触れておきます。

オンライン面接が増加中

コロナ禍で転職市場に大きく影響があったのが、選考方法です。

新型コロナの感染拡大防止の観点からオンラインでの面接を行うファームが大きく増加しました。選考ステップすべてをオンラインで完結というファームは多くはありませんが、選考ステップのうち1回は対面で行うものの、残りはオンラインでというファームは多くなっています。

これによって求職者サイドは、応募先企業に訪問しなければならなかったこれまでよりも面接に参加しやすくなっています。特に、在宅勤務を行っている大手監査法人在籍の公認会計士にとっては、自宅での仕事が終わってそのまま面接に参加しやすいこの環境が追い風となっています。

このため、これまでであれば、往査後に週に1~2件程度のペースで面接に行っていた監査法人勤務の会計士が、週2~3件程度のペースで面接に行くようになっており、コロナ禍の影響で選考がやや厳しくなったのを、面接に行きやすくなったことでカバーできているとも言えます。この点は今回のコロナ禍における会計士の転職市場での大きな特徴と言えるでしょう。

提示年収に変化はあるのか?

転職活動において、内定時(オファー時)に提示される年収水準には、現状では大きな影響は見られません。

一方で、好景気時には採用したい候補者が他応募先でもオファーを受けている場合には、さらに高年収を提示する(カウンターオファーを提示する)といったことも見受けられましたが、コロナ禍で経済の先行きが不透明なことを踏まえると、そういった傾向は弱まっていくと思われます。

また、業績賞与の比率が高いファームにおいては、今年以降の業績によって賞与額が前年よりも下がる可能性もありますので、転職先の年収の内訳が、保証分、業績連動分、残業代でどのような配分になっているかは注意する必要はあります。

転職後の研修や勤務形態への影響は?

在宅勤務を中心とした勤務形態へと移行したファームにおいては、中途入社者の教育が大きなテーマとなっています。

特に、オンラインだけでは十分な研修が行いにくいため、入社後一定期間は研修やOJTのためにオフィスに出社してもらい、その後、在宅勤務に移行してもらうというケースも多く見られます。

一方で、オフィスへの出社を原則禁止としている大手ファームにおいて、入社初日から在宅勤務で、自宅に郵送でPCやマニュアルが届き、在宅でのPCのセットアップやオンライン研修から勤務がスタートするといったケースもあるなど、ファームによって対応は大きく異なっています。

また、こういったオンラインでの十分な教育が難しい点から、業務未経験者の採用ハードルが上がっている傾向も見られます。

例えば、FASでは、監査経験のみの公認会計士(FAS経験のない公認会計士)を積極的に採用してきたファームが、オンライン中心の勤務へと移行したことによって、よりコミュニケーション能力や理解力を求めるようになり、それによって採用ハードルが上がるケースも一部に見受けられます。

コロナ禍で転職活動を行うべきか

通常、不況時は求人数が減少し、転職に好ましくない環境となるのが通例ですが、今回のコロナ禍においては、前述の通り、在宅勤務やオンライン面接の増加によって転職活動が行いやすくなるというメリットも同時に生じている点が特徴です。

現状で転職すべきかどうかは個々人によって異なりますので一概には言えませんが、コロナ前の状況において、忙しくて転職活動の時間がとりにくかった方に関しては、現在の状況は追い風と言えるでしょう。

また、来年転職しようと考えている方も、オンラインでの相談が行いやすい今のうちに転職エージェントへの相談を行っておくなど情報収集はしておくと良いとも言えます。(公認会計士ナビでも転職相談はすべてオンラインで行っています。)

一方で、仮に来年、ワクチンの開発などによりコロナが終息に向かっていくのであれば、1~2年後には現状より景気が回復し、転職市場は良い環境になるかもしれません。転職市場の評価においては、年齢や経験も影響していきますので、各人の状況を考慮しながらコロナ禍での転職活動を行うか、もうしばらく待つかを判断していくことが重要と言えます。

今回は以上です。

コロナ禍での転職活動を行われる公認会計士の方に参考になれば幸いです。

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【大津留ぐみ:公認会計士・税理士/会計士・税理士専門ライター】 大学在学時にシェイクスピアを学んだことをきっかけに劇作家を目指すも挫折。編集プロダクションで編集やライティング業務に従事した後、公認会計士試験にチャレンジし合格。大手監査法人の東京事務所にて監査業務、財務デューデリジェンスなどに従事。 その後、フリーランスの公認会計士として非常勤監査、税理士法人の社員税理士として税務業務に従事しつつ、大津留ぐみのペンネームでライターとしての執筆活動にも従事。ライターとして、お金、社会保障、会計、税務などに関する記事を執筆。また、2児の母となったことをきっかけに、子どもの貧困や教育格差、子どものイジメに関する記事なども執筆。現在は、株式会社ワイズアライアンスの専属ライターとして会計・税務の記事を執筆しつつ、会計事務所にて内部統制業務にも従事するパラレルワーカー。公認会計士・税理士。

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